第67話 幸せな物語
「お待たせしました!やっとこさ見つかった~!!!」
「ねぇアキラ、『ガラスの鉄仮面』の14巻は?どこ?」
やや暫く探し物をしていた間、エレナさんの興味はマンガにシフトしていた模様。
「あー、誰かに貸して、そのままどっかに行っちゃったんだよね。」
「うっそ!めっちゃ続き気になる!!!無いの?無いの?」
「じゃあ、買いに行く?俺が向こうに持って行きたい物も準備が済んだし。」
「ん?何それ。」
「古い古い、昔々のカメラ。電気が無い時代に使われていたもので、俺の爺ちゃんが持っていたヤツ。向こうで使えたらいいな、と思ってね。」
「デジカメとか、スマホは?……あぁ、電池が切れたら終わりよね。」
「出来れば、向こうでも何とかなりそうなものにしておきたくてね。帰りに本屋に行こう。『ガラ鉄』14巻も買うよ。」
「やったぁ!!!」
という訳で、高校の卒業アルバム、マンガ『ガラスの鉄仮面』全60巻(14巻だけ抜け)、古いカメラとその備品、取扱いの説明書き、俺のプリティアルバム数冊を持って行く。
エレナさんに持って来てもらったマジックバッグに入れて、いよいよ準備完了。
「よし、行こうか。」
サクっと帰ろうとしたら、お寿司を買ってきてくれたとの事。せっかくだからご馳走になる。
「「うまそう!うまそう!いただきます!!!」」
「は~い!たくさん食べてね!ザンギも買ってきたよ!」
お酒を飲まない姉なので、車でひとっ走りして買って来てくれたようだ。いや、ホントにありがたい……。
「もしかしてコレ、トライデントで買ってきたの!?やっぱり美味しいなぁ……。」
「すごい!美味しい!!!サーモン!イクラ!エンガワ!どれも美味しい~~~!!!」
実家近くにある回転寿司トライデントのお持ち帰りセット。
イベントがある度に、よく食べたなぁ……ネタが大きいんだ。もう、大満足。
お吸い物を飲んでまったりしていると、いよいよラスボスが登場。
「ゴメンね、ご挨拶が遅れちゃって……アキラの母です。絵玲奈さん、いつもお世話になっております。」
「いえっ!大丈夫です!御手洗 絵玲奈です!アキラさんとお付き合いをさせていただいております!お食事までご馳走になって、申し訳ございません!」
おおお、エレナさんがめっちゃ緊張してる……。
「ううん、全然いいから。アキラはいい加減で適当で、ヘンな所でプライドが高いから、どんどん怒っていいからね。徹底的に。」
「ちょっと、母さん……。」
「はいっ!わかりました!ありがとうございますっ!」
わかっちゃうんだ……まぁ、いい表情をしてるから、いいか。
さて、俺は帰りに仏壇に手を合わせる事にしているので『雀荘楠木』と化している仏間へ移動する。
「俺と同じことをしてくれたらいいよ。鈴を2回鳴らしたら、目を閉じて手を合わせて、ご先祖さんとかに挨拶する感じで。」
【チーン、チーン】
(……ご先祖さん、爺ちゃん、婆ちゃん、父さん。ご無沙汰してます。向こうでも頑張って)
「はい来たロン!!!!!」
「ロンじゃねえよ!空気読めよ!!!」
続いて、エレナさん。
【チーン、チーン】
(……アキラのご先祖の皆様、はじめまして。どうか、ナディアと、私を……)
エレナさんが手を合わせ、瞑目する姿。
雀荘楠木の酔っ払いおっさん共ですら、この世の物とも思えない程の美しさに見惚れていた。
そして、俺たちの見送りには全員が家の外に出て来た。有り得ない。
俺一人の時は、いつ帰った?ぐらいの事なんだけどね。しょうがないね。
「またおいで!絶対おいで!」
「次はいつ?年末?年始?」
「今度、こいこい教えてあげるからね。」
「好きな色は何ですか!?お任せでいいですか!?」
すっかり楠木家のハートをガッチリキャッチしたエレナさん。
次は、ナディアとエレナさんを一緒に連れて来たい……
「アキラ、忙しいのは分かるけど、身体だけは壊さないようにね。」
「ああ、気を付ける。母さんも姉ちゃんも、身体に気を付けて。」
「絵玲奈さん、無理はしちゃダメよ。ツラい時は電話してきてもいいからね。私はアキラよりも絵玲奈さんの味方だから。」
「お母様、ありがとうございます……」
名残惜しくもあるけれど、車の窓を全開にして手を振って出発する。
見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
やや暫く、エレナさんは黙っていた。
「すごく……幸せだった……」
「そうかい?そう言ってもらえて、何よりだよ。」
「ナディアも……連れて来たいな……」
「お、俺と同じ事を考えてた。」
「絶対一緒にだよ。約束だよ。」
「もちろん。楽しみにしてるよ。」
帰り道、ミンガ大橋のユーチャンツーという大きな本屋さんに寄る事にした。
「すごい!図書館みたい!!!」
「俺、探し物してるから、色々と見てて。」
「うん!!!」
瞳がキラキラモードのエレナさん。本が好きなんだな……改めて、知識欲求の高さを思い知る。
さて、まずはお目当ての『ガラ鉄』14巻。
あとは、俺が全く知識が無い、古いカメラの現像方法について、ちょっと見てみるか……。
向こうにあるモノで代用できるかだけど……現像液、停止液、定着液……。
読めば読む程、考えれば考える程、無理ゲーのような気がして来た。
アレかなぁ、これは困った時は魔石を使え!的な感じの方がいいのかなぁ。
ギルドカードの管理簿には登録した個人の写真が記録される訳で、あれをカメラの中でうまい事何やかんややれば……。
こちらの技術と言うよりも、こちらの考え方をあっち流に再構築した方がいいのかもしれないな。
時間があれば、って感じでいいか……うまく行くと思ったんだけどなぁ……浅はかだった。がっくし。
夢が一瞬で破れちゃったので、エレナさんを探す事にした。
さて、どこに居るのかね……お、いたいた。
「エレナさん、マンガだけ買っちゃいますよ。」
「……………………」
すげぇ熱中してる。何を読んでるのかな?
『異世界に転移したら二人の妖精と結婚しちゃいましたが何か問題でも!?~田舎でまったりスローライフは誰にも聞こえないから、いつでもどこでもイチャラブし放題~』
おうふ……これまた、なかなかのヤツをチョイスしましたね……
「あの。」
「…………(ゴクリ)…………」
「おーい。」
「…………(グスン)…………」
「エレナさん?」
「…………やだ、わかる…………」
すげぇ集中してる。しょうがないのでエレナさんの肩をポンポンと叩く。
ほのかに頬を赤らめて、トロンとした瞳で振り向いた。
「あの……買う?」
「…………(コクリ)…………」
了解。欲しい本は買わないとね。それでこそ、より愛着が沸くというものです。
さ、無事に購入したし、今日は帰りますかね。
「他に、何か買いたい物とかある?」
「ううん、今日はもう、帰ろ?」
「了解しました。そしたら、そのまま帰りますね~。」
よし、帰ったらすぐにお風呂を入れよう。
帰宅して早々に、明日の講義は無くなった旨、理事長から連絡が来た。
明日は講師がいきなり3人も居なくなるんだもんな。さらに俺も明日で居なくなるし。
「後任は見つかっているから問題ない。心置きなく休め。」
あと、レナートさん、ジャムカ、スカンダは無事に向こうに戻ったようだ。
一通りの連絡を受け、電話を切るタイミングでお風呂が沸いた。
「エレナさん、先に入ってどうぞ。」
「…………(コクリ)…………」
さっき買った本が随分と気に入ったみたいで、かなり集中して読んでいる。
ほんのり顔を赤らめて、そそくさと脱衣場へ向かう。
ふむ、そんなに面白いのかな?
……いや、勝手に手に取るのはルール違反だな。許可を頂いたら読ませてもらおう。
今のうちに、お布団でも敷いておこうかね。
~~~
あの物語……すごい……
どうして……あんなに……
私たちの事がわかるんだろう……
ナディアにも……読んで欲しいな……
アキラも……読んだら……
わかってもらえるかな……
そうだと……
いいのにな……
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