第48話 ハンターギルド試験6だぜ!
「は~、勝った勝った。どうよトリ、これなら文句ねえだろ?」
「思いっきり相手の作戦に引っかかって、武器を奪われて、文句ねえだろ? ね~、よくそんな自信満々に言えるわね」
「そうだ、おいジンク。なんでお前平気だったんだ? ありゃあ重傷だっただろうが」
「いえ、かすり傷1つ付いてないですよ」
「はあ? 俺に真っ二つにされただろって、あれ? 盾はともかく、服なんかは切れてないっぽいな。どういうことだよ!?」
「あれはですね」
ジンクがホランのおっちゃんに種明かしをする。そう、あれはジンクの考えた作戦、その名も死んだ振り戦法だ。まあ、実に古典的な手口ではあるが、効果は抜群だったな。早い話が、ホランのおっちゃんが切ったのはジンクじゃあなくて、俺が作り出した、ただのゴーレムだったってわけだ。
もちろん本物っぽく見せる努力はいろいろした。まずはジンクに変なお面を付けさせた。ホランのおっちゃんは煙幕中の毒がどうたらいっていたけど、そんなものはもちろんない。ただ単に俺の力量というか美的センスだと、ジンクの顔を再現するのは無理だったから、お面にしただけだ。あとは体格を同じくらいにして、ジンクの鎧のうち、金属の胸当てを着せて、剣と盾を持たせれば、それっぽくみえるってわけだ。
まあ、ちゃんと見られれば、当然ばれちゃうわけだが、そこは煙幕によるごまかしと、ジンクの悲鳴というオプションで誤魔化したってわけだ。ちなみにジンクの悲鳴は作戦会議中にジンクに叫んでもらったのを、風魔法で保存して、それをゴーレムの口の中で開放しただけだ。
しっかし、ここまでいろいろやって負けるとはな~。俺のぴかぴか弾だって、顔面にきちんと入ったはずなのに、怪我1つしてないし。あ~あ、目をちゃんと捉えたはずなんだけどな。
「くそ、死んだ振りってか大怪我の振りってか? ったく、たちの悪い作戦考えやがって」
「俺達としては完全に油断させた上で、顔に最高打点の攻撃を放って、まともにダメージ与えられなかったことが、残念でしたけどね」
「ま、油断してなきゃあそんなもんだよ。ガキの攻撃でそう何度も怪我できるかっての」
「なあ、ホランのおっちゃん、俺達今日は完敗だったわけなんだけど、合否はどうなるんだ?」
「もちろん合格だぜ! ランク3のハンターカードの支給に何の問題も無いはずだぜ! な、トリ」
「ええ、なんの問題もなく合格だよ。あたしとしては、2人よりもこんな作戦にまんまと引っかかって武器を奪われた亭主のほうが心配になってくるよ」
「いやいや、この状況下であの作戦は卑怯すぎるだろ?」
「そうかい? 傍から見てる分には、アイアン君のゴーレムの造詣はまだまだ甘かった。あたしなら煙幕によるごまかしがあろうとも、一目でゴーレムか本物かの区別はついたね。ましてやあんたは両手でそのゴーレムの上半身を持ち上げてただろ? なら重さの違いなんかも普通わかると思うんだけどね。いや、その前に切り捨てたんだから、斬ったときの感触や、そもそも血が出てないこととか、いくらでも気づけるポイントはあったんじゃないかい?」
「むぐ、それを言われると弱いんだけどよ。ジンク坊主が大怪我したかっていうほうに気がいっちまってな」
「まあ、そういうお人よしなところがあんたのいいところでもあるからね」
「ん? そうか? がっはっはっは!」
やばいやばい、なんだか俺達そっちのけでのろけが始まっちゃった。こういうのは長くなる前に止めないと先に進めなくなるな。
「あの、この後はどうすればいいですか?」
おお、流石ジンクだ。こういう時に機敏に動ける辺り、やっぱすげえな。
「おう、そうだな。昨日の部屋に行くか、昨日の説明の続きをするぜ」
「「はい!」」
俺とジンクは、ホランのおっちゃんと一緒に昨日の応接室にやってきた。
「ん~っと、昨日はどこまで説明したんだったかな」
「昨日は確か、ハンターランクの上げ方の説明までですね。ここで試験を受けるか、試験官同伴でモンスターを倒すか2種類の方法があるという説明まで受けました」
「そうかそうか、じゃあほとんど終わりだな。あとは倒したモンスターの魔力体を回収する箱なんだが、こいつは使い方わかるだろ?」
「ええ、俺の両親もアイアンの両親も持っていますので大丈夫です」
「となると、あとは始めてハンターになったやつには、ギルド内の設備、宿屋とか食堂とかの説明もしてるんだが、お前ら使うことあるか?」
「いえ、家がありますし、使うことはないと思いますね」
「だよな。ま、もし今後よその街に行きたくなったらその時にでも受付に聞きな。よその街でもギルドの設備は同じようにあるし、始めていく街なんかだと、ギルドだけで全部済むのは、なんだかんだ便利だからな」
「「はい!」」
ドワーフの国のハンターギルドには、食堂や宿屋、洗濯屋に鍛冶屋、道具屋に医務室といった設備が、簡単にではあるが、一通り揃っている。というのも、ハンターというのは、一般的な街の住人とは生活リズムが違っていることが多い。そのため、夜遅くに街に帰ってきた時に、上記の機能が使えないようでは困るから、というわけで、ある程度の設備が整っているというわけだ。
ただ、施設としては最低限のものしかないため、多くのハンターはギルドの宿屋には泊まらずに街の宿屋を利用することのほうが多いし、食堂も街へ繰り出す人のほうが多い。ま、俺とジンクは当然この街に家があるので今のところ必要ない。
「さて、それじゃあちょっと待ってな。ハンターカードを取ってきてやるぜ」
「「はい!」」
ホランのおっちゃんはそう言って部屋を出て行ったが、すぐに戻ってきた。そしてその手には、2枚のカードがあった。
「ほらよ、これがお前らのハンターカードだ」
「「ありがとうございます!」」
「まずは名前なんかを確認しな。んで、それが終わったらハンターカードに魔力を流せ」
俺は受け取ったハンターカードを見てみる。表には大きく☆が3つ並んでおり、さらに俺の名前と使用武器、銃の記載がある。うん、間違いないようだ。そして、ハンターカードに魔力に流す。すると、ハンターカードが一瞬淡く光る。だが、光はすぐに消えた。
「今の光は?」
「今の光はこのカードの持ち主登録ってやつだよ。聞いたことあると思うが、魔力ってのは人によって微妙に違うんだよ。んで、いまのでそのカードにお前らの魔力を覚えさせたってわけさ。今後お前らのカードが光るのは、お前らの魔力だけってわけだな」
なるほど、俺はもう1度魔力を流してみる。すると、ぴかぴかと光りだした。うん、これはなかなか楽しいな。ジンクも同じように遊んでいるようだ。
「ためしにお前ら交換してみな、ひかんねえはずだぜ」
俺とジンクは言われるがままにカードを交換して魔力を流すが、うむ、確かにひからないな。
「へ~、すごいもんだな」
「アイアンちゃん、ジンク君、ちょっと貸して」
「はいよ」
「はい」
俺とジンクはいわれるがまま、母ちゃんにカードを渡す。何するつもりなんだろ? 母ちゃんは両手で持った俺とジンクのハンターカードに魔力を流す。すると、なんと両方とも光りだした。
「は? なんでひかるんだよ!? おかしいだろ?」
「はい、ありがとうね」
俺とジンクも驚いたが、一番驚いていたのはホランのおっちゃんのようだ。声に出して母ちゃんに抗議した。だが、母ちゃんはそんな声はスルーして俺とジンクにハンターカードを返してくれた。これはもしかすると、あれか。
「もしかして母ちゃん、魔力操作をがんばって、他人の魔力に似せると、誤魔化せるの?」
「その通りよ。アイアンちゃんもちょっと練習すれば出来るようになるわよ」
「待て待て待て待て、こんなこと出来るのもびっくりだが、ハンターカードを渡したその場で子供相手にそんなこと教えるんじゃねえよ!」
「信用しすぎちゃダメってことを教えただけよ」
「こんなことあっさり出来るの、エメラお嬢ちゃんくらいだろうが! この話は無しだ。お前らも忘れろよ。他に何か聞きたいことはあるか?」
どうやらかなりまずいことだったようだ。ホランのおっちゃんが露骨にこの話題をそらし始めた。ここは俺も合わせておこう。でも、他に聞きたいことか、う~ん、なんだろ?
「ホランさんはハンターランクいくつなのですか?」
お、ジンクいいこと聞くな。確かにホランのおっちゃんのランクは気になるところだ。
「ん? 俺は元ランク6、現在はランク5のハンターだぜ!」
そう言ってホランのおっちゃんは☆が6個付いたカードを見せてくれた。ただ、その内の1つの☆が黒くなっている。
「あれ、☆が6個あるけど、一個は黒い?」
「ああ、これが元ランク6、現ランク5って意味になるんだよ。ハンターランクは1度昇進できれば、下がることは基本無いんだよ。でも、俺みたいに年で実力が下がってきたから、それ相応のランクにしてほしいと言い出せば、この黒☆を付けて、そういうちょっと変わった表記をつけてくれるんだ。ま、同じランク5でも、成り立てほやほやだったり、ランク5でくすぶってるやつと、1度はランク6までいったベテランの区別ってところだな」
「年でって、ホランのおっちゃんって、そんな年寄りなのか?」
「がっはっは、俺は結構な年だぞ。アイアン坊主はおっちゃんって言ってくれるが、どちらかというとじいちゃんと呼ばれるような年齢だからな。実際俺には孫までいるぜ。ちなみに俺の息子娘がそこのエメラ嬢ちゃんより少し上の年齢で、孫達はもう学校いってるから、お前らより上だな」
「そうなんだ!」
は~、俺もドワーフになってもう7年になるが、いまだに見ただけじゃ年齢がわかんないぜ。
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