第114話 決着

 ジンクの攻撃でジャイアントハニービーの巣の結界が消えると、すぐさまジンクはジャイアントハニービーの巣に乗り込む。乗り込むって言っても、ジャイアントハニービーの巣はミツバチの巣同様の構造だから、縦に何列か板状のハニカム構造のものが並んでいるだけだ。だから、そのハニカム構造の穴に手足を突っ込んで張り付いているだけだけどな。


 ジンクはハニカム構造の穴の強度をぐりぐりやって確認すると、ごそごそという効果音が似合いそうな動きで女王蜂目がけて移動を開始する。その姿はまさに某国民的アクションゲームのヒゲの配管工が、網に張り付いている時の動きそのものだ。


 それにジャイアントハニービーの巣もすごいな。ジンクの武装ゴーレムは3mサイズだった頃でさえ20トン以上あったんだぜ? 4mになった今、確実に何トンも増えてるってのに、そんな重量物に張り付かれても壊れないとか、凄まじい強度だな。


「う~ん、武装ゴーレムでそんな動きが出来るのは、凄いって言ったらいいのか、奇妙といっていいか、微妙だな。まあ、かっこよくないことだけは確かだな」

「格好なんてどうだっていいだろ? それより援護の手を抜くなよ?」


 おっと、ついつい口に出ちゃってたか。


「わ~ってるって」


 ジンクがジャイアントハニービーの巣に張り付いて、女王蜂目がけて移動中も、兵隊蜂達はなんとか巣に戻ってジンクを攻撃しようと躍起になっている。俺はそんな連中をジンクのもとに行かせまいと、巣の周囲を火炎放射で焼きまくる。


 多少巣本体にも火炎放射が掛かっちゃってるけど、ハチミツのある場所はミツロウで蓋がされているはずだからちょっとくらい問題ないってな。


 俺がそんな風に巣に戻ろうとする兵隊蜂達の邪魔をしている間に、ジンクは順調に女王蜂へと接近していく。巣には女王蜂と幼虫以外のジャイアントハニービーもいるようなんだけど、そいつらは外に出て攻撃して来ていた連中よりもさらに弱いみたいだな、ジンクに容易く蹴散らされている。


 確かミツバチってのは羽化後の日数で役割が決まるらしくって、ミツバチ系のモンスターであるジャイアントハニービーもそれに倣うって情報なんだよな。だから、羽化後すぐの若い蜂は掃除しかしないらしくって、その後育児をするようになり、巣作りをするようになり、ハチミツの管理をするようになり、そしてその後やっと外敵を追い出す門番に、さらに成長しきると巣の外に出て働き蜂として蜜や花粉なんかを集めてくるって話らしいんだ。


 だから、今巣にいて巣の中の仕事をしている蜂どもは弱っちい若い蜂ってことだな。ちなみにジャイアントハニービーの兵隊蜂どもは、門番をしている最中に特に強かった個体が、兵隊蜂として通常の働き蜂とは違った独自の進化をしたものらしい。


 あとジンクが巣に乗り込んだってのにも関わらず、何にもしてこない蜂もいるが、ありゃあきっとオスだな。蜂の最大の武器であるお尻の針は、産卵管が変化したものって言われているから、オスには針が無いんだよな。だから奴らの戦闘力は皆無だ。そもそも蜂のオスって、基本的には交尾をする以外にな~んにもしない連中らしいから、こんな緊迫の状況でもな~んにもしてこない。実に緊張感のない奴らだ。


 まあ、それはさておき、とうとうジンクは女王蜂の元へと到達したようだ。女王蜂は数匹の護衛の兵隊蜂と共にジンクと対峙する。


 しっかし、女王蜂はやっぱデカいな。護衛の兵隊蜂の倍くらいのサイズがあるぜ。情報によると、女王蜂は強化魔法こそ凄いものの、本体の戦闘力ほぼ皆無って話だから、流石に負けはしないと思うが、一応応援しておくか。


「ジンク、負けんじゃねえぞ!」

「ああ、フェイズ2一番の山場だが、決めてやるぜ!」


 ジンクはそう言うと武装ゴーレムの左肩にマウントされている機関銃で女王蜂めがけて攻撃を開始する。ジンクの武装ゴーレムの機関銃だと、ランク3以上のモンスター相手には何発も当てなきゃあまともなダメージを与えられないから、今までは空を自在に飛ぶジャイアントハニービー達に効果が薄かったが、今は違う。女王蜂は大きいし、大きいゆえに動きが鈍い。だから狙われたら避ける術がない。


 そしてそんな女王蜂を守るためには、兵隊蜂達はジンクの機関銃を避けるわけにはいかず、むしろ女王蜂の前へと割り込んで、自ら機関銃の射線へと飛び込んでいく。


「おし! 予想通り! 女王蜂が狙われているってわかったら、回避は出来ねえよなあ! 今までは空中で散々避けられていたが、どうだ? この威力? 避けれない状況下じゃあ効くだろ? はっはっは!」


 うわお、ジンクってば悪役~!


 ジンクの機関銃の前に、女王蜂を護衛している兵隊蜂達は次々にその命を散らしていく。空を自在に飛ぶことからくる、回避能力の高さこそジャイアントハニービー達の強みだったからな、こうなるとただただその脆さが前面に出ちゃうな。そして、兵隊蜂達が大量にやられ、勝ち目が無いと悟ったのか、とうとう女王蜂も逃げ出そうと巣の端に移動を開始した。


「くそ、逃がすか!」


 ジンクも慌てて追いかけようとするが、足場の悪いジャイアントハニービーの巣の中じゃあ追いつけない。まあ、ジンクの武装ゴーレムは不格好なかさかさ移動なのに対して、女王蜂は自らのホームだからな、圧倒的に有利だろう。そして女王蜂は巣の端にまで移動すると、羽を動かして飛ぼうとする。


 でも、そうは問屋が卸さないってな! 外部からのジャイアントハニービー達の侵入を阻止している俺の火炎放射は、その逆もまたしかりだぜ!


 空に逃げようとする女王蜂めがけて、俺は火炎放射の射線を調整する。ジンクに追われ、俺の火炎放射のことはすっかり忘れていたのか、俺の火炎放射はあっさりと女王蜂に命中する。俺の火炎放射を受けた女王蜂は、一瞬でその背の羽を焼き尽くされて地面に落下する。ふむ、兵隊蜂よりもあっさりと落ちたところを見ると、本当に女王蜂って見た目に反して弱いんだな。


「ナイスだアイアン! 止めは任せろ!」


 ジンクめ、さっきの慌てっぷりから察するに、ジンクも俺の火炎放射の存在を忘れていたくちだよな。んったく、調子のいい野郎だぜ。


 ジンクは、ジャイアントハニービーの巣から、地面に落ちた女王蜂めがけて飛び降りる。


 ずど~ん!


 うう~ん、見事な踏み潰し攻撃って言いたいところなんだけど、女王蜂の体液なんかが辺り一帯に散らばって、これは・・・・・・。しかも、上空からの踏みつけ攻撃って、これ、まんまヒゲの配管工さんの技じゃん。


「はっは~! 女王蜂撃破だぜアイアン!」


 うん、まあ本人が楽しそうだし、いいとするかな。



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