第5話 使命について、ルージュ侯爵の願い

「人探しですか?」


「はい、その通りです。」


「人探しなら、何も知らない私よりも、冒険者ギルドの方が見つけやすいのではないですか?」


「仰ることは、重々承知しています。ですがこの件は、広く知られる事で著しい厄災を引き起こしてしまいます。」


「どんな事ですか?」


「魔王の襲来です。」


 魔王って。


「その…探し出す人と、どういった関係があるんですか?」


「これは、私の家系に関する出来事が、深くかかわってきます。少々長くなってしまいますが、お話をさせてください。」




 話はレナートさんのお爺さんの若い頃の話から。

 その昔お爺さんは、セルシニアという国の第二王子だったんだけど、お兄さんの王太子と仲違いをして出奔。

 フラムロス王国に来たそうだ。


 その後、懇意にしていたルージュ伯爵の尽力で「赤の剣士隊」に入るとメキメキ頭角を現して、さらに上位組織の「赤の騎士団」に入って、たった3年で最高位の赤の騎士になったそうで。

 その後ルージュ伯爵の娘さんと結婚。一人息子に恵まれ、伯爵が亡くなって家督を継いだ。

 その後もバリバリ妖魔を掃討しまくって武功を立てまくり、侯爵となった。


 お爺さんが亡くなって侯爵家を継いだのが、レナートさんのお父さん。

 この時代に、セルシニア国王とルージュ侯爵は関係を修復して、フラムロスとセルシニアは軍事同盟を結ぶ。


 その後、ルージュ侯爵がセルシニアに来ていた時、セルシニアと長く争っていた隣国トルジアに攻め込まれる。

 この時にトルジアがとった行動は、強力な妖魔を召喚してセルシニアを一気に滅ぼす作戦。

 その強力な妖魔が「魔王」と呼ばれる存在。その魔王の手によって、セルシニア軍は壊滅。

 いつ滅んでもおかしくない状況になってしまう。


 ルージュ侯爵は国王に脱出を勧めるものの、国が亡ぶのに殉じる事を頑として聞かない。代わりに、二人の息子を連れて行って欲しいと頼まれる。


 ルージュ侯爵は子供たちを連れてセルシニアを脱出し、命からがらルージュ領へ帰って来るけど、その途中でセルシニアは滅んでしまう。

 託された二人の子供を育て上げ、いつかセルシニア王の息子として、領地の回復をさせてやろうと強く決意する。


 その後預けていた施設で、二人は失踪してしまう。

 どんなに探しても、見つからない。そして、一度ヤバい状況に遭遇している。

 魔王と会ったことがあるらしい。しかも、このバトンの森の中で。


「失踪した二人が居る」という情報を入手して行ってみると、トルジアが魔王を召喚したときにもあった、黒い渦巻雲がバトンの森に出来ていた。

 すると気さくな兄ちゃんが声をかけて来たんだけど、その兄ちゃんが自分を「魔王でーす」などと自己紹介したらしい。

 ふざけた事を抜かすなとキレたのがお父さん。すると周りに妖魔が数百体も現れて、二人を取り囲んだ。

 もうダメだと思った時に魔王が言ったのは、


「俺だって好きでやってるんじゃねぇ。あんたら逃げていいよ。」


 その瞬間、お父さんとレナートさん以外の妖魔たちに雷が落ちる。一瞬で妖魔は消滅して、周囲に散らばる大量の宝石。

 この衝撃でレナートさんは気を失い、お父さんから譲り受けていた「双獅子の指環」を失くしてしまったらしい。


 それから十数年後の3年前にお父さん、ルージュ侯爵が病に倒れ、亡くなってしまう。

 お父さんから、レナートさんへの遺言。


『二人を探し出してくれ。彼らに、セルシニアの失地回復を。それが私の、ラシェール家の悲願だ。』




「そして、私の目の前にアキラさんがいます。」


「いますけど…どうやって俺をここに召喚したんですか?」


「父は、紫の騎士に伝わる召喚方法を教わったそうです。父は何度か試しましたが、一度も成功しませんでした。魔石が粉々に砕けてしまったそうです。父が亡くなって家督を継ぎ、少し落ち着いたところで試してみた所、砕けずに赤い光を放ちました。すぐに来るのかと思っていましたが、3年ほど経ちました。」


「それはまた…随分とお待たせしたようで…。」


「過ぎてしまえば、あっという間です。」


 にこやかに笑うレナートさんだけど、お父さんが亡くなって召喚を試して、すぐに成功して喜んでたら3年。

 失敗したとも思えない状態で、よく耐えたな~。


「まさか印が、私が落とした指環とは思ってもいませんでした。」


「コレ、すっごい探したんですよね?」


「探しましたね。妖魔が持ち去った可能性も考えましたので、ひたすら強くなる事だけを考えました。とにかく何でも、どんな厳しい仕事でもやってやろうと思ったら、パーシャちゃんに助けられたりしました。」


 こんなにこやか好青年のレナートさん。

 強くなる事だけを考えたと言うけど、どれくらい強い人なんだろうな。見た目では全然わかんない。

 でも、お爺さんが赤の騎士という地位まで登り詰めたらしいし、その孫となったら小さい頃から英才教育とかあったのかな。

 それでも命の危険を伴う妖魔との戦いか…怖いな。


「割と、どこにでも妖魔は出るものなんですか?」


「妖魔が出る場所は、巧妙に隠された黒雲の渦の発生源、山や森、洞窟といった所に出ますね。」


「あれから、魔王は出てきたりしてるんですか?」


「旧セルシニア、旧トルジアを魔王領として君臨しているようです。魔王自身が積極的に仕掛けてくることはほぼありません。妖魔に対しては、小さな規模であれば軍を出す事はありませんので、主に冒険者が討伐に向かいますね。報奨金は国や自治体から出て、妖魔を倒した時に発生する宝石類や武器などは、魔石になるものは全て買い上げで、魔石にならないものは冒険者のものになります。なので、妖魔の討伐は中堅~上級の冒険者にとってお金になるので、人気があるんですよ。」


 なんかちょっと、イメージが違った。

 人気の依頼が妖魔討伐…でも強くないとダメ。


「妖魔が出るのが当たり前になってて、もう慣れてる感じですか?」


「そうですね、慣れてしまっていると思います。昔はこんなには出てこなかったんですけどね。あと、妖魔が遺した宝石を食べた獣類が、妖魔の眷属となって魔獣化することがありますので、そういった駆除も行います。」


「駆除とか討伐とか、俺にはそんな事は無理っぽいですね~!」


「そんな事はないですよ。慣れです。」


 慣れですか…?

 とても慣れるとは思えねえ…。


「それに、リバルドさんに鍛えられたら、すぐに結果が出ますよ。」


「ははは…コミットに興味はありますが、少し考えさせてください…。」


「楽しみにしていますよ。それでは、私がアキラさんを召喚した理由、使命として見つけていただきたい二人についてですが…。」


 おっと、これは姿勢を正して伺わなければ。


「はい。」


「まず、二人の名前です。兄の名前は『アルス』、弟の名前は『セルス』ですが、この名前では今は暮らしていないと思われます。」


「あら、名前って大事な手掛かりですよね?」


「セルシニア王から賜った名前がありましたが、治療院でその名前を呼ぶと妖魔を呼び込むかもしれないとの事で、この名前で呼んでいました。行方不明となってからもこの名前で捜索しましたが、今でも見つかっていません。」


「じゃあ名前がダメなら、容姿とか?」


「兄が赤い髪、弟は金色の髪でした。赤毛は東に多く、金毛は西に多い髪の色で、珍しくはない髪の色をしていました。」


「う~ん、さすがにそれでは、なかなかしんどそうですね~。」


「あの頃と今との違いは、年齢にあります。彼らは現在19歳と18歳。私が捜索を始めた頃は16歳と15歳ですので、まだ職を得ずにいた可能性がありましたので、私は主に学校や剣士隊、軍の幼年学校などを捜索していました。ですが、今ぐらいの年齢になりますと、冒険者という選択肢があります。」


「それこそ、ギルドに確認すれば済む話ではないですか?赤毛と金毛の兄弟という事で…。」


「私もそれを考え、ギルドカード上では確認しました。ですが該当する兄弟が多く、こちらでも確認を進めている最中ではあります。ですが、髪の色を変えることは普通に行われている事ですので、正直なところギルドでの確認はあまり期待出来ないのです…。」


 あ、なんかしょんぼりしてる。


「そこでアキラさんには、内部から確認をお願いしたいと考えています。」


「内部と言いますと、ギルドに入るとか?アミュさんの部下になるって事ですか?」


「部下という事ではありませんね。冒険者ギルドに登録し、冒険者として各地を回っていただき、現場で二人を探していただきたいのです。」


 おお…ちょっとそんな気はしました…。

 じゃないと、冒険者の話とかしませんよね、たぶん。


「私が冒険者として出ることができれば、それで良かったのですが…国から『厳に慎むよう』固く禁止されてしまいまして…。」


 やろうとしたんですね。

 その前は冒険者だったんだから、別にいいと思うけどなぁ。その方が順調に探せてると思うし。

 でも、ここまで本気で探しているんだなと思うと、何か、俺も頑張らないとって思うじゃない。


「わかりました。お力になれるかわかりませんが、最善を尽くしたいと思います。」


「ありがとうございます!祖父、父に代わり、ラシェール家の当代として、お礼を申し上げます。本当に…本当にありがとうございます…!」


 両手を取って深々とお礼をされる。俺にそんな事出来るのかと正直に思う。


「お伝えした通り、行き先が民間人では入れない場所の可能性もあります。場合によっては、妖魔との接触があるかもしれません。ですので冒険者として、ある程度の力をつけてから、捜索を進めていただきたいと考えています。リバルドさんとアミュさんには、全ての事情をお伝えします。私を含めてこの4名以外には、使命については伏せていただきたいと思います。」


「全て、承知しました。」


「少ないですが、餞別としてお持ちください。売却していただければ、大体の装備は整うと思います。」


 そう言って、袋を手渡される。

 持った瞬間ずっしりとした感覚。あれ、コレってもしかして…袋を開けると、宝石がぎっしり!

 これが妖魔討伐の時の残りでもらえるヤツか!?


「わかったことがありましたら、ご連絡をお待ちしております。それでは、よろしくお願いいたします。」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

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