第66話 近場の実家に里帰り

 豪華な和風邸宅の居間。


 上座に鎮座するのは、穂邦ほぐに高校の御手洗みたらい理事長こと、フラムロス王国の国王ウィルバート。通称はクソジジイとか狸ジジイとか。好きな罵詈雑言を当てはめていただければいいと思う。コイツが俺を元の世界に転移させた張本人。あとの人達も、似たような魔法かなんかでコッチに送り込んできたんじゃないかと思う。


 俺の右隣には、2年1組 御手洗みたらい 絵玲奈えれなこと、王妃守護隊の隊長を拝任し、同時に王妃の分身から、一体のニンフとして転身したエレナさん。最近はエレナちゃんの姿になって可愛らしさ方面にステータスが振り切れている。


 俺の左隣には、穂邦高校で社会科を教えている赤城あかぎ先生こと、ルージュ侯爵領の領主、赤の騎士団・剣士隊を率いる当代の赤の騎士レナートさん。完璧超人。


 ここには同席してないけど、俺が見守る対象のジャムカは南雲なぐも 小太郎こたろうとして、王妃守護隊の前隊長のスカンダはいけ 瞬之介しゅんのすけとしてこちらに転身して、赤城先生の家でお留守番中。


 さて、ウィルバートが話を切り出す。


「やっぱりまた会っただろ?」


「陛下に置かれましてもご機嫌麗しゅうございます。」


 5体のフィギュアをテーブルの上に並べ、ご挨拶の口上を述べる。

 顔は右を向いて正面の陛下に頭を下げる、傾奇者スタイルの俺カッコイイー!


「そういうのいいから。髷が無いとわかりにくいから。で、どうだった?」


 エレナさんは元ネタを知ってたっぽく冷静なツッコミ。いつそのマンガを?


「前に黒村くろむらと向こうで会った時に言ってたのが、もう一つのフィギュア……人形を持ってくるべきだったと。それを妖魔の3人が取りに来たようでした。」


「実際に、それはあったの?」


 アイドルの衣装を着たフィギュアを手に取る。


「コレです。この人形と対になるように飾っていたもう一体の人形は、向こうで黒村が持っています。何人かの友人と相談して、その一体は棺桶に入れました。これは、部屋に戻しておきました。」


「わかった。それはここで保管する。他は?」


 人形を下から覗くな。パンツを見るな。おっさん。


「黒村がこれらに対して何を思うかはわかりません。ですが、念のため全て一緒に保管していた方が安全と思います。」


 顎に手をやり、一考するおっさん。ポーズだろ。絶対深く考えてないだろ。


「妖魔どもには、何を差し出したんだ?」


「黒村が大好きな人形ですよ。それは間違いありません。アレを差し出された瞬間に、俺の記憶が戻っている事を間違いなく理解するでしょうね。その人形で何をするかはわかりませんが。」


 アイツはアレを見て、どんな顔をするんだろうな。

 直に見れないのが本当に残念だな。


「わかった。あと、奴らから先ほど電話が来た。業務に支障を来している状況となったため、講師は辞退させていただきたいと。楠木くんにもよろしく、などと言っていたぞ。随分と好かれたようだな。」


「用が済んだら切る。はっきりしてていいじゃないですか。」


「オマエはそうして欲しいのか?」


「遅くとも1ヵ月、せめて2週間前には周知頂きたいものです。それなりに覚悟出来ますから。」


「善処しよう。」


 無理だな。


「さて、この世界での目的は達成した。帰還して引き続き作戦準備だ。メルマナから軍使が来る迄には、バルセート公の記憶を戻してほしいものだ……あと、おまえ達はいつ帰る?」


「私とジャムカ、スカンダはすぐにでも戻ります。これは、既に二人とも話を決めてあります。」


「そうか。じゃあ準備が出来たらここに戻って来い。エレナは?」


「私は……明日がいい。もう少しコッチで調べたい事があるから。」


「わかった。アキラ、お前はどうする?このままここに残るか?」


「もちろん行く。でも、エレナさんと同じく明日にする。用事を済ませに実家に行って来る。」


 ロムさんのお参りに行って、自分の家のお参りに行かない訳には行かないからなぁ。

 これからフラっと行って来るかな。


「わかった。じゃあ、明日は夕方に出る予定にしておく。以上だ。」


 という訳で、今日は解散。エレナさんも玄関先に出て来て、レナートさんと一時のお別れ。と言っても、明日には向こうで会うんだけどね。

 ちなみに赤城先生が所有している赤いスポーツカーは、左ハンドルにライオンのエンブレム。どことなく顔つきが、騎乗魔獣の双獅子ちゃんに似てる気がする。異世界間の共通点の多さに驚くわ。


「アキラさん、現在私たちは、バトンの森の別荘を行動拠点としています。流音亭に戻られた後、是非ともお立ち寄りください。」


「わかりました。あと、向こうに戻りましたら、明日帰るとナディアに伝えてもらっていいですか。」


「承知致しました。必ず、お伝えします。」


「ではまた明日、向こうで。」


「はい。エレナ様、お先に失礼致します。アキラさん、お待ちしています。」


 レナートさんの車が爆音を轟かせ、閑静な住宅街を走り去っていく。

 コッチの赤城先生、かなりクルマ大好きっ子ですね……。


「さて、俺はちょっと実家に行って来るかな~。」


「ねぇ、私も行っていい?」


「そりゃまぁ、構わないけど。」


「じゃあ、ちゃんとご挨拶しないとね。」


「ご挨拶?」


「第二夫人です~って。」


「ちょっと……そういうのシャレにならんからやめて……」


 すると、ウィルバートも玄関先に出て来た。


「アキラ、お前には期待している。此れは嘘偽りない。」


「期待に応えるように、努力はする。」


「ジャムカを見守る使命、それはお前にしか出来ない。それだけは忘れるな。……くれぐれも頼むぞ。」


 いつもの、演技がかった雰囲気ではなかった。

 初めて見たウィルバートの、真剣そうに見える目。でもまぁ、狸ジジイだからなぁ。

 とは言え、優等生のお返事で。


「……はい。承知しました。」


「エレナ、今日もアキラの家か?」


「そうよ。」


 決定事項のようだ。

 調べ物か……ネットとかは使っていたのかなぁ。

 実家から俺の家に戻ったら、パソコンでも使ってもらうとしよう。




 実家までは車で40分程度。予想通り車が数台停まっていた。

 先に電話で帰る事は伝えていたので、ギリギリ停められるくらいに空けていてくれた。


「ここがアキラの家?」


「そうそう。ちょっと狭いけど、まぁその辺りは気にせずでよろしく。」


【ピンポーン♪】


『はーい。』


「ご無沙汰でーす。アキラでーす。」


 玄関ドアの向こうからパタパタと音が聞こえ、ドアが開く。


「おー、アキラ久しぶり。今年は帰って来ないかと思ってた。」


「ちょっと落ち着いたから来れたんだ。あと、一人お客さん連れて来た。入っていいよ。」


「こんにちわ。始めまして、御手洗 絵玲奈です。」


「はーい、いらっしゃい!アキラの姉のいおりです~。よろしくね~!さ、入って入って!母さん!アキラ来た!彼女連れて来た!!!今日は親族ご一統様が集まってるんだわ。ちょっと狭いけど、気にしないでね!!!」


 そう言って、台所方向へ走って行った姉ちゃん。


「お姉さん、パワフルだね……」


「うん。姉ちゃんには本当に頭が上がらないんだよね。」


「……彼女って言ってたよ?」


 エレナさん、ちょっと、もじりとして。


「まぁ、否定する余裕ナシで戻って行ったからなぁ。」


「……今日ぐらいは、いいんじゃない?」


「じゃあ今日はそれで、よろしくお願いします。」


 居間に入ると、親族の皆さんがどわ~っと飲んだくれていた。



「おお!アキラ!久しぶりだな!」


「麻雀やるぞ!おい!誰か抜けろ!カモが来たぞ!」


「ちょっと!花札のメンツ足りないんだけど!」


「ウーノ!ウーノ!」



 あまりの勢いに圧倒されるエレナさん。


「楠木家、こうして親族が集まると、酒飲んでテーブルゲームに興じるのが習慣なんだよね。」


「すごいね、賑やかだね……何か、冒険者ギルドみたい……」


「マジか。こんな雰囲気なの?俺、流音亭しか知らないからなぁ。あそこは静かで―――」


【ワン!ワン!ワン!!!】


 玄関で、元気よく犬が吠えている。この声は、実家で飼っている小型犬のたーくんだ。


「あら、アキラ兄さん。ご無沙汰です~。」


「おお、こずえちゃん、ご無沙汰してます。たーくんの散歩行ってくれたの?」


「そうそう。えっと、その子は?」


 エレナさんをチラリと見る。


「ああ、こちらは……」


「御手洗 絵玲奈です。アキラの……彼女です。初めまして。」


 おお!なるほど!という表情をする梢ちゃん。

 何を考えたのか一発でわかる、ナイスなリアクションをありがとう。


「アキラ兄さんの従妹の、楠木くすのき こずえです。よろしくお願いしますね。ちょうど良かった。兄さん、私も紹介しておくわ。」


 梢ちゃんの後ろから現れた、たーくんを抱きかかえた人物を見て、俺もエレナさんも、目が点になる。


「梢さんとお付き合いをさせていただいています、佐々木ささき 清時きよときといいます。よろしくお願いします!」


 ジャムカやスカンダと一緒にパーティーを組んでいるリーダー、アレクシオスの髪を真っ黒にした人。

 レナートさんが最初に俺に与えた使命で、見つけ出す対象だったその人。

 あまりにも似すぎているので、俺とエレナさんが一瞬固まってしまった。


「……あぁ!どうも、従兄の楠木くすのき あきらです。何か、初めて会った気がしないです。ははは。で、こちらが……」


「御手洗 絵玲奈です。アキラさんとお付き合いをさせていただいています。」


「二人とも、よろしくお願いします!実は、弟も来る予定だったんですけど、急にバイトが入ってしまって来れなくなったんですよ。」


 梢ちゃんがスマホを取り出して、何やら探して見せてくれた写真。


「コレが清時きよときの弟の清家きよいえ。金髪ロングのストレート。派手でしょ~?でもすごくいい子なんだよ。」


(エレナさん、コレ……)


(セイラロスそのまんまじゃない。何?転移?どうなってんの?)


「えっと、弟さん、ビジュアル系ですね……」


 軽くテンパった俺は、何を言ってんだか分からないコメントをしてしまう。


「梢姉さーん!『ガラスの鉄仮面』の14巻持って行った?」


 二階から大声が聞こえる。


「持ってってないよー!」


 それに大声で答える梢ちゃん。


「今のはあきらちゃん?」


「うん。兄さんの部屋でマンガ読んでる。」


「じゃあ、ちょっと俺の部屋に行くか……あれ?龍は来てないの?」


「うん。剣道部の合宿。何処かの山奥の寺に行ったみたいだよ。全然連絡がつかない場所だって。」


「そっか。まぁ、ゆっくりして行ってね。佐々木さんも……ゆっくりできないかもしれないけど、おっさん共は適当にあしらってあげてください。」


「ええ、ありがとうございます。あっ!コラ!たーくん!!!」


 我が実家の愛犬たーくんが、清時くんの腕をすり抜けてオードブルの肉へまっしぐら。

 普段は絶対にやらない行動を起こすという事は、人が多くてテンションが上がってるんだな。


 色々と圧倒されているエレナさんを連れて、二階にある俺の部屋へ移動。

 相変わらず、モノに溢れている家の中だな……また色々と母さんの趣味が増えたな?


「今、俺の部屋に居るのは、さっきの梢ちゃんの妹の晶ちゃん。で、さっき山奥の寺に居ると言ってたのが、真ん中の弟でりゅうというヤツが居るんだよね。」


「アキラの家、親戚多い?」


「まぁ、時節柄集まってるだけだよ。普段、この家には母と姉の二人で暮らしてる。」


「あれ?アキラ、お父さんは?」


「あぁ、5年前に病気で亡くなったんだ。」


「えっ!あ、その……ゴメン……」


「いやいや、全然気にしなくていいよ。」


【コンコンコン】


『はーい。』


「アキラです。入るよー。」


『どうぞー。』


 ドアを開けると、俺が昔使っていたベッドに寝っ転がって、マンガを読み耽る女の子。


「どうぞって、俺の部屋でしょ。晶ちゃん久しぶりー。」


「はーい、おひさしーって……アキラ兄さん……その子……」


「初めまして。アキラの彼女の、御手洗 絵玲奈です。」


 晶ちゃんがベッドの弾みで勢いをつけ、エレナさん目掛けてダッシュ。


「私、楠木くすのき あきらです。アキラ兄さんの従妹です。すごい……肌白い……髪の色は、自然なんですか……?すっごくキレイ……カワイイ……くちびる……」


 今までにない種類の圧がかかるエレナさん。

 晶ちゃん、確かにエレナさんみたいな子、大好きだろうなー……。


「あの、コスプレとか興味ないですか……?」


「晶ちゃん、俺の彼女をそっちに引きずり込まないでもらえる?」


「えー!凄いよこの人!ポテンシャルの塊だよ!この世に現れた妖精さんだよ!!!」


 あながち、間違っていない所が見る目あるというか、何と言うか。


「ダメダメ。俺が許しません。誰にも見せません。ちょっと探し物があるから、出てってもらってもいいかなぁ。」


「ずるい!!!二人っきりにはさせない!!!」


 そんなやり取りの末、個室で晶観賞用のコスプレ撮影会をするという事で手を打たされ、ようやく一息ついた。

 俺はベッドに腰かけ、エレナさんは勉強机の椅子に座って、くるくると回転している。


「ゴメンね~。ついてこない方が良かったんじゃない?」


「アキラの親族、すごいわね。本当にびっくりした。でも、いい人ばかりよね。」


「そうだなぁ、それは認める。何かもう疲れた。ちゃちゃっと探して、家に戻るかぁ~。風呂に入りたい~!」


 この世界から持って行こうと思っているもの。

 実際、向こうの世界に行っても困る事って殆ど無かったんだよな。

 なので、黒村の写真が写っている高校の卒アルを持って行くぐらい。


「ホラ、コレだよ。高校にあったヤツ。」


「あぁ、持ってたのね。でもさぁ……アキラ、昔と今、雰囲気違くない?マジメそうな感じでさぁ……」


「そりゃそうだよ。10年近くも経てば、人間は変わるというものです。そしたら、俺のとっておきでも見せちゃおうかな?」


 友人を家に呼んだ時に必ずと言っていいほど見せてしまう、俺のプリティ時代。

 幼少期のアルバムを見せつけてやるのです。


「うわぁ~~~~!!!全然違う!!!カワイイ!!!」


「ふっふっふー、そうだろう。存分に可愛さを満喫してくれたまえ。」


 キャーキャー言ってくれるのは嬉しいね。


 ……そうか、向こうには無くて、何かに残せるもの。確か、爺ちゃんのコレクションの中にあったよな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る