第80話 緊急連絡、不穏な気配あり
バルセート大公が記憶を取り戻して1週間。
一通りの任務を完了させた事で、しばらく流音亭で待機となりました。
そこで、マヤさんのお店に行ってルカの装備と服を受け取りに行ったり、久しぶりにナディアの泉に行ってきたり、久々に仕事ナシの完全オフを満喫しておりました。
流音亭も、もう我が家の様になっているけど、やっぱりナディアの泉は落ち着く。癒される。
ここに、みんなで過ごす家を建てるのもいいな、なんて本気で考えた。
さてさて、今日はバルさんにお呼ばれして、俺とエレナさん、ナディア、妖精ナディア、ルカのメンバーでライナさんのお店にやって来た。
「あれから日替わりでフラムロスの騎士が次から次と来てさぁ……気が休まらねぇんだ……」
「わかりみ~。」
「若作りに無理がある。やめて。」
若者っぽく返したらエレナさんに窘められた。
俺ら的には、しばらく二人の世界を満喫させてあげようと思ってたんだけど、偉い人が連日押し寄せて来て辟易としているらしい。
【カランカラン】
「いらっしゃいませ!……侯爵!先生!」
「ライナさん、その後バルの様子はいかがですか?」
「やぁライナ、久しぶり。元気そうで何よりだ。」
ルージュ領バトンの森の領主とライナさんの恩師が、揃って近況を伺いに。
「おう、いらっしゃい!赤の騎士と白の騎士がお揃いで!どうしたんですか?」
「なァに、大公の記憶が無事に戻ったってレナートから聞きましてね。ご挨拶に伺った次第ですよ。」
【カランカラン】
「いらっしゃいませ!」
「うっぷ……海の生活で慣れてるから陸の移動が苦手でね。」
「あなた、エリアーナちゃんとナージャちゃんも、このお店を利用しているとお聞きましたから。大丈夫ですよ。」
「あぶー……………きゃっきゃっきゃっきゃっ」
漁師の服を着た男性が、奥さんと子供を連れて。
「いらっしゃい……青の騎士じゃないですか!……随分と青い顔してますけど、どうしたんですか?」
「……酔い止めがあると助かるんだが。」
【カランカラン】
「いらっしゃいま……せ……」
「エレナとナディアから、いい薬師が居ると聞いてね。即効性と致死性の高い毒は取り扱っているだろうか?」
バトンの森に獲物を探しに来た、髪型ツーブロックの厳つい男性が、毒薬を買いに。
「いらっしゃい……緑の騎士……バトンの森で何か、良からぬことでも?」
「いえ、任務方々ご挨拶に伺った次第です。ところでお嬢さん、毒の味見は可能かな?」
【カランカラン】
「いらっしゃいませ!」
「失礼する。私は王都のリンゴ農家アクセルと申すが、こちらに人体に無害かつ土壌汚染の心配も無い、害虫リンゴコロシムシ駆除に特化したドクアリドクナシドクハムシ由来のドクアリドクナシドクドクがあると伺ったのだが、間違いないか?」
「あの、もう一度―――」
「大変ご無沙汰致しております。銀の騎士。」
「大公、ご息災で何よりです。早速ですが、記憶回復との事で幾つかお聞きしたい事がございます。お時間を頂きたく存じます。」
銀髪にオールバックの自称リンゴ農家が事情聴取に。
【カランカラン】
【スパァァァン!!!!】
「ひっ!?」
「ちょっとお邪魔するよ?ふうん……随分と可愛らしい店主じゃないか……」
「あッ……ありがとう……ございます……いらっしゃいませ……」
黒いボンデージスーツに身を包んだ美しい女性は、ライナを上から下まで舐めるように観察する。
「いいねぇ……可愛いねぇ……それに比べて……このッ!!!醜い!!!豚がッ!!!」
【スパァァァン!!!!】
「ライナ!どうした!…………朱の騎士?」
「ブヒイイイ!!!」
「痴れ豚が盛るなッ!!!」
【スパァァァン!!!!】
「ブヒイイイィィィ!!!!!!」
「あんた紫の騎士か!?」
目隠しに猿轡を噛まされ、頬を上気させる白パン一丁の痴れ豚を従え下剤を買いに。
【カランカラン】
「は~い!いらっしゃ……」
慌てて片膝立てて胸に手を当てるライナさん。
「いやいや姉ちゃん、そんなのいいからさ、彼氏?いるかい?」
「今日は誰だよ……玉帯をお運び頂き、誠に恐悦至極に存知ます。陛下。」
オールバックにサングラス。アロハに短パン、ビーサン風のラフな姿の自称温泉研究家。
「バルセート大公、しばらくだ。でな、お前に少し頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」
「仰せの儘に。」
一通り愚痴を吐き、テーブルに突っ伏して深い深い溜息を吐くバルさん。
「も~疲れた。気疲れが酷い。ライナ、何かゴメンな。」
「あら、私は大丈夫よ?もう慣れちゃった。」
「「「「わかりみ~。」」」」
「ナディアとルカを巻き込まないで!」
「銀の騎士が一番キツかった。何処で入手したのか城の詳細図を持って来て、朝っぱらから深夜までぶっ通しで城の構造、通路、部屋、門から玉座までの全経路を具体的に聞かれてさぁ……」
ただ挨拶やら冷やかしに来たのではなく、任務に基づく情報を確認しに来ていたようだ。
わざわざ一般市民に変装したのは、万が一にも大公の存在をバレる事がないように、各自の配慮だったらしい。
「まぁ、これで例の作戦が本格的に動き出すって所だな。俺の記憶が戻る前に向こうが動き出したら、どうするつもりだったんだろうな。」
腕組みして考えるバルさん。
「実はね、妨害工作もやってるのよ。」
サラっとそんな重要な事を言うエレナさん。
「出来るだけ死傷者は出ないように工作してるけど、それでも何人かは居なくなってるって……。とても申し訳無いんだけど、目的のために手段を選ばずにやってる。」
難しい顔をして唸るバルさん。
「いや、エレナの部下は任務を遂行しただけだ。それに対応できずに犠牲者を出したのはメルマナの落ち度だ。それはそれだ。」
やや重めな空気が流れる。
ここはひとつ、俺が流れをぶった切らなければ。
「ま、次の動きがあれば、俺らも出る事になるんだよね。目安のような話は聞いた?」
「ああ、その話は―――」
【カランカラン】
バルさんが話そうとした瞬間、お店の扉が開く鐘の音。
「失礼いたします!」
ハキハキとした、ハリのある声。
「お客さんじゃなさそうだなぁ。」
「バル、そう言わないの。は~い!いらっしゃいませ~!」
頭をかいて苦笑するバルさんの肩をポンと叩き、ライナさんが店先に移動する。
「という訳だ。次は誰が来たのやら。俺も行って来るわ。」
そう言って立ち上がろうとしたら、ライナさんがすぐに戻って来た。
「バル、アキラさん、緊急だそうです。」
メルマナに不穏な気配あり。
その人はレナートさんからの使いだった。
至急、流音亭に集合。詳細はリバルドさんに説明済み。
ジャムカ、アレクシオス、セイラロスと合流の上、馬車を待つように。
流音亭へはライナさんも同行し、長期滞在を想定して欲しいとの事。
すぐに店を閉める準備を始めるライナさん、バルさん、スカンダ。
俺らは店から出て、先に流音亭に向かう事にした。
「ライナさんも同行って事は、お店の事と存在がバレてるって事でしょうかね。」
「さぁね。でもこの判断はベストじゃない?この辺りだったら流音亭が最も安全だからね。」
「そうですね。という事は、ジャムカさんのパーティーに関わる皆さんが流音亭に匿われる感じでしょうか。」
エレナさんの言葉に同意しつつ、ナディア。
そこに、ルカが素朴な疑問を投げかけて来る。
「あの、皆さんと言うのは……?」
ライナさん達以外では、マヤさんとしか会ってないんだよな。
バルとパーティーを組んでいるメンバーと、その彼女さん達の事をルカに教えておく。
やや多めの人数と言う事で、不安そうな表情になった。
「大丈夫だよ。まぁ、心配なのはアレクの所のセナスちゃんかなぁ。あの子人見知りだから、泣かれても気にしないようにね。」
そんな慰めにもならない話をしながら流音亭に帰還する。
「ただいま戻りました!」
・
・
・
2階の方からパタパタと走り回る音が聞こえる。アミュさんはお部屋の準備をしてるのかね。
そして厨房の奥からリバルドさんが出て来る。
「おう、戻って来たな。聞いたか?」
「はい。バルさん達は後で来ます。他の皆さんはこれからですか?」
「ああ、あいつらは合流してから来るだろう。さっきの話は、レナートとの通信で改めて状況を聞いておいた。後で皆にも伝えるが、お前らには先に言っておこう。」
メルマナ城に潜入中の朱の剣士からの最新連絡で、ブラン領ストリーナ方面への進攻が決定となったようだ。
そこで俺らは軍の衝突を待つ事無く、メルマナ王城へ向かう。
王妃守護隊の人がデルバンクール観測所で待ってるので、指示に従う事。
潜入時は、部隊は主力と陽動に分割する。
主力の目的は2つ。
1つはエング・ジュール、エング・レーブ、エング・フェインの妖魔3体をメルマナから撤収させる事。
もう1つは、メルマナ公国が保管している『時空鏡』をエング・フェインから奪い返す事。
あと、パーティーの名称、部隊名を取り急ぎ連絡して欲しいとの事。
「部隊名。ドライグラース隊とか、王妃守護隊みたいな?」
「そうね、大体そんな感じ。あんたが決めればいいわ。ナディアもルカも、それでいい?」
有無を言わせぬエレナさんの強権発動だが。
「ええ、もちろんですよ!」
ナディアが満面の笑みで。
「……おう。」
妖精ナディアは親指を立てて。
「はい、楽しみです。」
ルカは尻尾をパタパタと振っている。
「うーん、そうだなぁ。リバルドさん、部隊名って急ぎますか?」
「そうだな……30分以内。決まったらすぐにレナートに伝える。」
「そんなに急ぎですか!!!」
そんなにサクっと出ねぇよ!などと思いながら悩む。
ちなみに、ドライグラースというのは『竜殺し』という意味だそうだ。王殺し?いいのかそれで。
王妃守護隊には異名で『ナイトストーカー』というのがあったけど、今は使ってないらしい。
「えー!使ってないなら、それ貰えばいいんじゃない?」
すかさずリバルドさん。
「あぁ、それはジャムカ達が前から使っているぞ。スカンダの発案だそうだ。」
元隊長の強権発動だ。ずるい。
「う~~~~ん、じゃあ、エリアーナ隊にしますか。」
エレナさんがリンゴジュースを噴き出す。
エリアーナ。エレナさんのアイドル活動ネームだ。
「ちょっと!何でよ!」
「エリアーナって、俺らの名前のイニシャルが入ってるんですよ。E・L・I・A・N・N・A。」
「『A』が1個多いじゃない。」
「まぁそれは……俺の存在感?」
「……『I』は居ないじゃない。」
「愛があるんですよ。」
ドヤァ……
「よくもそんな口から出まかせを……どうなの?ナディア?」
「とっっっっっってもいいと思います!私たちのチーム名……嬉しいですね!」
ホントこの子、否定を知らないんじゃないか?
すっげぇいい笑顔。かわいい。好き。
「……エリアーナちゃ~ん。」
妖精ナディアが早速イジり出した。
ニヤついているので、これはこれでアリなんだろう。
「ルカは?どうなの?」
「素晴らしいチーム名と、私は思います。」
めっちゃ尻尾振ってる。むふーん。
「という訳で賛成多数ですが、いかがでしょうか?」
見るに、実はそんなに嫌じゃないと思う。
「まぁ、みんながいいならそれでいいわ!リバルド、レナートに伝えておいてね。」
むしろ満更でもない感じ。
という訳でチーム名が決定する頃に、ナイトストーカー隊と関係者の皆さんが流音亭に到着した。
アレクご一行は、彼女のシェラさんと、一緒に暮らしている結晶妖精のセナスちゃん。
こちらはマヤさん経由で、セイラからルカの話を聞いていたらしい。
でもセナスちゃんはコボルトを見るのが初めて。
大丈夫かなぁと思っていたけど、ルカを見るや否や抱き着きに行った。
「もふもふちゃん!」
着ぐるみに抱き着く幼児を見ているようだ。
マヤさんの心配りで、ルカの事を怖がらないように説明してくれていたみたい。
ルカはかなり照れていた。怖がらず、気に行ってもらえたようで何より。
シェラさんは姿を見て一瞬引いていたけれど、ルカと話をしたらひと安心したみたい。
続いてジャムカがハイフォンさんを連れて来る。
彼女は言葉を喋らず、感情表現をしない人なので大丈夫かなと思っていたら、ジャムカが「問題ない」と教えてくれた。
そしてバルさん、ライナさん、スカンダ。
スカンダに職権乱用のクレームを付けてやろうと思って、さっさと座りやがったカウンター席へ。
「スカンダさぁ、ナイトストーカー隊って、あんたが提案したって聞いたんだけど?そんな事していいの?」
「……。」
すげぇドヤ顔。ちょっと元隊長、そんな目で俺を見るんじゃない。
そして大トリ。
「「ルカちゃ~~~ん♡♡♡」」
マヤさんとセイラがキャーキャー言いながら入って来た。
改めて見ると、本当にセイラが女性にしか見えない。
マヤさんと二人並んで姉妹と言われても違和感無さすぎる。
さて、全員揃った所で今後の予定についてリバルドさんから説明を受ける。
一通りの話が終わった所で、アミュさんが二階から降りて来た。
「お待たせ!!!お部屋の準備が出来たから、荷物とか持ってって。好きな部屋でいいからね!」
俺、エレナさんとナディア、ルカも各自の部屋に戻って出動準備。
今回の出動では、妖精ナディアはお留守番。
ナディアが流音亭の状況を随時確認できるようにするのと、セナスちゃんの子守り要員。
俺が準備を終えて戻って来ると、ルカが行ってしまって涙目のセナスちゃんを、妖精ナディアがあやしていた。
超絶ほっこり空間だ。天使か。いや、妖精か。
ナイトストーカー隊は、ジャムカ、バル、スカンダ、アレクシオス、セイラロス。
エリアーナ隊は、エレナさん、ナディア、ルカ、俺。
総勢9名の大所帯、いよいよ準備完了。
すると流音亭の外に一台の馬車が止まる。
御者が一人、護衛が一人。あれ?あの護衛の人……見た事ある……あ、もしかして?
バルさんもその人に気付いて、一目散に流音亭を飛び出して行く。
馬車の側で、片膝付いて頭を下げる護衛の人。
バルさんが強引にその人を立たせて、肩に手を乗せて何かを話している。
スカンダがライナさんを促して外に出て行くので、残る俺らも続々と外へ。
そこに駆け寄って来たバルさんが、ライナさんを手を引いて護衛の人の所に。
「ライナ、紹介する。軍で……いや、俺の杖の師匠、ベルクだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます