第13話 ジンクとの訓練1だぜ!
ジンクの家で昼飯をご馳走になったあと、食休みでしばしの休憩の後、先ほどと同じくジンクの家の訓練場にやってきた。
「ああ! 1号君とドライバーゴーレムが!」
ラピおばちゃんとのバトルの後、ほぼ眠りかけの状態でガリウムのおっちゃんに連れられて家まで行ったので、すっかり忘れていたが、1号君とドライバーゴーレムはそのままだった。しかも、120mmを担いで発射したためだろう、ドライバーゴーレムは一部崩れてしまっていた。
「くう、良くぞがんばってくれたな、ドライバーゴーレムよ。今直してやるからな」
俺は魔法を発動させると、ドライバーゴーレムを修理して、1号君の運転席へと乗せてあげる。そして、訓練の邪魔にならないように訓練場の外に1号君を運び出す。120mm大砲も回収しようとしたが、そちらはジンクとガリウムのおっちゃん、それから父ちゃんが集まってなにやら話していた。真剣そうに話す大人2人は避けて、俺はジンクに話しかける。
「ジンク、120mm大砲ありがとな。ところで、みんなで何話しているんだ?」
「ああ、120mm大砲の破損状況を、父さんとタングのおじさんと見ていたんだ」
「破損状況? まさか壊れたのか? なんでだ? はっ、もしやドライバーゴーレムが崩れてたから、落とした時か?」
まさか120mm大砲を壊しちゃうとは思わなかった。あ~、俺の金属加工魔法で直せればいいんだけど。と、そんなことを考えていると、父ちゃんが話しかけてきた。
「なあ、アイアン、ラピさんを迎撃するのに魔法大砲を使ったのは、この大砲で間違いないんだよな?」
「ああ、そうだぜ父ちゃん。ジンクから借りたんだが、壊れちゃったみたい?」
「いや、そこまでひどい破損じゃない。気にするな、もともと魔法大砲用の大砲じゃないからな。金属強化魔法の残滓もあるが、まあ、そうそう耐えれるものじゃないさ」
「そっか~、直せるかな?」
「そう難しいこともないだろ。ガリウムが直すだろうし、気にするな」
「むう、タングは手伝ってくれんのか?」
「ふむ、まあいいだろう。今晩飲みながら直すか?」
「流石はタングじゃ、そうしようではないか! がっはっは!」
俺も120mm砲をいろいろ調べてみる。まず、薬莢が排出できない。恐らく、火薬に火魔法を混ぜたのが悪かったんだろうな、大砲の中で薬莢が膨張して張り付いているっぽい。う~む、薬莢にも強化魔法をかけるべきだったか。他にまずいのが砲身だな。魔法砲弾のせいでライフリング少し溶けてなくなってる。少しなので一見大丈夫に見えるが、ライフリングは精密な部分だ。この状態でよく真っ直ぐに飛んだなって思ったが、ラピおばちゃんとの距離は30mくらいだったからな、真っ直ぐ飛んでなくても当たるか。それにしてもこんなに壊れてるの、直すってなると大変だよな。悪いことしちゃったな。
「ジンク~、アイアン君~、始めるわよ~」
っと、ラピおばちゃんに呼ばれちゃったぜ。これはすぐに行ったほうがいいな。うん。俺とジンクは揃って駆け出す。と思いきや、呼ばれてもいない父ちゃんとガリウムのおっちゃんまで走り出していた。なんか、力関係が悲しいくらいにわかっちゃうな。
「よし、全員集合したわね。じゃあまずは、アイアン君の実力を見たいから、ジンクと模擬戦をしてもらえるかしら?」
「もちろんいいぜ!」
ふっふっふ、さっき俺の鉄鉱流を笑ったこと、後悔させてくれるわ!
「あら、ラピちゃんが戦うんじゃないの?」
「あたしより年齢も実力も近いジンクとのほうが、戦いやすいでしょ? それに、あたし相手だと、格上相手にどうやって一矢報いるかとか、そういった不自然な戦いになるでしょう?」
「それはそうだけど、ラピちゃん相手じゃないと全力でアイアンちゃんを応援できないじゃない。こっそり強化魔法をたくさん掛ければ、そこそこ戦えたと思うのに」
「あんたね~。はあ、まあいいわ。ジンクもアイアン君もいいわね?」
「おう、もちろんいいぜ!」
「ああ、俺もいいぜ」
「あ、でも、俺の武器どうしよう。今日は街中の移動って話だったから、剣を1号君に積んでないぞ」
「それは大丈夫だ。ほれ」
そういって父ちゃんが我が愛剣を渡してくれた。どうやら父ちゃんが持って来てくれたようだ。
「おお、これは我が愛剣ねこづめ! 父ちゃんありがとう!」
「ははは、いいってことよ。それより気をつけろよ、ジンク君はかなり強そうだぞ」
「ああ、大丈夫だ。午前中共闘してたからな、ジンクの強さはなんとなくわかる。油断はしない!」
「うむ、行って来い!」
ふっふっふ、我が愛剣ねこづめがあれば、負けることなどありえない。ジンクの武器は先ほどと同様、分厚くでかい剣と、1号君の装甲と同様、5mm厚の巨大な盾だ。対して俺は愛剣ねこづめだ。これは俺がダンジョンで採掘してきた鉱石で作った剣だ。俺の身長より少し長い1mの刃を持つ大型の剣、のはずだったんだが、ジンクが片手で持ってる剣が、同じくらいの長さでより幅広で分厚いせいで、なんか小さく感じる。今度もっと大きくするかな。
「じゃあ、ルールを説明するわよ。剣での勝負とはいったけど、魔法はもちろんありよ。エメラに防御魔法を張ってもらうから、お互い気にせず全力でやりなさい。エメラの防御魔法は、あたしに撃った魔法大砲でもキズ1つ付かないから、お互いが怪我をする可能性はゼロよ。それだと勝敗がわかりにくいけど、攻撃を食らうとそれに応じてあなた達の魔力を消費するし、痛みなんかも和らぐだけで無痛じゃあないからね。それに、あたし達4人が審判をするわ。わかったかしら?」
「「はい!」」
「じゃあエメラ、防御魔法をお願いね」
「は~い」
母ちゃんから魔法の玉がふよふよと飛んできて、それが俺達に当たると俺達の体の表面に母ちゃんの魔力が広がった。これで防御魔法はばっちりだ。
「それでは、お互いに準備はいいわね?」
「「ああ!」」
「では、はじめ!」
ラピおばちゃんの手が振り下ろされ、俺達の戦いが始まる。俺は先手必勝とばかりに突っ込んで行って切りかかる。まずは振り下ろしだ。
「行くぜ! 鉄鉱流、1の太刀、フレイムスラッシュ!」
「ぬううん!」
俺は全力の身体強化魔法と、鉄鉱流、1の太刀、フレイムスラッシュでジンクに襲い掛かる。俺のフレイムスラッシュをガードをしようと、ジンクは大盾を上げる。だが、ジンクが俺の全力の炎の強化魔法に耐えられないのは、先ほどの戦いで証明済みだ。俺はジンクの大盾を切り裂こうとするが、あっさり弾かれた。
ガキーンッ!
あれ? なんでだ?
「隙あり!」
「っと、あっぶねえ」
「ちいっ、はずしたか」
俺が動揺しているとジンクの剣による横なぎ攻撃が飛んできた。俺はバックステップでそれをかわし、距離を取る。なにか引っかかる。朝のジンクは全力じゃなかった? いや、それはありえないだろう。もし手を抜いた攻撃なんてしたら、俺が気づけなくとも、ラピおばちゃんは気づくはずだし、それを許す性格でもないだろう。う~ん、なんか根本的に勘違いしてるのかな。
「いきなり本気の攻撃かよ」
「当たり前だ。お前が馬鹿にした鉄鉱流の実力、その身に刻んでくれるわ!」
「いや、それは、まあ、なんだ・・・・」
ジンクも笑ったことをちょっと悪いと思ったのか、ちょっとうろたえている。しめしめ、動揺しているな。この隙に推理タイムといくか。
「ん? 悪巧みか? そうはさせんぞ!」
俺が考え込もうとすると、あっさりばれて今度はジンクが仕掛けてくる。なんでばれたんだ?
ジンクは盾を正面に構えて突進してくる。だが、俺の推理タイムはまだほしい。俺は牽制を兼ねて火炎放射魔法を取り合えず撃ち込む。
「これならどうよ。火炎放射!」
ぼっふ~!
「ちいい、やっかいな」
俺の火炎放射魔法も朝のジンクは耐えられなかったはずだ。ジンクは盾で火炎放射魔法を受け止めると、火炎放射が巻いて来るのを嫌がったのか、即座に左右に回避して俺の射線から逃れる。俺が逃げた先にも火炎放射魔法をそのまま振り回すと、ジンクはたまらず距離を取った。
わざわざ避けて距離を取ったってことは、俺の魔法がジンクの身体強化魔法を上回ってるのは間違いないな。だが、おかしいな。俺の炎魔法が上回ってるなら、なんで盾が切れないんだ。今の火炎放射だって、盾を溶かしててもおかしくないのに、ジンクの盾はぜんぜん平気だ。母ちゃんの防御魔法は武器にはかかってないはずなのにな。う~ん、あ、そうか。俺は、ひとつの可能性に思い当たる。
よし、試すかな。俺は再び切りかかりに行く。攻撃方法はさきほど同様振り下ろしだ。
「もっかい食らえ! 鉄鉱流、1の太刀、フレイムスラッシュ!」
「それはさっき見せてもらったぜ」
ジンクは盾を上げて防御するが、俺はジンクが盾を上げて視界が塞がった瞬間に左手をねこづめから放し、ジンクの盾が上がって出来た、盾と地面の隙間目掛けて左手から火炎放射魔法を発射する。
「う、ぐわあああ!」
俺の火炎放射魔法で炎に焼かれたジンクは、悲鳴をあげながらごろごろと後退する。
うし、勝負あったかな。俺はかっこよく決めゼリフを言うことも考えたが、敗者に鞭打つ真似もしたくなかったが、なによりこれ以上恥ずかしい歴史を刻むことも出来なかったのでやめておく。まあ、ジンクは別に悪党でもなんでもないしな。俺がそんな事を考えながら勝敗の判定を聞こうとラピおばちゃんのほうを見ようとしていたら、ジンクが起き上がってくる。
「まだだ、まだ俺は負けてねえ!」
おや? よく見たら怪我してない。今回の推理は大当たりだったはずなんだけど、なんでだろう?
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