第101話 新築2階建/王城 徒歩5分
ルージュ領バトンの森、冒険者ギルド流音亭を出発して4日。
道中は魔獣や妖魔が出現することはなく、つつがなく王都フラムロスの城門に到着した。
御者のおっちゃんの話では、城門で二人乗り込むって話だったけど、それらしい人は……いた。
警備隊室の影からコソコソと馬車に駆け寄って来る、黒頭巾に黒装束のふたり。
おっちゃんがドアを開けると勢い良く乗り込んで来て俺とナディアの隣にそれぞれ座る。
はす向かいに座った人が俺をビシっと指差す。
「ちょっと!30分も遅刻よ!ジロジロ見られたじゃない!」
前のめりになって吠えるエレナさんでした。前にもあったなこのシチュエーション。
「エレナ様!!!」
声を聴いたナディアがエレナさんに全力で抱き着くと、想定外の行動に慌ててジタバタしている。
「ちょっとナディア!苦しいから!」
「エレナ様……!!!」
そこのお二人さん、車内でギシギシするのはお控えください。
「エレナさん、お顔は見えませんけどご無沙汰してます。恐らくお元気そうで何よりです。じゃぁ~こっちの人はルカ?」
俺の隣に座った黒装束の人が頭巾を取ると、真っ白な毛並みのコボルト。
俺に向き直して、一礼する。
「はい、ルカでございます。アキラ様、ナディア様、ナージャ様。ご無沙汰致しております。」
久しぶりに見るルカの顔は、精悍さが備わったような気がした。
「うん、ご無沙汰ですー。どう?仕事は慣れた?」
「ええ……隊の皆さんから教わる事ばかりで、己の無知と未熟さを痛感しております。」
「何事もいきなり出来る人なんて居ないからさ、焦らずしっかりと学ぶことが大事だよ。大丈夫、ルカなら出来る!」
「ハイっ!」
大きな返事をして礼をするルカ。尻尾は服の中に収納してるようで、ほんの少しだけお尻の辺りがもぞもぞとする様子が見える。
ナージャは早速ルカの頭の上に移動して、モフモフを満喫し始めた。
「ところで二人はもう完成した家は見た?……あの、エレナさん、聞いてます?」
ナディアに強く抱き締められたまま、抵抗するのをやめたっぽいエレナさんがぐったりしている。
「……聞いてるわよ。手紙を出した後は私たちも見てないのよね。ちょっとナディア、頭巾取るから。」
ようやくナディアの熱烈拘束が解かれたエレナさん。頭巾を取り、久しぶりにご尊顔を拝する。
汗ばんで上気した表情にうっかり萌える。
「ふぅ、ちょっとナディア!やりすぎだから!」
「エレナ様……エレナさまぁ~~~!!!」
わんわん泣きながら抱き着く。相変わらずのエレナさんLOVEっぷりを発揮している。
まぁ、美女二人の抱擁は眼福で大変よろしい。思う存分エレナさん成分を充電するがいい。
「じゃぁ~もう行ってもいいんですよね?おっちゃん、次の場所わかります?」
「へい!じゃ、行きますぜ!」
一か月ぶりの再会を楽しみつつ、馬車はいよいよ夢のマイホームに向かって走り出す。
と思ったら1分もしないうちに停車。
「着きましたぜ!旦那!!!」
「え?もう?」
王城正門まで徒歩5分程度の石造りのアパートのような建物の前に路駐した。
王都のメインストリートの一つ、ドゥーズ街道沿いの商業地域の一角で、お貴族様御用達のブランドショップが軒を連ねる、言わば上流階級ゾーン。
「何か間違ってません?」
「いいのよ、ここで。さ!出るわよ!……ほらナディア、出るから。」
馬車から降りて周りを見ると、豪華な馬車がズラっと路駐してる。
お上品な服装のご夫妻が、荷物を抱えた使用人を何人も引き連れて歩いていたりする。
そんな人たちにチラ見される俺ら。うーん、場違い感パネェ。
「それでは銀の剣士様、旦那方。あっしはここで。」
「お疲れ様、ロルフ。」
「おっちゃん、長い事ありがとう。お疲れ様でした。」
帽子を少し上げた一礼をして「またどうぞ」と朗らかに笑い、馬車はUターンして王城方面へ去っていく。
「エレナさん、あのおっちゃん知り合い?」
「ええ、王宮の厩舎に勤めていた人よ。今は引退して長距離馬車の運転手をしてるの。」
「へー、そうだったんだ。で、ここどこ?家どこ?」
俺の質問をガン無視してエレナさんが建物の階段を上がり、玄関扉の鍵を開ける。
「はい、じゃあ説明。これはこの扉の鍵。一人一本支給するから失くさない様に。ナージャは一人で出かける事は―――」
「……無い。」
「そうね、了解。じゃ、入って。ルカは最後に入って鍵を掛けてね。」
建物に入ると、広めの玄関ホール。
正面に木製の引き戸があるだけで、家具も何も無い殺風景な空間。
【ガチャリ】
ルカが鍵を掛けた瞬間、窓が消えて部屋が明るくなった。
「おお、すげぇ。」
どうやらひみつ空間のようだ。メルマナの地下道を思い出す。
でも、こんな街中にこんな仕掛けはアリなんだろうか。
「入口の鍵を掛けたら中に入れるから。じゃあ次。アキラ、ナディア。指を切って血を出して。」
「またまたご冗談を……」
「血の契約ってヤツよ。平たく言うと管理者登録。私とルカは済ませてあるから。ナージャはナディアの分身だから、個別の登録は必要ないわ。」
血って、何かちょっと物騒っすね。
「ほんのちょっとでいいから。何か刃物持ってるでしょ?」
「ええ……まぁ……あ、そうだ。」
ナディアの泉でリンゴをむいた『幸せな気持ちになるナイフ』を取り出す。
コイツで指先を……怖いよう……チョイっ!
「あ、痛くない。」
「では私も……本当ですね。」
「何を喜んでんのよ。じゃ、扉に血を付けちゃって。どこでもいいわ。」
血がにじんだ指を扉につけると、血の跡が光って消える。おおお、何かすげぇ。
「はいオッケー。これで準備完了。」
エレナさんが引き戸に手を掛けると【カチャッ】と音が聞こえた。
勢い良く引き戸を開けると、そこは薄暗い森。どこからかギャアギャアと謎の動物の声が聞こえる。
鬱蒼と茂る木々の合間に苔むした石造りの階段が見える。
「行くわよ。アキラ、扉を閉めてね。」
門扉のような引き戸を閉めると、エレナさんの後を着いて階段を上って行く。
「ここは山ですか?階段、先が見えないですね。随分と長いんじゃないです?」
「そんな事無いわよ。意外とすぐだから。」
「本当ですか?」
上り始めた時は切り出された石の階段だったんだけど、踊り場のような広い場所に着くたびに簡素な足場に変わっていき、ついに段すらない山道になってしまった。もう登山だ登山。ハイキングなんてマイルドなもんじゃない。
仕事で疲れ切って帰って来たとしてさ、この山道はキツくね?
でも俺以外のみんなは元気よく登っているので、己の体力の無さを恥じるべきかと自問自答しながら一歩一歩山を登る。
足ガクガク、汗だくだく。息も絶え絶えに山道を登り切ると、目の前に現れた和風邸宅。
「着いた!!!」
「遅い。だらしねぇな。走って来いよこれぐらい。」
半笑いで罵倒して来たのは、玄関先のベンチに座っていたウィルバート国王陛下。
「あぁ……陛下、ごきげんよう……ってか登山じゃないですかココ。」
「慣れだ慣れ。おまえの身体が鈍ってんだよ。よし、じゃあ早速家の引き渡しだ。」
全然人の話を聞いてくれねえ。相変わらずひどい。
ウィルバートが玄関の引き戸に触れてゴニョゴニョ呟く。
「アキラ、扉に血をつけろ。」
「あぁ、血の契約ですか。」
ナイフで指先を切って血をつけると……特に何も起こらなかった。
また扉が光るものと思ったんだけど。
「よし、これでこの建物はお前のものだ。とりあえず生活に支障無い程度に家具は設置してある。新築祝いのサービスだ。あと、この山は庭だから好きに使っていい。」
「え?」
「じゃ、俺は行くから。良い新生活をな。」
「いやあの!ちょっと待ってください!……ありがとうございます。心からお礼を申し上げます。」
深々と頭を下げる。
「ですけど……山って……てか、ここドコですか?」
「城から徒歩5分、大きな家、広い庭、静かな環境、治安良好。お前の要望を最大限に考慮した最高の物件じゃねぇか。」
「いやまぁ、そうですけど……せめて、今俺がどこに居るのかを……」
「悪ィな、今日はスケジュールが詰まってんだ。知りたければエレナに聞け。じゃぁな。」
そう言うと、本当にさっさと帰ってしまった。
「いや……何と言うかなぁ……エレナさんは聞いてるの?」
「まぁね。その話は後にして、早く入らない?」
「……いやっほう~」
ナージャがルカから飛び降りて玄関扉を開け、猛ダッシュで中に入って行ってしまった。
「あっ!ナージャ!ちょっと!」
「まぁまぁ、エレナさん。じゃ、みんなで入りましょうよ。さぁ、どんな感じかな……」
広々とした玄関に入ると、やや低めな上がり框の前には大きな脱ぎ石。
見上げると、吹き抜けになっている高~い天井。
漆喰のような白い壁と濃い色の縦格子の窓のコントラストが、和風の伝統的スタイルなのにモダンな雰囲気。
紫の騎士ことアーレイスク……ただの変な人と思ってたけど、ここまでちゃんと造ってくれるとは思ってなかった。
「まだ玄関だけど……俺は今、猛烈に感動しています。」
「模型でこうなる事はわかっていたけど、実際に中に入ると違うわね。素敵だわ。」
靴を脱いで、まずはリビングへ。
引き戸を開くと、まず目に飛び込んできたのが、光が降り注ぐ大きな窓の向こうに幾重にも続く山並み。
「おおっ!すげぇ!!!」
「これは素晴らしい景色ですね……」
ナディアからこぼれる感嘆の一言。見事な景色だけど、どんな標高にある家なんだと思った。
窓に近づいて行くと、その先はウォークスルーの広いバルコニーになっていて、階段で下に降りられるようになっている。
「そっか、柵を視界に入れないようにしてるのか。考えてるな。窓はどっち向きなんだろう。」
「今ぐらいの時間にこんだけ光が入ってるって事は、南向きなんじゃない?あとホラ、このソファーは私が選んだのよ。」
20畳はあろうかと思われる広いリビングの中央には、薄いベージュの革張りのソファーに、広い木製のローテーブル。
エレナさんがソファーに座ると、その隣にナディアも座る。
「あっ……レナートさんの別荘のソファーと、座り心地が同じですね。」
「あら、ナディアは気付いちゃった?ホラ、アキラもルカも座った座った!」
促されて座ると、尻にフィットするこのフカフカ感。
「あぁ~、これはそうだね。レナートさんちのソファーだわ。」
「普通に買ったら結構いい金額しちゃうんだけど、コレ中古なのよ。アキラはそういうのはイヤだった?」
「いや、俺はそう言うのは気にしないというか、むしろ中古でいいじゃないですか。全然へたれてませんよね。というか、リサイクルショップ的なお店があるんですか?」
「そこそこ大きな街には大体あるわね。たまたまお店に搬入してる所を見つけて、これは!と思ってすぐに話して決めちゃった。」
まさかリサイクルショップがあるとは思わなかった。どんな物を売ってるんだろうな。今度行ってみよう。
ボフっと深く腰掛けて見上げてみる。
「リビングも天井が高いね。これは平屋の高さじゃない?あの梁がむき出しになってるのがいい感じだなぁ……ヤバい、今は落ち着いてる場合じゃない。家の中を見て回らなきゃ。」
まずはリビングと繋がっているキッチンから。
設備はアイランド型のオープン対面キッチン、壁に据え付けられた食器棚、大容量の魔石式冷蔵庫。
廊下からも出入り出来るようになっていて、入ってすぐの場所にパントリーが設けられていた。
パントリー広いなぁ。ここに住める勢いだわ。
では次、リビングから玄関ホールに出る。
ホールには2つの引き戸があって、魔石式水洗トイレと物置だった。
トイレはいいとして、この物置がね。
「これ広すぎじゃない?」
「確かに……ちょっと持て余してしまいますね。」
幅100m×奥行き100m×高さ10mほどのだだっ広い空間。
俺たちが入った扉の他に、玄関から土足のまま入れる扉もあって、どっちからでも入室可能になっている。
ナディアと顔を見合わせて、こりゃどうしたもんかと唸る。
「大は小を兼ねるって言うじゃない。使い方はこれから考えればいいのよ。じゃ、次行くわよ。」
エレナさんに促されて階段横の廊下を進むと、左手にはキッチンに繋がる引き戸が1つ。
右手には扉が2つあり、ともに10畳ほどの客間。床の間付きの畳張りの和室と、和モダン風の和室。
「客間のどっちかが俺の部屋って言われても納得するわ。」
「これで客間……あんたの部屋はどんな事になってんのかね。」
廊下の突き当りに浴室。広々とした脱衣場から、檜のような落ち着く香りに満ちた木造の内風呂と洗い場。
奥にある引き戸から外に出ると、大小様々な天然岩に囲まれた、大きな露天の岩風呂。
「内風呂もいいけど、広さといい景色といい、この露天は最っっっっっっ高だね!!!」
「この家の周囲は誰も居ないから、いつでも気兼ねなく入れるじゃない?」
「人は居ないにしても、妖魔とか魔獣は大丈夫なのかな。山奥って割と危険なイメージがあるんですけど。」
「その時はホラ、討伐やら駆除は頼むわね。それは家主の仕事よ。」
「まぁそれはいいんですけどね……風呂入ってる時に襲撃されたら、全裸で戦うって事?」
お風呂のお湯張りなどはタッチパネル的な魔石での制御。自動でお湯張り、沸かし直しも制御できるって。ハイテク!
ただ『お風呂が沸きました』とは言ってくれないらしい。あの音楽と声があれば完璧なんだけどな。
それはそれとして今のうちにお湯を溜めておこう。すっげぇ楽しみ!
さて、2階に上ると廊下に6つの扉。左側の手前から納戸、ナージャの部屋、俺とナディアの部屋。右側の手前から空き室、ルカの部屋、エレナさんの部屋。
「一部屋ずつ見て行こうか。」
まずは左側の手前にある納戸を開けてみると、物置と同程度の広さ。
「だから広いって。」
「深く考えないようにしましょ。次!」
空き部屋は元々ナディアが入る予定だった部屋。俺とナディアは二人で一部屋になるので、空き部屋としてそのまま残してもらった。
開けてみると10畳ほどの部屋で、ベッド、ソファー、テーブル、クローゼットが配置していた。
冒険者ギルド流音亭の宿泊室を思い出す。
「ここはいつか使う時に、アーレイスクに依頼して改造する感じ。」
「何かこう……普通ですね。まぁ予備だからいいか。そしたら次はナージャの部屋かな。猛ダッシュで部屋に行っちゃったけど、どんな感じにしたんだ?」
【コン、コン、コン】
『……はいよ~』
「入ってもいい?」
『……どうぞ~』
ドアを開けると、ソファーに寝っ転がって大きな犬のぬいぐるみを抱いている、小学生サイズのナージャが居た。
部屋の内装に驚きを禁じ得ない。
「ちょっとナージャさん……何で俺の実家の居間?」
「……落ち着く。」
モノで溢れる適度なゴチャつき感が、実家の居間をリアルに再現していた。何でもアリだな。
アーレイスクも居間に入ったから覚えていたとか?それとも勝手に向こうに行って調べてる訳じゃないだろうな。怖いよ。
あと、さすがにしんちゃんのDVDは観てなかった。
ナディアとエレナさんが「いいなぁ」って言ってる……どうして?
そいやっとソファーから飛び起きてルカに密着するナージャ。
大きなわんこにしがみつく少女的な絵面。
「……よ~し、次行ってみよー。」
「ナージャ様、ご成長なされましたね。」
「……もっとデカくなるぞ。」
さて、次はルカの部屋。
「ここはルカに開けてもらおうかな。」
「承知いたしました。それでは、ご覧ください。」
ドアを開けると、空き部屋と全く変わらないシンプルな設備だった。
「え?何もイジってもらわななかったの?」
「私は部屋を与えていただくだけで、充分でございます。」
謙虚というか何と言うか……ここまで無欲過ぎると、逆に心配になっちゃう。
「でも、アレだよ?もし、こうしたいって思う時が来たら、遠慮なく言ってね。それも成長の糧だからね。」
「はい、承知いたしました。」
「そしたら次は、エレナさんの部屋かな。いいです?」
「私の部屋もルカ程じゃないけどシンプルよ?それより、アキラとナディアの部屋を見てみたい。いいでしょ?」
「お、いいんですか?では、お言葉に甘えて俺とナディアの部屋から行っちゃいますか?じゃぁナデイア、折角だから一緒に開けようか。」
「はい!」
「いいからホラ。開けて開けて。」
軽くイチャついた所をエレナさんに急かされる。
ナディアも引き戸に手を添えて一緒にゆっくり開いていく。
畳の良い香りと共に現れたのは、純和風の落ち着いた造りの部屋だった。
「シブいな……もっとモダンな感じになると思ってた。」
「そうね、ちょっと意外。」
20畳ほどの畳敷きの部屋。ド真ん中には一枚板で重厚感あふれる座卓が鎮座している。デカいよ。
二人ずつ対面でゆったり座れるほどの大きさで、深い赤色の座布団が敷かれている。
あと、大きな窓には内障子が取り付けられていて、直射日光を軽減して適度な明るさになっているのが嬉しい。コレがあるのと無いのとじゃ、過ごしやすさが全然違うんだよね。
レースのカーテンでもいいけど、やっぱり和室には障子だな。
「そちらの壁は、扉になっているんですね。奥にうっすらと何かが見えるような……」
「あぁ、それは部屋の間仕切りの役目をする、襖という引き戸だよ。開けてみよっか。」
格子襖の向こうは寝室でした。
入り口のそばに低めの3人掛けカウチソファーとローテーブル。
部屋の奥にはクイーンサイズのベッドが置かれ、その両脇には和箪笥の装飾が施されたベッドサイドテーブルが置かれている。
「寝室は和モダンか。布団の上げ下げは大変だから、ベッドなのはありがたいなぁ。」
「ベッド広いわね~!みんなで寝れるんじゃない?」
「いや、さすがに大人4人は厳しくないですか?」
「何言ってんの。あんたはそこのソファーがあるじゃない。」
「……ですよねー。」
この他にも、やや低めな戸棚やウォークインクローゼットなど、収納も十分に確保されている。
俺にとっては充分すぎる程の部屋を造っていただいたと思う。
だけど何と言うか……アーレイスクが本気を出すと言ったのは、本気で和室を構築するという事だんだろうか。
何かトリッキーな仕掛けがあるような気がするんだよなぁ……。
「何ボーっとしてんの。」
ヌっと目の前に現れるエレナさん。
「おおう、ちょっと考え事を。じゃぁ、ラストはエレナさんのお部屋を拝見させていただきましょうか。」
「いいんだけど……つまらないわよ?」
俺とナディアの部屋を出て、向かいのエレナさんの部屋へ。
「ハイ、どうぞー。」
扉を開けると、やや狭めの空間。
右の壁に扉が2つ、左にも扉が2つ。正面に扉が1つ。
「結構細かく仕切られていますね。」
「用途ごとに分けてるからね。」
右の手前の扉を開けると、洗面所と浴室。
「そっか、内風呂を作ってもらったんですね。」
「仕事で不規則な時間帯に帰る事があるから、ササっと入る時用にね。」
右の奥の扉を開けると、ここは10畳ほどの書斎。
手前には本棚が並び、奥の壁際にしっかりしたテーブルが配置されている。
「ここは仕事部屋ですか?」
「まぁ、近いかな。仕事で使う資料の保管部屋ね。」
玄関正面の扉を開けると、何もない8畳ほどの部屋。
「正面のここがメインの部屋と思いました。あれ?ここは何用の部屋ですか?」
「物置。今は何もないから、空き部屋状態ね。」
「はー、なるほど。」
あれ?この間取りは、もしかして。
「で、そこがトイレね。で、コッチが居間。どうぞ。」
左の玄関手前の扉が魔石式水洗トイレ、奥の扉を開くと15畳ほどの居間。
ソファーとテーブル、飾り棚が配置されている。
居間に入ってすぐの左奥には独立キッチンがあり、部屋の左隣にもう一部屋、和室がある。
「エレナ様のお部屋にも、畳を敷いていただいたんですね。」
「そうよ。畳の上で眠るのもいいかなって思ってね。」
「じゃぁエレナさん、向こうの和室の左側にクローゼットか、押入れがある感じですね?」
「あら、やっと気付いた?」
エレナさんがニヤリと笑う。
その意味がわからないナディアがキョトンとしている。そりゃそうだ。
「ナディア、エレナさんの部屋の間取りって、俺が向こうで一人暮らしをしている部屋の間取りそのまんまなんだわ。エレナさん、よく覚えてましたね。仕事部屋と物置はあの時案内しなかったんですけど、勝手に覗きましたね?」
「そりゃ面白そうな所は探検ぐらいするわよね~。ま、どの部屋も整理整頓されていない、ぐっちゃぐちゃの状態だったけどね。」
オホホと高笑いするエレナさん。ぐうの音も出ない。いつだ?俺が寝てる時か?
……まさか、押入れも開けたワケじゃないだろうな……じっとりした目でエレナさんを見る。
「何よ。」
「押入れは開けてませんよね?」
「押入れ?あ~~~押入れね。知らない知らない。見てない見てない。」
ワルっそうな顔してニヤニヤするエレナさん。
見たね……この顔は見た顔だ……。
アレは……薄い本は女子には見られたくないんだからね!
色々バレるじゃないかコンチクショウ。
こうなったら内容はどうだったか問い詰めてやりたい。
「じゃ、おうち探検はこれで終わり!忘れないうちに業務連絡ね。私とルカは明日も仕事。ルカは6時登城、私は8時登城。ナディアにはエレオノーラから伝言。明日の9時に王城の総合案内で、侍女の講習会で登城したと伝える事。服装は華美じゃないものを着用の事。持ち物はナシ。ナディア、いいわね?」
「はい、承知いたしました。」
ルカは早いなぁ~!さすがは軍関係だな。
そしたら家を出るのは5時40分くらいか……うーん?素朴な疑問が沸いてきた。
「ルカ、朝ごはんはどうしてるの?」
「朝食は、隊から携帯食料が支給されます。」
「携帯食料?前にリンツにもらった事あるヤツかな。アレ、マズくない?」
甘じょっぱくて、酸っぱいニオイがして、硬くて、よく噛んでるとモチモチしてきて水が無いと飲み込めないヤツ。
何をどう加工したらこうなるのか、最後まで教えてくれなかった謎の棒状固形物。
「空腹は満たされますし、食事をいただけるだけでも有難いことですので……」
何と言う事を……
「いや、わかった。隊の掟でそれを食べなきゃいけないならしょうがないけど、朝食は俺が作るから食べて出勤するように。」
「いえ!お手を煩わせる事など―――」
「朝食は一日の活力です。エレナさん、王城付近にスーパーみたいな場所ある?」
「市場ならあるけど……え、何?アキラが朝食作るの?……作れるの?」
信じられない物を見る目をするのはやめていただきたい。
大体、ウチに来てた時だって……あ、あの時はシリアルしか出してないのか。
「ま、明日の朝食の話をする前に、まずは今日の夕食よ。引っ越し祝いを兼ねて、今日は外に食べに行かない?いいお店があるのよね。帰りにお惣菜を買って、明日の朝食にしてもいいんだし。ね、どう?」
あら、エレナさんからの思いがけない提案。
「いいですね!アキラさん、いかがですか?」
「そうだね。せっかくのご提案、ありがたくお受けします。そしたら……お風呂のお湯を止めなきゃね。」
「じゃ!早速行くわよ!!!」
「ちょっと!!!待って!!!お湯の止め方教えて!!!」
そんな訳で王都移住の初めての夕食は、たとえ大貴族であっても予約は一か月待ちの有名レストラン。
エレナさんが王都に来てすぐ、今日で予約を入れてくれていた。ありがとうございます!
リーズナブルな値段なのにボリューム満点で、もう大満足。
久しぶりにみんなで飲んで食べて話して、楽しい食卓を囲んだのでした。
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