第81話 最終目標地点、玉座の間
「俺、この戦いが終わったら、ライナと結婚するんだ。」
バルさんの衝撃発言に湧く皆さん。
ジャムカを筆頭に、ビール掛けでも始めるんじゃないかと思わせる程の狂喜乱舞。
いや、ホントに素晴らしい事だよ。ホント。うん。
エレナさんが俺の腕をツンツンするので、見ると目ヂカラを込めて首を横に振っていた。
『いらん事言うなよ』圧をビンビンに感じる。
分かってます。とばかりに首を縦に振る。
まさか、フラグを立てる瞬間に立ち会ってしまうとは。
「ん?どうしたアキラ?エレナも。」
バルさんが俺らの雰囲気を察したのか、話し掛けて来る。
「いや~、ホント、頑張らないとね。でもトドメを刺す前に『やったか?』って言うなよ?『こんな所で寝られるか!』って一人で寝室に行かないでね?」
「何言ってんだ?まぁ、銀の騎士と陛下からは自重しろと言われてる。最後の最後で敵前に身を晒して印象付けるのが俺の役目って言われたからな。」
正しい判断だと思います。
するとジャムカがニヤニヤしながら。
「アレク、お前らこそ、とっとと結婚すると思ってたけどな。いい加減ハラ括ればいいのに。」
それに対してアレクがちょっと慌てた感じで答える。
「でもなぁ、俺みたいな定職を持っていないのが結婚って、もうちょっと金を貯めてから……」
「何を今更。今までだってシェラがやり繰りしてくれてるじゃない。私はもういい加減に冒険者なんて辞めて、スウェインに行くわよ。」
そう言うのはセイラ。
何やら、以前仕事で関わったスウェイン公国の偉い人から『いつ来るの?明日?』という勧誘が凄いらしい。
「マヤを連れて行きたいんだけどさぁ。ライナがメルマナに行くなら、ハイフォンちゃんが淋しくなっちゃうじゃない?」
「そうそう!実は、ライナが一番気にしているのはハイフォンの事なんだよ。ジャムカ、お前もメルマナに来いよ。セイラもスウェインじゃなくてウチに来いよ。何ならアレクもみんなで来ればいいのに。」
バルさんが真剣に言ってる。
けど、ジャムカが落ち着いて突っ込む。
「お前さぁ、お友達の国を作るのが目的じゃないんだから。公私混同するとロクな事にならないの、わかるだろ?」
「そうそう。大公と仲の良いお友達派閥なんて、国を腐らす邪魔者よ。国外からたま~に遊びに行って、歓迎されるぐらいの距離感が一番いいの。」
おお、セイラが真面目そうな事を言ってる。
「それ程、バルも昂っているという事だな。ホラ、アキラ達が置いてきぼりになってるだろ?後の事は後で考えて、今は目の前のメルマナ奪還だ。」
空気を読んでアレクが話を仕切った。
デルバンクール観測所までは、あと1時間程度。
さて、先日訪れたばかりのデルバンクール観測所。
到着して早々に所長に呼ばれたので、所長が居る司令部の建物に向かう。
中に入ると、所長が立って待ち構えていた。
これからの任務で緊張しているのか、若干汗が滲み、硬直気味の面持ちだ。
「しょっ、所長のニコラ・ペリアン『ひっさしっぶりー!!!』
所長の挨拶を差し置いて俺にダイブして来たのは、王都で再会したクソガキことリンツ。
赤の騎士のレナートさんが最上の礼を以て対応した、謎多きショタっ子。
そして、目的地メルマナ城に潜入している筈の潜入部隊の隊長なのに。
「何でお前がここに居るんだよ。」
エレナさんは聞かされていなかったようで、かなり驚いた顔をしている。
「ちょっとリンツ……あんた、大丈夫なの?向こうに居なくていいの?」
「ん?大丈夫だよ?パティとレイラが、上~手にやってくれてるから。」
俺に抱き着き、尻を撫で繰り回し、めっちゃ俺のニオイを嗅ぎ回しながら答える。
こらこら、ナイトストーカー隊の5人、『あぁ、そっちもアリ?』みたいな目で俺を見るんじゃない。
ホンっトにコイツの癖だけは理解できん。
パティことパトリシアさんは、吸血鬼と人間の半妖で、王妃守護隊の副隊長の人。前はパティちゃんと呼んでたんだけど、成長期に入ったのか大人っぽくなったので、何となく言えなくなったんだよな。
レイラさんは、当代の朱の剣士。朱の騎士のサラさんとは双子との事。会った事は無いけど、サラさんと入れ替わっても全くバレない容姿と能力を持っているらしい。
「あとね、ウィルから話は聞いたよ。その子がルカ?」
ウィルとは、国王ウィルバート。あのイカレジジイをそう気安く呼ぶのはコイツぐらいだ。
さて、リンツがルカの前に立つと、ルカが子供を見下ろすような絵面になってる。
「ルカと申します。」
リンツが丁寧にお辞儀をするルカの手を取り、肉球をムニムニし出した。
「うん。リンツだよ。へぇ……聞いてた通りだね。」
何だ、お前も肉球教か。
「アキラに会う前の事、覚えている?」
「はい、兵舎と戦地を行き来しておりました。」
「もっと前。生まれた後の事は?」
「私は戦地の記憶しか持っておりません。あの、何かお気に障る事が……」
何の話だ?ルカの尻尾がへたれ、困惑した表情になっている。
「いや、そうじゃないんだな。じゃぁ隊分けするから。ルカはウチの隊で決定。エレナはそっち纏めて。よろしく~。」
何が何だか分からないうちに、これからの説明が始まる。
主力隊はエレナさんを部隊長として、以下メンバー。
スカンダ、ジャムカ、バル、俺、ナディア。
陽動隊はリンツを部隊長として、以下メンバー。
アレク、セイラ、ルカ、パトリシア、ベルク。
「ざっくり言うと、主力は大公専用通路から入って一気に玉座ね。基本的に戦闘しないで。そのためのアキラの特性だからね。いい?」
俺の股間を触ろうとする手を振り解きながら返答。
「了解した。」
ニヤニヤするリンツがアレクとセイラの前に移動する。
「陽動は裏口から入って、最短ルートで玉座を目指す。でもココはかなり兵が配備されてる。お兄ちゃんと弟くんの技量は心配してないけど、魔法をぶっ放すヤツも居るから、そいつらはパティに任せちゃって。」
「ああ、わかった。」
「は~い。」
「ベルクとルカには、ちょっとした寸劇もやってもらうから。頼むね。」
ベルク教官とルカ、一瞬の沈黙。
「はっ。」
「承知いたしました。あの……どのような……」
「大丈夫!ちょっと斬り合ってもらうだけだから!」
ざわ……
朗らかになんて事を言いやがる。
「おい、それは説明必須案件だ。」
俺がリンツに詰め寄る。
「具体的には行く時にね。陽動作戦には、お膳立てが幾つも必要なんだよ。詳しい事は後で!じゃ、行こう!」
そう言うと、するりと俺らをすり抜けて扉を出て行くリンツ。
全員が呆然とする中、辛うじてアレクが口を開く。
「あいつ、何者?」
「エレナさんの部下の人。まぁ、指示に従っていれば問題は無いから。」
「あの……」
全員が一斉に振り返る。
「がんばってな……」
まともに紹介すらさせて貰えなかった所長が、涙目でモジモジしていた。
観測所から山伝いに南西の方向へ移動を開始する。
途中、何度か休憩を挟みながら、リンツから配給された飴を舐めながらひたすら山駆け。
この飴は疲労が溜まらず、身体能力を向上させるモノらしい。
ライナさんが作ってくれた、麦茶っぽいお茶に味が似てる。みなさんには不評のようだけど、俺は割とイケるかな。
ひたすら走り続けても疲労感が無い。効果はばつぐんだ!
夕方、暗くなってきた所で野営。随分と小さなテントが張られる。
「荷物入れか何か?」
「ううん、みんな入って。」
俺の突っ込みを華麗にスルーしたリンツが、テントに入って行く。
エレナさんが言うには、レナートさんの馬車と同じく、内部は異次元空間になっているらしい。
恐る恐るテントの中に入ると、すぐに下りの階段があり、降りて廊下を進むと左右にはいくつもの扉がある。
廊下を進んで行くと、リビングを改装したと思われる広い空間に出て、会議室のように配置されたコの字型のテーブルと椅子が人数分備え付けられている。
講師ポジションの背後には白い幕が張られ、その対面には魔石に記録した映像や写真を投影するプロジェクター的な物。
これらは全て守護隊の備品で、テントも中からは外の様子が見えるけど、外からはテント自体が、かなり見えにくくなるらしい。
ここで全員に対して、現時点で知り得る全ての情報の共有と役割についてを、図と動画を用いながら一人ずつ丁寧に説明。
「……じゃあ最後。アキラは、何か出て来た瞬間にガラ悪くメンチ切りまくるだけでいいから。」
「了解!」
単純明快。他の皆さんには結構細かい指示を出していたというのに。
「陽動隊は僕が居るから、全体の流れを覚えていてくれればいいよ。主力隊はエレナとナディアが居るから大丈夫だよね?もう全部覚えたたでしょ?」
そう言ってエレナさんとナディアに話を振る。
「ええ。問題ないわ。」
「はい、全て記憶しました。」
さすが、ニンフの記憶力。一度の説明だけで完璧に覚えたらしい。
俺にはそんな能力は無いので、細かい事は二人におんぶにだっこ。
夕食と入浴の後、就寝には個室が割り当てられた。
まぁ、こんなタイミングでヘンな事は考えないさ。ははは。
だがしかし朝起きると俺のベッドにリンツが潜り込んでいた。何してんだよ。
さて、翌日も延々と続く山道を走り続ける。
2日目に国境を越えてメルマナに侵入し、3日目にはメルマナの城壁と城下町がはっきりと見える辺りまで到達した。
断崖にいくつも城壁がある所までは見えるけど、肝心な城は見えない。
山の麓には、かなり大きな街が広がっている。
そんな感想を言ってると、苦笑気味にバルさんが話し掛けて来た。
「あそこの岩山そのものが城なんだ。こうして侵入者目線で見るのは初めてだけどな、まぁ入りづらい形してるな。」
平野部には、所々で軍と思われる部隊が駐留しているのが見える。
「ここで夜まで待機だよ。今日は夕方からひどい雨になる予定だから、それで軍が動き出す。そしたら移動開始ね。パティと合流して、標的の最終状況を確認。ジュールだけか、レーブとフェインが残っているか。そいつらは何処にいるのか。それが最後の打ち合わせになるから。」
リンツが真面目そうな事を言ってるけど、ひどい雨?
「なぁ、本当に雨は降るのか?今、雲一つない快晴だろ。」
「降るよ。もし降らなかったら、裸であの街を一周してもいいよ。」
「お、マジか。言ったな?」
「その代わり、降ったらどうしちゃおうかなぁ……」
「いや、やめとく。いい。」
そんなやり取りをしていると、夕方に差し掛かる頃に雲が空を覆い始め、真っ暗になる頃には雨が降り始める。ニヤつくんじゃないよ。
全員に合羽のようなポンチョのような、頭からすっぽり被る濃緑色の服が支給される。これも守護隊の備品で、防音・防水・耐火・耐物理・耐魔法のひみつどうぐ。
「これは耐えるだけで衝撃はあるから気を付けてね。じゃ、そろそろ行こうか。」
4つ山を越えた所にあるパトリシアさんとの合流地点には、数名の守護隊の方々。
この辺りの警備に配属された兵士に成り代わり、この場所を確保していたらしい。
最終報告がパトリシアさんから告げられる。
「目標は2体。エング・ジュールは玉座の間、エング・フェインは地下牢奥通路。他、城内の警備兵員がおよそ十分の一程度に減少。主な配置は、陽動部隊の侵入経路上。他は全てエング・レーブと共に出発した事を確認しました。」
いきなり雨が強くなってきた。
遠くでゴロゴロと音が聞こえる。
「おっと、軍が動き出したね。じゃあ、互いに最終目標地点は玉座の間。エレナ、アキラ、アレク、時計を合わせるから。」
さて、ここで実践初投入となる、エレナさんが向こうから買って持って来たお土産。
Gなショックの艶消しの黒。ここに居る全員分とはならないけど、主力隊はエレナさんと俺、陽動隊はリンツとアレクが時計を装着して、移動のタイミングを合わせる。
「1時間後、玉座の間に入る様に。いくよ。よーい……」
【【【【ピッ!】】】】
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