第27話 ジンクとお出かけだぜ!

「ふう~、やっと直ったな」

「だな~、もう壊すなよ?」

「母さんに言ってくれよ」

「それは無理だ」


 なんだかんだジンクの武装ゴーレムを修理するのに3日もかかっちまった。けど、しっかり直したからな、ばっちり元通りだぜ。切断された箇所も、下手な絆創膏みたいに溶接された鉄板を引っぺがして、金属加工魔法で直したから、メタルフローラインもばっちり元通りだぜ!


「そうだジンク、この武装ゴーレムに名前付けないの?」

「もうちょっと待ってくれ、今いろいろ考えてるんだけどよ、なかなかいい名前が思いつかないんだよ」

「そうか、出来るだけ早く決めてくれよ。ジンクの武装ゴーレムって呼び方だと、なんていうか、味気ないんだよな」

「ああ、わかってる」

「そうだ、こいつが直ったってことは、近々ダンジョンへ行くのか?」

「ああ、どうやら今は仕事が割りと空いてるみたいでな、また忙しくなる前にさくっと行きたいって言ってたな」

「そうか、俺の母ちゃんは一緒に行くのかな?」

「あ~、どうだろ。暇なら誘うって言ってたぜ」

「じゃあたぶん一緒に行くな。ま、ジンクにとっては初陣だからな。万全の体制のほうがいいってもんだぜ!」

「アイアンだって1回しか行ったことないんだろ?」

「そりゃそうだけど、もう1回行ってるんだぜ!」

「ふん、まあ見てろ。いつダンジョンへ行ってもいいように勉強は欠かさなかったんだ。すぐにアイアンより確実なダンジョン攻略法を確立してやるさ」

「ほほう。でもまあ、わからないことがあったら何でも聞いてくれたまえ。先達としていろいろ教えてあげよう! はっはっは!」


 そんなことを話しながらジンクと遊んでいると、母ちゃんがばたばたと帰ってきた。


「アイアンちゃん、ジンク君、緊急事態よ! 2号君と武装ゴーレムはすぐ出れる?」

「ああ、もちろんだぜ!」

「え? 緊急事態?」

「おいジンク、緊急事態だって言ってるだろ。さっさと外行くぞ」

「お、おう。わかったぜ」


 ジンクは最初こそおろおろしていたが、すぐに緊張した表情になった。ふむ、意外と切り替えの早いやつだな。でも、まだまだ甘いな。母ちゃんはいかにも真剣そうな顔で緊急事態と言っているが、これは確実にお遊びのお誘いだ。ジンクはだませても、実の息子をだませると思うなよ? そういや、ジンクと遊ぶようになってからは、緊急事態ごっこはやってなかったかな? 確か、最後に母ちゃんがこのパターンで俺を遊びに誘った時は、悪いゴーレムが畑で暴れてるとかいう設定で、俺が1号君を使って退治したんだったかな。


 そんな事を思いながら俺とジンクは外に出ると、そこにはラピおばちゃんがいた。


「あれ? 母さん?」

「ラピおばちゃん中佐は何で行くの? 2号君に乗ってく?」


 ジンクは何でラピおばちゃんが俺の家の玄関先にいるのか疑問だったようだが、こういう遊びはノリが命だ。俺の中での設定は母ちゃんは少佐、ラピおばちゃんは中佐、おれの階級はそのうち母ちゃんがつけるだろうから、ジンクはそれ以下にするか。


「中佐? えっと、あたしはジンクの武装ゴーレムの肩に乗ってくから、気にしないで」

「わかったぜ! 母ちゃん少佐は2号君の後ろだよな?」

「ええ、もちろんよ!」


 俺と母ちゃん、そしてラピおばちゃんのあまりにも迅速な対応にジンクはちょっと置いてけぼりになっている。


「ジンク、ほら、ぼさっとしないの」

「あ、ああ」


 俺は素早く2号君に乗り込むと、出発の準備をする。


「母ちゃん少佐、乗った?」

「ええ、乗ったわ。出発シークエンスを開始して頂戴!」

「了解だぜ!」


 母ちゃんは2号君の母ちゃん専用シートに乗り込む。この母ちゃん専用シートは、砲塔背面にくっつけられた新装備だ。砲塔背面に棒を4本溶接して、それをレールとして使って椅子をくっ付けてあるんだ。


 何でこんなことしたかというと、1号君の時あった荷台が、2号君には無かったからだ。1号君のときは、魔道エンジンとか魔力タンクが思いのほか小さかったことに加えて、モデルとなったFT-17が、後ろ半分エンジンルームというレイアウトだったから、本来のエンジンルームの大半を荷台にしてたんだよな。だから、母ちゃんの乗る場所があったんだ。


 でも、2号君のモデルになったへるにゃんの場合、エンジンルームの上には砲塔後部が覆いかぶさってて、エンジンルーム上部にスペースが無いんだよな。しかも2号君の砲塔は、上下の幅こそ削ったものの、前後左右方向の大きさはほぼそのままなんだ。にもかかわらず、車体は前後方向へ特に小型化されてるから、へるにゃんよりさらに砲塔後部がエンジンルームにかぶっているんだ。それに、2号君の魔道エンジンや魔力タンクは1号君のものよりだいぶ大きい。なにせ時速100キロメートルもでるからな!


 そんなわけでこの母ちゃん専用シートは、砲塔背面にでかでかと付いている。そして、けっこうな存在感だ。なにせスペースはたっぷりあるから、アームレストどころか、ヘッドレスト、レッグレストまで付いている。もちろんリクライニングはフルリクライニング可能だ。簡単なテーブルまで付いているどころか、冷蔵庫まで付いているから、まさに完璧な快適空間だ。側背面にはカバーもあるから、プライバシーも万全だぜ。


 そして、母ちゃんが専用シートに乗ったのを確認した俺は、発進シークエンスを開始する。いや、かっこつけてそう呼んでるだけで、別にたいしたことをするわけじゃあないんだけどな。


「エンジン始動よし!」

「えんじんしどうよ~し!」

「システム起動よし!」

「しすてむきどうよ~し!」

「システムオールグリーンだぜ!」

「しすてむせいじょうよ~し!」

「魔力タンク残量97%よし! 砲弾、APCR10、HE5、CS5、ぴかぴか弾1、30mm1000よし!」

「ねんりょうよ~し! ほうだんよ~し!」

「じゃあ、出発するぜ! どこにいけばいい?」

「西の草原に行きたいんだけど、ちょっとラピちゃん達を待ちましょうか」


 俺は倉庫から出たところでジンクを待つ。ジンクは武装ゴーレムの起動にもたついているようだ。なんかあわあわしてる。まったく、俺と母ちゃんのノリノリモードもここまでか? まあ、直したばっかりだし問題はあるはずないんだけどさ。燃料も機関銃の弾も満タンのはずだ。


「おまたせ。悪いね、手間取っちゃって」

「大丈夫よ。武装ゴーレムの起動は慣れないと大変だからね。それじゃあ、アイアンちゃん、ジンク君、行きましょうか」

「「おう!」」


 俺達は家を出て西門へと向かっていく。緊急事態ごっこ中とはいえ、街中を暴走は出来ないのでペースはゆっくりだ。さて、そろそろ目的を教えてもらわねば。


「母ちゃん少佐、本日のターゲットはなにでありますか?」

「アイアンちゃん伍長、いい質問です。本日のターゲットは牛モンスター及び、豚モンスターです!」

「了解であります!」

「牛と豚のモンスター? なあ母さん、もしかして、狩りに行くのか?」

「そうだよジンク、ちょっとわけありでね。ジンクの初陣はダンジョンじゃなくて牛モンスターか豚モンスター狩りに変更だね」

「おっしゃあ!」

「ジンク兵長、なんでうれしいでありますか?」

「おいアイアン、なんで俺がアイアンより下の階級なんだよ!」

「なんで知ってるの?」

「そのくらい知ってるっつうの! はあ、まあいい。一般的にはダンジョンよりも、外での狩りのほうが難易度が高いといわれてるんだよ。まさか母さんが初心者用ダンジョンを飛ばして狩りに誘ってくれるとは思わなかったよ」

「まあ、あたしとエメラがいるから、そんなに危険は無いよ。気楽にってのは困るけど、緊張して動きが鈍るほうがもっと怖いから、リラックスして行こう」

「「は~い!」」


 どうやら俺とジンクの初の共同作戦は、ダンジョンじゃなくて野外での狩りに変更になったようだ。ふっふっふ、こちらとしては望むところだ。戦車の本来のフィールドは、狭いダンジョンの中などではなく、広大な大地ということを教えてやるぜ!


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