第47話 ハンターギルド試験5だぜ!
ハンターギルドで試験のやり直しを言われた翌日。俺とジンクと母ちゃんは、再びハンターギルドへとやってきた。
「おう、坊主どもか。話は聞いた、昨日はホランのアホが悪かったな。ホランの準備は出来ているはずだ、地下の訓練場に行ってくれ」
「「は~い」」
受付で昨日のおっちゃんと軽く会話をしてから、俺達は昨日と同じく地下の訓練場へと向かう。
「よう、来たな。待ってたぜ!」
「おはよう。今日はあたしも見学させてもらうよ。まあ、馬鹿亭主がアホしないための監視だと思ってくれればいいさ」
俺達が訓練場に入ると、すでにホランのおっちゃんとギルマスのおばちゃんが待っていたようだ。
「「おはようございます」」
「ところでホランのおっちゃん、今日はその装備でやるの?」
「ああ、今日はハンデもなし、本気の本気で戦ってやるよ!」
ホランのおっちゃんの装備は、ミスリル製のフルプレートアーマーに、身の丈を越える巨大なミスリル製のバトルアックスという超ガチンコ装備だ。ちょっと、大人気ないと思うんだけど。
「じゃあ、ちょっと準備してくる!」
「おう、俺はもう準備ばっちりだから、お前らの準備が出来次第やるぞ!」
俺とジンクはホランのおっちゃんから離れて、作戦会議をする。昨日家に帰ってからジンクと作戦を練ったが、これはまずい、相手の装備が完全に想定外だった。
「さて作戦会議だな。アイアン、風魔法で防音してくれ」
「ああ、わかったぜ。これでよしっと。おいジンク、ホランのおっちゃんの装備、どう見てもミスリル製だぞ」
「ああ、それは俺も思った。ちょっとまずいな。まさかここまでの装備でくるとは思わなかった」
「だな。俺はそれでも中距離からの銃と魔法があるが、ジンクはどうする? あの斧相手だと、受けが成立しなくねえか?」
「だな。あんなでかいミスリルの大斧相手じゃあ、間違いなく俺の盾で防げるような威力じゃない。綺麗に真っ二つになるだろうな。ただ、あの手のヘビー級の武器は攻撃のパターンが限られるし、攻撃後の隙も大きいはずだ。なんとか回避して、そこをつくしかねえよな」
俺もジンクの意見には賛成だと思ったんだが、チラッとホランのおっちゃんが素振りしているのが視界に入った。
「おい、ジンク、なんだあれ」
「ん? むう、こいつは、マジでやべえな。ガードだけじゃなく、回避も出来そうに無いぞ」
ホランのおっちゃんの方を俺とジンクが見ると、そこには巨大な斧をものともせずにブンブン振り回すホランのおっちゃんの姿があった。いや、なんでそんなに巨大な斧を、俺が普通にねこづめを振る速度よりも速く振れるんだよ。意味がわかんねえぜ。
「作戦変更だ。アイアン、お前の無反動砲ならあの鎧撃ち抜けるか?」
「無理だな。なにせ昨日は生身で油断してるところに撃ったにも関わらず、貫通しなかったからな。ミスリルの鎧相手じゃあ、下手するとちょっとへこむくらいのダメージしか与えられねえぞ」
「やっぱそうだよな。でも、そうだとしてもアイアンの無反動砲が俺達の最高打点なのはかわんねえからな。どうにか上手いこと当てたいな。う~ん、そうだ。ホランさんの顔はどうだ?」
「いや、今は兜のバイザーを上げてるから顔が見えるが、戦闘中はバイザーを下ろすだろ?」
「だから、それをなんとか上げさせて、そこに撃ち込むってわけさ」
「なるほど、それなら一縷の望みがあるな。でも、どうやって上げさせるんだ? ジンクが接近戦でバイザーに一撃当てるとかか?」
「ふん、そこはこうするんだよ。ごにょごにょ」
「うえ~、ジンク、その作戦はえぐすぎねえか?」
「まあいいだろ。お前にも少し負担がかかるが、恥ずかしいのは俺だし」
「そうだな。いっちょやってやるか」
こうして俺とジンクは作戦を決め、ホランのおっちゃんと対峙する。審判はギルマスのおばちゃんがやってくれるみたいだ。
「よう、なんだその変な被り物は、今日の悪巧みがらみか?」
今日は俺もジンクも被り物というか、お面を装着している。まあ、さっき土魔法で作ったやつだけどな。もちろんその悪巧み絡みだ。
「悪巧みなんて、そんなこと考えてないですよ」
だが、ホランのおっちゃんの質問に、ジンクがさらっと嘘を付く。あの作戦が悪巧みじゃなきゃあ、悪巧みって何のことを言うんだよって気もするが、まあ、これもまた戦いだ。そう、心理戦ってやつだな。
「へえ、まあいいさ、だがちょっと期待してんだ。楽しませてくれよ」
「ふふん、今日もぶっとばしてやるぜ!」
「はっはっは、いいねえ、やっぱ若いもんはそうでなくっちゃな」
「それじゃあ、3人とも準備はいいかい?」
「「「おう!」」」
「では、はじめ!」
「くらえ!」
まずは、先手必勝でスモークグレネードを投げる。もちろんただの煙幕じゃあない、煙幕の中に魔力探知を妨害する粉が混ざっており、これでホランのおっちゃんは目と同時に魔力探知も奪われることになるというわけだ。
「うお、煙幕か、なるほど、今日は煙幕に乗じてやろうってわけか。だとするとその変な被り物は、毒煙幕対策か。だが、ちょっとやそっとの毒が煙幕に混ぜてあろうとも、俺には効かないぜ」
ホランのおっちゃんが楽しそうに解説してくれる。おかげで相手の心理状況が丸わかりだぜ。そして、ホランのおっちゃんはそのまま走って煙幕から抜けようとする。俺達の位置がわかって以上、当然か。だが、それは俺達も同じだ。ホランのおっちゃんの装備はフルプレートアーマーだ。金属のつなぎ目に皮なんかを仕込むことで、がちゃがちゃとうるさい音は消してあるようだが、重量からくる足音だけは誤魔化しようがない。ジンクは煙幕の中でその音を頼りに切りかかる。
「甘いわ!」
ジンクの攻撃は左側面を完璧に捉えたはずだったが、目の端で煙幕が不自然に揺れたのを察知したのか、ホランのおっちゃんは容易くジンクの奇襲を迎撃する。
キン!
高い音とともにジンクの盾が真っ二つになり、同時にジンクの上半身と下半身も分かれる。
「うわああ、いてえよ、いてえよおお!」
「な! そうか、俺の攻撃をガキが受けれるわけ無いんだった。おい、トリ! 医療班をすぐに呼べ! アイアン! 早く来て応急処置をしろ! おい、ジンク、身体強化魔法を全力で傷口に展開して出血を抑えろ!」
この声、バイザー越しではないな。恐らくホランのおっちゃんは斧を捨て、バイザーを上げてジンクに駆け寄ったってところか。
「わかったぜ。すぐ行く!」
そして俺は即座に風魔法を発動させて煙幕をどけながら、ホランのおっちゃん目掛けて接近する。もちろん、無反動砲のぴかぴか弾の発射準備は完了済みだ。
「な! アイアン、お前!」
ホランのおっちゃんが俺の狙いに気づいたようだが、もう遅い。俺は至近距離からホランのおっちゃんのバイザーの上がった、顔面目掛けて無反動砲からぴかぴか弾を発射する!
ドッカ~ン!
ホランのおっちゃんは両手でジンクの上半身を抱えていたことで、ガードも出来ない。そして昨日同様盛大に吹き飛んだ。
「おっしゃあ、クリーンヒットだ」
「よくやったアイアン。すぐに追撃する。支援頼むぞ」
「おいジンク、これ使え、ホランのおっちゃんの斧だ」
「おっけいだ」
そして、ジンクはホランのおっちゃんの斧をもって追撃にかかる。
「おっも。なんだこの斧、すっげえ重いんだが」
だが、持ち前のパワーを生かして、ジンクはホランのおっちゃんのミスリルの斧を担いで追撃し始めた。
「がはっ! なに? ジンクだと!? なんでお前無事なんだ?」
どうやらホランのおっちゃんはまだ事態を飲み込めていないようだ。今のうちに押し勝つぞ!
「おっらあ! おっらあ! おっらあ!」
ジンクが金属強化魔法をミスリルアックスにかけて、ホランのおっちゃん目掛けて何度も振り下ろす。斧の重さと、ホランのおっちゃんがまだこけていることから、振り下ろしの攻撃しか出来ないようだ。
「おっしゃあ、俺も加勢するぜ! ジンク、強化魔法いったぞ、受け取れ! それとホランのおっちゃん、こいつを食らえ!」
俺はジンクに炎の武器強化魔法を投げると、さらに30mmボルトアクションライフルでホランのおっちゃんのまだ上がったままのバイザーから見える、生身の顔を狙撃する。まあ50mも離れてないから、狙撃っていうほど難易度の高いものでもないが。
「くそ、お前ら調子に乗りやがって!」
俺とジンクは一方的にぽこぽこと攻撃していたが、とうとうホランのおっちゃんが起き上がる。
「そんな攻撃が効いてたまるか! おいジンク、斧かえしやがれ!」
「くっそ、まじかよ。ぜんぜん効いてないし! おいアイアン、とりあえず逃げるぞ」
「わかったぜ!」
その後、俺とジンクはしばらく逃げながら戦っていたが、子供と大人のスタミナ差は覆しようもなく、とうとう捕まってしまうのだった。
「そこまで! これにてハンター試験を終了する!」
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