第7話 ギルド登録と、初の植物採集

「もう朝か…。」


 ぽやぽやと異空間を消失させようとしていたアミュさんをリバルドさんが必死で引き留めている間、俺は全てのお宝を袋に戻して退出。

 疲れ果てたっぽいアミュさんはそのままご帰宅。

 リバルドさんに、昨日の部屋を使っていいから今日は寝ろと促され、部屋に行ってすぐに就寝したっぽい。


 件の異次元袋はテーブルの上。

 相変わらずパンパンに入っている事を確認しながら、コレを持ち歩くのは危険なブツであることを思い返す。


 今日からは仕事だな。

 まずは冒険者登録して依頼を受けまくて、色々な人と交流を持って、情報をもらえるくらいにならないと。

 あとは、この部屋の家賃を払えるくらいに稼がなきゃ。

 金銭感覚がマヒしそうな宝石、コレは手を付けだしたらヤバいから、できれば袋は預けたい。相談させてもらおう。

 バッグとかテントとか、冒険者に必要そうなアイテムがあったけど…アレはレナートさんが入れてくれたのかなぁ。

 お金には手を付けないけど道具を借りるのはアリだろう。

 あとは武器とか防具とかあったけど…無理だな。そもそも危険な仕事はしたくない。


 さて、身だしなみも完了したし、そろそろ下に行くか。

 部屋を出ると、コーヒーのいい匂いがする。

 この世界でもコーヒーとかお茶とかは、普通にあるんだなぁと今さらながら思う。


「おはようございます。」


「おう、おはよう。」


 あれ、アミュさんが居ない。


「アミュさんは、お出掛けですか?」


「いや、まだ起きてこないだけだ。昨日のが相当こたえたみたいだな。」


「あぁ…何だか最後の方、ぽやぽやしてましたね。」


「あれほどの原石があるとな、資料を作成するだけで、寝ないでやっても2週間程度はかかる。」


「そんなにかかるんですか?」


「古い原石ほど構造が複雑で鑑定に時間がかかる。そして何より、量が多すぎる。」


 そうなんですね…。

 やっぱり、アレはきっちり封印するのが正解だよなぁ。


「リバルドさん、俺、アレを売るつもりはないんですよ。」


 バターン!と遠くで音がする。


「何だってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」


 このかわいいダッシュ音!!!!

 階段を数段飛ばしで、と言うか二階から飛び降りる勢いですっ飛んできて、俺目掛けて遠距離からのジャンピングクロスチョップ…と思いきや胸倉を掴まれ、ぐいーっと引き寄せられる。近い近い!


「アレ売らないの!?鑑定しなくていいの!?書類書かなくていいの!?」


 手を振りほどこうとするが、ビクともしない。これが本来のチカラ…?

 胸倉から首を絞めにかかるのはやめてください………ぐるぢい………


「あい……うらないので……………はなじでぐだざい………………」






「〇してやろうかと思ったのは久しぶりだね。」


 ニッコニコで物騒な事言うギルドマスター。

 殺意が沸くとぽよぽよするのか。覚えておこう。マジで気を付けよう。ヤられる。


「レナートさんのご厚意はありがたく受け取りたいと思いますが、今は換金せず、未来のために取っておこうと思います。」


「そうしてもらえると、本当にありがたいよ~。久しぶりに寝れなかった…。」


「ただ、色々な道具が入っていたので、それらはお借りしようかなと思っています。」


「それがいいよ~。」


「あと、冒険者登録をしたいと思いますが、手持ちが無いので最初の登録費用だけ、宝石をお借りしたいと思います。」


「それはいいんじゃない?じゃ、朝ごはん前にサクっと登録しちゃおうか!」


「よろしくお願いします!」






「じゃあ、写しますよ~。マジメな顔してね~。」


 ボフッ


「はーい、いいよ~。」


 オレンジ色の魔石が軽い爆発音と煙を立てて消える。その煙がするすると本の中に消えていき…俺の顔が本に表示される。

 すげぇな、どんな仕組みなんだろうな。


「じゃあ、次は特性確認。そこに立って力を抜いてね。じゃあ写しまーす。」


 ピシッ


「オッケーい。」


 白く濁った魔石に細々としたヒビが入り、その直後サラサラと粉のようになって崩れていく。

 それを紙で受け取り、俺の写真のページに振りかける。

 一瞬、ふわっと光った後で粉が消えると、文字が現れた。


 《見守》《人獣》《月水金》《火木土》《器聖》《装飾》


 何か、ゴミの収集日みたいなのが見えるんですけど。


「これが俺の特性ですか?」


「そうなんだけど…6つは多いよ。しかも見た事ないのが5つもあるよ!なんだコレ!?」


「アミュさんがわからないヤツがあるんですか?」


「特性については知っている方だと思ってたんだけど、これはアキラくん独自の特性だねぇ。」


「じゃあ、具体的に何が出来るっていうのは…。」


「装飾はわかるよ。職人さんが持っている技術系の特性で、最後のひと手間をかける装飾士の人はコレを持っているね。それ以外は自分で体感するしかないかなぁ…ごめんねぇ~。」


「一つでもわかる物があったので、全然大丈夫ですよ。」


 俺はこの世界でも技術者か…社畜ってのがあったら完璧だったのになぁ。

 《見守》使命者だからコレが入ったのか。みまもり?

 《人獣》があるから、パーシャ姉さんと話せるのかな。

 《器聖》何かちょっとカッコイイけど、想像できない。聖なる器?

 《月水金》《火木土》コレについてはもう考えない方がいいな。どう考えてもゴミ収集しか思いつかない。


「じゃあ、白い所に名前を書いてもらおうかな。」


 渡されたのは、クレジットカードくらいのサイズの硬い革。左側が白で、右側が赤。赤地にはライオンのエンボス加工が入っている。

 裏面と見ると、俺の特性が刻まれている。


 あと筆記用具として羽ペン。文具好きな俺としては、ちょっと興奮しちゃう。

 名前は『アキラ』と書いた。書いた瞬間、ジュウ…っと革に刻み込まれた。ステキ…。


「はい、そしたら登録料ね。その呪いのバッグ出してくれる?」


 いつの間にか呪いのバッグになった。


「登録料は銀貨5枚ね。だから…コレで良し。」


 小さな青い宝石1粒。コレで銀貨5枚か。


「このバッグなんですけど、必要なものだけ取り出したら、預かっていただく事は出来ませんか?」


「そしたら、正式にウチのギルド専属になってもらおうかな?専属になると、部屋代月額金貨1枚三食つきのところ、無料!あの部屋に荷物を置いとけるよ。」


「部屋に置いておくんですか?でも万が一…」


「大丈夫。全く心配ナシ!ま、専属については最初から言うつもりだったんだけどね。」


「ありがとうございます。それでは、専属契約を結ばせていただきます。」


「うん!そしたら、これで登録作業は終わり!じゃあ、朝ごはん食べたら早速依頼でも見てみてね~!」


 タイミングを見計らって、リバルドさんが朝食を持ってきてくれる。

 トーストされたパン2枚と、スクランブルエッグ、サラダ、スープ。

 うまそう!


「はい!いただきます!」






 朝食を満喫した後で、依頼掲示板を眺めてみる。

 今はこの3件があるらしい。


・犬探し

 あの野良を最近見かけないので気になります、探してみてください。【銅貨5枚】

 トーラス


・倉庫片付け

 物が多くなってきたので、運び出しを手伝ってください。【銀貨2枚】

 ※倉庫に住み着いたネズミ退治 1匹につき銅貨5枚出します。

 リクハルド商会


・植物採集【急募】

 マンドラゴラ30本。【銀貨3枚】

 薬剤師ライナ


 かなりファンタジーっぽいのは、植物採集だよなぁ。序盤でお世話になるよなぁ。

 マンドラゴラって、アレでしょ?引き抜くと大声上げられて、聞いたら死ぬアレ。

 犬に引っ張らせて犠牲にするってあったし、この一番上のヤツで連れていかれたんじゃね?

 でも、俺がいた世界にもマンドラゴラはあったけど、そんな絶叫はしない。

 もしかしたらコッチのマンドラゴラも、採集自体は危険じゃないのかも。

 じゃないと30本とか、無いよな~。


「という訳で植物採集に行ってまいりたいと思います!」


「じゃあ、依頼書持ってきてね。」


「了解しました!」


「ちゃんと読んだかい?」


「読みましたよ?マンドラゴラ30本ですよね。」


「本当に読んだ?」


「大丈夫です。全て確認しました!」


「そう?じゃあ、ココに名前を書いてね。」


 名前を書いて、これで良し。


「書きあがりました!」


「じゃあ、コレは依頼が完了する時に、依頼主に名前を書いてもらってね。

 それでは依頼主のお店に行って、群生地と採集のコツをよく聞いて実践するように。」


「はい!じゃあ、準備して出かけます!」


 初めての仕事という事で、ちょっとワクワクしながら部屋に戻って準備~。

 昨日の宝箱の中身から、革のマント、革の手袋、革のカバンを取り出す。

 革の3点セットは、濃いグレー色。蛇革っぽい感じの模様がやや大き目で、大きい蛇の革かなぁと思った。

 ちょっと厚手だけど柔らかくて、しっとりした感じ。

 そして、これがマントか…首のあたりに留め金があって、肩から膝くらいまでを覆う。ポンチョとかカッパみたい。

 今日は晴れてるし、カバンに入れとこう。

 グローブは、指が無いタイプのアレか。中学生のころに買って、冬に使って二度と使うかと思ったものだ…カバンに入れとこう。


 あとは、薬…ポーションだよな。多分。これは効能を聞かないとわからないし、ヘンなのをイキって飲むのもアレなので、置いておこう。たぶん魔石の光る石もいいか。置いておこう。


 そう考えると、あまり持っていくものが無い。

 武器は持って行った方がいいのかなぁ、ちょっと出してみるか。


 マジックバッグを持って…「武器出ろ」


 大剣・小剣・短剣・ナイフ・杖・小杖・弓・矢が現れる。


 さて、どれにしようか。

 あまり仰々しいヤツはヘンな感じがする。だとしたら、短剣かナイフか。

 手に取って良く見ると、ナイフの方が何とな~く良く見える。

 軽いし、専用の鞘に入れてもバッグに余裕で入るし、コレでいいか。

 じゃあ次は、防具か。防具は要るのか?そもそもわからん。これは後で聞いてみよう。


「武器イン」


 マジックバッグを持って言うと、シュっとお片付け完了。超便利。

 そしたら、防具か。これはアミュさんにアドバイスを受けよう。


「すみません、防具って必要でしょうか?」


「あの辺りなら、いらないんじゃないかな?でも刃物は持っていくといいよ。」


「了解です。ありがとうございます。」


「ふふふ、頑張ってね~。」


 ニコニコしながらヒラヒラと手を振ってくれるアミュさん。


「行ってまいります!」






 流音亭から依頼主の店へは一本道。

 店の前の道を、侯爵の家とは反対方向に歩く事、約20分。


 そうか、この道端で俺は倒れてたんだ。全裸で。

 あれから2日半。俺は今、冒険者として歩いてるんだねぇ…未だに信じられんわ。

 向こうの世界に居たら、普通に残業して普通に深夜に帰ってるんだよな…。


 そんな事を色々考えていたら、見えてきました依頼主の店『薬剤師ライナ』。

 点々と家屋が立っている中の一つといった感じで、お店のような雰囲気はない。看板が無ければ気づかないかもしれない。

 初のクライアント。気を引き締めて行こう。


「失礼いたします。」


「はーい。いらっしゃい。」


 店員さんは、若い娘さんだった。忙しそうにバタバタと走っている。


「ちょっと今立て込んでて、後でもいい?」


「依頼を受けて、冒険者ギルドから来ました。」


「本当に?助かった~!!!ちょうど今から取りに出る所。一緒に行こう!数が多くて…。」


「ただ初めてなので、コツを教えていただきたいのですが、よろしかったですか?」


 彼女が一時停止する。


「…………そっか、う~~ん、まぁ、大丈夫でしょう。ちょっと待って。」


 慣れてから来いやと言われてもおかしくない…と思う。

 今は少しでも労働力が欲しいんだろうな…ぶっつけ本番はダメだったな。


「お待たせ、じゃあ行こう。」


「はい。」


 店員さんが大きな袋を3つとナイフを持って、採集地へ。

 お店の裏にある森に入り、走り続ける。何でそんなに早く走れるのか?息も絶え絶えで必死についていく。

 どんどん森が深くなり、じめっとした雰囲気になり始めた頃、大きな木のあたりで彼女はようやく止まる。


「この辺りがマンドラゴラの群生地。私が抜いて処理するから、どんどん袋に入れてって。」


「了解です。」


 すると徐にしゃがみ込み、草を抜いてヘタの部分をカット、根の部分を俺に投げる。

 それを受け取って袋に。

 抜いてカット投げて袋、抜いてカット投げて袋。

 それを延々と繰り返す。ひたすら草を抜いてカットして投げる。

 コレは手際がいいな~と感心。あっという間に3袋は満杯になる。


「3袋目、もうすぐ満杯です。」


「オッケー、じゃあ袋持って一旦お店戻ります。」


 帰りもダッシュ。店員さんは1袋、俺が2袋。意外と重い…!店員さん速い…!どんな足腰してたらあんなに走れるんだ!?

 情けなくも、若干遅れてお店に着く。


「すみません!若干遅れました!」


「準備するからちょっと待ってて!それ飲んどいて!あと二往復行くよ!」


「はい!」


 言われるがまま、店先に置いてあった飲み物をいただく。

 走り続けてノドがカラッカラなのでありがたい。一気に飲み干す。

 緑茶っぽいけど、ちょっと違うな。割とおいしい。コレ冷えてたら最高だな。


「吐いちゃった?あれ!?飲めた!?」


「美味しかったです!すみません、もう一杯いただいても?」


 変な目で見られながらも、お茶をもう一杯。一気に飲み干す。


「コレ美味しいですね~。」


「う、うん。じゃあ準備できたから、行きましょうか。」


「了解です!」


 今度は、不思議と息が切れなかった。ずっとダッシュで店員さんに付いて行くことが出来た。

 同じ道を走っているせいか、心に余裕が出来たのかもしれない。

 そして、また抜いてカット投げて袋を繰り返し、3袋目が満杯になったのでお店に戻り、そして3往復目も問題なく作業を終えてお店に戻って来た。


「今日はこれで終わりです!ありがとう!本当に助かりました!」


「それでは、こちらにサインをいただいてよろしかったですか?」


 依頼書にサインをいただく。

『ライナ』

 あれ、ライナさんって事は、このお店の店主さん?


「じゃあ、またよろしくです!」


 言い終わる前にお店の奥にダッシュしていきました。

 マンドラゴラがどんなモノだったのかわからないまま、流れ作業&荷運びの俺の初仕事は終わった。


「は~い、ありがとうございました~。」

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