第123話 戦いの火蓋
「それでは、今回皆さまに急遽戻って来て頂いた理由を説明させてもらいます」
「ああ、頼むぜ」
俺達が魔法自動車に乗り込むと、ギルドの職員さんが語りだす。今回の騒動の原因を。
ことの発端は今日の早朝、木こりの親方が我が家にジャイアントハニービーの巣を運び込もうとしたことから始まったようだ。
木こりの親方は朝早すぎても迷惑だろうからと、常識的だけど早めの時間にジャイアントハニービーの巣の運搬を開始してくれたそうだ。ただ、その時間というのが、一般的には通勤の時間と被っており、そのためジャイアントハニービーの巣の存在が多くのドワーフに感知されることになった。
もちろんジャイアントハニービーの巣を丸裸で運んだわけじゃない。そもそも俺達が保管のために布で包んでいたし、親方はそのまま運んでくれたみたいだからな。ただ、巨大なジャイアントハニービーの巣からは、それはそれは濃厚なハチミツの甘い匂いがしていたそうだ。
そして、ジャイアントハニービーの巣の存在があっさりと多くの人に感知されることになると、大騒動になったらしい。ジャイアントハニービーの素材は使い道が非常に多く、またその効力も抜群なんだって。食べてよし、化粧品にしてよし、木材にワックスとして塗って良し、などなど。
でもそうだよな。父ちゃんとガリウムのおっちゃんが即決でジャイアントハニービーの巣を取ることを決定したくらいだもんな。特にガリウムのおっちゃんなんて本来の自分の目的である、いい木の伐採そっちのけで、母ちゃん達のために入手しようとしたほどだ。価値のあるものに決まってる。
そして、木こりの親方とジャイアントハニービーの巣の乗るトレーラーは、我が家までたどり着けず、一度ハンターギルド本部に運び入れる羽目になったんだとか。
そして現在ハンターギルド本部では、3つの勢力がジャイアントハニービーの巣を求めて対峙しているとのことだ。そう、ドワーフの3大勢力すべてが自分達に多く売れと圧力をかけているそうだ。
ちなみにドワーフの3大勢力っていうのは、鍛冶をはじめとしたものづくりこそ至高! という勢力。いや、ドワーフと言ったら酒! 酒造りこそ至高! という勢力。いやいや、ドワーフにとって最も大事なのは戦闘! 戦士こそ至高! という勢力の3つだ。
各勢力は普段は別に仲が悪いわけじゃないらしいんだけど、場合によってはすっごくもめるらしい。そして今回は、ジャイアントハニービーの素材がそこそこレアということもあって、盛大に揉め始めたようだ。
ちなみに各勢力の主張は、ものづくり勢力はジャイアントハニービーの素材はミツロウワックスや化粧品にすべきだと主張。酒造り勢力はジャイアントハニービーのハチミツは全てハチミツ酒にするべきだと主張。戦士勢力は高ランクの回復薬にするべきだと主張しているんだって。
「うう~む、3大勢力の揉め事になったか。ラピやエメラさんのお土産くらいの気持ちだったんだが、これは面倒なことになったな」
ギルドの職員さんからの説明を聞いたガリウムのおっちゃんがそうつぶやく。
「本当だな。で、職員さん。まさかとは思うが、俺達を呼んだのは仲裁しろというわけではないんだろうな?」
そして父ちゃんがギルドの職員さんに質問する。うん、軽く話を聞いただけでも絶対にかかわりたくない面倒ごとだ。俺とジンクは子供だし、帰らせてくれないかな?
「もちろんです。皆様を呼んだのは、とある選択をして頂きたいからです。一言で言うのなら、手放すか手元に残すかです。現状ジャイアントハニービーの素材はハンターギルドの地下に置いてはありますが、所有者は当然皆様です。ですので、お集まりの方々は、まずは皆様にジャイアントハニービーの素材を手放すかどうか迫ると思われます」
マジかよ。なんだよそれ。3勢力の揉め事の前に、俺達4人対他全員のバトルがあるっていうのか!? いくら何でもそれは酷いだろ!?
「ああ、その2択以外にも、特定の勢力に全て売るという選択肢もありますね。もうすぐハンターギルドに到着いたしますが、いかが致しますか?」
ギルドの職員さんは、いままでどおりの穏やかな表情ではあるものの、さっきまでとはまるで違う雰囲気で答えを求めてくる。
むぐぐ、戦いの火蓋は、既に切られていたって言うのかよ!
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