第100話 元の姿に

 セントラルシティーを出発した俺達は、行きとは違ってまったりとパラージライトを目指していた。そして俺は、パラージライトに帰るまでに何とか元の姿を取り戻したいと、元に戻るための特訓中だ。


「さ、アイアンちゃん、もう一回なの。この特訓が上手くできないと、元に戻れないの」

『わかったぜ母ちゃん』


 俺が今やっているのは融合した時の逆、体内にあるG弾の魔力と、俺の命の魔力を完全に分離する練習だ。


 母ちゃん曰く、合体のほうが分離より難易度が高いから、合体できれば分離は絶対にできるはずなの。っていうことらしいんだが、俺の分離の練習はいっこうにはかどらない。というか俺の場合、そもそも合体出来たのがパパラチアさんとの戦闘中という、ぎりぎりの戦闘中にたまたま成功しただけっぽいんだよね。


『ぜ~、ぜ~、ダメだ母ちゃん。魔力切れだ』


 っていうか、全然成功する気がしねえ。もう何日も練習してるってのに。


「ん~、でも、そろそろ戻らないとまずいの」

『へ? どゆこと?』

「その状態になじみ過ぎちゃうと、元に戻るのが今よりもっと難しくなっちゃうの」

『まじで?』

「なの」


 うそだろ? 今より難易度上がるって、下手するとずっとこの姿のままってハメになるぞ。流石にそれは勘弁してほしい。


『母ちゃん、ちょっと横になる。魔力が回復したころに起こしてくれ!』

「わかったの」


 俺はセントラルシティーとパラージライトの間にある街、ゴールドタウンにつくまで、ひたすら食って寝て練習してを繰り返した。でも、まじでやべえ、ぜんぜん成功する気がしないままだ。


「う~ん、困ったの。セントラルシティーへの出入りは、バトル大会を見ていた人も多いから、今のアイアンちゃんの姿でも出入りが容易だったけど、流石にゴールドタウンにはこのままだと入れないの」

『そうなの?』

「アイアンちゃんの身分証明書が問題なの。あの身分証明書は通常の状態での魔力が登録されているから、今のアイアンちゃんだと別人とみなされて反応しないの。普段のアイアンちゃんの魔力に似せた魔力を流して誤魔化すっていう手もあるけど、う~ん、どうしようなの」

『それってまずくね?』


 俺と母ちゃんは二人でう~んう~んと頭を悩ませる。すると、外で周辺警戒をしてくれていた父ちゃんが客車へとやってきた。


「なあエメラ、エメラなら強引に戻すことも出来るんじゃないのか?」


 え? マジで? なら戻してほしいんだけど。


「やろうと思えば出来なくはないの。でも、自分で戻れないと次が怖いの」


 おお~、無理やり戻せるんだ!


『母ちゃん! 次はもっと上手くなってから使うって約束するから、戻してくれ! もうこんなミニマムボディ嫌なんだぜ。ご飯も味があんまりしないしさ』


 俺は母ちゃんに必死にお願いする。お願い、まじでもう嫌なんだって、この姿。


「う~ん、この姿でもアイアンちゃんはアイアンちゃんでしょう?」

「エメラがこの姿のアイアンのことを気に入ってることはわかるんだ。でも、流石にアイアンが気の毒になって来てな」


 ん? 母ちゃんが今のこの姿の俺を気に入っている? あれ? 何でだろう。気に入ってるって、前向きな単語のはずなのに、すんごく不穏な単語に聞こえたぞ。


「そうね、ご飯が美味しそうじゃないのはわかっていたし、しょうがないの、元に戻すの」

『おお! 母ちゃん頼むぜ!』

「とりあえずアイアン、このローブを首から着とけ、元に戻るとすっぽんぽんだからな」

『サンキュー父ちゃん!』


 ナイスフォローだぜ父ちゃん。確かに今のまま戻ったら、恥ずかしい思いをするところだったぜ。


「それじゃあアイアンちゃん。練習と同じように、G弾の魔力とアイアンちゃん自身の魔力を分離するように魔法を使ってなの。そこに私が、分離を強引に進めることが出来るように外から魔力を流すの」

『わかったぜ母ちゃん!』


 俺はここ最近の練習の成果を最大限発揮するために、最高の集中力をもって分離魔法を発動させる。


 するとそこに、母ちゃんの魔力が流れ込んでくる。


 流石母ちゃんだぜ、何だこの魔力量は? 俺の何倍あるんだよ!? 俺が今動かそうとしている魔力が小川なら、母ちゃんの魔力はまさに大河だな。


 そして、そんな大河みたいな母ちゃんの魔力によって、俺が必死に分離しようとしていたG弾の魔力と俺の魔力が、強引に引き離されていく。何て言ったらいいかな? 洗濯機で分離される汚れのようなイメージ?


 そしてついに、俺の魔力とG弾の魔力が完全に分離した。


 おお! やったぜ!


 分離した俺の魔力は、俺の体の形へと変化していく。ああ、これは、懐かしの我が体の感触だ。


 ゴン!


 どうやらG弾も元に戻って床に落ちたようだな。俺は目を開け、母ちゃんと父ちゃんを見る。


「どうかな? 戻ってるかな?」

「ああ、頭しか見えてないが、無事に戻ったみたいだな」

「お帰りなさいなの、アイアンちゃん」

「おう、ただいまだぜ!」



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