第47話 王都到着
明日からの予定は、俺が赤の剣士隊の訓練場でひたすら訓練。
ナディアはエレナさんの部隊に行って、魔法の訓練。
これを1か月間行うだけの簡単なスケジュールです。言うだけなら。キッついんだろうな……。
「エレナさんの部下に、魔法を使える方が居るんですねぇ。」
「そうよ。アキラは訓練の休みの日にでも、顔を出しなさいよ。」
「それって休みじゃないんじゃないかな……まぁ、行きますけどね。パトリシアさんも参加されるんですか?」
フッとエレナさんの背後に現れる黒装束の人。
先程ご挨拶をした時に頭巾は取っているので、素顔のままだ。
「エレナ様の許可がございましたら、是非とも。」
「いいに決まってるじゃない。」
「有難く。アキラさん、ナディアさん、その際はよろしくお願い致します。」
パトリシアさんがぺこりと頭を下げる。
ナディアが嬉しそうな感じで、パトリシアさんの手を取って話し掛ける。
「こちらこそ、よろしくお願い致しますね。」
パトリシアさんが、少しはにかんだ感じでぺこりと。
何となく、二人とも嬉しそうな感じに見える。良き良き。
すると、レナートさんが何処からか戻って来た。
「それでは、ささやかではございますが、アキラさんとナディアさんの歓迎会を開かせていただきたく思います。準備が整いましたので、どうぞ庭園へいらしてください。」
「やった!レナート、アレ?」
「はい、アレです。」
「あの、歓迎会とか、そんなわざわざ……」
「歓迎会ってのはね、要はそれを名目にした宴会だから。ホラ、行くわよ。ナディアも!」
「はいっ!」
エレナさんに手を引かれて外に出ていく俺とナディア。
これまたご立派なお庭を進むと、わいわいガヤガヤと人でごった返している。
長旅を護衛していただいたテオバルト隊長以下、4名の剣士隊の皆さん。
そして、使用人宅で住み込みで働いているシャレット家、コルベール家のご家族、常駐している6名の警備員の皆さんが宴会の準備を進めていた。
既にジュウジュウと焼きに入っている。すっげぇ美味しそうなこの匂い!!
「バーベキュー!!!」
全員に飲み物が配られ、レナートさんが乾杯のご発声。
「本日はアキラさんとナディアさんの歓迎の宴です!皆、楽しいひと時を!乾杯!」
「飲んだ……喰った……大満足……」
〆のデザートはリンゴのシャーベット。
肉やら魚やらをたっぷりと満喫した後に、あっさりした甘みがとても美味しく感じるね。
警備員と剣士隊の皆さんはガッツリ飲みまくって酔いつぶれている。
今日はレナートさんが帰って来たので、警備員の皆さんは完全オフにしてもらったようだ。
テオバルトさんもレナートさんも、同じぐらい飲んでいるのに酔った気配がしない。酒豪とはこの事か。
「ナディア、明日は城門の衛兵にコレを見せなさい。ウチの隊員が迎えに来るから。」
そう言ってエレナさんがナディアに手渡したのは、黒いカード。
「はい、承知致しました。」
「アキラ、明日から過酷な訓練よ。今日はゆっくり身体を休めるのよ。」
「もちろんです。しっかり明日に備えますよ。」
「じゃあ、今日は戻るわね。見送りはいいから。」
うー、食べ過ぎた……などとボヤキながら、パトリシアさんと一緒にレナートさん宅を後にした。
俺からしてみたら、その細い身体の何処にあの量が収納されたのか不思議でならない。
後片付けはシャレット家、コルベール家の奥様とお子さんたちでやってくれるようだ。
特に子供達は、進んでお手伝いに参加している。
これは偉い。俺がこの子らぐらいの時なんて、何もしないで遊んでばかりいたのに。
あ、でもオトシゴロの男の子数人は、キビキビ働きながらナディアをチラ見してる。
気になるお姉さんに、ちょっといい所を見せたいヤングボーイ。それはそれでわかる。
そんなヤングたちは俺とナディアが移動を開始した瞬間にヤル気が無くなったっぽく、彼らのお母さんと姉妹たちにメッチャ怒られてた。
さて、レナートさんに連れられて、今日から1ヵ月生活させていただく使用人住居に案内していただいた。
建物のサイズは、使用人住居の中では最も小さな2DKタイプの2階建て。
1階がリビングダイニング、キッチン、風呂、トイレがあり、2階は寝室と物置兼衣装部屋。
お風呂の入れ方とキッチン、トイレの使い方のレクチャーを受ける。
洗濯については、シャレット家の奥様が洗ってくださるとの事なので、洗濯籠に入れて毎朝邸宅のランドリーに置いておくルールとなった。ありがたい。
朝食は朝6時半、夕食は19時、邸宅で全員揃って食べる。
俺とナディアはレナートさんと一緒に7時半に家を出る。
まずは王城にナディアを送り、その後赤の剣士隊の訓練場へ移動。
午前の訓練は8時半から12時。1時間の昼休み後、13時から15時まで訓練。15分の小休止後、18時まで訓練。
その後王城までナディアを迎えに行き、帰宅。
仕事勤めと、さほど変わらないスケジュール感。
でも残業というものが無いから、すげぇホワイトな環境じゃないかと思ってしまう。
まぁ、訓練内容はかなりキツいけどね。
持っていく物は特に無くて、服装は赤の剣士隊の制服。インナーなどは、衣裳部屋に置いてくれているとの事。
「お二人とも長期間の移動、本当にお疲れ様でした。改めまして、今後ともよろしくお願いいたします。」
「いえいえ!こちらこそお世話になりっぱなしで……しっかり訓練を積んで、お役に立てるように励みます。」
「私もエレナ様の元で、たくさんの事を学ばせていただきます。レナートさん、ありがとうございます。」
三人揃って深々とお礼合戦。
ドアが閉まった直後、二人揃って居間のソファーに深く腰掛ける。
「着いたなぁ……」
「着きましたね……出発の時は、この姿でここに居られるとは、思っても居ませんでした。」
「ホントだわ~。そろそろ、種明かしをしてもらおうかね、ナディアさんや。」
「そうですね、それでは最初からお話しますね。」
元々、ナディアは泉から出ることが出来なかった。
一緒に行動していた妖精バージョンは、泉にいるナディアが分身を作り出したもの。
風呂に出て来た実体バージョンは、分身が居る風呂と泉を繋いで、泉にいるナディア本人が来ていた。
エレナさんの指導で、陸上に上がる魔力操作の技術を習得した。
魔力操作を習得したら、陸上でも魔法を使えるようになった。
明日からの訓練は、魔力を高める事、魔力操作の技術を高める事、魔法の練度を上げる事。
ふむ、何となく把握。
「泉に居たナディアが出られるようになって、ここに居るって事なのか。」
「初めは、立っているだけでも辛かったです……。」
「今はもう平気なの?」
「はい!陸上でも問題なく暮らしていく事が出来るようになりました。それと、分身も出せるようになりました。」
ナディアが掌を合わせると、ほんのり明るい青みがかった緑色の光が掌を覆う。
そして手を開くと、光が集まって人の形を成していく。
「おお~!」
「向こうに居る時は、泉が持つ力と言いますか……意識するだけで出せていました。今の姿ですと、出してあげるための魔法と、維持するための魔力が必要になりますね。」
「…きのうぶり。」
頭の草をふよふよさせて、妖精ナディア爆誕。ぴょんと俺の膝に乗る。
「はいはい、昨日ぶり~。」
ほっぺを軽くツンツンしてみる。
「私の魔力や魔法の練度が高まる事で、成長した姿で出してあげることが出来るようです。」
「魔石の自由っぷりを考えると何でもアリな気がするけど、魔法の場合はちゃんと訓練しないとダメなんだね。」
「はい、まだまだこれからです。」
「互いにまだ未熟だし、しっかり訓練積まないとね。俺だって半年鍛えてもらった程度だから、何年もずっと鍛錬を重ねて来た皆さんに比べると、お子ちゃまレベルだと思う。1ヵ月しか無いから、とにかく全力で頑張らないとね。」
「私も、皆さんのお伴をさせて頂けるように励みます。」
「…がんばる。」
初日に遅刻するなんて事はありえないので、明日に備えるために風呂に入ってゆっくり寝る事にする。
俺・妖精ナディア・ナディアの3人が、大きなベッドで川の字になって寝た。
翌朝。
昨日はかなり早い時間に眠りについたせいか、太陽が昇り切らない明け方に目覚める。
妖精ナディアは居なくなっていて、いつの間にかナディアに戻ったようだ。
しっかり休めたおかげで、体力も気力も十分。
寝息を立てているナディアを起こさないようにして、部屋を出る。
ちょっと前なら、帰る時間だよな。
珍しく朝の空気を吸いたくなったりして、外に出てみる。
今居る場所って、山というか……丘にあるのかな。
木々の隙間から王都が一望できる場所を発見。
王都の奥の方は山が連なり、中心部には高い壁に囲まれた城。山に囲まれた平野部の全域が王都なのかね。
その手前あたりに、王都を横断する大きな川が見える。川を流れる先を見る。あの向こうは海なのかな。
王都の広さを実感すると共に、何となく懐かしさを感じた。
実家近くの森林公園から見た、市街地を見ているような感覚。
小学生の頃、友人たちとよく遊びに行った時に見た風景を思い出す。
しばらく離れて、少しだけ望郷の念にかられているのかね。
でもしばらくって言ったって半年くらいだし、森林公園だって10年以上は行ってないからなぁ。
あぁ、友達何人かで朝の散策、と称してエロ本探しに森の中を歩き回ったあの時の朝の感じだ。
うーん、どこにあんなパワーがあったのか。ヘンな事思い出したな。戻るか……。
さて朝食の時間。
定番のモーニングセットを美味しくいただきました。
部屋に戻って、早速出掛ける準備。
ナディアには衣裳部屋を使ってもらい、俺は寝室で着替える。
持っていく物は無くてもOKとの事だったけれど、カバンは持って行く事にした。
カバンの中に何もかも全て入っているから、それさえあれば問題無しだな。
「アキラさん、ひとつお願いがあるのですが。」
「どうした?」
「アミュさんに作っていただいた、妖精サイズの訓練服をお借りしてもいいでしょうか?。」
「うん、カバンには入れたままにしているから大丈夫だよ。お、コッチに来るのかい?」
「分身の子がそちらにお邪魔する事になると思いますので、よろしくお願いします。」
「了解ですよ。俺どころか、ジュリエッタさんやら皆さんが守ってくれるから。」
【コンコンコン】
失礼いたします、とドアが開きレナートさんが入って来る。
「アキラさん、ナディアさん、ご準備はいかがでしょうか?」
「はい、準備完了です。いつでもOKです!」
「そろそろ出発いたしましょうか。」
門の外で並んでいる警備の2人が門を開ける。
今回は、普通の馬車でした。
やはりアレは、長距離用の特別バージョンだったんだろうな。
「それでは、まずは王城へ参りましょう。その後、訓練場へ向かいます。」
「はっ!」
御者の合図とともに、馬車は徐々に速度を上げて街道を駆け出した。
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