第15話 ジンクとの特訓3だぜ!
「ふあっ? う~ん、むにゃむにゃ」
う~ん、どこだろここ、土の匂いがするし、外っぽいな。どうやら大きなパラソルの下にいるようだ。あと、キンキンと音もするな。音のほうを見てみると、ジンクが元気にラピおばちゃんと戦っている。
「あら、アイアンちゃん起きたのね」
「母ちゃん?」
「ふふふ、アイアンちゃんってば、また寝ちゃうんだもん」
「ふあ~」
どうやらこのパラソルは母ちゃんが土魔法で用意してくれたものみたいだな。よく見ると土をかためてつくってある。俺は大きなあくびをすると、起き上がる。
「なんでこんなことで寝てるんだろ?」
「あら、アイアンちゃんがジンク君と戦って、魔力切れになったんでしょう?」
「思い出した、そうだったっけ。はあ、結局ジンクを倒せなかったんだよな」
「ふふふ、勝負自体はアイアンちゃんの圧勝よ」
「あれ? そうなの? だってジンクのやつ、最後まで立ってなかったか? それに母ちゃん言ってないっけ? 強化魔法がある状況下では、それにふさわしい立ち回りがあるって」
「それは確かに言ったけど、今回の戦いは別よ。あくまでも怪我防止でかけてただけだからね。そういう点では、ジンク君は私の防御魔法がなかったら、最初の盾の下からの火炎放射、次のゴーレムとの挟み撃ちでの火炎放射、最後の攻防の背中への火炎放射に、胴への水平切り、そして最後の振り下ろしと、合計5回はやられちゃってるからね。それに対して、アイアンちゃんが受けた2回の盾による攻撃は、どちらも私防御魔法がなくても、致命傷にはならなかったでしょう?」
「そっか、でもよ。結局先に倒れたのが俺っていうのがな~。にしてもジンクのやつ、まじで頑丈だよな。おまけに戦ってる最中に、皮鎧にかけてた強化魔法がどんどん強くなってくし、実にやりにくい相手だぜ」
「そうね、あれには私も驚いたわ。すごい成長速度だったわよね」
そんなことを母ちゃんと話している間も、ジンクはラピおばちゃんと戦っていたが、ついに盾をへし曲げられながら吹っ飛んだ。2人の手が止まり、どうやらここで一旦休憩のようだ。ジンクは俺が起きていることに気づくとこちらにやってくる。
「おうアイアン、起きたか!」
「ああ起きたぜ。つっても、魔力はすっからかんだけどな。ジンクはすげえな、何でそんな元気なんだよ」
「いやいや、あんだけ一方的に痛めつけといて、なんで元気? はねえだろ」
「痛めつけたって、結局最後に立ってたのはジンクじゃん」
「いや、立ってただけだし、しかも自分で防いだならまだしも、エメラさんの防御魔法に頼りっぱなしだぜ?」
「それでも立ってたのはジンクだろ~。はあ、俺もスタミナ面をどうにかしないとだな」
なにせたった3回の攻防で完全な魔力切れだからな。いくらなんでもダメダメすぎる。
「俺に完勝しといてそんなこというなよな。でも、まあいいぜ。アイアンとエメラおばさんのおかげで、俺の武具への強化魔法の腕は格段に向上したからな。見ろよ、この盾、朝は母さんのパンチ4発で完全にダメにされたのが、いまは10発耐えたんだぜ!」
「うげっ!」
「うげってなんだよ、うげって。だから、次回は楽しみにしとけよ。今度はエメラさんの防御魔法なしでも、アイアンの炎魔法に耐え切って見せるからよ!」
くそ、本当に耐えてきそうなところが嫌になるな。そういやこいつ、皮鎧なんかじゃなくて、金属鎧なら現時点でも耐えられたんじゃねえのか?
「そういやよ、ジンク。今の時点でも、皮鎧じゃなくて、金属鎧なら耐えられたんじゃねえか?」
「ん? なんでそう思うんだ?」
「だって、俺の炎魔法でも、剣と盾は最初っから平気だったろ? つまりさ、皮に対する強化魔法より、金属に対する強化魔法のほうが得意ってことじゃないのか?」
「ん~、それはそうなんだが、プレートアーマーは問題が多いんだよな」
「そうなのか?」
「全身を覆う金属鎧は扱いが難しいのよね。なんといっても、重いわ。ジンク君の体格ならって思うかもしれないけど、体が大きいと鎧も多くなって、結局重さが増すのよ。それに、相手の力がある程度限定される対人戦なら、防御力の高さが遺憾なく発揮されるけど、大型なモンスター相手とかだと、そもそも受けられない攻撃っていうのもあるの。だから、動きにくい防具は局地戦用の専用装備になりがちね」
「なるほどな~」
「それに、自覚ないのかもしれないけどよ、アイアンの攻撃はかなりやばいからな。熱まで遮断できる強固な金属強化魔法を、剣と盾だけならまだしも、全身にってなるとかなり辛いな。火炎放射魔法一つとっても、機動力を失って長時間焼かれたら、なに着てたってすぐギブアップだぜ」
「そうね、それに金属の強化は皮の強化よりも消費魔力が多いものね。あと、ジンク君のいま着ているリザードの皮の耐火性はかなり高いのよ。火炎放射魔法対策という方向性でいくなら、金属だとかえって難しいわね」
なるほど、ドワーフパワーがあれば全身金属鎧もいけると思っていたが、そういうもんでもないのか。ん? じゃあ盾も微妙なのかな? 俺としてはやりにくかったんだが。
「じゃあ、盾も微妙なのか?」
「盾は別なのよ。鎧よりさらに分厚くしても問題がおきにくいのよ。それに、想定外の威力の攻撃にも使いやすいわ。例えばラピちゃんのパンチのような、想定以上の攻撃を受けても、盾なら曲がってもそこまで困らないけど、鎧で曲がったら動けなくなっちゃうから、困るでしょう?」
「確かに。ラピおばちゃんのパンチでひしゃげたら、鎧だと詰むな」
「それに、ジンク君の大盾は、先が尖っているでしょう?」
「ああ」
「今回はアイアンちゃんに地面に叩きつけられて、無理やり固定されるっていうデメリットがでちゃったけど、本来は地面に突き刺して、土魔法で地面に固定することで、大型のモンスターの攻撃さえ耐えれるっていうメリットがあるのよ」
「なるほど~、そういうことか~」
ようはジンクのは大盾だけど、置き盾でもあるってことか、確かにそれなら普通に受けるよりは耐えられそうだな。そんな感じで俺が1人納得していると、母ちゃんが不吉なことを言い出した。
「もしジンク君が今の時点でアイアンちゃんに勝ちたいなら、ひとつだけ方法があるわよ?」
ちょっとまって母ちゃん、それって俺が不利にならない?
「そんな方法あるのか? 教えてくれ!」
「ジンク君は、身体強化魔法も上手だけど、それよりも金属強化魔法がかなり上手よね?」
「そうなのか? 結局母さんには盾をへし曲げられちゃったぜ?」
「10発も耐えてるじゃない。ラピちゃんは加減とかが上手じゃないから、普段から自分の使いやすい魔力量で攻撃するくせがあるでしょ。本来であれば、ラピちゃんのそういう雑な攻撃って、子供が防げる威力じゃないのよ?」
「なるほど。そういえば確かに昔は剣で攻撃するたびに、母さんの剣に防がれて、俺の剣がすぐダメになってたな。だから、ダメにならないように頑丈にしようって、常に意識してたかも。身体強化魔法は赤子の頃から無意識にやってたって言われたけど、意識してやるようになったのは、父さんから教わるようになってからだから、そういわれると金属強化魔法のほうが練習期間はながいのかも」
おや、ジンクさん、ちょっと待とうか。赤ちゃんの頃から魔法をよく使うって、それ、俺が神様もどきから教わった、すごい魔法使いになれるチートのはずだぞ。くそ、ナチュラルに同じことやってるやつにあっさり出会うって、すでにチートじゃねえよそれ。んん? もしかして一般的な赤ちゃん全員やってるんじゃねえだろうな。おのれ神様もどきめ、はかったか!?
「金属強化魔法が得意ということわね、ジンク君は武装ゴーレムに向いてるかもしれないのよ」
「武装ゴーレムって、あの武装ゴーレム?」
「そうよ。身体強化も得意なジンク君にはもったいない部分もあるけど、金属強化魔法が得意なら、武装ゴーレムは乗りこなせるわよ」
「でも俺、放出系の魔法は苦手なんだけど」
「まだ6歳じゃない、これからどうにでもなるわよ。それに、武装ゴーレムは魔法大砲を使うことも多いけど、本来は接近戦用の武器を持って、大型モンスターとパワー勝負をするための乗り物なのよ。だから、金属強化魔法を使うのが上手なジンク君なら、乗りこなせると思うわ」
「そっか、ありがとうエメラおばさん。ちょっと母さんと父さんに相談してみるよ」
「ええ、そうしてみて。もし了承をもらえたら、製作は任せてね。私とタング君は武装ゴーレム造りもできるから。アイアンちゃんも協力してくれるわよね?」
「あ、ああ、もちろんだぜ!」
「おう、アイアンもありがとな!」
いや、どうしよう。その武装ゴーレム、対俺用ってことだよね? いや、汎用品だよな、普通・・・・・・。ま、まあ、敵を知るのも大事だから、武装ゴーレム作りもありといえばありなのかな?
その日は結局ジンクの家で夕飯までご馳走になってから、俺と母ちゃんは家にかえった。父ちゃん? 父ちゃんはガリウムのおっちゃんと、120mm大砲を直しながら一晩中酒を飲むそうだから、置いてきたんだぜ。
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