第6話 帰り道の会話と、帰った後の混乱

「いつの間にか、こんな暗くなってたんですね。」


 お昼ぐらいに来たはずだけど、いつの間にやら真っ暗。

 夜道には街灯というものはないけど、二つの月が出ていてとても明るい。


「ゆっくり空を見るなんて、最近は無かったなぁ。」


 ぼんやりと空を眺めていると、厩舎からパーシャちゃんがトコトコ歩いてきた。

 相変わらずデカいけど、なんか可愛く見えてきた。


「やはり、今日は帰られるのですか?」


「ええ、何かこう、みなぎって来たというか。早速戻って、アミュさんとリバルドさんに話をしたいと思います。」


「そうですか…それでは、私はまた王都に戻りますので、よろしければこの家、使われませんか?」


「さすがにそこまでしていただくのは申し訳ないです!こちらの世界に早く馴染むためにも、他の冒険者と同じ生活をしますよ。」


 パーシャちゃんの背中に跨りながらも、ちょっといいな~と思ったのは事実。こんな家、現実世界では一生住めないしね…。

 …イカンな、ハングリー精神を忘れちゃダメだ。


「では一日も早く立派な冒険者になって、良い報告ができるように頑張ります。」


「期待しています。お気をつけて。」


 手を振りながら、ゆっくりと走り出すパーシャちゃん。

 振り向いてみると、まだ見送ってくれてる。俺はブンブンと手を振る。見えなくなるまで。


 いい人だったなぁ侯爵。ホント、こっちで会う人皆いい人だ。

 よし、帰ったらアミュさんとリバルドさんに報告して、明日からの冒険者修行に備えて寝るかな~。


 帰り道も、来た時みたいに空を飛んで行くと思ってちょっと覚悟してたんだけど、ずっと道を走ったままだ。

 来る時にうるせーと思ったのかな?それでも、俺にとってはすごくありがたい。


「帰り道は飛ばないで帰ってくれるんだね。パーシャちゃんは優しいなぁ。」


 そう言いながら、背中のあたりを撫でてみたり。


『あなたが尋常じゃない程怖がっていたからね。』


 ん?


『飛ぶよりもちょっとかかるし、落ちないように気を付けて。』


 ―――――――――――――――――っ!


 パーシャちゃんが………………………!


『あらあなた、私の言葉を理解しているの?』


「え、そうですね、え~~~~~?」


『私は人間の言葉はわかるけど、異世界の人間はそうなの?』


「いや、どうでしょう…?」


『私のマスター、アミュ様は特性で少し話すことは出来るけど、リバルドは全然ダメ。話にならない。肉飽きた。』


 おうふ、マスター以外は呼び捨てですか…しかもダメ出し。キツい。肉の愚痴。


『あなた、名前は?』


「アキラです…。」


『アキラね。言葉がわかる誼で、私の事をちゃん付けで呼ぶのを許してあげる。』


「あぁ、それはありがとうございます…。」


『…何?不満?飛ぶ?』


「いえ!とんでもございません!!!よろしくお願いいたしますパーシャちゃん!!!」


『まぁいいわ。そういえばレナートの所の双獅子が、また会いたいって。』


「へ?話せるんですか?」


『双獅子は魔獣の中でもかなり知性が高いからね。舐めたら美味しかったって。』


 会いたいんじゃなくて喰いたいの間違いじゃないっすか。


『ふふふ、もしかしたら魔獣に好かれる人間かもしれないわね。』


 昔から動物は好きだったし、実家でも犬は飼ってますし。

 好きですよ?動物は。言葉を話す動物は会ったこと無いけど。


「嫌われるよりも、よっぽど良かったと思いますよ。」


『そうね、それがアキラの特性なのかもね。』


 特性か。ゲームだとスキル一覧みたいになってるけど、この世界ではどうなんだろう。

 現実的に考えると…履歴書に書く免許とか、特技みたいな?普通運転免許とか、危険物とか爆発物とかもスキル?

 スキルがあるなら、身長何cmみたいな感じで、自分の能力が数値化されてたら…。

 ワクワクするけど人並み以下だったらヘコむと思うから、あまり考えないようにしておかないと。


『何よ黙り込んで。』


「へ?あ、すいません。ちょっと考え事を…。」


『人間と会話するなんて初めてなのよ?もっと何か話しなさいよ。』


「え?じゃあ、小咄を少々…」


 初めて話した動物は、ツンなお姉様系でした。

 まさかグリフォンに古典落語「お菊の皿」が通用するとは思わなかった。話をしているとあっという間に流音亭に到着した。




【ケーーーーーーーーーーーーッ!!『ちょっと!着くの早くない?』】




 まさかそう言ってるとは思いませんでした。

 そして、道中思いのほか喜んでいただけて何よりでした。

 爆笑してくれた時に何度か振り落とされそうになりましたよ。


 バターン!とドアをブチ壊すんじゃないかって勢いでアミュさんが飛び出してくる。


「パーシャちゃんおかえりー!アキラくんもおかえりー!」


「只今帰りました~。」


「あれ?何か、声カッスカスだね。侯爵とそんなに話したの?」


「いや、そういう訳ではないんですけどね。」


 帰り道、ずっとしゃべってたのでノドカラッカラなだけです。


『アキラの話、面白いね。また聞かせて~。』


「あら!パーシャちゃん、随分アキラくんに懐いちゃって!」


「いやぁ、ははは…。」


 厩舎に向かうパーシャ姉さん。

 リバルドさんがバケツにガッツリ肉を持って行った。

 パーシャ姉さんがガツガツと肉を喰らう音が、静かな森にこだまする。


「さて…中に入ろうか。色々聞かせてね。」


「あの、その前に、お水を頂けますか?」






 レナートさんから聞いたルージュ侯爵家とセルシニアの話、使命の話などを、休憩を交えずに一気に話す。


「長かったねー!」


 ええ、そりゃもう。リバルドさん寝てるし「起きてる」あぁ、すいません。

 ってか、アミュさんはこれだけ聞いてもそのテンション維持出来るんすね。


「確かに、侯爵がコッソリ管理簿を調べてた事はあるね。」


 あ、コッソリなんだ。


「兄弟で、お兄ちゃんが赤毛で弟が金毛、名前は確かに違うけど、お兄ちゃんがアレクシオスで弟がセイラロス。何だっけ『アルス』と『セルス』だっけ。似てない?」


「え!マジっすか?」


「マジマジ。あー、でも、弟はちょっと女の子っぽい見た目だから、焦って見てたら気づかなかったかも。」


「ギルドの管理簿って、顔もわかるんですか?」


「うん。ギルドでは登録するときに、魔石で顔を写して登録原本に残すの。ギルドカードには写さないけどね。」


「見せていただく事は…。」


「個人情報です!!!…けどまぁ、アキラくんを助けるのも使命みたいなもんさ。いいよ、その兄弟の所だけね。コッチおいで。」


 そう言って、カウンター裏に手招きされる。


「お邪魔しまーす…おわっ!何だこれ…」


 ここは流音亭の裏口ですよね?

 目の前に広がる光景は、高さが3メートルほどの本棚が何百列も続くような果てしない奥行きを持ち、地下5階層にもなる巨大な空間。

 いやいやいや、そんなに裏は広くなかったし!何ココ!?


「おーい、ココ~!」


 遥か向こうで、豆のようにちみっこいアミュさんが手をブンブンふって呼んでいる。とりあえず階段を降りて、走る。走る。走る…遠い…ってか、何ですかこの超空間。息も絶え絶えになってやっと着いて、着席。疲れた…!


「コレコレ。コレ見てみて。」


「めっちゃ普通ですね…何ですかココ!?」


「んー、ちょこっと改造☆」


「たぶん教えてくれませんね、魔石とかをチョチョチョイっとやったんですね?」


「うんそうー(棒)」


「もうホント心折れますわ…で、何でしたっけ。兄弟か。」


「この二人ね。」


 写真というほど鮮明ではないけど、絵ではない。

 だけどそこには、赤毛の青年と、金髪の女性が表示されていた。女性?


「あの、これ」


「ハイ終了ー!」


 アミュさんが言ったその瞬間、裏口の前に立っていた。

 そして裏口の内部は、ただの物品庫である。


 え?


 ええええええええええええええええええええええええええ!?


「全てが何ですか?なのですけれど。」


「割と企業秘密。ここまでサービスしたのはアキラくんが初めてだからね?」


 もうこの世界おかしい。色々おかしい。

 物理的に無理?ならば物理を超えろ!的な力技でやってやったぜ的な何かを感じる。ちょっと個人情報を見たかっただけなのに、この世界の法則に触れた気がする。やったモン勝ち的な。

 てか、ココをコッソリ調べられた侯爵の力量、凄まじく感じる。


「という訳で…ちゃんと見た?」


「まぁ、多少は見えました。男女が写っていたと思いました。」


「侯爵と同じくらいの認識だね。それが普通だと思っておいていいよ。」


「まぁ、普通でOKです。普通だと思います。」


「あの子たちが探すべき二人なのかは、私にはわからないよ。ただ、戦争で失った両親の代わりという人と小さい頃からこの森で暮らしてきて、いつの日か、その代わりの人が居なくなり、その後も二人でたくましく暮らしてきたの。」


「可能性としては、無くはないといった感じですね。でもお父さんのルージュ侯爵も、レナートさんもそうですけど、地元のこの場所を探せないという事って、有り得ませんよね?」


「どういった探し方をしたのかはわからないけれど、今でも探すべき二人の兄弟は見つかってなくて、この二人は存在しているという事実は変わらないよね。」


 この二人は隠されていたとか?意図的に?

 でもそれは、これからしっかり調べたり、実際に会って話したりすればいいんじゃないか。

 もしかしたら、レナートさん自身この二人の事はすでに知ってたり、会っていて違うと判断したのかもしれない。

 そう考えると、過去に会ったかもしれない人リストというのは必要だったかもしれない。


「まぁ、何となくそんな二人が居るって思っただけで、決まった訳でもないからさ。」


「そうですね、十数年かけても見つけられなかった人を、ポッと見つけるなんてそんな事は無いと思いつつ、会えるなら会ってみたいですね。連絡方法とか無いですかね。」


「二人とも今日来てたよ。」


「マジですか!今はどちらに?」


「昨日、アキラ君を連れてきてくれた子と一緒のパーティーなんだよね。今頃は山で野宿してるんじゃないかな?」


「あらら、入れ違いでしたか。」


「ちょ~っと離れたところに行くって言ってたから、戻ってくるのを待ったほうがいいよ。

 それまでに、冒険して鍛えておかなきゃ。しっかりお金も稼がなきゃ、明日から生きていけないよ!」


 お金。そうだ、レナートさんからもらってたんだ。

 出来るだけ使わないようにはするけど、最初だけ割り切って、ちょっとだけ使わせてもらおう。

 冒険者ギルドで買い取りもやってるって話だったよね。


「あのですね、実はレナートさんから餞別をいただいておりまして、ちょっと見ていただいていいですか?」


 先ほど頂いた袋をカウンターに置く。


「ちょ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 メガテン。

 あれ?アミュさんが固まってる。


「おまえ、これ…」


 おおぅ、リバルドさんがしゃべった。


「…もらったの?」


 目が。アミュさんの目が。


「…ええ、少ないけど餞別って…」


「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」


 え、何その深いため息ダブル。

 確かに、宝石パンパンだけど、そんなに高価なの?

 中身見てませんよね?


「絶対これは人をダメにする!!!!!!!!!没収!!!!!!!!!」


「何でですか!?そんなに高額なんですか!?いや、俺だってちょっとムフってなりましたけども!それにしたって!」


 袋を持って、いや奪ってアミュさんがカウンター裏へ。

 え?何ですか?チョイチョイって、来いって?またあの図書館みたいな?


 今度は、何もないだだっ広い部屋だった。今度は階段がないから、およそ縦100m×横100m×高さ20mくらい。どんだけ空間を作り出せるんですか。

 え?宝石袋を?ひっくり返せと?ええ、まぁ、わかりましたよ。


 ドザー


 あれ?まだ入ってる?


 ザーー


 え?


 ザーーーー


 ウソウソウソ…


 ザバーーーーーーーーーーーーー


 ちょ!何これ!!!!!!!


 ザバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーガランガランガランガラングワングワンドスンドスンドスン


 何もなかったはずのだだっ広い空間が、あっという間に宝石で部屋の半分が埋まりかける。

 何か、宝石じゃないのまで出てきた。何これ?宝箱?


「はいストップー。」


「りょ、了解!」


 とりあえず袋を上に向ける。中身が半分くらい残ってる。何これ?


「コレねぇ、侯爵のお爺さん、赤の騎士セルウェイン侯が使ってたヤツなんよ。」


「あの、眼光鋭いお爺さんですか?」


「うん。これは魔道具マジックバッグ。ものすごい妖魔を討伐したときに敵が落としたものらしいよ。通称は、なんでも入る不思議なバッグ。」


 ネーミングのセンスは問わない。

 だって、実際に何でも入りそうだし、袋のサイズ以上の大物が出てきてたし。


「大事に取っておいたんだろうね。当時はまだ魔石とかが研究中だった時代だし、魔石になりそうな宝石がゴロゴロあるよ。侯爵、コレ中身わかってて渡したな…。」


「でも、宝石だけだったら、魔石にはならないんじゃ?」


「そうなのさ。魔力のある宝石は国でお買い上げなのさ。国でお買い上げってコトは、持ち込んだ相手に対してウチが直接お買い上げって事なのさ。だから、アキラくんには強制的に現金が入るって寸法なのさ。まったく、あの人は…。」


「ちなみに、いかほど?」


「中くらいの城が建つレベル。」


「想像しやすいんだか、しにくいんだか、わかりません。」


「うん、私も言ってて何言ってんだかわからなくなってきた。」


 とりあえず、仕舞うことにした。

 仕舞いたいものを声に出して言うと、自動的に回収してくれるらしい。


「普通の宝石カモンヌ」


 シュルシュルシュルシュル…………


 おー、見事に入った入った。きれいきれい。

 で、部屋の中に残ったのが、魔力のある宝石と…宝箱。


「アミュさん、いっそ中身を全部見てもいいですか?」


「うんいいよー(棒)」


 もうどうにでもしろと言わんばかりのアミュさん。

 とりあえず普通の宝石は袋の中に入ったままにしておいて、それ以外に何が入っているのか興味が湧いた。


「普通の宝石以外の物出ろー」


 中に入っていたものは、宝箱(大・未開封・罠解除済)が6個、宝箱(中・未開封・罠解除済)が12個、宝箱(小・未開封・罠解除済)が28個、魔力のある宝石が約100kg、武器全般、防具全般。


 ムフー!中二魂がたぎる!宝箱も開けちゃおう!!


<宝箱 大>

・テント

・革のマント

・革の手袋

・大き目な革のカバン

・巻物

・革の装丁の本


<宝箱 中>

・地図1

・地図2

・指輪

・紫に光る石×2

・白く光る石×2

・青く光る石×2

・緑に光る大きな石×3


<宝箱 小>

・大きな葉(緑)

・小さい葉(オレンジ)

・木の根

・赤く光る石×2

・緑に光る石×2

・茶色い液体が入った瓶×3

・黄色い液体が入った瓶×4

・青い液体が入った瓶×4

・赤い液体が入った瓶×5

・緑の液体が入った瓶×5


 フゥー、いや、いい仕事した…もう大満喫した宝箱開封タイム。

 これらが何なのかは、後で聞いちゃおう。


 おや?


 アミュさんが…プルプルと…。


「もう…寝る…。」

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