第53話 初めての家族旅行だぜ!

 2号君の改造も無事に終わり、お勉強もあるとはいえ、明日から狩りの日々だと思っていたら、なにやら父ちゃんと母ちゃんがもめている声が聞こえた。


 う~ん、父ちゃんと母ちゃんがこんな夜更けにもめるなんて珍しいな。我が家は家庭円満で、揉め事っていえば、夜遅くまで父ちゃんが加減なく飲んで、その辺で酔いつぶれているのを、朝母ちゃんが発見して怒るってくらいだったのに。


 しかも、普段は母ちゃんが父ちゃんに怒るってパターンばかりだったのに、今回はなにやら父ちゃんが母ちゃんに問い詰めているようなんだ。こんなこと初めてだぞ? う~ん、気になるな。俺もちょっと様子見に行くかな。


「エメラ、親父さんにお袋さんも、こうやって手紙をくれているんだし、一回行くくらいいいだろう?」

「嫌よ! あの街には帰らないって決めたのよ! タング君一人で行けばいいじゃない!」


 リビングに近づくと、はっきりと声が聞こえた。なんだ? 父ちゃんが親父さん、お袋さんなんていうってことは、母ちゃんの爺ちゃんと婆ちゃんがらみのことなのか? 俺はリビングの扉を開けて中に入っていく。


「父ちゃん? 母ちゃん? なにもめてるの?」

「おお、アイアン、まだ起きていたのか。いやな、エメラが里帰りしたくないっていうんだよ」

「ちょっと、タング君!?」

「里帰り?」

「ああ、実はアイアン宛の手紙もあるんだ。読んでくれ」

「俺宛の手紙?」

「ああ、エメラの母親、つまり、アイアンのお婆ちゃんからの手紙だ」

「へ~、手紙なんて初めてだぜ!」


 そういって父ちゃんは俺に手紙を見せてくれた。俺は初めての手紙にちょっとテンションが上がりつつも、その内容に目を通す。



 可愛い可愛いアイアンちゃんへ


 こんにちは、アイアンちゃん。アイアンちゃんは覚えていないかもしれないけど、エメラの母親の翡翠よ。ひすいお婆ちゃんって呼んでね! アイアンちゃんが生まれたばかりのころに、一度お邪魔させてもらったんだけど、流石に覚えてないわよね。ううん、いいの、あの時のアイアンちゃんはまだ目も開いてなかったからね。


 お婆ちゃん、大きくなったアイアンちゃんに会いたいな~。アイアンちゃんもお婆ちゃんに会いたくないかな~? 


 それでね、今度私の住んでいる街でお祭りがあるんだけど、よかったら来てほしいな~。たぶんエメラが街に帰るのに反対すると思うんだけど、タング君と一緒に無理やり連れてきてほしいな~。


 タング君も近くの街の出身だから、タング君のご両親とも会えるのよ。タング君のご両親にも連絡したんだけど、もしアイアンちゃん達が街まで来るようなら、こちらに遊びに出てくるのも構わないって言ってくれてるの。ね、どうかしら? いいアイデアだと思うんだけどな~。


 そうそう、ラピちゃんとガリウム君、ジンク君は知ってるよね? それじゃあ、エメラとラピちゃん、タング君とガリウム君がそれぞれ幼馴染ってことは知ってるかな? きっと賢いアイアンちゃんならもうわかったと思うんだけど、そう、ジンク君のおじいちゃんおばあちゃんとも、一緒に会おうって話をしているの。ね、楽しそうでしょう? ラピちゃんなら絶対賛成してくれるはずだから、いざとなったら5対1でエメラを物理的に連れてきちゃってね!


 それじゃあ、待ってま~す!


 みんなの大好きなお婆ちゃんより。



 ふむふむ。おっとりしつつも、割と押しの強いこの感じ、文面だけ見ても母ちゃんの母ちゃんなんだなって思っちゃうな。俺も婆ちゃんには会ってみたいし、ここは婆ちゃんのアイデアに乗ってやるとするか。


「なあ母ちゃん」

「なあに、アイアンちゃん。お出かけなんて嫌よね? アイアンちゃんは明日から狩りを頑張らないとだものね!」

「婆ちゃんに会いに行こう!」

「え・・・・・・」

「ほらエメラ、アイアンもこう言っていることだし、会いに行こうぜ」

「アイアンちゃん。本当にお出かけしたいの?」

「うん、赤ちゃんの頃会いに来たってのは知ってるんだけど、まったく覚えてないし。会えるなら会ってみたいな。それにほら、ピクニックとかは行ったことあっても、泊りで家族旅行ってしたことなかったしさ」

「ううう。そうね、アイアンちゃんが行きたいっていうのなら、それはしょうがないわね」

「おお、じゃあエメラ」

「ええ、仕方ないわね。里帰りしましょうか。私が行かないと、タング君だけじゃなくて、ラピちゃんやガリウム君も帰りづらいでしょうしね。それに、たしかに旅行にも行ってなかったものね」

「うむ、そうだな。よし、さっそくガリウムに連絡してくるぞ!」

「タング君? 今は夜よ?」

「こういうのは早いほうがいいんだよ。エメラの気が変わらないうちに外堀を埋めようってわけじゃないからな! じゃ、行ってくる!」


 そういうと父ちゃんは夜だというのにジンクの家に出かけて行った。違うっていってたけど、これは完全に外堀を埋める気だな。


「まったく、タング君ったら」

「母ちゃんは婆ちゃんに会いたくないの?」

「そんなわけないじゃない。ただ、あの街にあまり近づきたくないだけなの」

「街に嫌な思い出があるの?」

「そうね~、一言で言っちゃえば、若気の至りっていうことかな。アイアンちゃんもいつかわかる日が来るわ」

「ふ~ん、よくわかんないや」

「わかんなくていいの。もう遅いし、そろそろ寝ようね」

「わかった、おやすみ」

「おやすみなさい」


 なるほど、つまり故郷の街で母ちゃんは昔なにかをやらかして、それが原因で街に帰りたくないってわけか。まあ、もう眠いのは事実だし、細かいことは明日聞けばいっか。



 翌日、朝食を終えた俺は、いつものようにやってきたジンクと一緒にお勉強かなって思っていたら、今日はラピおばちゃんが来ないので自習の時間になった。やったぜ! もちろん里帰り、もといジンク達一家も含めての家族旅行なんてビッグニュースがある中で、まじめに自習なんてするはずもなく、俺とジンクは里帰りの話題でおしゃべりしていた。


「なあジンク、里帰りの話って聞いた?」

「ああ、朝飯の時に聞いたぜ。俺んちにも爺さん婆さんからの手紙が来てたっぽいしな。んで、俺んちとしても里帰りは賛成だってことで、今日から里帰りの準備中ってわけさ」

「そうなんだ。ラピおばちゃんがいないのもその関係?」

「ああ、そうだぜ。母さん達の故郷の街に行くには、片道5日くらいかかるっぽくってさ。向こうでもゆっくりしたいってなると結構時間かかるだろ? だから、とりあえず、この先30日分くらいの納期の、難しい仕事を全部かたずけるんだって、朝から張り切ってたぜ。簡単な仕事とか、顧客への引き渡し程度なら、雇ってる人達でなんとか出来るみたいだけど、難しい仕事はまだ不安だっていうからな」

「なるほどな~、往復するだけで10日もかかるんじゃ、そんな気軽にいけねえよな」


 そういうことに関しちゃ、ジンクの家は顧客とかいるから大変だよな。その点俺の家は自称気難しい鍛冶屋ってだけに、固定の仕事がほとんどないようなものだから気軽だな。


「そういや、タングおじさんも今日から2~3日家の手伝いに来てくれるってよ」

「そうなんだ」

「タングおじさんとしても、エメラおばさんの気が変わらない内に出発したいらしくてな。そのためならって、俺んちの仕事を直接手伝ってくれるらしい。普段は絶対直接馬車づくりの手伝いはしてくれないのにさ」

「へ~、そうだったんだ。ところでよ、俺たちはなにか準備することないのかな?」

「ん~、仕事のめどがついたら、みんなで買い出しに行くって母さん言ってたから、それまではとりあえず暇って感じじゃないかな?」

「そうだ、それじゃあよ。俺たちの狩った獲物で、なにか保存性のいいもんを肉屋のおっちゃんに作ってもらってこねえか?」

「お、そいつはいいアイデアだな。こないだの軍鶏モンスターならランク的にも申し分ないしな。たぶんまだ全部売れたってこともないだろうし、そうするか!」


 俺とジンクが、まだ見ぬ爺ちゃん婆ちゃんへのお土産の話なんかで盛り上がっていると、母ちゃんが慌てた様子でやってきた。


「アイアン隊員、ジンク隊員、緊急任務です!」


 おお、なんか久しぶりの緊急任務だな!


「は! 母ちゃん隊長! どこへ向かえばよろしいでしょうか!」


 今は勉強タイム。いくら自習とはいえ、世界一つまらない時間であることに変わりない。俺としては即脱出したいためにすぐさま母ちゃんに乗っかる。


「タング隊員、ガリウム隊員より、ガリウム星での任務が思いの外多くて、2~3日で終わりそうにないとの応援要請が出ている。というわけで、みんなでガリウム星へ応援に向かいます!」

「は! 任務を実行します!」

「ジンク隊員、返事は?」

「は! 了解しました! って、このノリあんまり慣れないんだけど」

「ジンク隊員、無駄口叩いてるんじゃない! 即出発するぞ!」

「私も後から行くけど、2人とも気を付けて行くのよ」

「おうよ!」


 んったく、ガリウムのおっちゃんめ、どんだけ仕事ため込んでたんだよ。ま、お手伝いとはいえ、勉強よりはましだしな! 即出発だ!


 こうして俺とジンク、それから母ちゃんまで駆り出されて、ガリウムのおっちゃんの手伝いをすることになった。


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