第104話 3号君開発計画その2

 父ちゃんと一緒に設計図の細かいところを直したりして、俺はついに3号君の設計図を完成させる。となれば、あとは作るだけだぜ!


 というわけで早速製造に取り掛かる。まずは車体の製造だ。俺は父ちゃんに用意してもらった60mmの厚さのミスリル合金の板を、金属加工魔法を駆使して曲げたりくっつけたりしていく。


 ちなみにこの車体の製造なんだけど、実のところ結構楽ちんなんだぜ。というのも、基本的な構造が2号君と一緒なんだよな。アメリカ製のへるにゃんベースの2号君と、ソ連製のKV-8ベースの3号君じゃ、車体の中身が全然違いそうなんだけど、俺の作る戦車は、基本的にこっちの既製品をベースに作るからな。基本構造を変更しようがないんだよな。とはいえ、機動力を重視して軽量な2号君と、装甲重視で車重のある3号君だと、パーツのチョイスはちょっと違うけどな。


 まずは魔道エンジン。2号君の時は、時速100kmまで出るように、スピードも出るエンジンをチョイスしてたんだけど、流石に車重のある3号君に同じエンジンだと、トルク不足に陥りそうだったからな、よりトルクのあるエンジンってやつをチョイスしたんだぜ。それでも一応時速60kmは出る予定だから、ジンクと一緒に動く分には、不足しないはずだ。ま、本物のKV-1は、整地で時速35km、不整地で時速20km以下っていう速度しか出なかったみたいだから、それに比べるとだいぶ動けるぜ!


 次に装甲は60mm厚のミスリル合金を用意した。本物のKV-1は前面と側面75mm、背面70mmだから、それよりはちいっと薄いんだけど、ジンクの武装ゴーレムの本体装甲が50mmなのを考えれば、十分すぎるほどの厚さだ。それに、素材もミスリル合金製だから、鉄より頑丈だしな。まあ、ちょっと想定外だったのは値段だな。2号君の時でさえミスリルの値段って高いな~って思ってたけど、使う量が単純に倍以上だからな、3号君の製造コストはやばいことになりそうだぜ。


 まあ、そんなわけで多少の妥協もあるとはいえ、車体は問題なく製造出来たぜ! そして次は、お楽しみの砲塔だぜ! まあ、実は砲塔も基本的な構造は2号君と一緒だから、お楽しみなのは火炎放射器なんだけどな!


 火炎放射魔法が使えるのに、わざわざ火炎放射器を作るの? って思われそうなんだが、そこにはある理由があるんだ。


 この世界の魔法ってやつは、0から1を作り出すのが最も燃費が悪いんだよ。たとえば水魔法。晴天でからっからな時に魔力だけで水を出そうとすると、ビックリするほど魔力を消費するんだけど、雨が降ってたり川の近くだったりして、今ある水を使おうとすると、すっげえ燃費が良くなるんだよな。


 当然火魔法も同じだ。何もないところから火をぼーぼー出すのは、結構燃費が悪いんだぜ。だから、何にもないところでいきなり火炎放射魔法を使うより、物質的な火炎放射器を作って、そいつを火魔法で強化したほうが、威力も燃費も圧倒的によくなるってわけだぜ。


 ところで、火炎放射器ってさ、有名な武器だと思うけど、原理を知っている人は少ないかもしれねえから説明するぜ。火炎放射器ってのは、一言で言っちまうと可燃性の液体を飛ばす水鉄砲だ。可燃性の液体を水鉄砲と同じ原理で飛ばして、銃口からでた後で可燃性の液体を燃やしてるだけなんだぜ!


 だから、火炎放射器の射程距離ってのは、どんだけ可燃性の液体を遠くに飛ばせるかって部分にかかってるってわけさ。例えば、歩兵の持つ火炎放射器ってのは、ガス圧や圧縮空気の力で液体を飛ばすやつが多いんだけど、人の持てるボンベの圧力ってのは大したことないんだよな。だから、射程も普通30mくらいと短いんだぜ。でも、車載式の火炎放射器になると、人が持ち運べないような大きさのポンプを搭載できるってわけさ。ポンプで思いっきり圧力を加えてやりゃあ、びっくりするほど遠くまで可燃性の液体を飛ばせるって仕組みだな。


 それと、可燃性の液体ってのは、一言で言っちまうと油だな。地球だとガソリンとかナフサなんかが使われることが多かったみたいだぜ。ただ、ガソリンなんかをそのまま使うと、びしゃびしゃで何かとあぶねえからな。増粘剤ってのを入れて、粘度を上げてたみたいなんだぜ。粘度の低い液体ってのは、案外真っ直ぐ飛ばねえんだよな。例えばホースで水を撒く時、真っ直ぐ飛ぶ水ももちろんあるが、その周囲に散らばる水も結構多いだろ?


 んで、増粘剤ってのはいろいろ種類があるんだけど、有名なものに、ナパームってのがあるんだぜ。このナパームっていうのは、爆弾の名前でも有名になっちまったが、元は3種の化学物質を混ぜて作った増粘剤の名前だったんだってさ。おまけにこのナパーム剤入りのナフサは、燃焼温度が900度以上になるっていうメリットもあるんだ。だから、炎がより凶悪になるってわけさ。


 ま、この世界ではまだ石油の類に出会ったことがないから、そっくりそのまま同じ燃料を使えるってわけじゃないんだけど、植物系の油はいろいろあるからな。代用品くらいは見つかりそうなんだぜ。


 んで、肝心の砲塔の話なんだが、装甲厚は車体と同じく60mmだぜ、防盾もな! 本来のKV-1が全周75mmで防盾90mmなことを考えると、車体同様砲塔も本物よりは薄めだけど、まあそこは車体同様、これで十分って判断だぜ。そして、お楽しみの火炎放射器は、予定通り主砲の代わりにセットしたぜ! ま、ダミーで大砲の筒もセットしたけどな!


 なんでそんなことを? って思われるかもしれないが、地球の火炎放射戦車もしてた、歴史と伝統ある偽装なんだぜ! 3号君のモデルのKV-8は、本来のKV-1の76mm砲を45mm砲に変更して、火炎放射器をセットするスペースの確保をしてたんだけど、外見から45mm砲だとバレないように、ダミーで76mm砲の筒を使ってたんだってさ。3号君は対人戦をするわけじゃないだろって? それはそうなんだけど、そこは俺の趣味だぜ!


 それとこのダミーの筒、ただの筒にしておくのはもったいないなって思って、火炎放射の収束率を変えれるようにしてあるんだぜ! 一言で言っちゃうと、水を撒くホースの頭についてるアレと一緒だな! 


 それから、2号君でお世話になりまくったスモーク・ディスチャージャーは、当然のように積んでるぜ。こいつは2号君同様砲塔の右側面だ。


 そして、肝心の中身なんだが、火炎放射器の性能を上げるために、何かとスペースを割いちまったぜ。まず、砲弾を持ち歩かないから、弾薬庫がいらなくって、更に砲弾を大砲に詰めることもしないから、ローダーもいらないわけなんだが、そうして空いた弾薬庫のスペースと、ローダーのスペースを、全部火炎放射器用の大型ポンプと燃料タンクに使っちまったぜ! 当然砲塔後部にある機銃のスペースもだぜ!


 だから、乗組員はドライバーゴーレムと、俺だけだ! 本来のKV-1は5人乗りなのに、二人乗りになっちまったぜ。 


 ただ、そのおかげで2号君同様かなり小型化出来たんだぜ。外見上の寸法は2号君と一緒で全長3000mm、全幅2500mm、全高2000mm! 横幅がちょっとあるけど、長さは軽自動車クラスのサイズだな。最も、重量は2号君の倍、ジンクの武装ゴーレムとほぼ同じ20トンもあるけどな! しかも火炎放射器の燃料を積んでない状態でこれだぜ! 燃料を積むと、さらに数百キロは余裕で増えるんだぜ。


 問題点があるとすれば、2号君同様、小さくなった車体の割に砲塔の大きさはそこまで小さくなっていないから、ちょっと可愛らしい点だろうか。火炎放射戦車なんて言ったら、地球では敵からのヘイトがめちゃんこ高い凶悪兵器なはずなのに、可愛らしさが目立つんだぜ。


 まあ、何はともあれ無事に完成だぜ! あとは、試運転をするだけだな!



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