第39話 母ちゃん達からの試験5だぜ!

「ふう~、どうやら終わったようだな」

「そっちはどうだ?」

「ん~、微妙。とりあえず叩いてみたんだけど、ぎこぎこ言いながらかろうじて動くって感じかな。本格的に直すには金属加工魔法を使わないとだけど、ここでやるのはな~」

「そうだな。じゃあ、軍鶏モンスターを1号君に乗せて帰るとするか」

「ああ、ってちょっと待ってくれ。APCRもぴかぴか弾も、回収出来そうな位置にあるんだ」


 軍鶏モンスターの風の砲弾に威力が削がれたおかげか、運のいいことに回収できそうな位置に転がってくれていた。


「わかった。じゃあ俺はこいつを1号君に積んでるから、回収しててくれ」

「おう、悪いな」


 こうして俺とジンクは帰り支度をすることにした。俺は砲弾と30mm機関銃の残骸と母ちゃん専用シートの残骸を回収し、ジンクは軍鶏モンスターを1号君に乗せた。最後の仕上げに軍鶏モンスターを氷で囲って冷やすと、俺とジンクは街に向けて出発した。


「あ~あ、2号君ぼろぼろになっちまったぜ」

「俺のほうもけっこうぼろぼろだぜ」

「そうなのか? でも、ジンクのほうはまだいいんじゃねえの? 本体はいうほど傷ついちゃいないし、剣や盾が痛むなんて、通常の運用の範囲内だろ」

「あほ抜かせ、俺の武装ゴーレムもけっこう重傷だっての。確かに本体装甲はイエロー表示がところどころ付いてる程度だからたいしたことはない。だがな、ミスリル10%の剣と、ミスリル30%の盾はどっちもオレンジ表示で、もうろくに使い物にならん。それに、見た目にはわからんかもしれんが、関節がだいぶダメージを受けてる。特に盾を持ってる左腕と、上からの攻撃を支えてた腰や脚の関節は、オレンジ寄りのイエロー表示になってるしな」


 俺の2号君とジンクの武装ゴーレムはどちらも同じようなダメージインジケーターが付いているんだ。正常な時がグリーンで、破損の度合いに応じてイエロー、オレンジ、レッドと表示が変わっていく。だいたいイエローが小破、オレンジが中破、レッドが大破だ。まあ、つまりぴかぴか弾を撃って砲塔旋回装置が壊れた時は、砲塔旋回装置がレッド表示だったってわけだ。多少直したから、いまはレッド寄りのオレンジ色だけどな。


「あれ? ってことは、もしかして、今何かに襲われたら、俺達ってけっこうピンチ?」

「そういうことだ。幸いお前の2号君は足回りは無事だし、俺も1号君のおかげで武装ゴーレムの調子が悪くとも移動速度だけは確保できているからな。なにかあったらお前のスモーク使って、全力で逃げるぞ」

「わかったぜ」

「まあアイアン、改善点も見つかったことだし、よかったと思おうぜ」

「でもさ、これ、試験だったんだよな?」

「あ~、確かにな。こりゃあどう考えても、不合格だな」

「だよな~、野営どうする~? 俺もう帰りたいんだけど」

「それは俺も同感だ。戦えない状態でここで野営はしたくないな。どうせ不合格だろうし、帰るか」

「うん」


 俺とジンクはもうどうせ試験は不合格だからと、帰ることに決定した。


 っていっても改善か~、なかなか難しいよな。特に上空からの攻撃は戦車共通の弱点といっても過言じゃねえからな。単純に蓋をつけるってだけじゃあいまいちだ。そもそも蓋をつけた場合、空なんて見えなくねえか? キューポラとかって、空見るようじゃねえもんな。ん~、難しい課題だな。普通の対空砲って、そもそも装甲無しなんだよな~。87式自走高射機関砲なんかは密閉式の砲塔だけど、あれはレーダーありきだろうしな。う~ん、だめだ。いいアイデアが思い浮かばないな。帰って父ちゃんに相談かな。


 俺とジンクはどんどん進んでいく。幸い他のモンスターに襲われることもなく、順調順調って感じだ。ま、目を合わせただけで襲ってくるようなやつは、軍鶏とイノシシくらいなものだしな。しっかし、日が傾き始めたっていうのに街が見える気配がまるでないな。


「なあジンク~、いつ街につくんだろ」

「まいったな、思ったより帰るのに時間かかってるな」

「確か来た時は朝から昼飯まで進んだだけだよな? なら今日中に帰れるかもって思ったんだが」

「ん~、俺も最初はそう思ったんだが。よくよく考えてみりゃ、現地で獲物探すのに結構時間かかったんだよな。それに、行きと違って、今はこの大物のせいで1号君の速度が上がらないからな、こりゃあ、暗くなる前に着くのは無理かもな」

「そっか、じゃあ暗くなる前に夜営の準備でもするか~」

「ああ、そうしようぜ」


 こうして俺とジンクは野営の準備を始めることにした。


「じゃあ、この辺に家作るぜ」

「それ、マジで作るのな」

「当たり前だろ?」


 まったく、ジンクのやつは何言ってんだか。さて、俺は早速周囲の地面に魔力を流して土魔法で家を作る。形としては、直方体だな。大きさは、1号君と2号君がまるまる入る大きさだから、けっこう大きめだ。モンスターに体当たりされてもいいように、壁も厚くしないとな、ん~、1mくらいでいいかな、屋根はまだつけない。バーベキューの前に付けちゃうと、家の中が煙で充満しちゃうからな。


 ただの立方体ってだけじゃ物足りないから。壁の上には西洋風の佐間、いわゆるツィンネを取り付けた。うん、これがあるだけでだいぶ見栄えが違うな。それから、実際に開閉はしないけど、窓と扉を書いておこう。う~む、完璧だな。まるで小さい要塞って感じだな。


 それと、内装としてトイレを作って、シャワールームも作る。あとはテーブルに椅子に、竈、あと水場を作って、完成だな。


「じゃ、バーベキューするか~」

「おう、じゃあまずは、火でもおこすか」

「さんせ~。薪とか野菜は1号君に積んであるんだよな」

「おう、取ってきてくれ」


 バーベキューグッズの大半は1号君に積んであるんだ。これは、戦闘に参加しない1号君が一番安全だろうという判断だ。鉄板とか、じゃがいもなんかが見える位置にあったせいで、門番のおっちゃんにはばれちゃったけどな。一応、2号君の冷蔵庫や、ジンクの武装ゴーレムにも多少は食材を入れてたんだぜ。これはリスクの分散ってやつだな。


 もっとも、2号君の食料庫と冷蔵庫は、車内にあったやつも、母ちゃん専用シートにあったやつも、壊されちゃったんだけどな。ただ、その程度で挫ける俺じゃねえ。俺のお菓子も、食料庫と冷蔵庫こそ破壊されたものの、個包装のお菓子は無事だったものも多いしな。それに、買いすぎたおかげで、食料庫から溢れて適当にしまってた分は無事だったから、お菓子不足でピンチになることはなかったんだぜ! もちろんジュースもだ! ふっふっふ、流石俺だ!


「さて、火もOKだし、パンもOKだし、野菜もOKだし、調味料もOKだし、飲み物もOKだな。ってことはあとは」

「ああ、肉だな」

「これ、解体するの?」

「いや、それは止めとこう。俺とアイアンで食うだけなら、千切れかけの羽の部分の肉を少し取るだけでいいんじゃないか?」

「そだな、そうしよう」


 俺とジンクはぴかぴか弾で千切れかけてた羽を切り取って、羽をむしってから肉を切り取る。うん、500グラムくらいは取れたかな。


「よし、こんなもんかな。ジンクはもっと食うか?」

「いや、俺も1キロくらい取ったし、十分だ」

「そっか、それじゃあ残りは、っとそうだな」

『お~い、ジンク~、この肉を取った残りの羽の部分どうしようか~?』

「おい、なんだよ突然大声で」

(二重カギカッコは大声でお送りしてるぜ!)


 俺が目線を外にちらちらとやると、ジンクも察したようだ。


「なるほど、そういうことな」

『あ~、そうだな~。商品価値も低そうだし、その辺に捨てちまうか~!』

『わかった~! ぽいっと投げとくぜ~!』


 俺は羽を思いっきり外に向かって投げる。


「ラピちゃん、お肉が飛んできたわ!」

「まかせときな!」


 うん、どうやらお肉は無事に母ちゃん達の手に渡ったようだ。


「さってと~、バーベキューを始めますか~!」

「おう!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る