第12話 犬と泉とマンドラゴラ

「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます。」


 果樹園脇の休憩スペースで、トーラスくんのお父さんが応対してくれた。


「トーラスくんからのご依頼との事でしたが、ご本人にお話を伺った方がよろしかったでしょうか?」


「犬が来なくなってから、元気が無くなってしまいましてね…。私からお伝えしましょう。」


 話は依頼書にも書いてあった通りで、果樹園によく来る人懐っこい野良犬がいたんだけど、ここしばらく見かけなくなってしまって、もしかしたらケガでもしているんじゃないかと心配になり、依頼書を出したいという事になったようだ。


「確かに人懐っこくて頭が良く、小動物などから果物を守って追い返してくれていたので、これならウチで飼ってあげてもいいかねと、妻と話をしていた所で突然来なくなってしまったんです。

 それから息子も元気が無くなってきましてね。どんな形であれ、見つかってくれたらとは思っていますが…森は広いので、今日捜索をしていただいて、もし見つかれなければ、それで依頼は終了として頂いて、構いません。

 冒険者さんに探していただいたけれど、頭がいいから元気に暮らしているさと伝えたいと思います。」


「承知いたしました。それでは、その犬が最後に森に帰っていった方向を探しに行きます。

 夕方まで捜索を行いますが、そこで見つからないようでしたら、こちらに戻ってまいりますね。」


 実際に冒険者が来て、見つけられなかったという所を落としどころにして、気持ちを整理させようって感じかな。

 見つかるに越したことは無いんだけど、何か大きな獣にやられてるとか、そんな事があったらイヤだな。俺が危ない。

 あそこで、涙目で俺を見ているのがトーラスくんかな?

 ちょっと一声、声をかけて行こうか。


「トーラスくんかい?」


「…はい。おじさんが冒険者さん?」


「そうだよ。」


「…絶対見つけてくれる?」


「おじさんは、出来ない約束はしないんだ。でも、一生懸命探してみるよ。」


「…ん。」


 そんな目で見られたらなぁ。

 おじさんだって見つけてあげたいんだけどね、そのワンちゃん。

 とりあえず、最後に野良犬が森に走って行った方向、北東の森の奥に向けてゴー!




 森に入るので、マントとグローブを装着。

 役には立たないと思うけど、ナイフ入れを腰に装着して、とりえあず武器もオッケー。

 この辺りの森の奥の方は、鬱蒼とした未開のジャングルといった感じではなく、木と木の間隔が少しあって、柔らかくふかふかの地面が歩きやすく疲れにくい。

 犬の特徴は、毛色は全身茶色で、やや毛が長めの中型サイズ。

 トーラスくんは「ラッキー」と名前を付けていて、名前で呼ぶとシッポを振って喜んでいたそうだ。名前の通り、運良く見つかってくれるといいなぁ。

 はてさて、ラッキーちゃんはどこに行ったやら~。


【ガサガサ】


「うわっと!」


 野ウサギでした。

 ビビるわ。ってか今さらながら、こんなマント一枚で森に入って大丈夫だったのか?普段着じゃん。

 とりあえずカッコイイから装着しているだけで、コレがどんなモンかなのかは理解してないんだよな。

 あのマジックバッグに入っていたぐらいだから、ただの風よけ&雨よけじゃないとは思うけど…。


【ガサガサ】


「今度は何じゃい!」


 シカでした。

 鹿か…引きずられたねぇ…マヤさんだっけ?流れ作業で鹿に俺を括りつけて引き廻すという手際の良さは見事だったけど、二度とそんなプレイはイヤだねぇ…。


【ガサガサ】


「次は何?」


『ワン!』


 犬でした。

 全身茶色の長毛種っぽい感じで、中型犬サイズ。マジか!そんなにサクっと見つかった!?


「ラッキー?」


『ワン!』


 おおお、めっちゃ尻尾振ってる!ラッキーだ!ラッキー!

 よーしよしよし、じゃあご主人になる人の所へね、連れて行ってあげるからね~。

 怖くないからね~、ちょっとこっち来てね~。よーしよしよし、モフモフしてやろうね~。


『コッチ』


「ん?誰?」


『タスケテ』


 え?誰?あー!ちょっとラッキー!ダッシュした!待って~!!!!

 あ、止まった。


『コッチ』


 マジか!ラッキーちゃん話せる犬か!?旦那さん、賢い犬って言ってたけど、そこまで賢い犬だったの?


『コッチ キテ』


「何かあるの?」


『タスケテ』


「あぁ、うん。じゃあ、とりあえず付いてくから。終わったら、あの家に一緒に戻ろうね?男の子、トーラスくん、悲しい。ラッキー、帰る、嬉しい。」


『ウン』


 俺まで単語になっちゃうけど、話せる犬か…すごいな。トーラスくんはかなり喜ぶな。たぶん。

 さて、何を助けるのか…犬同士のケンカ?ナワバリ争い的な?

 それとも…実は森の奥で倒れた大富豪が居て、実はその飼い犬で、人里まで降りてきて助けを求めるも理解してもらえず、途方に暮れていたら俺と出会って、大富豪を助けて、命の恩人になって、この油田の権利を貴公に授けよう的な?


『チガウ』


 あっはい。

 でも、どんどん奥に進んでるよね。コッチは…どっち?

 ラッキーちゃん、どこまで行くの?


『イズミ』


 イズミ?泉?お水飲みたいの?


『イズミ カレタ』


 枯れちゃったんだ。

 それだったら、トーラスくんの所に行けば、お水飲み放題なのに。


『モウスグ ツク』


 かれこれ、歩き続けてしばらく経つかな。

 ちょっと木が多くなってきたこと以外は、特に何も変わらない風景なんだけど…。


『ツイタ タスケテ』


 着いたと言われたその場所は、木々に囲まれて他より一段下がった窪んだ場所で、枯れ葉で覆われている。

 助けてと言われても、俺は一体何をすればいいのか?


 泉枯れた。助けて。


 泉が枯れて、水が出てこなくて、困った。お水飲めない。さぁ、どうしようか?

 泉は水が湧出する場所?水の出口に何かが詰まって、水が出てこなくなった?

 それで干上がってしまったとか。


 よくわかんないけど、とりあえず窪地をちょっと見てみるか…。

 枯れ葉を足でバッサバッサと払い除けてみる。全てを払うと、確かに池のような、沼のような、水たまり跡のような感じ。


 じゃあ次は、泉の出口…もしかして、コレ?

 大きな石が埋まっている。コレは…デカいなぁ。

 埋まってる片側だけを掘って、軽い坂を作ってエイヤっと転がすことが出来たら、塞がりが解消されて、水が出てくるとか。

 でもそれやって別の場所でしたーったら目も当てられないから、まずはこれ以外の場所を調べてみるか。


 他にはそれっぽい箇所は無いから、間違いないかな。じゃあ準備するか。

 とりあえず、一度果樹園に戻って、スコップを借りてこよう。

 その時に、ラッキーちゃんを…連れてったらそれで仕事終わりになっちゃうから、まだ連れて行かず。


「その埋まってる岩を動かしたらたぶん泉が復活すると思うけど、間違いなさそう?」


『タブン イイ』


「よーしラッキーちゃん、じゃあ、一度俺をトーラスくん家の果樹園の近くまで連れてってくれる?

 スコップ借りてきて、またここに戻ってくるから。俺、場所、わかんない。」


『イイ』




「あれー?冒険者さんまだお昼前ですが…もしかして、見つかったんですか!?」


「あ、いえいえ、一つお願いがございまして…。スコップを1本、お借りしてよろしかったでしょうか?」


「スコップですか?よろしいですが……まさか、ラッキーちゃん……?」


「いえ!決してそのような事ではありませんので!今しばらくお待ちください!!」


 トーラスくんが涙目で見てる。

 違うよ!そうじゃないよ!埋める的な事じゃないからもうちょっと待ってて!!




 さてさて~、この岩の片側半分を掘ってやって、木かなんかを掘ってない側に差し込んで、テコの原理みたいな感じでエイヤとやればコロンと転がせるはず。

 あくまでもシロウト考えだけど、クッソ重い岩とかだったら動かせないか。円柱みたいな感じの岩が突き刺さってたり、氷山の一角的な埋まり方してたらたらキツいだろうけど。

 イザとなったら横から穴を開けるようなイメージで、水の通り道を作ってやれば水は出るでしょう。超絶チカラ仕事だな…帰ったらお風呂に入ろう。


 いざ、掘る!


 そこからは地味な作業。岩の片側方向の地面をザックザックと掘る。とにかく掘る。ひたすら掘る。小一時間掘る。

 状況は軽く予想していた通り、円柱のような状態の岩が埋まっている感じだった。

 何でこんなの刺さってんの?そんな悪態を軽くついてみる。しかし何も起こらなかった。

 それか、水源は別のところにあるとか…?いや、そんな事は無いような気がする。気がするけど、もう一回見てみるか…?


「ラッキーちゃん、水のニオイみたいなの、感じない?」


『イワ』


 そうですかい…まぁ、そうなんじゃないかなーとは思ってるんだけどさ。

 延々と長いのが刺さってる訳でもなし、もうちょっと掘れば何とかなるかもしれないから、もうちょっと頑張って掘るか…。


 夕方に差し掛かるころ。

 土を出すために範囲を広げながら1.5mくらいの深さまで掘ったけど、なかなか底が出てこない。


「ラッキーちゃん、ちょっと明日にしてもいい?」


『イイ』


「コレさ、何とかしてあげるからさ、もうトーラスくんの家に住んであげて?」


『ワカッタ』


「はぁ…じゃあまずはスコップ返しに戻るか…疲れた…。」


 ラッキーちゃんをトーラスくん家に連れて帰ると、キラッキラした瞳で俺にお礼を言うトーラスくん。

 お父さんもお母さん、弟くん、妹ちゃんも喜んでいる。

 これで依頼が終わりならホントに良かったんだけどね…家に居たらお水だって飲めるのに、何で泉を沸かせたいのか。

 ちょっと疲れちゃった…お腹すいた…フロ入りたい…。


「ちょっとラッキーちゃんに、ココ掘れワンワンされちゃったので、明日もラッキーちゃんお借りしてもいいですか?」


「え……?はい、どうぞ。」


 疲れ果てて意味の分からない事を言ってるけど、とりあえず納得していただいた。

 依頼書にサインをしてもらって完了、依頼ではないけれど、明日も伺う事にして今日は帰る。


 ドロッドロになってフラフラと帰って来た俺、何があったのかと聞かれるが、とりあえず依頼終了、お風呂をお願いします…といって座り込んでしまった。

 依頼の報酬銅貨5枚からお風呂代3枚を差し引いて、今回の報酬は銅貨2枚。


 風呂に入って、ぐったり。

 久しぶりの肉体労働はキツかった…明日…いや、3日後ぐらいに筋肉痛来るな…でも明日もあるんだよな…。

 もっとラクに出来ないかな…ラッキーちゃんと約束しちゃたからな…ぶくぶくぶく。




 翌朝、もう来た筋肉痛に戸惑いを感じながら、本日の穴掘りの準備。

 昨晩、バッグの荷ほどきをせずに寝ちゃったので、買ってきた手ぬぐい、ハンドタオル、バスタオル、下着をクローゼットにしまい込む。

 ハンドタオルとバスタオル、下着を借りてる分だけ返そうと思って、アミュさんに渡そうとしたら。


「まだいいよ~。出世払い!」


 なんて言われて笑って突っ返された。必ず返します。

 あとはリバルドさんからスコップとつるはしをお借りして、何とお弁当を準備していただいた。

 昨日はオナカすいてたからチカラが出なかったんだよ、たぶん。

 よし、カバン持って準備完了。


「それでは、穴を掘ってまいります。」


「は~い、行ってらっしゃ~い!」




 フォレア村の入り口辺りで、ラッキーちゃんとトーラスくんがお出迎え。


「おー、おはようー。」


「おはようございます!」


『ワン!(オハヨ)』


「わー!ラッキー言葉がわかるの!」


 え?


『ワン!ワン!(チョット ワカル)』


「かしこいねぇ~。」


 あぁ、そういう事か。

 トーラスくんは、ラッキーちゃんが俺の言葉に反応した事を言ってるのか。


「じゃあ、ラッキーちゃんを借りるよ。夕方には必ず届けるから、心配しないでね。」


「うん!じゃあラッキー、いい子にするんだよ?」


『ワン!(ハイ)』


「いい子だ~!!!」


 頭をなでり倒している。これで言葉が分かるようになったら、彼にも《人獣》の特性があるんだろうけど…。

 そんな事もなく、バイバーイと言って帰っていった。


「さ、行こうかね。」


『イコウ』




 おや?

 昨日掘った底の方に、ちょっと水が溜まっている。


「あれ、ラッキーちゃん、雨降った?」


『イズミノ ニオイ!』


「マジでか!」


『ハヤク!』


 ラッキーちゃんが大興奮でバリバリバシャバシャ地面掘ってる。


「じゃあ俺が掘るから、ラッキーちゃんは上で待っててね。」


『ハヤク!』


 目標が見えてると早いもんで、ジワジワと水が溜まるようになってきた。

 さらに掘ると、うまいこと水の流れを掘り当てたっぽく、ジュワーっと足首くらいまで水が溜まる。

 もうちょっとだけ掘って、水が出る量を増やしておくか。

 つるはしに持ち替えて、大体この辺りをグリグリと…うぉ、来たか!

 一気に噴き出るような事は無かったけれど、そこから一気に湧出量が増えて、みるみるヒザくらいまで溜まるので、さすがに大丈夫だろうと穴から出ておいた。

 ラッキーちゃんが大興奮で『イズミ!』『キタ!』とはしゃいでる。かわええのう…。

 声が聞こえなかったら、ワンワンと吠えまくってるんだろうなぁ~と思いながら、水が溜まっていくのを見守っていた。


 30分程度でただの穴が沼っぽくなった。深さはそんなにないけど俺が掘った分だけ深くなっちゃったから、大きな石とか砂利を撒いて水は出るようにしつつ、底上げをした方が安全だよな。子供には危ない深さだ。

 あと、さっきまでは気付かなかったけど、この泉からチョロチョロと水の流れが出来始めているな。川と言うほどではないけど、どこに続いていくのか…。


 さて、まずは沼を底上げしたい。でも森の中だからなぁ…ゴロゴロと石が転がってる場所は無いかなぁ。ラッキーちゃんは元々ノラだから、いい場所知ってるかな?

 聞いてみたら、この水の流れの下流、ちょっと行った所に岩場があるようなので、早速行ってみることにする。



 そこは、ちょっと変わった場所。


 枯れた木の根元を、小さめな石が取り囲んでいる。カドが無くて丸っこい白い石。キレイな玉砂利みたいな感じで、コレは理想的な石の形だよ。

 でも近いとはいえ、運ぶったら大変…重いし…袋も買ってないし…どんだけかかるんだか…レナートさんのマジックバッグがあればなぁ…玉砂利半分入れ!みたいな感じで出来るのに。


 …ふと思って、借りてるカバンを開ける。中には、手ぬぐい1枚、ハンドタオル1枚、ノート、ペンケースが入っている。

 見た目普通の革のカバン。でもレナートさんが、そんな普通のモノを入れるはずがないと思った。


「ここの砂利、ゆっくりと半分入れ。」


 言った瞬間、シュルシュルと砂利がカバンに入っていく。

 意識を集中すると、意図した方向、量、入る速度が調整できる。


「何コレ…超便利。」


 砂利が半分ほど入ったところで、吸い込みが終わる。

 中身を確認するけど、さっき見た内容物が変わらず入っているだけで、砂利はどこにも見当たらず。

 カバンの重さも変わらないし、どうなっているんだか?

 出す時もたぶん同じ感じだろうと思って、沼に戻る。


「砂利、少しずつゆっくり沼を埋めろ。」


 シュルシュルと砂利が沼を埋めていく。意識を集中して、満遍なく、丁寧に砂利を流し込んでいく。

 砂利が出尽くした頃には、ちょっと深めな水溜まりくらいになった。透明度が増し、青みがかったキレイな色になっている。

 よし、これなら安全性に問題ないよな。


『モドッタ!』


 ラッキーちゃんが緊急発進してベチャベチャと水を飲みまくっている。

 飲みすぎて興奮したのか、フガっ!フガっ!って言ってる。オイオイ慌てるんじゃないよ?実家の犬みたいでカワイイ。よし、腰をコシコシしてやろう。

 コシコシコシコシ…


『モット ナデレ』


 よーしよーし。

 背中から腰の辺りをナデナデ、通称コシコシしてやるとウットリするんだよな。ラッキーちゃんもコシコシが好きで何より。


 とりあえずは、これで全て完了かな。

 この四次元バッグ、埋まってる岩を呼んだら、入ってたんだろうか…入り口が狭いから無理か?

 いや、ココの泉が完璧な形と思うから、ヘタに崩したくない。いいよ~この形。自画自賛しちゃう。


 さてと、下の方は水が溜まったかな?それを見てから帰ろうと思って行ってみたら、ちょっとすごい事になってた。

 何か、森の中にある現代アートっぽい見た目。泉から流れ出た水が枯れ木の根元をひたひたと覆っていて、水底の玉砂利の白さが、青みがかった水の色を映えさせている。

 風が吹くと木々の間から光が射して、神々しく感じる。

 コレ考えて造った人、凄いな~と素直に思った。

 木が水に浸かっちゃって根腐れしないのかなぁと思ったけど、たぶん泉が枯れる前はこの木も枯れてなくて、そういう丈夫な木だったんだろうかね。


 はえ~と思って見ていたら、ちょっとおなかすいてきた。

 今日は現代アートを鑑賞しながら、お弁当にしよう。

 包みをほどくと、おにぎり3個!中身はシャケ!鮭が流通してるのか。海が近いのかな?

 あとはリンゴとウインナー。う~ん、行楽弁当!リバルドさんと食の好みが一致しているせいか、ホントに美味しいね。

 じゃあウインナーを…よだれを垂らしてお座りしているラッキーちゃんにもおすそ分けしちゃっても…いいかな?

 人間の食べ物だから、塩分と脂肪分を少し水ですすいで落として、これでどうかな。


『ウマイ!』


 そうかい?それは何より。そして泉の水をガフガフと飲んでいる。

 天気もいいし、ホントに最高だなぁ…。


『ムカシ キタ』


「ココ、いい場所だよ。教えてくれなかったら泉も復旧出来なかったしね、本当に良かったよ~。」


『コワカッタ』


「えー、怖かったって、何が?」


『カミナリ』


「あら、雷が怖いの?」


『コワイ』


「まぁ、俺もそんなに好きじゃないよ。近くに落ちた時の音と衝撃は、すごいからねぇ~。」


『ミンナ シンダ』


「あら…落雷でか…だから、一匹でいたのか。苦労したなぁ。よし、コシコシだ。これからは、トーラスくん家で幸せに暮らすんだぞ。」


『ワカッタ』


「うん。いやぁ~それにしても、本当にいい場所だよな~。」


『イイヒト』


「そうかい?まぁ、いい人って言われるのは嬉しいね。」


『キノ ネモト ミテ』


「おぉぅ文でしゃべった。随分具体的だなぁ…根元って、水の中の?」


 目を凝らしてみると、玉砂利の隙間、木の根元から葉のような、草のようなものがすっと伸び、水に揺れていた。


「ん?草?葉っぱ?」


『ヌイテ』


「これ?抜けばいいの?…結構チカラ要るな。何?雑草か何か?」


『ムスメヲ』


「何を?今抜くから、ちょーっと待ってね。」


『ミマモッテクレ─────』


 そう言った瞬間、ラッキーちゃんがぱたりと倒れて、ポっと光ったように見えた。


「え?何、ラッキーちゃん?」


 次に草を引っこ抜く感触!


「おおっと、こっちも抜けた!」


 草の根を構成していたのは、見た目が子供っぽい何か。


「これッ!マンドラゴラ!?ヤバっ!死ぬ─────」


 その何かは目を覚まし、大きな口を開ける。

 その直後、俺の人差し指に齧り付き、吸った。




 ちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちう




「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!」




 ちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちう




「ちょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」




 ちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちう




「なにコレえええええええええええええ!!!!!!!!」




 ちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちうちう




 そして、バッタリ倒れてしまった。

 次に気が付いたのは、陽がすっかり傾きかけた頃。


 ヘンな夢を見たと思いながら、ラッキーちゃんをトーラスくん家まで送っていく。


「じゃあラッキーちゃん、トーラスくん家まで案内頼むね。」


『ワン!』


「ふふふ、犬っぽいのう…。」


 小走りで行こうとしては、くるりと振り向いてコチラを見る。


「ここまで来たら大丈夫だから、先に行ってもいいよ~。」


『ワン!ワン!』


 かわええのう…。

 トーラスくん家までラッキーちゃんを連れて行って、本当の本当に、これでお仕事終了。


「じゃあな、ラッキーちゃん。幸せに暮らすんだよ。」


『ワン!ワン!』


「やっぱり言葉わかってるんだよ~!かしこ~い!!」


「そうだよ。だから、たくさん可愛がってあげてね。」


「うん!!!」


 最後にラッキーちゃんにコシコシしてやって、今日は帰ろう。


「それでは、また何かありましたら、よろしくお願いいたします。」

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