第17話 ジンクの武装ゴーレム2だぜ!
ぺったんぺったんとクレイモデルを作り始めて、早1週間、ようやくジンク専用ゴーレムのクレイモデルが完成した。時間かかり過ぎだって? それは仕方ない、なにせスケールモデルとかじゃなくてフルサイズだからな。それに、俺やジンクという初心者までいたしな。おまけに、いろいろと仕様をあれがいいこれがいいと、俺とジンクが注文を付けまくったり、変更したりしちまった。だが、なにはともあれようやく完成した実物大のクレイモデルを、今日はジンクの両親であるガリウムのおっちゃんと、ラピおばちゃんにお披露目だ。
「ジンクから聞いたよ。クレイモデルが完成したんだって?」
「そうなのよ。けっこうかっこいいわよ! じゃあ、みんなで造ったジンク君専用ゴーレムをお披露目しま~す」
パチパチパチパチ。
「では早速、ジンク君の登場で~す!」
ドスンドスン! ドスンドスン!
どすどす音をたてて、ジンクが乗ったジンク専用武装ゴーレムのクレイモデルが歩いてくる。クレイモデルが何で動くんだよって思うかもしれないが、そこは母ちゃんの魔法だ。クレイモデルでも本来金属部分になる箇所は金属並に硬くし、間接部分も本来の稼動域を再現して曲がるようにするなど、母ちゃんの土魔法でなら可能なのだ。そしてみんなの前に出たところで、ジンクが後部ハッチから降りてくる。
「どうだ、父さん、母さん、かっこいいだろ?」
「うん、かっこいいね、ジンク」
「うむ、いいかんじじゃのう!」
「ありがとな!」
ジンクの乗ってきた武装ゴーレムは一言で言えば無骨だ。まず全長は3m、体つきなんかはスタイリッシュとは程遠い。なにせ全幅3m以上、厚みも2mというマッシブボディなのだ。そして、色はジンクの目や髪の色に合わせてダークブルーだ。この色がまたごつさを醸し出している。
細部を見ていくと、まず、首が見えない。首はボディの中に埋まっており、頭部もドワーフのものとは違い、上下に薄く、非常に分厚い。そのため、ぱっと見では胴体に中華なべがひっくり返って付いているような外観だ。ただ、これは接近戦用ゴーレムに見られる特徴のようだ。首は衝撃を受けたときに細いと折れやすいため、接近戦用ゴーレムは首を太く、頭も平べったくするのが一般的なんだとか。そのかわり、欠点として上下に動くことがほとんど出来ないが、上下の視界はサブカメラを上下に取り付けることで解消するのだとか。ただ、破損防止のために、そもそもカメラも装甲の中にめり込むように配置されるため、外からだと見えにくい。
次に胴体だ。ここがまた非常に分厚い。主にここにジンクが乗ることになるため、その装甲は非常に分厚い。また、ジンクが内部でキックモーションすら完全に取れるようにしてあるため、内部空間もかなり広めだ。そのため、頭の部分の出っ張りと、腰間接こみでなんと高さが2mくらいもある。この時点ですでに頭身がおかしい。さらに、横幅も厚みも一番分厚い部分は2mくらいだ。
次に腕だ。腕は肩から手までの長さが2m、太さは正面から見ると70cmくらいだが、横から見ると肩付近は1m弱もある。間接の稼動域はしっかり確保しているものの、胴体の太さが2mもあるため、武器を両手で持つことは出来ない。もっとも、ジンクは左手で大盾を、右手で剣を持つスタイルなので、そこは問題ない。
同様に足も極太だ。長さは腰のジョイントへの食い込み部分込みで1m強。太さは正面からは1mくらい、横から見ると150cmくらいだ。キックモーションまで出来る操縦系統の割りに、そんなことしたらこけそうなバランスかつ、そもそも足が短いためにキックが有用なのかという問題があるが、まあ、それはそれというやつだ。
そして、その他の部品として腰の後ろに魔力タンクを搭載し、肩に機関銃を配置する予定だ。大きくて小物を倒すのにむいていないため、雑魚ゴブリン辺りは肩の機関銃で対処するのだ。
「じゃあ、説明するわね。まず、武装ゴーレムの基本構造ね。外付けの装甲も付けれるけど、ひとまずは装甲と構造体を兼ねたモノコック構造にする予定よ。素材としては鉄系の合金を使うわね」
「そうだね。それが一般的だよね?」
「ええ、高級品はミスリルなんかの合金を使うけど、今回はそこまで性能を追及していないからね」
「次に、間接は市販の作業用ゴーレムのものを流用する予定よ。幸いデザイン的にもすごい無骨だから、大きくて頑丈な間接を使えそうなのよ。ジンク君の今後の金属強化魔法の成長を加味しても、このサイズのものの出力なら問題ないはずよ」
「なるほど、無難だね」
その後も母ちゃんは、ジンク一家にどこそのパーツはあれを使うとか、そんな話を進めていく。どこそこ社のなんとかっていうパーツとかいわれてもさっぱりなので、俺とジンクは置いてけぼりだったが。ジンクが関係しそうな重要なところといったら、魔力タンクの大きさを決めるのに、活動時間を聞かれたことくらいだろうか。
「じゃあ次は魔力タンクの容量ね。ジンク君は、どのくらいの活動時間を想定しているかしら?」
「初心者用ダンジョンを余裕を持って往復できればいいから、半日くらい?」
「わかったわ、さっき計算したジンク君の金属強化魔法の強さだと、最大パワーはこのくらい出せるから、道中の5割戦闘したとしても、このくらいの容量があればいいかしら? それじゃあ次は」
そして、大人たちの話し合いによって、細かい仕様まで完全に決まったみたいだ。
「よし、じゃあこれで発注かけちゃうわね。金額はこのくらいだけどいいかしら?」
「ええ、そのくらいならかまわないわ。ガリウムもいいわよね?」
「うむ、この値段で専用品ができるなら文句のつけようがないわい」
「じゃあ、決定ね。納期だけど、メーカーに部品の在庫があれば、加工と組み立ては私達なら造作もないことだから、上手くいけば一月でできるわ」
「相変わらず早いのう。その魔法技術がうらやましいわい」
「ほんとだね。ぽやぽやしてるように見えて、こういうことはすごい上手なのずるいわ」
「あら、2人の商才のほうが羨ましいわよ。同じような大きさの家と庭だけど、ラピちゃん達は街中の一等地じゃないの」
どうやら完全にOKが出たみたいだな。大人達はわいやわいやいっているが、ジンクが俺に質問をしてきた。
「なあ、アイアン。前から聞きたかったんだが、動力としての魔力タンクをつけるのに、なんで俺の金属強化魔法や、身体強化魔法の実力が関係するんだ?」
「そういや、その辺の説明してないっけ? っていっても、俺もあんまり詳しくないんだよな。父ちゃんに聞くか」
俺は父ちゃんにお願いして説明してもらうことにした。自称気難しい職人の父ちゃんはお金の話には興味がないみたいで、途中から暇そうにしてたんだ。
「アイアンとジンク君に、武装ゴーレムにおける身体強化魔法と金属加工魔法の重要性の説明をすればいいんだな?」
「ああ、頼むぜ」
「うん、タングのおじさんお願い」
「よし、まかせろ。順番に説明するぞ。まず、武装ゴーレムは基本となる構造体があって、それぞれが間接で繋がっているわけだ。で、間接部分には稼動用のパーツが入っていて、そのパーツの力で武装ゴーレムの間接は動く。だから、武装ゴーレムが出せる最大パワーは、構造体と稼動部の強度と稼動部の出力で決まるんだ。ここまではいいか?」
「「ああ」」
「で、搭乗者の身体強化魔法と金属強化魔法が重要な理由なんだが、まず、身体強化魔法から説明するぞ。武装ゴーレムの間接には、間接を動かす命令を伝達するケーブルが繋がってるんだが、身体強化魔法はそいつを動かすのに使う。俺達の体なら、筋肉を動かすのに神経を使うんだが、神経も筋肉も体の中にあって、正確な情報を取り出すのは難しい。だから、外部からでも察知しやすい身体強化魔法をセンサー代わりに使って、いまどの部位をどう動かしたいのかをゴーレムに伝えるってわけだ。だから、身体強化魔法が上手いやつほど、ゴーレムをスムーズに動かせる。ただ、あくまでもスムーズに伝えるだけで、強度は必要ない、どちらかといえば速度とか正確性が重要だ。だから、強度の高い身体強化魔法が使えるという意味では、ジンク君はちょっともったいない部分もあるんだがな」
「なるほど、そういうことなのか」
「それで、肝心なのは金属強化魔法なんだが、構造体や間接、武器の強化に使うんだ。間接の出力は魔力タンクの魔力で十分な出力が出るんだが、いまは魔力タンクの魔力だけだと、十分な金属強化魔法をかけられないんだよな。だから、乗り手が金属強化魔法でどこまで強化できるかによって、武装ゴーレムの最大パワーは決まるってわけだ」
「十分な強度に出来ない理由ってあるの?」
「ああ、2人も知ってると思うが、魔力タンクの魔力は、魔力とは言っても、俺達が直接制御できるものじゃない。基本的にはモンスターの魔力体から得た魔力が入っているし、仮に魔力タンクの中の魔力を自分の魔力で満たしたとしても、1度制御下を離れた魔力は、基本的に再制御はできない。だから、俺達が普通に制御できる。俺達の魔力体の魔力とは根本的に違うものなんだよ。そのせいで、俺達の魔法ほど、柔軟に利用できないんだ。ただ、昔から魔道技術として、そういった魔力を効率的に運用できるように、いろいろなものが開発されてる。とはいえ、なんでもかんでも成功してるわけじゃなくて、今は魔道エンジンや、それの応用で作られてる関節なんかは十分な出力が得られるんだが、金属強化魔法関連は、まだまだなんだよな」
「なるほど、そういうことか。でも父ちゃん、庭とかの結界ってあるじゃん? あれは十分丈夫じゃないのか?」
「結界はまた別だ。結界は大規模な装置に大量の魔力を消費して使ってるんだ。武装ゴーレムに積み込めるほど小型じゃなければ、魔力タンクでまかなえる魔力消費量でもない。だから、発動させると金がかかるんだよ。エメラだって、アイアンの魔法大砲が結界に当たらないように防いでたろ?」
「そういえばそうだったな」
「まあ、魔力タンクの魔力に関しては、今もより上手く利用しようと研究してる連中がいるからな。そのうち乗り手の実力に関係なく、十分実用性に耐える武装ゴーレムができるようになるかもしれないがな」
なるほど。だが、その研究は興味あるな。俺の戦車を強化するのにも使えそうだぜ。そういう最新技術が載ってる本の類がないか、ちょっと調べてみるかな。
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