第3話 状況確認と、使命について

「正直に言いますと、よくわかりません。」


 リバルドさんが濃い~目に淹れてくれたコーヒーは、ポケーと抜けた俺の魂的な何かを強制的に引き戻してくれました。


「そうかもしれないね。」


「別の世界ですか。んーーー…できればもう一度、今の状況を確認させてください。」


「もちろん。私が分かっている事はお話しできるから、何でも聞いてね。」


 仕事をしていて手詰まりな状況になった時に、必ず心掛けていることがある。

 自分の頭に染み込んだ固定観念を一度捨てて、改めて一つずつ話を伺っていくこと。相手が口にする専門用語についてわからない場合、そういう物事があると把握すること。

 どうしようもないときはコレで何とか乗り切って来た。よし、オフィシャルモード全開でいこう。


「それでは、今私がいるこの土地について教えていただけますか?」


「じゃあ一つずつね。まずは、フラムロス王国。」


「はい、フラムロス王国ですね。」


「そして、ルージュ侯爵領。」


「ルージュ・コウシャクの領地ということですか?」


「そうそう。侯爵は上から二番目の爵位だね。で、その人の領地ってこと。」


「ナルホドですね。」


 つい出てしまうビジネス口ぐせ。これで手帳にメモってたら、いつもの打ち合わせ風景そのもの。「それは直せ」と言われてたんだけど、なかなか抜けない。


「次は、バトンの森。」


「それはこの辺りの地名ですね?」


「正解っ!そして、冒険者ギルド流音亭。」


 冒険者ギルドと言えば、ゲームとかファンタジー小説ではお馴染みのワードだと思う。昔からそういう本やマンガを読みまくって来た俺にとっては、どストライクな世界観。ヤバいちょっと興味ある…。


「そっ、その、冒険者ギルドというのは、どういう所なんですか?」


「お仕事取り次ぎ所だね。一つの町に、一つある感じ。」


 変な言い方をして気を悪くされるのはイヤだから、何となく言い方を変えて聞いてみよう。


「私のいる世界でも似たような、仕事を斡旋する所はありますね。ちなみにこちらでは、どのような業務形態になっているんですか?」


「随分と、ギルドでグイグイ来るねぇ……そんなに気になる?」


「めっちゃ気になります!」


「ならいいんだけどね。えっと、お仕事をお願いしたい人がギルドに仕事の依頼を出して、何を何個持ってきたら終わり!みたいな内容と報奨金を設定するのね。」


「ふむふむ。報奨金……」


「依頼書は掲示板に貼られるから、誰でも見れるの。でも仕事は冒険者登録をした人だけ受けることが出来るのね。」


「誰でも冒険者になれるんですか?」


「誰でもなれるよ。でも登録条件があって、最初の登録料と、年に一度の更新費用を払う事だね。」


 DVDレンタルの会員みたい。


「お金ですか…。」


「登録しちゃえば仕事して稼げばいいから、大体は問題ないね。」


「まぁ、そうですよね。」


「仕事を終わらせたらギルドに達成報告して報奨金をもらって、無事お仕事完了!」


「それでは、仕事の準備ですとか、かかった費用については受注した冒険者の負担ということになりますか?」


「基本的にはそうだね。たま~~~に食事付きとか、装備支給とかはあるね。依頼書にそのあたりの条件も書いてあるよ。」


「なるほどナルホド…。」


 まぁ、それはどの世界でも同じか。

 支払う金額の範囲内でやれるならやれって、そりゃ当たり前か。


「例えば、仕事を受注したのはいいけど、こりゃ無理だ、出来ない!ってなったら、どうなるんですか?」


「その場合はギルドに不達成報告をして、罰金として報奨金の3割を払う必要があるね。」


 おおう、3割って結構持っていくのな。


「無茶な受注をしないようにしてるんだろうね。お金がいいから無理して受けて、ボコボコにされて、大怪我で達成出来ませんでした~って事になったら、罰金払って治療費払って、治療中は仕事できなくて、信用無くして…いい事は何もないねぇ。」


「ホント、その通りですね…。」


「仕事で起こったトラブルや、不慮の事故があっても、全ては仕事を受けた冒険者の責任。ギルドは一切関知しないことになっているの。あと、冒険者としてやっちゃいけない事をしたら、資格は剥奪されるので注意してね。」


「例えば、どういった事ですか?」


「私闘の禁止。民間人および冒険者に対して、武器・使役獣などを使用して攻撃するなど、殺傷目的の戦闘および戦闘に類する行為は固く禁止されています。」


 おお!たぶんアミュさんのオフィシャルモードだ。デキる上司の雰囲気!かっけぇ…というか、それくらい重要な事だからだな。

 使役獣って、捕獲して飼い慣らして攻撃に参加させるアレですよね?ヤバいすっげぇ興味ある。

 冒険者か…ちょっといいな…後で、もっと詳しく聞いちゃおう。


「今の自分に合った仕事を、出来る事からしっかりやる。そして経験を積んだら、レベルの高い仕事をしていく。そうやって少しずつ成長していくことが、冒険者にとって大切な事かな…。」


「そうそう!!!わかってくれてるね~~~!!!コレが若い子には、なかなか伝わらなくてさぁ~。」


 ほめられちゃった…えへへ。

 アミュさんが会社の上司だったら、どんなに良かったか…。


『ンな事もわかんねーのかクソが!』


 みたいな罵倒、仕事をしていて浴びせ掛けられるばかり。

 わからない事を教えてもらえる、頼れる相手がいるというのは本当にありがたいんだよな。


「例えば、ギルドに入ったら、仕事ができること以外に、何か特典みたいなのはあるんですか?」


「色々あるかな。例えば、乗り合い馬車の料金に割引が適用されたり、大きな街とか、城下町に入る時の税金が少し安くなるよ。」


「街に入るのに、お金がかかるんですか?」


「そうだね、入市税とか入城税とか、規模によって金額も変わってくるよ。魔物に対する備えが必要だから、大きな街ほど高いね。」


「魔物って、昨日の狼みたいな……?」


「そうそう。そんな感じ。強いのは出ないけどね。夜に裸で歩くのは、さすがにちょっと危ないかな~。痛いじゃ済まなかったかもしれないね。」


「そうなんですか…怖っ!」


「あはは、何もなくて良かったね。昨日は、ウチのギルドで登録した子がアキラくんを見つけてくれたんだよ。」


「あ!そういえば、あの方は?」


「今日も来るって言ってたよ。昨日はウチの店で、あの子の独立パーティーをやっていたんだよ~。」


「独立?」


「長い事、ウチで住み込みの冒険者をやっていてね。アキラくんが寝てた部屋、その子がずっと住んでた所。「俺ん所まだ片づけてないなら、コイツ寝かしてやって」って。」


 マジか…すげぇ迷惑かけてた。

 それと何その優しさ。超デキてる人だ。


「後でいらっしゃるなら、お詫びしないと…。」


「本人は、気にしてないみたいだったけどね。後ろめたい気持ちがあるなら、何か言ってみるといいよ~。」


「まぁ、ホントは合わせる顔もないんですけどね、情けないやら、恥ずかしいやら…。」


「他には聞きたい事はあるかい?」


 冒険者ってところでテンション上がって脱線したけど、まず聞いておきたい事は聞けたかな。

 そしたら次に俺が聞きたい事。


「使命って、何なんでしょうか?」


 アミュさんが知ってるとも限らないし、そもそも聞く事じゃないかもしれない。

 ただ、使命があって俺はここにいる訳で、その使命がわからないと、どうしようもない。


「使命は、呼び出される時々で違うの。それでこの本には、あった事だけ書かれているんだよね。なので、アキラくんの使命は私にはわからないんだ。」


「それでは、本にはどんな事が書いてあるんですか?何か、ヒントがあれば…。」


「じゃあ、一つずつ教えて行こうか。」


「最初は、金の印。書いてあるのは『建国』」


「建国、それだけですか?いや、それだけってのは語弊がありますけど。」


「うん。それだけ。」


「具体的に何をやったとかは?」


「書いてないんだよね。ただ『建国』と書いてあるの。」


 建国?そんな大事な使命を受けたって事?国を作ったとか?関係者とか?


「次は銀の印で『幸福』」


 建国の後に幸福。国が出来て、民は幸せになりましたって事かな。


「その次が青の印で『海龍討伐』」


「討伐!マジですか!」


 突然穏やかじゃなくなる。しかも四字熟語っぽい。書き方は自由なのか。


「朱の印が『妖魔封印』、紫の印が『創鏡』、緑の印が『ゲーコゲーコゲーコゲコッゲコッ」


「ちょっ」


「ゲコッ!』」


「あ、すみません。あの、本当ですか?」


「そうだよ、まだ終わってないよ~『ゲーーコゲーーコゲーーーコ…」


「……」


「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ』…はい、以上です。」


「……」


「ふぅ……とりあえず読んでみたけど、どうだった!?」


 アミュさんの『やり切った感』が眩しい。

 さっきまでのオフィシャルモードとの落差がすごい。ギャップ萌えという言葉があるが、今回のイベントではそれを見つけ出すことが出来ず、自分のレベルの低さを痛感。

 めっちゃいい笑顔で女性に『どうだった!?』と言われるとね、こう……リバルドさんには大変申し訳ないのですが正直ドキドキしたりするんだけど、評価を求められているので答えないわけにはいかない。


「インパクトがありますね……」


 正直に。


「これを正確に伝えるのが、ギルドの重要な仕事と言っていいね。」

「何となく、さっきおっしゃっていた、いろいろな使命を持っていたという認識が深まりました。」


「やってて言うのもなんだけど、わからないでしょ?」


 図星です。


「はい。わかりませんでした。」


「正直でよろしい。じゃ、使命についてわかっている事の続きを話そうかな。」


「はい、よろしくお願いします。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る