第38話 地元感のある往路と、ヒマ潰しに所持品確認
戦利品については、魔石以外は戦闘に参加した人達で均等に分配するようです。
ドロップ品については、討伐した本人の申告と複数名の証人、部隊長の承認があれば、討伐した本人が主有権を持つと。
で「くまみみヘアバンド」は、全員一致でジュリエッタさんが所有者になった模様。
後日アイテム鑑定に出して、アイテムの詳しい情報や価値を確認するようだ。
しかし今回のアイテムは初ドロップの可能性が高いので、ゲットした時の状況やら何やらを根掘り葉掘り、徹底的に聞かれるらしく、ハッキリ言って「めんどくさい」ようで。
「私かぁ……」
などと呟いていた。マンガ的表現の縦線が彼女の周囲を覆っているようだ。そんなにイヤですか。
熊のぬいぐるみの耳的なものが付いてるだけでバンド部分のレースはシャレオツ。
メイド服の時はコレを装着したらいいのにね。言えないけど。
そんな戦後処理をしていると、馬に乗っている人達と、1台の馬車が向かって来るのが見える。
テルフォードから状況確認の引継ぎと容疑者引き受けのために、警備隊の人達がやってきたようだ。
「それでは準備が整い次第、参りましょう。」
引継ぎを滞りなく終え、馬車は再び走り出す。
テルフォードは、高さが150m程もある城壁に囲まれた要塞。グリューネによく似た街の雰囲気だけど、向こうに比べると冒険者の数が多いような気がする。
しかも、駆け出しっぽいフワフワした感じの人が殆ど居ない。一攫千金を求めてやって来るというのは、この事なのかねぇ。
テルフォードを過ぎるとキーズまでは峠のような道。登って下って、ひたすら山道を進んでいく。
通行の途中で何度か、冒険者が何らかの魔獣を討伐している場面に遭遇するも、華麗にスルー。
「冒険者の仕事の邪魔は致しません。救援を求められた場合のみ、参戦もあります。」
山の頂上付近に現れた、やや低めな城壁に囲まれた砦のような場所のキーズ。
林業、石切、鉱山などの山間部で仕事をする人たちと、山を狩場にする冒険者が仮住まいとして長期宿泊している大規模な集落で、観測所のようなテントではなく、石と木でしっかり建てられた家屋が連なっている。
さらに峠を進むとベイリー。この辺りは高原になっていて、さらに高い場所にあるオリアナ湖を水源として、農業が盛んに行われているようだ。この辺りの農作物で有名なのが、コーヒーとお茶。俺もこの世界に来て、かなりお世話になっています。
キーズと同じような雰囲気の砦だけど、お昼時という事もあってか、すっげぇいい香りがする。
馬車とか馬とか、ダチョウみたいな動物、トカゲみたいな得体の知れない動物が駐車場?に繋がれていて、街の中には観光で訪れているような、普段着の人たちと冒険者でごった返している。
さて、御者の交代と馬の休憩で小休止がてら昼食。
今回のお昼ご飯は、ベイリー小麦の大きなパン…というかナンのような感じ。バターの香りがすごい美味しそう。但しデカい。
それと一緒に食べるのは、具だくさんスープカレーと、ヨーグルトドリンク。
「おぉ!スープカレーじゃないですか!」
「ベイリーでのみ生産されているハジルという香辛料がありまして、鮮度が高い程とても良い風味がつきますので、先ほど採れた新鮮なものを分けていただきました。このスープの味の決め手です。1時間ほどで香りが全て飛んでしまいますので、ここに来なければ食べられない、この地域の重要な観光資源でもあります。」
絶対コッチの世界に来た人が作ったよね。今、俺が居るぐらいだから間違いない。
って事は…いつか俺の大好物を食べられるかもしれないな…それはさておき、ご飯をいただこう!!!
「「「「うまそう!うまそう!いただきます!」」」」
ナンはほんのり甘めな感じ。食感は柔らかくて、モチモチしてるからボリュームがあって、そのまま食べても美味しい。カレーに浸して食べると…さらに美味しい。スープカレーはご飯でしか食べた事が無かったから、これはいいなぁ~。
スープはスパイスがめっちゃ効いててちょっと辛め。本当にコレを考えた人は天才だと思う。具は素揚げした野菜と、トロトロに煮込まれた豚の角煮。
辛くなった口の中を、ヨーグルトドリンクでリセット。これは永久機関。
「はふ……おいひいれす…。」
ナディアは熱さと辛さで、ヨーグルトドリンクを飲みまくってる。
「私、コレを家でも食べたくってね。私もダンナもハジルの栽培は頑張ってみたんだけど……作れないし、持ち帰る事も無理だったのよ。だから久しぶりに食べられて嬉しいわ~。」
家ってか、城ですよね。
そんな雑談をしつつ美味しくいただきました。ごちそうさまでした。
さて、ベイリーからハートリーへは、ほぼ下りの山道。
ナディアはエレナさんと一緒に寝室の方へ。グレンフェルに着くまで時間があり過ぎるので、訓練を行うらしい。
オリアナ湖から流れるマリーツ川に沿って道が拓かれている。
最初はジャンプしたら越えられるくらいの小川だったけど、山を下るにつれて徐々に川幅が広くなっていき、100mを超えるほどの大河になっていった。こういうのを見ると、ちょっと感動する。
ただ、昔の人はこのマリーツ川を「水蛇」と呼んでいた。氾濫が起こりやすく、この下流の農地や、人的な部分で深刻な水害を与えていたようだ。この氾濫を「水蛇の怒り」と考えられ、これを鎮めるために生贄を捧げるなんて風習もあったとか。
そこで、渓谷地のハートリーで川の水を堰き止めて、水の流れを分散させる治水プロジェクトが国の事業として始まった。
だけど最初のうちは、水を溜めるだけ溜めてドーンと決壊させてしまったり、全然うまく行かなかった。研究に研究を重ねて現在のダムの原型のようなものを作り、規模をどんどん拡大して、数十年をかけてようやく完成したようだ。
川の上流から見ると巨大な湖なんだけど、下流から見ると高さ200mを越える巨大な城壁。ダムの中央には水を放流する水路が造られていて、マリーツ川の水量が一定に保たれる役割を持っている。
という訳で、ハートリーは巨大なダムを中心に、設備の維持管理を行う管理者、魔獣や妖魔によるダムへの攻撃を防ぐための軍事施設、そのおこぼれを狙う冒険者などが集まる街となった。
ダムLOVEですがさっくり通過。いよいよ本日の目的地、最大の城郭都市グレンフェルへ。
ダムが建設されて以降ハートリーとグレンフェルの間は灌漑事業が進み、一大穀倉地帯に生まれ変わった。
という訳で風景といえば農地、どこまでも続く畑。本格的に何もする事が無くて思い出した。
「コレ、何の地図なんですか?」
借りてるアイテムの確認作業である。
レナートさんに聞こう聞こうと何度も思っていたけど、その都度忘れちゃっていた。
この機会を逃すといつ聞けるかわからないよね。
「こちらはルージュ領から王都までの簡易地図ですね。今回通過した経路がそのまま書いてありますよ。」
「こんな地図があったとは…じゃあ、こちらは…あ、コレはそうか。ルージュ領ですね。」
「その通りです。ドレイユやヴィレットなど、大きな街道にある村や町以外にも、主な町や地域の名前を書いてあります。依頼などの際にご活用ください。」
「ご用意してくださっていたんですね…本当にすみません。失礼ついでで恐縮ですが、まだまだ色々ありまして…」
という訳で、今回判明したものの名称と効果をまとめておいた。
やっと、メモ帳が役に立つ…。
<宝箱 大>
●テント
魔道具。広さ約100㎡程度の3LDK。キッチンやベッド、ソファーなどの設備は使用可能。収納後も変わらない配置で保存。
時間は流れる。オーナーとオーナーが許可した人だけが中に入れる。それ以外の場合は入口が開かない。かなり頑丈。
●革のマント
ワイバーンの激レアドロップ。
魔法(妖魔)・魔術(魔石)攻撃の威力を減らしてくれる。あと水をはじく。
●革の手袋
ワイバーンのレアドロップ。
覆っている所の物理攻撃の威力を無くしてくれる超衝撃吸収。切れにくいだけで、切られるのはNG。
●大き目な革のカバン
古代魔道具。見た目や中身は普通のカバン。
何を収納したいのか意識して発声すると、どこかに出し入れ可能。それがどこなのか、収納力については不明。
時間が止まるのでナマモノも安心安全で、中のモノ同士で干渉しないので、水分もイケる。ただ生きているモノは収納できない。
オーナーとオーナーが許可した人だけが収納できる。
●巻物
古代魔道具。指定した場所からの道筋を自動で記述するオートマッピング巻物。道に迷いそうな場所で使う。
●革の装丁の本
魔道具。ペンでなくても書いたり消したり自由自在。
タブレットのメモソフトの見た目アナログな感じ。すげぇ便利。
でもコレあったらメモ要らない…。
<宝箱 中>
●地図1
ルージュ領から王都までの簡易マップ。
●地図2
ルージュ領内マップ。
●指輪
上級妖魔「ランヒルド」が身に着けていた指輪。人間に好意を抱いて手渡すけど、それがバレて粛清されてしまったらしい。光系の魔法を除ける効果がある。
●紫に光る石×2
妖魔がめっちゃ嫌がる光を放つ。光る時間は1時間。
●白く光る石×2
対象を調べる。何を調べたいか意識して発声する。石が割れた後で出来る粉を紙に撒くと、説明などが浮き上がる。
風が吹いたら粉が舞って泣くから屋内での使用を推奨。
●青く光る石×2
魔海獣がめっちゃ怖がる光を放つ。光る時間は1時間。
●緑に光る大きな石×3
空気清浄魔石。イヤな臭いとか有害な空気を清浄化する。範囲と時間は20畳くらいを8時間。
<宝箱 小>
●大きな葉(緑)
レグラス草の葉。乾燥させてお茶にしていただく。
●小さい葉(オレンジ)
ピールという木の葉。実は体力回復ポーションに使うが、葉は殺菌・消毒・血止めとしての効果がある。
●木の根
ミャクという木の根。徹底的に煮出すと血行促進・血液サラサラ・血管増強ドリンクの素になる。
身体がポカポカする。木の味。
●赤く光る石×2
半径2km圏内の妖魔・魔獣の存在を探知する。アルフレードさんが使っていたのは、この魔石を利用した魔道具だそうだ。
●緑に光る石×2
遠くの音を聞く。指向性があるので、意図した方向の音を聞ける。森の中での索敵とか隠密行動で使ったりするらしい。
●茶色い液体が入った瓶×3
ミャクの木の根の煮汁。風邪などを引いた時に飲む。木の味と香り。
●黄色い液体が入った瓶×4
ピールの実の丸絞りジュース。肉体疲労時の栄養補給。柑橘系の香り。
●青い液体が入った瓶×4
一時的に瞬発力をつける薬。動きが機敏になる。高級品なら10分間、粗悪品なら1分間。
●赤い液体が入った瓶×5
一時的に持久力をつける薬。疲れにくくなる。高級品なら10分間、粗悪品なら1分間。
●緑の液体が入った瓶×5
レグラス草のお茶。程よい酸味が疲労回復に効果アリ。レモンっぽい味。
やっとこれでスッキリした!
ついでに、ナディアに見てもらったナイフ。元々は木のニンフであるドリュアスの所有物だったらしい。
何代か前のルージュ伯がドリュアスのフェリーチェさんから貰ったもので、このナイフに「フェリーチェ」と名付けたようだ。
これにはドリュアスの祝福が与えられ、さらに≪幸福≫の魔法を掛けられていて、所持していると幸運を呼び寄せるお守りのようなもの。刃物の能力としてはナイフの域を越えないけど、これで止めを刺すと、相手は多幸感に包まれて息絶えるらしい。ホニャララ有情拳みたい。逆に怖い。
他の武器と防具…それは、またいつかという事にしておこう…。
アイテムなんでも鑑定団をやっていたら、城郭都市グレンフェルに近づいてきた。
遠くからでも見えるそのデカさ。すげぇなぁと思っていると、寝室のドアが開いてパタパタとエレナさんが出てきた。
「もうすぐ着く?」
「あと15分ほどで到着いたします。」
「つい頑張っちゃった。アキラ、ナディアは疲れて寝てるから。」
「了解です。けど疲れ果てて寝るって、今は何の特訓をしてんですか?」
「後でナディアに見せてもらってね~。」
さて、オルカやさっきのダムもデカっと思ったけど、グレンフェルは高さのレベルが違う。今まで見てきた城壁や軍事施設が可愛らしく思える。
真っ黒い石と鉄で作られた重厚感と威圧感MAXな城壁。お濠が50mほどあり、周囲の一定間隔に警備隊の詰所があるように見える。
城外にも巨大な建物、おそらく軍事施設と思われる建物が並んでいる。
道は途中から二股に分岐していて、片方は正面の跳ね橋に。もう一方は、城壁の右端のほうに続いている。右の方が、長いトンネルの一般道か。
跳ね橋方向には小屋があって、道を塞ぐように警備員が2人、槍を持って並んで立っている。
小屋の前で一時停止。すると小屋の中から警備員が道に出て来て、整列して敬礼。
エレナさんがニコリと笑顔で手を振る。うん、お約束の儀式ですね。
そして長くゴツい跳ね橋をゴトゴトと渡り、いよいよ往路最後の宿泊地、グレンフェルに入る。
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