第103話 3号君開発計画

 2号君の修理を無事に終えた俺は、3号君開発計画に乗り出すことにした。


「んで、その3号君ってのをどうするのかはもう決まったのか?」

「ふっふっふ、やっと決まったぜ!」

「そうか。だが、そもそも2号君じゃダメなのか? かなりの強化をしてただろ?」

「2号君じゃ絶対にダメってわけじゃないんだけど、2号君が開けた場所での遠距離戦用の戦車ってのは知ってるだろ?」

「ああ、高い機動力で有利な場所を確保、そこから待ち伏せ攻撃を行っては逃げてを繰り返し、絶対に正面からは戦わないってやつだろ? 確かに話を聞いた時にはちいっとせこいと思いつつも合理的だと思ったさ。でもアイアンの場合、結構がっつり正面から戦ってねえか?」

「うぐ、そいつを言われると確かにその通りだし、そのせいで今回の改造では装甲を強化しちまったわけなんだが、それでも機動力を生かせない狭い場所では戦ってないだろ?」

「まあな」

「でも、次に行く場所はちがう、何せ森の中だ。森の中ってのは、木が邪魔で移動可能なルートが限られるから、本格的に2号君の長所である足が生かせない。となると必然的に装甲により頼ることになるってわけだよ。視界が悪いだろうから、先制攻撃で倒すことも難しいだろうしな。なにより致命的なのが砲弾の回収だ。森の中に下手にミスリル砲弾をぶっ放すと、回収が難しいとおもわねえ?」

「あ~、そいつは確かにな」

「だろ? ミスリル砲弾を回収もせずに使えるほど、ジンクの欲しがってる木材って高価じゃねえよな?」

「ああ、そこまでの値段じゃねえ。確かに俺の欲しがってる木材は、自然魔力の濃い場所でしか取れないから高級品だが、そこまで極端に濃い場所でもねえしな。っていうか、理想を言えばめちゃくちゃ濃い場所の木材が欲しいが、俺らじゃ手に余る」

「だろだろ? ってなわけで、森の中で、しかも砲弾の回収を気にせず使える戦車を作んないとってわけだ」

「わかったぜ。だがよ、そんなに都合のいい戦車なんて作れるのか? そもそも大砲を使う時点で、砲弾の回収の問題は付きまとうと思うんだが」

「ふっふっふ、甘い、甘すぎるぜジンク。その考えはチョコレートよりも甘いんだぜ! 戦車ってのは、何も砲弾を撃つことだけが生き甲斐じゃねえんだよ。そう、あるんだよジンク君、大砲以外をメインにした戦車ってのがな!」

「ほ~、そうなのな」

「その名も、火炎放射戦車だぜ!」


 そう、俺が考えた森の中でも快適に戦える戦車ってのは火炎放射戦車だぜ! 砲弾を撃つわけじゃないからあとで砲弾を回収することを考えなくてもいいし、なにより俺が火炎放射の魔法を使えるからな。相性抜群なんだぜ!


「火炎放射か、嫌な思い出がよみがえるぜ」


 そういや子供の頃、いや、今も子供だけど、より子供だった頃って意味な。俺はジンクと遊びで模擬戦をするたびに、これでもかってくらい火炎放射魔法をぶっ放してたんだよな。だからか、ジンクは今でも少し火炎放射魔法が嫌いなんだぜ。でもまあ、おかげで防御魔法が上手くなったってラピおばちゃんに感謝されたから、きっと問題ないんだぜ!


「んで、俺が考えた火炎放射戦車、もとい3号君の開発計画書はこんな感じだぜ!」

「どれどれ、ちょっと見せてくれ」

「ああ、たっぷり見てくれ」


 俺はジンクに3号君開発計画書をみせる。ふふふ、どうよ、この完璧なプラン!




 火炎放射戦車、こいつは地球ではメジャーにこそならなかったが、各国でそこそこ作られていたんだぜ。まあ、自走砲みたいに専用設計で作られたことはほぼなくて、既存の戦車の改造だったけどな。


 例えばアメリカならM4中戦車ベースの火炎放射戦車がいたし、イギリスには有名なチャーチル・クロコダイルがいた。もちろん日本、ドイツ、イタリアにもいたし、ソ連にもいたんだぜ。


 まあつまり、火炎放射戦車の有用性ってのは各国ともそこそこ認めてたってわけだな。実際、歩兵が背負うタイプの火炎放射器と比べると、車載型にはいろいろメリットがある。まず、歩兵用の火炎放射器と比べると、装置を大型に出来るから、車載型の火炎放射器は射程が長いんだ。戦中の歩兵用の火炎放射器の射程が30mくらいなのに対して、車載型は100mくらいあったそうだ。さらに、ベトナム戦争のころになると、M132自走火炎放射器ってのが200m台の射程を叩きだしたんだってさ。ソ連のT-54ベースの試作火炎放射戦車も、最大270m届いたらしいぜ。射程200m台って、流石に長すぎるだろっていいたいぜ!


 そんな火炎放射戦車なんだが、大きく分けて2種類に分けられる。普通の戦車に追加武装みたいな感じで火炎放射器を取り付けた戦車と、主砲を取り外して、火炎放射器の運用に特化した戦車だ。例えば、火炎放射戦車として有名な、イギリスのチャーチル・クロコダイルは、前者だ。車体前方のボディガンを取り外して、そこに火炎放射器を装備、燃料は車体後方に取り付けられた2輪のトレーラー型タンクから供給される仕組みだったらしい。だから、戦車として普通に大砲を撃つことも可能だったし、車内に燃料があるわけじゃないから、防御力もそこまで落ちてないってわけさ。燃料トレーラーはいざとなったら簡単に切り離しができたみたいだしな。


 火炎放射器を搭載して、さらに主砲も撃てる。これは魅力的なんだけど、やっぱ大砲も火炎放射器もって設計だと、射程200mオーバーは難しいと思う。実際、最大射程270mと言われてるT-54ベースの試作火炎放射戦車は、主砲は持っていないからな。それに、M132自走火炎放射器と一緒にベトナム戦争に行った、M48ベースの火炎放射戦車、M67も、射程は200m弱くらいで、主砲を装備していない。


 というわけで、大砲との両用は止めて、火炎放射専用の戦車を作るんだぜ。まあ、俺の場合、主砲の弾を森の中で探すのがきっと無理なので、主砲を使いたくないって事情もあるんだけどさ。


 そんな3号君こと火炎放射戦車のベースに俺が選んだのは、ソ連のKV-1だぜ! そう、ソ連製の重戦車として有名な、あのKVシリーズだぜ! 実はこのKV-1ベースの火炎放射戦車は実在するんだぜ、KV-8って名前でな! つまり、ソ連もKV-1をベースに火炎放射戦車を作ることは合理的って思っていたはずなんだぜ。ただ、KV-8は、KV-1の主砲である76mm砲を、火炎放射器の乗るスペースの確保のために、45mm砲にダウンサイジングしてるとはいえ、大砲と火炎放射器の両用戦車なんだよな。俺の3号君は大砲を積まない予定なので、そこは大きく違うぜ。


 そしてチョイスの理由なんだが、まず、森の中だし、ジンクとも歩調を合わせる必要があるから、そこまで高機動である必要性はないって思ったんだ。それよりは接近戦が多くなるだろうから、装甲がほしいかなってな。しかも、戦後のMBTのような、前面は硬いけど、背面は硬くないみたいな戦車じゃなくて、どこから襲われてもいいように、側背面も硬い方がいいだろうって思ったんだ。そうなると、KV-1ってのは、なかなか理想的な戦車なんだぜ。なにせ側背面まで正面とほぼ同じ装甲厚があるからな! この背面装甲まで無駄に分厚い構造って、初期の重戦車って感じがするよな!


 ただ、この子も実寸で作ると俺の体には大きすぎるし、45トンもある車重は重すぎるから、出来るだけ小型化するけどな!



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