第32話 夕食後、のんびりタイム
「あぁ、アキラさんのアレですか。相当効きますよね。お見事です。」
何と、レナートさんにもお尻マッサージをやっていたことが発覚。調子に乗ったな、俺…。
「うちのダンナは病みつきになっちゃって。本気でお抱え揉み師にしようと画策してたもん。」
王様にまで。揉み師って何ですか。いかがわしさ大爆発じゃないですか。
何だろう、この知らない所で調子に乗ってしまった俺の奇行を話される感じ。
酔っぱらって記憶を失くした時に、店の廊下で直立不動で寝てたと爆笑された時以来。
顔が真っ赤なのは、スパークリングワインのせいじゃないよ。
そんな羞恥プレイのさ中、最初のお料理が運ばれてくる。
「お待たせいたしました、黄金エビとブロッコリーのクラウンサラダでございます。」
「お待たせいたしました、黄金エビのトマトクリームパスタでございます。」
「おまたせいたしました、ぎゅレープフルーツとオレンジのフルーツゼリーでごじゃいます。」
あ、噛んだ。
テーブルがちっさいから乗せにくいのか。ぷるぷると手が震え…深い事を考えるのはナシにしておこう。
「…ありがと。」
「失礼致しますッ!」
「それでは、どうぞお召し上がりください。」
「はいっ!それでは、やや小声で…」
「ふふふ。レナート、私達もね。」
「もちろんです。」
「「「「うまそう、うまそう、いただきます。」」」」
エビが…ブリンブリンのエビが…輝いてる…。
また、一片がデカい。切り口としては1/8っぽいんだけど、そうなると伊勢海老よりも遥かに大きい。
海老にうるさい俺としては、やや大き目の海老という事で、味わいが薄く、噛み応えは固いのかなぁ~と思って食べた。
ぱくりと…むぐむぐむぐむぐ…ごくり。
「うまっ…!」
「すごいでしょ。」
「コレすごいです。」
海老の臭みゼロ濃厚エキスが身の中にしっかりと閉じ込められている。
特に、身の適度な歯ごたえが素晴らしい。ヒドイときはゴムのような噛み応えになってしまうところ、もぐもぐとエキスの美味しさをたっぷりと満喫した頃には、柔らかく咀嚼されて満足の喉越し。
即・完・食。
一皿目でコレかぁ、次はどうしようかなぁ~!!!
という感じで国内外の名産・特産をたっぷりと堪能。
もう、何を食べても食べても美味しくて、お腹いっぱい大満足のビュッフェなのでした。
「お腹キツい…ブヒ…」
「アキラさん、こちらは消化を促進する飲み物です。よろしければどうぞ。」
「ありがとうございます、いただきます…おぉ、やや、苦めですね!」
食べる前に飲む!みたいな漢方の胃腸薬を、濃い目に水に溶かしたような感じ。
「はい、それが効くんですよ。ややしばらくすると、落ち着きますよ。」
「ありがとうございます、とても、助かります。ぷひ~。」
ドリンクホントに効いた。しゅごい。
部屋に戻って来る頃には、胃が破裂しそうな感じが無くなった。
こちらの世界の胃薬は、即効性が高くて凄い…どんな成分なのか…気になる…。
さて、夕食の間にお風呂の準備が整ったとの事で、私が一番風呂を頂戴することになりました。
「私が最初でいいんですか?」
「いいのよ。私は後で、ナディアと入るから。うふふ。」
「…ごゆっくり~。」
「私は私室がありますので、どうぞ、ごゆっくりお寛ぎください。」
「じゃあ…遠慮なくいただきます!」
おっふろ♪おっふろ♪ど~んな感じっかな~♪って鼻歌も飛び出す。
広い脱衣所…コレ一人用じゃないよなぁ…そして浴室のドアをオープン!
露天風呂の境界と、その向こうに見える海が溶け合う感じで、お風呂がそのまま海と繋がっているように見える。
メインの露天は岩で出来ていて、その後ろには木で組まれた檜風呂のような浴槽に、東屋の屋根がついたような和風テイスト溢れる風呂。
その他にも、掛け湯、寝湯、打たせ湯、ミストサウナのような物まで。ジェットバスはさすがに無かった。
コレ完全に日本のホテルの露天風呂やんけ!!!
…などと考えるのは、この世界に来た俺だけなんだろうけど。
それにしても豪華だよなぁ…お貴族様は、コレをどう思うんだろうか。
元の世界だと、夜でも必ず何人かは別のお客さんに会うし、一人っきりで入るなんて、よっぽどの早朝でないと有り得ない。
この夜景を独り占め、贅沢な至福のひと時…。
それにしても、エレナさんの暗黒微笑が気になる。ナディアの特訓がそんなに楽しみか…。
さっきナディアにマッサージって言っちゃったけど、あの姿のままで居られるのかなぁ。ツラそうだったけど。
そして今夜はエレナさんもレナートさんもお仕事か…。
ふむ~。
・
・
・
さてさて、全風呂制覇して上がろうかね。
お風呂から上がると、レナートさんは自室に行ったようで、エレナさんとナディアがきゃいきゃい話をしながらソファーでまったりしてた。
「上がりました~良いお湯でした…。」
「はーいお疲れさまー。じゃぁナディア、行くわよ!」
「…うっす!」
さーて…しばらくは特に何もすること無し。
ソファーに深く腰を落として夜景を見ながら、風呂上がりの脱力感を楽しんでいた。
結構移動してきたけど、あと2日か。明日も一泊して、明後日には王都に到着。バトンの森から、どれくらいの距離を進んだのかな。
着いたら、そこから1か月間の訓練。本当に1か月で何とかなる物なのかな…そこはプロが言ってるんだから間違いは無いのか…俺に記憶のない時に、半年で何とかなったという度合いがイマイチ不明なんだけどね。
あとはどんな訓練をするのか…毎日、木剣を持って素振り千本!みたいな?
それとも、基礎的な動き方や武器の使い方や戦闘の心構えの座学とか?眠くなりそう。
仕事でも何でも、俺は「行けばわかるさ!」の精神でやってしまう所があるから、もうちょっと色々と考えて行動しないとダメだよなぁ。依頼だって、戦う準備をしっかりしないままで進めちゃったし。
結果的に上手く行ってるだけで、この前のコボルトの時だって下手したらケガじゃ済まなかったかもしれないんだし。
これからの事をちょっとだけ考えつつ、夜の海にポツポツと浮かぶ光を見てたら、ちょっとだけ眠くなってくる。
「うふふ、ごゆっくり~。」
何処からかそんな声が聞こえ、ドアが閉まる音。
ソファーでまったりしてたらいつの間にか寝ちゃってたっぽい。
「あら、起きちゃったんですね。」
向こうから歩いてくるのは、本体のナディア。
「ちょっと寝ちゃってた。今出てったのは、エレナさん?」
「ええ、そうですよ。ちょっとお仕事というお話でした。」
そう言ってソファーの向かい側に座る。湯上がりで、ほんのり桜色の顔。姿勢が正しくピっとした、キレイな座り方。
一方俺は、寝起きで眠そうな顔。寝っ転がった上体を少し起こして、未だボンヤリ感が抜けず。これはひどい。
ナディアがくすくすと笑う。
「あぁ、かなりダラけたスタイルになっちゃってた。これは失礼しちゃいまして。」
よいしょと身体を起こして、ナディアの対面で姿勢を正す。
「そこまでリラックス状態のアキラさんを見るのは、初めてです。」
「確かにそうかも。流音亭だったらベッドで横になったら即寝だったもん。それか、耳吸ってるから見えないとか?」
「今日は正面なんですー。」
ちょっとスネたように、むーと口を尖らせる感じは、やっぱりナディアの雰囲気はそのままだなと思った。つい、顔が緩んでしまう。
「昨日はホントにツラそうだったから話できなかったけどさ。特訓、成果は出た?」
「はい。エレナ様のお導きで、落ち着いてこの姿で居られるようになりました。今の私は、人の身体そのものなんです。水辺では、元の妖精の姿に戻る事も出来ますよ。」
人間の身体…ぱっと見た目では、泉で初めて会った時とか、お風呂の時とは変わらないように見える。妖精の時と、人間の時。何が違うのか…。
妖精の本体のままだと水から出にくくて、人間の身体になると地上で俺達と同じように過ごせる、そんな感じかなぁ。
「…そんなに見つめられると、照れます。」
俺があまりにもジーっと凝視したからか、視線に耐えきれなかったっぽい。ちょっと下を向く。
「あぁ、ゴメンゴメン。ついつい。いやぁ…ホントになぁ…」
綺麗だなぁ…と普通に言い掛ける。そういう事を言っていいものかどうなのか。それに今このタイミングでそんな事を言おうものなら、俺のアレだ下心まる出し的なアレがビンビンに垂れ流されていると思われかねないけどでも、こういう事はしっかり言わないと。そのためにこの子はツラい特訓に耐えたんだ。よし、言おう。俺の気持ちをちゃんと伝えよう。伝えなきゃわからない事だらけだ。あ、緊張して来た。大事な事を言う時のアレだ、肺の奥の左側がギューっと締め付けられる感じだ。よし、出来る、俺は出来る、言える!
「キっ…綺麗だなと思ってさ。」
噛んだ…大事な事を言いたい時はいつもそうだ。だってさ、こんなさ、悶絶しそうな程にド好みでキレイで可愛い人を目の前にしたら緊張マックスだよ。初めての客先に行っても大人数プレゼンやっても割と平気なのに女性の前だといつもコレだ。過去に合コンなんかも誘われて行った事あるけど目の前のお姉さんと全く会話出来ずに緊張のあまり男とばかり話して泣きながら帰った事もあるし。お風呂の中では自然に話せてたのにホントに俺って!ホラ、ナディアがキョトンとした顔をしてるし!何言ってんだ的な雰囲気にだけはなってはならんのだ―――
「嬉しいです。」
いよっしゃー!!!笑ってくれたー!!!心の中で天高く拳を突き上げる。俺の中で大歓喜。
「もしかして、これからはその姿で?」
「そう出来たらいいな、と思っています。」
「うん。自分の気持ちを一番に考えて居ればいいのさ。前に泉に居た時は、妖精のナディアも出現させてたよね。今の身体でも、それは出来るの?」
「今はまだ出来ませんね。でも、力を着けて行けば出来るようになりそうです。あと、アキラさんにちょっと見ていただきたい事があるんです。」
ソファーを立って、棚に置かれたコップを持ってきて俺に手渡し、隣に座る。いいな。ちょっと密着。
「見ていてくださいね…。」
さっきよりも近くで、じっとナディアを見てたら、違うそうじゃないとジト目でコップを指さす。つい出来心で。
俺が持ったコップに、ナディアが指を触れる。コップがポワポワとほのかな光を纏い、コップに水が満たされていく。
「魔法で、水を生成しました。」
「ナディア…魔法使えるの?」
「私は泉のニンフですので、泉の中では、泉と宿り木の力を借りて、魔法を使う事が出来ます。」
「あの、トーラスくんの傷を治療したのは、魔法だったの?」
「ええ、あの時は一刻を争いましたので、何も説明もしていませんでしたね。」
「…俺は今、かなり感動している。すごい。これはすごい。」
「魔法を、泉の外で使うことが出来るようになったのは、エレナ様のお導きです。」
「え?エレナさん、魔法を使えるの?」
「あの、それは、エレナ様にお聞きいただいた方が…。」
「まぁ、そうだよね。そりゃそうか。」
コップに溜まった水。どういう原理なのかはわからないけど、トイレの水を流す魔石だって同じ事か。
なんだか良く分からない力を発動させて水をその場に作り出す。
まぁ、異次元空間を作り出す魔道具があるぐらいだし、その力を理解出来たら使えるようになるのかな。
「コレ、飲んでも大丈夫なヤツ?」
「はい。普通のお水ですよ。」
ちょっと飲んでみる。おお、水だ。
「へぇ~、ホントに水なんだなぁ。すげぇなぁ…他にも色々と出来るの?」
「出来ますけど、まだ習得したばかりですので、あまり使うと疲れてしまいます…なので今日はここまでです。」
「そっか、魔法を使うと体力が消耗していくと。それで昨日は息も絶え絶えな感じだったのか。そしたらもう寝るだけになっちゃうもんなぁ。」
「はい、まだ寝ません。」
「そうだなぁ、じゃあ…せっかくだからさ、二人で街でも見に行ってみない?レナートさんには一言伝えてから行くし。もしダメなら、せめてそこの公園とかね。遅くならないうちに戻って来ればいいしさ。」
俺の提案に目を輝かせるナディア。
「嬉しい!行きたいです!」
「よっしゃ、じゃあ早速行くか!」
と言う訳で、俺の何気ない一言は、夜のドキドキおデートに発展した。
言ってみるもんだなぁ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます