第16話 ジンクの武装ゴーレム1だぜ!

 ジンクと仲良くなった翌日、さっそくジンクが遊びにやってきた。昨日一晩中飲んで、結局ジンクの家に泊まった父ちゃんと一緒に。


「おう、アイアン、さっそく遊びに来たぜ! エメラおばさん、おはよう!」

「ただいま!」

「お帰り父ちゃん、よく来たなジンク!」

「あら、いらっしゃいジンク君。それと、おかえりなさい。あなた・・・・・・」

「お、おう、すまんかった。ガリウムとも久しぶりでな」

「今日は休日ですし、場所もラピちゃんの家ですからね。たまにはいいですよ、たまには」

「ああ、そうだな! そうだよな!」


 父ちゃんはほっとしたような表情でうんうんと頷いていた。すると、ジンクが俺のところに来てこそっと教えてくれた。


『俺の父さんは母さんに結構ガッツリ怒られてた。大砲直すっていってたのに、結局飲むほうがメインになって、今朝大慌てで直してたんだよ』

『そうか、父ちゃんは、まあ無事にすみそうかな』

「そうだ、ジンク君、武装ゴーレムの件はどうなったのかしら?」

「母さんも父さんもOKしてくれた。武装ゴーレム作るなら、ダンジョン行く前に作ってもらえって言われたんだけど、エメラおばさん大丈夫かな?」

「ええ、もちろん大丈夫よ。アイアンちゃんとジンク君が安全に行くのが最優先だもの。さっそく作り始めましょうかタング君もいいわよね?」

「おう、かまわんぞ!」

「ありがとう、2人も手伝ってね」

「もちろん!」

「もちろんだぜ!」

「2人とも武装ゴーレムの原理はわかっているかしら?」

「ああ、俺はちょっとだけ知ってるぜ。戦車造りに利用できないかとおもって、調べたからな」

「俺はさっぱりだ。いままでは普通に戦士みたいな戦い方をしてたから」

「じゃあ、まずはそこから説明するわね。とりえず、外に行きましょうか」


 俺達はみんなで外に出る。いつもの俺が遊んでいる庭で説明するようだ。母ちゃんはいつものように畑の横に積まれている土に魔力を流すと、2mくらいのゴーレムを作り出す。ただ、いつもの農作業用ゴーレムとは違い、そのゴーレムの手には剣と盾、背中に大砲を担いでいる。もちろん本物ではなく全部畑の土で出来ている。


「まず普通のゴーレムはこんな感じよね。この子みたいに、戦闘用に武装させることもあるけど、基本的には私やアイアンちゃんが使ってるゴーレムみたいに、遠隔操作で動かすの。これはいいわよね?」

「うん、大丈夫」

「でも、世間で武装ゴーレムと呼ばれているゴーレムは、遠隔操作をするのではなく、こんな感じでゴーレムに着こんで、直接操作をするのよ」


 すると母ちゃんはゴーレムの前方を崩してその中に入り、再び前方部分を作り直してゴーレムの中に入り込む。そして、剣を振ったり盾を動かしたりと動き出す。


「なるほど、でもエメラおばさん。それは、普通に大きいよろいを着てるのと同じじゃないの?」


 なるほど、ジンクの言うことももっともだ。確かに2mの鎧なら、腕力で動かすことも可能だ。実際母ちゃんの体はゴーレムと一緒に動いてる。だが、母ちゃんの魔法になれた俺ならわかる。これは母ちゃんの動きに連動して、完全に土魔法だけで動いている。筋肉なんてまったく使ってない。


「そうね、この大きさだと大きな鎧を着てるのと大差ないわね。じゃあ、これならどうかしら?」


 そういうと母ちゃんは畑の土をもっと使って、全長3mの巨大ゴーレムに変身させて見せた。母ちゃんの背は145cmくらいしかないから、これなら鎧みたいに普通に動かすのは不可能だ。でも、巨大ゴーレムは実にスムーズに動いている。


「すっげえ、おい、アイアン、どうなってんだよあれ、まじすげえぞ」

「確かに、すげえスムーズに動かせるよな。いつみてもすげえな」

「どうかしら、この大きさなら、鎧を着て私が筋肉で動かしてるわけじゃないってことを理解してもらえたかしら?」

「ああ、エメラおばさん、完全にわかったぜ。これはすごいな」

「早速乗ってみる?」

「いいの? ありがとう!」


 母ちゃんは3mのゴーレムの胸のあたりをバコンっと開くと、ピョンッと飛び降りる。そこにジンクが代わりにはめ込まれる。まるでゴーレムの部品みたいだな。そして、胸のパーツをバコンっと元に戻すと、ジンクインゴーレムの完成だ。でも、ジンクの頭は出たままだ。


「頭は怖いかもしれないから、最初は開けておくわね」

「うん、ありがとう」

「それで、動かし方なんだけど、基本的には身体強化魔法を使って、普通に動くのと同じよ。まずは右手を動かしてみて」


 ジンクは身体強化魔法を使って、右手をゴーレムの中で動かしているのだろう。ゴーレムの右手が動き出す。


「うおお、すげえ、ゴーレムの右手が動いた」

「動けそうなら、歩いたりしてみて」

「うん、わかった」


 ジンクはちょっとふらつきながらも比較的スムーズに動き出す。


 ガゴン、ガゴン、ガゴン、ガゴン。


 デカイせいもあってそこそこうるさいな。土ゴーレムとはいえ、簡単に壊れないように母ちゃんのゴーレムは結構硬いんだよな。


「すごいすごい、エメラおばさん、これすごいな。これをそのままもらって良いの?」

「そんなわけないじゃない。そのゴーレムは私の畑の土なのよ。それに、ジンク君は土を固めたりする魔法は使えるの?」

「ううん、使えない!」

「でしょう? それはどういうものか知ってもらうためだけのものよ」

「なるほど、ありがとう!」

「いえいえ、どう致しまして。じゃあ、解除するわね」

「うん」


 母ちゃんはジンクインゴーレムを下のほうからゆっくりと崩していく。そして、ジンクがゴーレムから開放された。


「そういや、アイアンは乗らなくても良かったのか? 楽しかったぞ」

「ああ、俺は似たようなことを自分でもできるからな。気にしなくていいぞ」

「そうなのか、やっぱアイアンはすげえな」

「まあ、得手不得手の違いだよ。ジンクの身体強化や金属強化魔法はすごかったし、皮の強化魔法だって、そのうち俺の炎に耐えられるようになりそうだしな」

「まあな」


 俺も実はゴーレムを着たことはある。そのときはこんな本格的な武装ゴーレムっぽいのじゃなくて、あくまでもパワードスーツっぽい感じでだが。何でそんな事をしたかといえば、かっこ良さそうだったからだ! パワードスーツを着た戦車兵ってのも、SFっぽくていい感じだろ? まあ、1号君はそんなの着て乗るように作らなかったから、着たら入り口でつっかえて乗れなくなって、結局迷彩服にヘルメットっぽい、いまのスタイルに落ち着いちまったんだけどな。


「じゃあ、今ので雰囲気はわかったと思うから、今度はどんなのを作るか相談ね」

「ああ、俺としてはやっぱ剣と盾がいいな。今のところ放出系の魔法は使えないから、飛び道具は対雑魚用の機関銃くらいがあればいいかな?」

「そうね、それがいいかもね。じゃあ、実際の製作に当たって、まずはクレイモデルを作りましょうか」

「クレイモデル?」

「こういった大きなものを造る際に必ず造る、土で出来たサンプルね」

「設計図だけじゃあダメなの? 馬車は設計図だけで父さんたちが作ってたんだけど、武装ゴーレムにも、ある程度の規格の設計図はあるんじゃないの?」

「あるけれど、設計図だけで作れるのは、クレイモデル、モックアップ、試作品なんかを経由して、問題がないことをきちんと把握できてから造る、量産品だけなのよ。今回の武装ゴーレムは言ってみればジンク君の専用品よ。初めて作るから、実際にクレイモデルを作って、各部の厚みや関節の稼動域なんかに問題がないことを確かめないとね!」

「なるほど、専用品か~。へへへ、かっこいいな!」


 くう、そんなこといわれると俺もほしくなっちまうぜ。


「じゃあ、造るわよ~。デザインなんかの要望はどんどん受け付けるから、強くてかっこいい武装ゴーレムを造りましょうね! じゃあ、みんなはじめるわよ」

「「「おう!」」」


 こうして俺達4人は、クレイモデルを作り始めた。魔力を込めた畑の土を、ぺったんぺったんと、それこそ泥遊びのようにだ。



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