第66話 近場の実家に里帰り
豪華な和風邸宅の居間。
上座に鎮座するのは、
俺の右隣には、2年1組
俺の左隣には、穂邦高校で社会科を教えている
ここには同席してないけど、俺が見守る対象のジャムカは
さて、ウィルバートが話を切り出す。
「やっぱりまた会っただろ?」
「陛下に置かれましてもご機嫌麗しゅうございます。」
5体のフィギュアをテーブルの上に並べ、ご挨拶の口上を述べる。
顔は右を向いて正面の陛下に頭を下げる、傾奇者スタイルの俺カッコイイー!
「そういうのいいから。髷が無いとわかりにくいから。で、どうだった?」
エレナさんは元ネタを知ってたっぽく冷静なツッコミ。いつそのマンガを?
「前に
「実際に、それはあったの?」
アイドルの衣装を着たフィギュアを手に取る。
「コレです。この人形と対になるように飾っていたもう一体の人形は、向こうで黒村が持っています。何人かの友人と相談して、その一体は棺桶に入れました。これは、部屋に戻しておきました。」
「わかった。それはここで保管する。他は?」
人形を下から覗くな。パンツを見るな。おっさん。
「黒村がこれらに対して何を思うかはわかりません。ですが、念のため全て一緒に保管していた方が安全と思います。」
顎に手をやり、一考するおっさん。ポーズだろ。絶対深く考えてないだろ。
「妖魔どもには、何を差し出したんだ?」
「黒村が大好きな人形ですよ。それは間違いありません。アレを差し出された瞬間に、俺の記憶が戻っている事を間違いなく理解するでしょうね。その人形で何をするかはわかりませんが。」
アイツはアレを見て、どんな顔をするんだろうな。
直に見れないのが本当に残念だな。
「わかった。あと、奴らから先ほど電話が来た。業務に支障を来している状況となったため、講師は辞退させていただきたいと。楠木くんにもよろしく、などと言っていたぞ。随分と好かれたようだな。」
「用が済んだら切る。はっきりしてていいじゃないですか。」
「オマエはそうして欲しいのか?」
「遅くとも1ヵ月、せめて2週間前には周知頂きたいものです。それなりに覚悟出来ますから。」
「善処しよう。」
無理だな。
「さて、この世界での目的は達成した。帰還して引き続き作戦準備だ。メルマナから軍使が来る迄には、バルセート公の記憶を戻してほしいものだ……あと、おまえ達はいつ帰る?」
「私とジャムカ、スカンダはすぐにでも戻ります。これは、既に二人とも話を決めてあります。」
「そうか。じゃあ準備が出来たらここに戻って来い。エレナは?」
「私は……明日がいい。もう少しコッチで調べたい事があるから。」
「わかった。アキラ、お前はどうする?このままここに残るか?」
「もちろん行く。でも、エレナさんと同じく明日にする。用事を済ませに実家に行って来る。」
ロムさんのお参りに行って、自分の家のお参りに行かない訳には行かないからなぁ。
これからフラっと行って来るかな。
「わかった。じゃあ、明日は夕方に出る予定にしておく。以上だ。」
という訳で、今日は解散。エレナさんも玄関先に出て来て、レナートさんと一時のお別れ。と言っても、明日には向こうで会うんだけどね。
ちなみに赤城先生が所有している赤いスポーツカーは、左ハンドルにライオンのエンブレム。どことなく顔つきが、騎乗魔獣の双獅子ちゃんに似てる気がする。異世界間の共通点の多さに驚くわ。
「アキラさん、現在私たちは、バトンの森の別荘を行動拠点としています。流音亭に戻られた後、是非ともお立ち寄りください。」
「わかりました。あと、向こうに戻りましたら、明日帰るとナディアに伝えてもらっていいですか。」
「承知致しました。必ず、お伝えします。」
「ではまた明日、向こうで。」
「はい。エレナ様、お先に失礼致します。アキラさん、お待ちしています。」
レナートさんの車が爆音を轟かせ、閑静な住宅街を走り去っていく。
コッチの赤城先生、かなりクルマ大好きっ子ですね……。
「さて、俺はちょっと実家に行って来るかな~。」
「ねぇ、私も行っていい?」
「そりゃまぁ、構わないけど。」
「じゃあ、ちゃんとご挨拶しないとね。」
「ご挨拶?」
「第二夫人です~って。」
「ちょっと……そういうのシャレにならんからやめて……」
すると、ウィルバートも玄関先に出て来た。
「アキラ、お前には期待している。此れは嘘偽りない。」
「期待に応えるように、努力はする。」
「ジャムカを見守る使命、それはお前にしか出来ない。それだけは忘れるな。……くれぐれも頼むぞ。」
いつもの、演技がかった雰囲気ではなかった。
初めて見たウィルバートの、真剣そうに見える目。でもまぁ、狸ジジイだからなぁ。
とは言え、優等生のお返事で。
「……はい。承知しました。」
「エレナ、今日もアキラの家か?」
「そうよ。」
決定事項のようだ。
調べ物か……ネットとかは使っていたのかなぁ。
実家から俺の家に戻ったら、パソコンでも使ってもらうとしよう。
実家までは車で40分程度。予想通り車が数台停まっていた。
先に電話で帰る事は伝えていたので、ギリギリ停められるくらいに空けていてくれた。
「ここがアキラの家?」
「そうそう。ちょっと狭いけど、まぁその辺りは気にせずでよろしく。」
【ピンポーン♪】
『はーい。』
「ご無沙汰でーす。アキラでーす。」
玄関ドアの向こうからパタパタと音が聞こえ、ドアが開く。
「おー、アキラ久しぶり。今年は帰って来ないかと思ってた。」
「ちょっと落ち着いたから来れたんだ。あと、一人お客さん連れて来た。入っていいよ。」
「こんにちわ。始めまして、御手洗 絵玲奈です。」
「はーい、いらっしゃい!アキラの姉の
そう言って、台所方向へ走って行った姉ちゃん。
「お姉さん、パワフルだね……」
「うん。姉ちゃんには本当に頭が上がらないんだよね。」
「……彼女って言ってたよ?」
エレナさん、ちょっと、もじりとして。
「まぁ、否定する余裕ナシで戻って行ったからなぁ。」
「……今日ぐらいは、いいんじゃない?」
「じゃあ今日はそれで、よろしくお願いします。」
居間に入ると、親族の皆さんがどわ~っと飲んだくれていた。
「おお!アキラ!久しぶりだな!」
「麻雀やるぞ!おい!誰か抜けろ!カモが来たぞ!」
「ちょっと!花札のメンツ足りないんだけど!」
「ウーノ!ウーノ!」
あまりの勢いに圧倒されるエレナさん。
「楠木家、こうして親族が集まると、酒飲んでテーブルゲームに興じるのが習慣なんだよね。」
「すごいね、賑やかだね……何か、冒険者ギルドみたい……」
「マジか。こんな雰囲気なの?俺、流音亭しか知らないからなぁ。あそこは静かで―――」
【ワン!ワン!ワン!!!】
玄関で、元気よく犬が吠えている。この声は、実家で飼っている小型犬のたーくんだ。
「あら、アキラ兄さん。ご無沙汰です~。」
「おお、
「そうそう。えっと、その子は?」
エレナさんをチラリと見る。
「ああ、こちらは……」
「御手洗 絵玲奈です。アキラの……彼女です。初めまして。」
おお!なるほど!という表情をする梢ちゃん。
何を考えたのか一発でわかる、ナイスなリアクションをありがとう。
「アキラ兄さんの従妹の、
梢ちゃんの後ろから現れた、たーくんを抱きかかえた人物を見て、俺もエレナさんも、目が点になる。
「梢さんとお付き合いをさせていただいています、
ジャムカやスカンダと一緒にパーティーを組んでいるリーダー、アレクシオスの髪を真っ黒にした人。
レナートさんが最初に俺に与えた使命で、見つけ出す対象だったその人。
あまりにも似すぎているので、俺とエレナさんが一瞬固まってしまった。
「……あぁ!どうも、従兄の
「御手洗 絵玲奈です。アキラさんとお付き合いをさせていただいています。」
「二人とも、よろしくお願いします!実は、弟も来る予定だったんですけど、急にバイトが入ってしまって来れなくなったんですよ。」
梢ちゃんがスマホを取り出して、何やら探して見せてくれた写真。
「コレが
(エレナさん、コレ……)
(セイラロスそのまんまじゃない。何?転移?どうなってんの?)
「えっと、弟さん、ビジュアル系ですね……」
軽くテンパった俺は、何を言ってんだか分からないコメントをしてしまう。
「梢姉さーん!『ガラスの鉄仮面』の14巻持って行った?」
二階から大声が聞こえる。
「持ってってないよー!」
それに大声で答える梢ちゃん。
「今のは
「うん。兄さんの部屋でマンガ読んでる。」
「じゃあ、ちょっと俺の部屋に行くか……あれ?龍は来てないの?」
「うん。剣道部の合宿。何処かの山奥の寺に行ったみたいだよ。全然連絡がつかない場所だって。」
「そっか。まぁ、ゆっくりして行ってね。佐々木さんも……ゆっくりできないかもしれないけど、おっさん共は適当にあしらってあげてください。」
「ええ、ありがとうございます。あっ!コラ!たーくん!!!」
我が実家の愛犬たーくんが、清時くんの腕をすり抜けてオードブルの肉へまっしぐら。
普段は絶対にやらない行動を起こすという事は、人が多くてテンションが上がってるんだな。
色々と圧倒されているエレナさんを連れて、二階にある俺の部屋へ移動。
相変わらず、モノに溢れている家の中だな……また色々と母さんの趣味が増えたな?
「今、俺の部屋に居るのは、さっきの梢ちゃんの妹の晶ちゃん。で、さっき山奥の寺に居ると言ってたのが、真ん中の弟で
「アキラの家、親戚多い?」
「まぁ、時節柄集まってるだけだよ。普段、この家には母と姉の二人で暮らしてる。」
「あれ?アキラ、お父さんは?」
「あぁ、5年前に病気で亡くなったんだ。」
「えっ!あ、その……ゴメン……」
「いやいや、全然気にしなくていいよ。」
【コンコンコン】
『はーい。』
「アキラです。入るよー。」
『どうぞー。』
ドアを開けると、俺が昔使っていたベッドに寝っ転がって、マンガを読み耽る女の子。
「どうぞって、俺の部屋でしょ。晶ちゃん久しぶりー。」
「はーい、おひさしーって……アキラ兄さん……その子……」
「初めまして。アキラの彼女の、御手洗 絵玲奈です。」
晶ちゃんがベッドの弾みで勢いをつけ、エレナさん目掛けてダッシュ。
「私、
今までにない種類の圧がかかるエレナさん。
晶ちゃん、確かにエレナさんみたいな子、大好きだろうなー……。
「あの、コスプレとか興味ないですか……?」
「晶ちゃん、俺の彼女をそっちに引きずり込まないでもらえる?」
「えー!凄いよこの人!ポテンシャルの塊だよ!この世に現れた妖精さんだよ!!!」
あながち、間違っていない所が見る目あるというか、何と言うか。
「ダメダメ。俺が許しません。誰にも見せません。ちょっと探し物があるから、出てってもらってもいいかなぁ。」
「ずるい!!!二人っきりにはさせない!!!」
そんなやり取りの末、個室で晶観賞用のコスプレ撮影会をするという事で手を打たされ、ようやく一息ついた。
俺はベッドに腰かけ、エレナさんは勉強机の椅子に座って、くるくると回転している。
「ゴメンね~。ついてこない方が良かったんじゃない?」
「アキラの親族、すごいわね。本当にびっくりした。でも、いい人ばかりよね。」
「そうだなぁ、それは認める。何かもう疲れた。ちゃちゃっと探して、家に戻るかぁ~。風呂に入りたい~!」
この世界から持って行こうと思っているもの。
実際、向こうの世界に行っても困る事って殆ど無かったんだよな。
なので、黒村の写真が写っている高校の卒アルを持って行くぐらい。
「ホラ、コレだよ。高校にあったヤツ。」
「あぁ、持ってたのね。でもさぁ……アキラ、昔と今、雰囲気違くない?マジメそうな感じでさぁ……」
「そりゃそうだよ。10年近くも経てば、人間は変わるというものです。そしたら、俺のとっておきでも見せちゃおうかな?」
友人を家に呼んだ時に必ずと言っていいほど見せてしまう、俺のプリティ時代。
幼少期のアルバムを見せつけてやるのです。
「うわぁ~~~~!!!全然違う!!!カワイイ!!!」
「ふっふっふー、そうだろう。存分に可愛さを満喫してくれたまえ。」
キャーキャー言ってくれるのは嬉しいね。
……そうか、向こうには無くて、何かに残せるもの。確か、爺ちゃんのコレクションの中にあったよな……
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