第28話 ジンクとお出かけ2だぜ!

 俺達は西門を抜けて西の街道に出る。そして、ゆっくりと西街道を進んでいく。そうそう、俺たちの住んでる街は、東西にちょっと長い長方形の形をしている。北には山脈があり、あっちこっちにいろいろなダンジョンがある。俺が行った初心者用ダンジョンもここにあるぜ。んで、南には大河が流れている。まあ、ダンジョンという名の鉱山があって、大きな河もあるってことで、地球でもよくある工業の街にうってつけの立地ってわけだな。そして、西の街道は河沿いに、下流に向かって続いてるんだぜ。ちなみに周辺は草原だ。なのですでに西の草原と言えば西の草原なのだが、目的の牛や豚のモンスターのいる草原は少し行った所にあるらしい。


 俺と母ちゃんはのんびりお菓子を食べ、ジュースを飲みながら進んでいく。どうやらこの道はもう少し続きそうだな。すると、ジンクがラピおばちゃんにさらに細かいことを聞いていた。


「なあ母さん、結局わけありってなにがあったんだ?」

「普段お肉を買ってるお店の店主って、ジンクは知ってる?」

「う~ん、おばさんと娘はわかるけど、おじさんはちらっとしか見たことないかな」

「あ~、そうだね、あの店主は普段店にいないからね。それでね、あの店の店主はハンターも兼業でやっててね。早い話が自分で狩ってきたお肉を自分の店で売ってるのさ」

「なるほど」

「もうなんとなくわかったと思うけど、その店主がちょっと怪我しちゃってね。お肉を仕入れられなくなっちゃったんだ。だから、ジンクの初陣に丁度いいし、常連であるあたし達が代わりに狩りに行こうって話になったのさ」

「よくわかったぜ。ところで、店主さんの怪我は平気なのか?」

「大丈夫みたいだよ。奥さんから話を聞いたんだけど、ただの虫歯らしいから。ただ、あそこの店主も無駄に頑丈なタイプだからね。歯の治療をしようにも、歯に無意識に身体強化魔法をかけちゃうみたいで、腕のいい一部の歯医者じゃないと対応できないらしくてね」

「そっか、それならたいしたことはなさそうだな」

「まあね。それで、その腕のいい歯医者の予約が5日後って話だから、それまでの間売るお肉があればいいってことだね」

「なるほど。ところで、狩った牛や豚のモンスターを運ぶ荷馬車が無いみたいだけど、運搬はどうするんだ?」

「それは後からお肉屋の奥さんが荷馬車を出して、取りに来てくれる予定になってるよ。現地で血抜きなんかをしたいらしいから、専用の荷馬車を持ってくるってさ」

「なるほど、そういうことか」


 さらにしばらくすると西街道が北方向に曲がり始めた。でも、正面にもなにやら馬車の轍が続いている。


「アイアンちゃん、ここ真っ直ぐね! ここを北に曲がって行っちゃうと、隣町に行っちゃうからね」

「了解だぜ! そだ母ちゃん、街道を外れたって事は、速度あげてもいいの?」

「もちろんよ!」

「うおっしゃあ! 行くぞ2号君!」

「いけいけ~!」


 俺と母ちゃんは2号君を爆走させる。2号君は出来立てだから、狭い庭の中でしか走行できていない。ここはこの草原で本気の走りってやつを見せてやるぜ!


「おいアイアン、何してる?」

「こらエメラ、ここはもうモンスターの領域なのよ? なにしてるのよ!」


 ジンクとラピおばちゃんが無線で抗議してくるが、俺と母ちゃんはそれを聞かなかったことにして走行テストを開始する。やっぱ広い場所、それもオフロードで飛ばすのは違うな。さいっこうに楽しいぜ!


「アイアンちゃん、最高速まで加速!」

「了解だぜ!」


 流石ただの草原。草に隠れてて地面が直接は見えないが、結構うねってやがるぜ。


「くう、こいつはなかなかハードな環境だな」

「ええ、流石にオフロードで時速100キロメートルは車体が暴れるわね。次、全力で急旋回!」

「おっしゃあ! 行くぜ!」


 ずざざざざざざざざ!


 くう、すさまじい横Gだぜ。そして、内側のクローラーが浮き上がりそうだぜ。これは、下手な地形でやって跳ねたら、転がっちまいそうだ。


「これはやばいな。下手したらこけそうだ」

「そうね。アイアンちゃん、姿勢制御用のアクティブサスペンションのスイッチをオンにして」

「OKだぜ!」


 このアクティブサスペンションは父ちゃん一押しの自信作だ。流石に時速100キロメートルで、オフロードを爆走する用のアクティブサスペンションは、市販品には無かったみたいだ。ちなみに通常のパッシブサスペンションは、路面の凹凸を受けると、延びたり縮んだりするわけだけど、アクティブサスペンションはそれとは別物だ。アクティブって名前の通り、自分から姿勢を変えるためについてるんだ。具体的には、旋回時に内側のサスペンションを縮めて、外側のサスペンションを伸ばす。それによって車体を傾けて、コーナーでの安定性を増すってわけだ。それ以外にも車体を前後に傾けて俯仰角をましましにもできるんだぜ。まあ、74式戦車と似たようなもんだな。


 そして、そんなアクティブサスペンションのスイッチを入れて再び爆走する。


「うおっしゃあ! いくぜ~!」

「いっけえ~!」


 ここだ。ここで全力のコーナーリングだ! 俺はあえて凹凸が大きそうな場所目掛けてカーブする。草の下の地面の凹凸により2号君は激しくあばれ、ジャンプまでする。だが、俺はアクティブサスペンションだけじゃなく、フロントヘビー気味な2号君の砲身を内側に向けることで、こけることなく走りきる。くう、こいつはすさまじいぜ!


「ふう、こいつはハードだったぜ!」

「そうね! でも、砲身を内側に傾けたのは良かったわね。それにより空中に浮いても、内側に傾く状態で着地できていたわ」

「ああ、完璧だったぜ!」


 その後もいろいろと走り回る。10式戦車みたいに砲塔を敵に向けた状態でのスラロームなども試す。まあ、無駄弾撃つわけにはいかないから、フリだけだけどな! そして、一通り試し終えて少し待っていると、ようやくジンクの武装ゴーレムが追いついてきた。


 ちなみにジンクの武装ゴーレムの最高速度は、時速40キロメートルくらいだ。理由としては、そもそも最高速重視の設計じゃないからだな。戦闘時に必要な動作を力強く行えることを重視しているので、関節の可動域とか、関節の出力のでかたなんかが最高速を出すようになっていないんだよな。とはいえ、時速40キロメートルってことは、最初の加速部分を除くと100mを9秒だからな。結構速い。


「ったく、何やってんだよ、ジンク。遅いぞ?」

「あほか、ここはもうモンスターの領域だって言っただろ? 何考えてる!」

「エメラ~!」


 どすん!


 俺とジンクが無線でやり取りをしていると、エメラと叫びながらラピおばちゃんがジンクの武装ゴーレムの肩からジャンプして、俺の2号君に飛び移ってきた。


「あんたねえ! 何考えてるの! 今日はジンクやアイアン君だっているんだよ!」

「まってラピちゃん。これは必要なことだったのよ」

「必要なこと? こんなくだらない暴走が?」

「だって2号君が完成してから、まだそんなに経ってないのよ。それどころか、ラピちゃんが壊したジンク君の武装ゴーレムの修理のせいで、2号君はまだ庭の中でしか動けてなかったのよ」

「それがなんだっていうのよ!」

「だから、全力で動いた時の機動性とかの確認はしないとでしょう? スピードが出ると思ってたけど、オフロードだと車体が暴れすぎて、スペックどおりの性能が出ないことなんて、よくあることだもの。今から実戦だからね、その前に確認したかったのよ。ね、ちゃんとした理由でしょ?」

「そういうことね。それならいいわ。でも、せめて一言言ってくれないかしら?」

「ごめんラピおばちゃん、ついテンション上がっちゃってさ」

「そうそう、テンション上がっちゃったのよ」

「はあ、まあいいわ」


 ごん!


 うお、なんだ? 2号君が思いっきり揺れたぞ。ラピおばちゃんがジンクの武装ゴーレムの肩に戻ったみたいだし、まさかジャンプの勢いでこんなに揺れたのか?


「いった~い。ラピちゃんに本気で殴られた~。このシート、ラピちゃんの打撃の衝撃に耐えれるような設計になってないのに」


 おおう、まさかの母ちゃんに1発入れてから戻ったのかよ。しかもその衝撃でこんなに揺れただと? すさまじいパンチ力だな。まあ、痛いとか言ってるけど、母ちゃんは母ちゃんで効いてる様子じゃないんだよな。うん、あの2人のやり取りに関わるのは危険だって父ちゃんも、ガリウムのおっちゃんも言ってたからな、気にしない気にしない。


「さて、早速牛モンスターか豚モンスターを探すわよ」

「「おお~!」」

「は~い!」


 さて、気を取り直して、狩りの開始だな!


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