第12話 ジンクの家で昼飯だぜ!

「んあ、う~ん。どこだここ? 知らない天井だ」


 うん、間違いなく知らない天井だ。俺は伸びをしながらきょろきょろ見回してみるが、こんな部屋見覚えがないぞ。う~む、冷静に分析しよう。まず、部屋の作りはシンプルだ。物もあんまりおいてない。俺の寝ているベッドと、小さめな椅子と机があるくらいだ。普通に考えたら、普通の家の客間かなんかのような構造だな。だけど、なんかいい匂いがするな。


 ぐ~きゅううう。


 むう、なんかすっげえ腹減ったな。とりあえず、匂いのほうに歩いていくか。


 俺は匂いに釣られて部屋の扉を開け外に出る。すると、廊下の先の扉から、声が聞こえる。


「あれ、この声は父ちゃんと母ちゃんか」


 俺は父ちゃんと母ちゃんの声が聞こえる扉を開け、部屋の中に入っていく。


「あら、アイアンちゃん起きたのね」

「おう、アイアン、昼飯だぞ。こっちだこっち」

「お、アイアン君起きたか」

「アイアン君、良く寝れた?」

「アイアン、おはよう。昼飯食べようぜ」


 俺が部屋に入ると、母ちゃんに父ちゃん、ガリウムのおっちゃんにラピのおばちゃん、それからジンクが話しかけてきた。


 そうだ、思い出した。俺は母ちゃんとジンクの家に来て、なぜかジンクの母親であるラピおばちゃんと戦って、魔力切れで寝ちゃったんだった。ってことはここはジンクの家か、ラピおばちゃんが料理してるし、間違いないだろう。ん? だとしてもちょっとおかしいな、なんで父ちゃんがいるんだ? 


 俺は父ちゃんに呼ばれるがままに父ちゃんの横の椅子に座った。


「なあ父ちゃん、なんで父ちゃんがいるんだ? 俺が起きてた時にはいなかったよな?」

「それはエメラが呼びに来てくれたんだよ。たまにはガリウムの家で食うのもいいだろうってな」

「なるほど、そういうことなのか」

「それじゃあ、アイアン君も来たし、ちょうど料理も出来たところだから、お昼にしましょうか」

「「「「「は~い」」」」」


 こうして、俺達親子はジンク達親子と仲良く昼飯を食べ始めた。料理はがっつりとした肉料理が中心だ。朝から全力で動いたからな、がっつりしたものが食べたかったんだぜ! 父ちゃん、ジンク、ガリウムのおっちゃんもがつがつと食べ始めたし、若干寝ぼけてはいるが、負けじと俺もがっつくぜ!


「ん、美味いなこの肉。なんの肉なんだ?」

「これはジャイアントブルね」

「ああ、流石エメラだね。正解だよ」


 ジャイアントブルってことは、牛系のモンスターか。


「でも珍しいわね。この辺にはあんまりでないモンスターなのに」

「なんでも南の方でジャイアントブルの大量発生があったみたいでね。今なら安く仕入れられるっていうから、商人が大量に仕入れてきたんだそうよ。肉屋の大将が、大量に仕入れたから、しばらく安く大量に売るぜってはりきってたわよ」

「あら、いいわね。アイアンちゃん、タング君、このお肉美味しい?」

「ああ、美味いぜ!」

「かなり美味いな」

「じゃあ、たくさん買ってくるわね」


 もはや地球の牛肉の味は覚えていないが、やっぱ肉は美味いな。俺が肉をがっついていると、ジンクはラピおばちゃんにおかわりを要求しつつ、俺に話しかけてきた。いや、まて、ジンクの皿の肉の量は俺の倍以上あったはずだ。なんでもう食い終わってんだよ。しかもおかわりだと!?


「そうだアイアン、午後は暇か?」

「ああ、暇だぜ。なんかして遊ぼうぜ」

「それもいいんだが、今度ダンジョンに行くだろ? 戦闘訓練でもしないか?」

「戦闘訓練? いいぜ。どんなことするんだ?」

「そうだな、まずは剣でも交えないか?」


 ふむ、戦闘訓練とは随分と物騒なこというとおもいきや、ようはちゃんばらごっこか。ふっふっふ、最近は魔法大砲の練習ばかりだったが、伊達に日々鉄鉱流の技を磨いていたわけではないのだよ! 俺の必殺剣をジンクに見せてやろう。


「ああ、いいぜ。俺も父ちゃんや母ちゃんとよく剣で遊んでたからな」

「剣で遊んでた? 戦闘訓練じゃないのか?」

「いや、そんな物騒なことやったことないぞ」


 うん、俺はちゃんばらごっこはやっても、戦闘訓練など受けたことはないし、自分からしたことだってない。


「エメラ、どういうこと?」


 ラピおばちゃんがいきなり低い声で母ちゃんを威圧する。


「まってまってラピちゃん」

「戦闘訓練してないって言うのはどういうことよ」

「落ち着いて聞いてね。おとめ座戦士スピカは知ってるわよね?」


 ちょっとまて母ちゃん、なんでその話をするんだ? 嫌な予感しかしないぞ。この会話は止めるべきだと俺の危機管理委員会が大騒ぎしているが、ラピおばちゃんの圧に押されて割って入れない。


「あの時代劇の?」


 ラピおばちゃんも待ってくれ、この会話は危険だ。少なくとも1人の少年が傷つくことになるんだぞ。やめるんだ!


「そうよ。アイアンちゃんはおとめ座戦士スピカが大好きなの。それで、タング君がまだ3歳だったアイアンちゃんに木剣をプレゼントしたんだけど、アイアンちゃんは自力で鉄鉱流という剣術を編み出して、1人でゴーレム相手に戦い始めたのよ。どう? すごいでしょう」


 ぐはっ・・・・・・。なんでここで恥ずかしい過去を掘り起こすんだよ、母ちゃん。俺の中では鉄鉱流は、俺の心の中だけの流派にしたいのに・・・・・・。くそっ、ジンクのやろう、顔を下に向けてたって、肩を震わせてたら笑ってるってわかるんだからな! あとガリウムのおっちゃん、そんな、わしにも経験があるみたいなかんじで、うんうん頷くのやめてほしいな。


「3歳でゴーレムを自分で作って、一人で修行を開始したって言うの?」

「ええ、そうよ。アイアンちゃん的にはただの遊びのつもりだったみたいだけど、普通に見ているとストイックな戦闘訓練だったのよ。だから私はアイアンちゃんの自主性を尊重して、戦闘訓練とかは特にせずに、アイアンちゃんの補佐をするだけにしていたのよ。悪くはないでしょう?」

「なるほどね。まあ、戦闘訓練のような内容の遊びっていうなら文句は言わないわ。でもね、あの1号君って乗り物に頼らずに、ゴブリン10人隊長くらいは倒せなきゃ意味がないわよ」

「それなら平気よ。ラピちゃんが受けた火炎放射魔法、あれでゴブリン10人隊長を倒せないと思う?」

「確実に殺せるね。むしろ一瞬で炭になりそうね」

「でしょう? 私もゴーレムでアイアンちゃんの相手は何度もしてるけど、アイアンちゃんは結構強いのよ! 特に鉄鉱流があるから、剣の腕もなかなかよ! ね、アイアンちゃん」


 母ちゃんは俺に話を振ってきたが、俺はもう燃え尽きていた。そう、燃え尽きていたんだよ。


「母ちゃん、鉄鉱流は秘密の流派だって言ったのに・・・・・・」


 俺はがんばって抗議した。


「あら、そうだったかしら? でも大丈夫よ、鉄鉱流。かっこいいじゃない!」


 どうやら母ちゃんの大丈夫と俺の大丈夫の間には、とてつもなく深い谷があることを俺は知った。俺が悲しそうにしていると、母ちゃんが謝ってきた。


「ごめんなさい、アイアンちゃん」


 く、確かに俺のダメージは大きいが、リアル5歳児じゃない俺としては、こんなことで母ちゃんを悲しませるわけにはいかない。うわああああ! ここは俺の本気を見せてやろうじゃないか!


「ふう、ばれてしまってはしょうがない。だが、母ちゃんの望みなら見せてやるぜ。俺の秘剣。鉄鉱流の真髄を!」

「流石アイアンちゃんね! その調子でラピちゃんを今度は剣でやっつけちゃって!」

「へえ、あたしに剣で勝とうって言うのかい」

「ちょ、ちょっとまってくれよ母さん。午後の特訓でアイアンと戦うのは、俺のはずだろ?」


 ジンクのやつ、俺の鉄鉱流の真髄発言で完全に笑っていやがったのに、今は笑いを全力で堪えて、割って入ってきやがった。


「えっと、そうだったわね。ジンク、がんばるのよ。アイアン君もがんばってね!」

「「おう!」」


 どうやらラピおばちゃんは母ちゃんに思うところはあっても、俺にはそんなことはないようだ。まあ、俺はただの5歳児だしな。


 だがジンクよ、お前は別だ。俺の鉄鉱流を笑ったこと、全力で後悔させてやろう!


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