第98話 ミニアイアンオア

『ふあ~、よく寝た』


 セントラルシティーバトル大会、未就学児部門が終わった翌日。俺のあくびは、聞き慣れないスピーカーから発せられた。


 あ~、そういえばG弾との融合がまだ直ってないんだった。ってか、ここどこだ? また違う場所かよって、ここは婆ちゃんの家か。寝てる間に帰ってきてたみたいだ。


 とりあえず、金属加工魔法で手足を曲げてっと。


『うん、辛うじて動けるな』


 さて、どうしようかな。金属加工魔法でもう一度ちゃんとした頭身を目指す? う~ん、でも、昨日みたいに上手くいかなくて、魔力を使いきっちゃうと、この体じゃあただの金属の像になっちゃうからな~。ちょっと恥ずかしいけど、背に腹はかえられぬっていうし、取り合えずこのまま過ごすか。


 俺は部屋を出てリビングへと向かおうとする。


 むう、ただのベッドなのに、もはや崖じゃんこれ。どうするんだよ。いっそ落ちるか? 今の俺の背より高いベッドだが、金属の塊のこの体なら怪我とかはしないだろ。あ~、でも床が傷むかもしれんな。ここはベッドの上にある掛布団やまくらを先に落としてクッションにするか。


 俺は作戦を決行し、無事にベッドから降りることに成功した。


 だが、難関はまだまだ待っていた。


 今度は、部屋のドアレバーがベッド以上に高くて手が届かない!


 くそ、こんなんどうすりゃいいんだよ。大声で叫んで母ちゃんを呼ぶ? いや、いくら何でもそれは情けなさすぎる。前世云々とかもだけど、そもそもこの世界でも俺はもう7歳児だぞ。部屋のドアくらい自分で開けられなくてどうするよ!


 ここは、金属加工魔法で自身の手を細長く伸ばしてっと。うし、成功だ。


 その後、階段を何とか突破した俺はついにリビングに到着した。


『おはよう~』


 リビングに入ると、母ちゃんと婆ちゃん、それにラピおばちゃんとジンクがいた。


 うげ! ジンクがいるじゃん、この姿でジンクには会いたくなかったのに!


「おうアイアンおはよう。ところでその姿、大丈夫なのか?」


 ジンクが心配そうに聞いてくる。あれ? この姿を見られたらからかわれると思ってたのに、予想が外れたぜ。


『大丈夫だぜ。ちゃんと元に戻る方法もあるっていう話だし。な、母ちゃん』

「もちろん大丈夫なの」

「そうか、それならよかったぜ」

『ジンクこそ大丈夫だったのか? あの切られ方、胴体真っ二つだったんじゃないか?』

「見ての通り大丈夫だ。切られたときも、不思議と痛みは感じなかったしな。どっちかっていえば、動きたいのに動けないのがもどかしかったってくらいだな」

『そうか』

「でもアイアン、しっかり見るとなかなかユニークな格好だな。そのボディは俺の武装ゴーレムの真似か?」


 くそ、気付いてなかっただけなのかよ。にやにやしやがってこの野郎。やっぱジンクはジンクだな。


「俺の今の姿がユニークって言うんなら、ジンクの武装ゴーレムがユニークってことだがな」


 ふふんっ、どうよこの完璧な返し。俺の今のボディはジンクの武装ゴーレムを模している。俺の体がユニークだというのなら、それすなわち、ジンクはほぼ毎日そのユニークな見た目の物に乗っているっていうことだ。


「いやいや、ボディの細かな造形はかっこいいと思うぜ。なにせ俺の武装ゴーレムそっくりだしな。ただ、アイアンの今のボディの場合、本物をそのまま小さくしたわけじゃなく、上から押しつぶしたような縦横比と、そのボディの上に乗っかってるアイアンの頭のデカさのせいで、最高にユニークだっ思っただけだ」


 ちいっ相変わらず減らず口を。


 その後、俺とジンクが戯れていると、玄関からドアノッカーを叩く音がした。婆ちゃんがはいは~いって言いながら玄関へと向かうと、すぐに戻ってきた。


「アイアンちゃん、ジンク君、お友達が遊びに来てくれたみたいよ」

『お、シュタールかな?』

「たぶんそうだろ」

「ふふふ、シュタール君もいたけど、女の子達もいるわよ」

「『女の子?』」


 女の子達? もしかして、バトル大会の時に知り合ったベルちゃん達かな? うん、きっとそうだな。むしろそれ以外で、この街に知り合いの女の子なんていないしな。


 でも、どうしよう。こんな格好で女の子に合うなんて、ちょっと恥ずかしいんだけど。


 でもな~、俺達がこの街にいるのもあとちょっとだし、そもそもこの街にいる間に元に戻れるのかもわかんないんだよな。うう~ん、よし、ここは会っておこう。ジンクじゃないんだ、いくら小さくなってるからって、戦闘の結果をからかったりはしないだろ。


「お家の中に入ってもらう? それとも、お庭で遊ぶ?」

『う~ん、どうしよっか』

「庭でいいんじゃないか? アクア達が全員いたら、数多いだろ」

『わかった、じゃあ行こうぜ』

「あとでジュースとお菓子を持って行くわね」

『ありがと婆ちゃん!』


 ジンクの提案で俺達は庭に行くことにした。


 だが、そこで再び衝撃の事実が発覚する。ジンクはいつものように歩いているんだが、俺が全力を出しても追いつけないだと!?


『おいジンク、ちょっと待て。そんなに早く歩けん』

「はあ? って、そりゃあそうか。足が短すぎるもんな。ぶふっ」


 野郎笑いやがって。俺はジンクをにらむ。だがジンクはそんなことまるで気にしてない様子だ。


「悪い悪い、そう睨むなよ。連れてってやるからよ」


 そう言ってジンクは俺を抱きかかえる。


『なあ!?』

「アイアン、お前地味に重いな」

『当たり前だ。一応金属の塊だぞ。しかも、砲弾向けの金属だから重金属だ。ってか降ろせよ!』

「アイアンがもうちょいちゃんと歩ければ降ろしてやっても良かったんだけどな」


 くそ、ジンクに抱っこされるなんて、屈辱以外の何物でもないんだが! おのれ、なんとしてでも振りほどいてやる。そう思い俺はジンクの腕の中で暴れる。


「おいおい暴れるなよ。落としたら床がキズになるぞ」


 くそ。ジンクに抱かれるのは業腹だが、婆ちゃん家の床を傷つけるわけにもいかん。まあいい、今のところは大人しくしてやるか。


 玄関には想像通りのメンバーが待っていた。シュタールとベルちゃん達4人だ。


『おう、みんな』

「よう、よく来たな!」

「2人のことが心配でな。特にジンクは武装ゴーレムのコックピット真っ二つコースだったろ?」

「ジンクさん、ご無事でなによりですわ。本当は試合の後にお会いしたかったのですが、治療中ということでお会いできませんでしたの」

「あ~、そいつは悪かったな。俺もアイアンもあの後完全にダウンしててな。でも、今はもう平気だ。疲れとかは流石に残ってるが、見ての通りけがはない」

「なあ、そのアイアン君はどこにいるんだい? 姿が見えないが」


 あれ? 気付いてない? 見えてますよベルちゃん。そりゃあもうバッチリ見えてますとも。っていうか、いま俺も、おうみんなってあいさつしたじゃん! ジンクの挨拶とちいっとかぶっちゃったけどさ。


「ん? ジンク君、人形抱っこしてるの? ひとの趣味は否定しない」

「このお人形、金属製なんですね。どこかで見たことがあるような顔をしています」


 ロッちゃん、フロちゃん、その人形が俺だよ。ってあれ? これ、本当に気付いていないやつだ。もう一回挨拶するかな。


『ようこそ婆ちゃん家へ』

「しゃべった!?」

「しゃべる金属人形。大丈夫人の趣味は否定しない」

「胸に付いているのがスピーカーなんですね。今のはアイアン君の声ですよね。人形をしゃべらせて私達を脅かそうとしたのでしょうか?」

「ボディはジンクさんの武装ゴーレムと同じようなデザインですわね」


 あ~、そりゃそうか。いくら俺の頭だからって、普通はこの金属の人形が俺だって思わないよな。


「違う違う4人とも、誤解するんじゃねえよ。こいつは俺の人形でもなければ俺にそっちの趣味はない。正真正銘この金属人形が、アイアンだ」

「「「「ええ!?」」」」

『ジンクの言う通り、いまはこの金属の塊が、正真正銘俺、アイアンオア=スミスだぜ!』

「うわっ、どうなってるんだ、これ?」

「不思議ですね」

「それより、よく見ると意外とかわいい」

「本当ですわね。ジンクさん、わたくしにも抱かせてくださいな」

「あ、アクア抜け駆けはダメだぞ!」

「アクアはジンク君に相手してもらってればいい」

「私は抱かせてくれるなら順番はあとでいいですよ」

「あ、俺は最後でいいぞ」


 女の子達に殺到されてㇵグされる。本来ならおいしい場面なんだろうけど、赤ちゃん抱っことか屈辱以外のなにものでもないんだけど!


 それとシュタール! お前は俺をだっこしたいのか? 冗談だろ!?



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