第125話 3勢力の取り合い

「それじゃあここからはそれぞれの勢力の取り分をどうするかって話し合いでいいかい?」

「うむ。異論はない」

「ええ、私もよ」

「ああ、そうしよう」


 母ちゃん達へのお土産分が決まり、ここからは各勢力での割り当ての話し合いがはじまるみたいだ。・・・・・・、恐らくここからが本番なんだろうな。各勢力の代表者達の圧が、更に上がった気がするぜ。


 俺としては母ちゃん達へのお土産分が決まった以上、これ以上首を突っ込む気は無いんだけど、どのくらいのハチミツがポーションになるのかだけは気になるんだよな。


 話し合いに参加する気はないけど、ただいるだけなら問題ないかな?


「父ちゃん、母ちゃん達へのお土産分は決まったわけだけど、ここで話し合いを聞いていてもいいかな?」

「ん? 聞いているだけならもちろん平気だぞ。だが、こういう話し合いを聞きたいなんて、何か気になることでもあるのか?」

「ちょっとさ、ポーションにどのくらい割り当てがあるのかなって思って。ほら、俺の戦車にもポーション積んであるじゃん、だから気になっちゃって」


 戦車に乗るにあたって、ポーションの有無って言うのはそれなりに重要だ。戦車は確かに強力な戦闘車両だが、無敵というわけじゃない。敵の攻撃によって車両が傷つくこともあれば、搭乗員が負傷することだって十分に考えられる。


 そのため普通戦車には、修理用の様々な工具に加え、転輪や履帯といった予備パーツなんかを積んでいるし、搭乗員の負傷用に救急キットを積んでいる。


 俺の場合修理には金属加工魔法があるし、負傷には回復魔法があるんだけど、それでもいざって時のためのポーションは欠かせない。いままでは父ちゃんに用意してもらっていたのを普通に積んでいたけど、今後のことを考えると高ランクのポーションとその素材は、どうしても気になっちゃうんだよな。


「そう言う事なら構わないぞ、俺もハチミツ酒への割り当てが気になるしな。といってもこの手の話し合いは長く続くことが多いから、最後まで参加っていうのはあれだが、取り合えず昼飯まではここにいるか」

「サンキューだぜ父ちゃん!」


 ジンクとガリウムのおっちゃんは、ミツロウワックス欲しさにものづくり勢力の集団に混ざりに行ったし、なんだかんだ俺達はみんなここに残ってるってわけか。さて、それじゃあどんな交渉になるのかな?


「それじゃあ、まずはあたしから提案させてもらうよ。ハンターギルドへ4割、軍へ4割の取り分を希望する。残りの2割の配分はそちらに任せるが、問題ないな?」


 って、マジかよトリーさん、ハンターと軍を分けたけど、ようは戦士勢力で残り分の8割って、もの凄い要求だな。


「問題ないな? ですって? ふざけないで! 戦士勢力だけで8割だなんて、いくらなんでも強欲ではありませんこと?」

「全くじゃ。さっきお主がガリウムに言った言葉、そっくりそのまま言わせてもらう。くだらん交渉の仕方をするでないぞ?」


 そしてそんな要求にものづくり勢力と食べ物勢力のドワーフ達が即座に反論する。


「あんた達こそ何を言っているんだい? この街はダンジョンからの恵みにより栄えているが、同時に常にダンジョンの脅威にさらされている。その対応のかなめであるあたし達が8割持って行くことの何が問題なんだい?」


 うう~ん、そういうものなのかな? 俺は父ちゃんにこっそり話しかける。


「父ちゃん、あんな要求通るの?」

「流石に8割のまま通りはしないだろうが、トリーさんのいい分もまあ間違ってはいない。この街は鍛冶とダンジョンの街だからな。これが武具の強化か戦士の強化かって話なら五分だろうが、ものづくり勢力が欲しているのはあくまでも化粧品や木工用品に使う分だからな、この街ではマイナー勢力なんだよ」

「それじゃあ、お酒やお菓子は?」

「そっちも微妙だな。確かにジャイアントハニービーの素材で作った酒や菓子は美味いんだが、ポーションが相手だからな。ポーションの品質と酒と菓子の品質、どっちかを選べと言われたら、ポーションになるだろ?」

「確かに」


 言われてみるとそうだよな。お酒やお菓子の品質は下がってもちょっとの味覚の差で済むけど、ポーションの品質の差は命にかかわるもんな。


「それでは言わせて頂きますが、そんなにジャイアントハニービーのハチミツを使ったポーションが重要なのでしたら、どうして普段から積極的に採取しないのですか? 私の記憶が確かなら、ジャイアントハニービーはこの街の周辺のダンジョンに生息していますわよね?」

「それにそもそもジャイアントハニービーのハチミツを使った高ランクポーションなんぞ誰が使うんじゃ? ハンターも軍も、そんなもんが必要な高リスクな戦いなんぞせんじゃろうが。去年1年間での高ランクポーションの使用状況と、期限切れで中ランク程度にまで効能の落ちたポーションの本数を数えてみるがいい」


 なるほど、確かに高ランクのポーションがあるってのは嬉しいけど、じゃあ使う必要がありそうなことをするかって言われれば、うん、絶対しないな。ハンターギルドからもリスクの高いモンスターには絶対挑むなって言われたし。


「それに、街の計画分の備蓄は既に持っているだろ? ここ数年で高ランクポーションを大量に使う事案なんて俺は知らないしな。ならこれ以上備蓄を増やしても、今ある分以上に無駄になるだけの可能性が高い。そんな状況でその要求は認められないな」


 へ~、高ランクポーションには備蓄計画があるんだな、初めて知ったぜ。ってあれ? ポーションになる分が多ければ戦車用に安く買えるかもって思ったけど、トリーさん達が頑張っても備蓄が増えるだけなのか?


「それにじゃ、お主らは怪我の心配ばかりしとるが、士気の問題はどう考えるんじゃ? いざという時に大事なのは士気じゃよ士気。士気を上げるのに必要なのは保管庫に大事に管理されるポーションではなく、美味い酒じゃ!」

「「「「「そうだそうだ~!」」」」」


 なるほど、確かに一理ある発言だな。第2次大戦の時のアイゼンハワーだって、士気のためにはコーラが必要だって言ってたらしいし。


「それに、このジャイアントハニービーの巣はもともとラピさんやエメラさんへの贈り物、ならば彼女達が必要としていない高ランクポーションよりも、少しでも上等な化粧品作るほうが彼女達が喜びますわ」

「「「「「そうよそうよ!」」」」」

「でじゃ、後ろにいるハンターの連中や軍の連中に聞くが、本当に使いもしないポーションが欲しいか? 普段よりワンランク上の酒、菓子、化粧品、そのほうがお主らのためにもなるというものじゃぞ?」


 おおう、酒造店のおっちゃん、なかなかいい顔しながらえげつない提案をするな。トリーさんや軍の偉い人じゃなく、二人の背後にいる集団のドワーフ達の切り崩しにかかったか。


 だが、トリーさん達の集団はそんな誘惑に惑わされることなく。


「普段よりワンランク上の酒か、ごくり」

「外回りが多いからお肌の調子が悪くなりやすいのよね」

「美味しいお菓子・・・・・・」


 って、思いっきり惑わされてるじゃん。大丈夫かよトリーさん達。



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アイアンオア 戦車大好き男、異世界へ行く @pipipuu

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