第78話 異世界人、妖精、コボルトのパーティー

「へぇ~!!!まさか本当だったとはね~!!!」


 アミュさんがルカの肉球をプニプニプニプニしながら笑顔で話をしている。

 ルカが若干困った顔をしているように見える。

 そして窓の外ではパーシャ姉さんがルカをガン見してる。


 気を取り直して、現在の状況を確認しておく。


「あの、アミュさん。陛下からどのように聞きました?」


「んー、『レナートのトコにアキラがコボルト連れて来た。面倒見てやってくれや。』だって。」


「もうちょっと補足しますね。」


 捕虜として捕らえた後で、俺の特訓に付き合わせた事。

 そして、昨日から言葉を話せるようになった事。

 冒険者登録をするようにウィルバートに促された事を話す。


「冒険者登録は身分証明だからね。種族を獣人で登録しておけば問題ないよ。」


「あぁ、なるほど。身分証明……そういう事も出来るんですね。」


「人間以外の種族ってすごく珍しいけどね。エレナちゃんとナディアちゃんは、種族を妖精で登録してるんだよ。」


 そう説明しながら、肉球プニプニから腕モフモフにターゲットが変わった。


「うふうふ、こんなに真っ白で綺麗なコボルトは見た事無いよ!かわいいなぁ~!毛が……やわらかくて……もふもふ……」


 案の定だ。アミュさんはきっと、こうなるだろうと予想してた。


「外見的には、全くコボルトには見えないな。それに、コボルト特有の野性が削げ落ちた印象が見られるな。肚も据わっている。普通のコボルトであれば、パーシャの視線で身動きが取れなくなるものだが。」


 そう評するのはリバルドさん。


「野性が無くなったのは、俺の人獣に触れたからでしょうか。あと、俺の威圧に当たり過ぎて、威圧に耐性がついていると思います。」


「ふむ、その辺りはギルド登録の際に特性が表記されるかもしれないが、エレナやナディアのように、当たり障りのない物しか出ない場合もある。まぁ、登録してのお楽しみだな。」


「そう言えば、エレナさんとナディアのカードを見た事無いな。見せてもらっても……」


 俺がそう言うと、エレナさんが用意していたかの如くピシっと指に挟んでポーズをとる。


「良くってよ。」


 ナディアはちょっと照れながら。かわいい。

 じゃあ遠慮なく。


 エレナさんが……≪歌姫≫≪舞姫≫

 ナディアは……≪歌姫≫≪舞姫≫


「……ってかコレ、エリアーナちゃんとナージャちゃんのカードじゃないの?歌って踊れるアイドルでしょ。」


 前に王都に行く途中で、この二人が酒場のアイドルとして歌って踊った時の特性そのもの。


「そうよ。私達自身の事は徹底的に秘匿されてるのよ。」


「えー……マジすか。コレってアリなんですか?」


「あんただって、異世界人とかって書かれて無いでしょ?同じよ。」


 するとルカが非常に驚いたように。


「異世界人?それは……どういう……?」


「あぁ、そう言えば言ってなかったかも。俺、この世界で生まれてないんだわ。別の世界から移動させられて、ココに来たんだよね。」


 状況をイマイチ理解し兼ねているルカの背後から、エレナさんがルカとナディアの間に割り込んで腕を組む。


「異世界人、妖精、コボルトのパーティーって凄くない?フラムロスでは他に絶対居ないわよ~!」


 まぁ、俺らと行動を共にしてるジャムカのパーティーも大概だけどね。

 王子3人と大公。スカンダも絶対人間じゃない。


「えっ……パーティー……でも私が入ると迷惑に……」


 少し引き気味に、というか遠慮がちにルカが言い掛けるが、エレナさんが食い気味に言葉を遮る。


「ならない。半妖とか獣人は確かに珍しい。でも、それの何処に問題があるの?それに、ルカを見た目で怖がる人は居ないと思うわ。」


「そうですよ!ルカちゃんとても綺麗ですし、所作も言葉遣いも、とても素敵です!」


 エレナさんとナディアの絶賛に、相当困惑しているルカ。

 妖精ナディアが頭をナデナデしている。もうずっと頭の上だな。


「まぁそんな訳で、俺らのメンバーの一員として、登録してもらいたいのさ。いいね?」


「私でよろしければ……この命に代えても皆様を――」


「いやいや、一緒にがんばろうよ。助け合うのがパーティーだからさ。」


 そこへアミュさんが、ギルドの登録台帳と、無記名のカードを持って来る。


「うんうん、そうそう。ルカちゃん、そうやって助け合って行くんだよ~!ハイ、じゃ早速やっちゃおうか。」


 嬉しそうなルカの尻尾がパタパタと揺れる。


「ハイ!」


 くうっ……!初めてモフりたいと思った……!


「じゃあ、ルカちゃん写すよ~。魔石見てマジメな顔してね~。」


 ボフッ


「はーい、いいよ~。じゃあ、次はそこに立って力を抜いてね。じゃあ行きまーす。」


 ピシッ


「はーい、いいよーん。」


 浮かび上がるのは、特性。さぁ、どうだ?


 ≪礼儀≫≪誠実≫≪信念≫≪勇気≫


「「「「おおお~!!!」」」」


 俺、ナディア、エレナさん、アミュさんが一斉に声を上げる。


「すげぇ!何かカッコイイ!」


「礼儀、誠実……素晴らしいですね……」


「何て言うか、ルカそのものの気がするわ。」


「ふおぉ~~~!!!ルカちゃんの特性、凄くカッコイイ!!!」


 俺とアミュさんの小学生並みの感想たるや。

 そんな俺らの興奮の中、リバルドさんに怒られる。


「お前ら、当の本人をそっちのけに盛り上がるな。」


 ついルカを置いてきぼりにしてしまった。


「この特性表記は、かなり特殊と言える。通常であれば技術や技能が表示されるものだが、お前の場合は精神的な部分が記載されている。それで、コイツらも興奮してしまったようだ。俺自身も、こういった表記は初めて見る。」


 ルカにきちんと説明してくれているリバルドさん。

 勝手にはしゃいでしまった俺ら猛省。


「ごめんね?ちょっと、盛り上がっちゃって……」


「いえ、その様な事は。でも、私の能力を喜んで頂けた事が、とても嬉しいです。」


 尻尾が揺れる。この子は本当に……。

 女性陣がルカをもみくちゃにしている。


「おい、おまえ達いい加減にしろ。まだまだやる事はあるだろ。まずは衣服を整えてやれ。フォレアのロズリーヌの店に行って仕立ててもらって来い。それに装備もだ。ルカの場合は特注で用意してやる事で、身体的な特徴を最大限に発揮させる必要がある。」


 ぐうの音も出ない正論。

 まずはライナさんのお店に行ってバルさんの記憶回復に行く。

 その後で、フォレア村に行ってルカの服を作ってもらう。


「じゃあ、ライナちゃんの所に鳥を飛ばしておくね。アキラくん達のパーティーに新しい子が入ったから、ビックリしないでねって書いておくよ。」


「ええ、ありがとうございます。じゃあ、今日の所は行きますね。また来ます。」


 そう言って外に出ると、パーシャ姉さんが待ち構えていた。


『アキラ、コボルトね?』


「そうですよ。ホラご挨拶して。こちらグリフォンのパーシャ姉さん。」


「パーシャ様、初めまして。アキラ様にルカと名を付けていただきました。どうぞよろしくお願いします。」


『はい、よろしく。ふぅん……このコボルト、ちょっと変わった子ね。」


「変わった子?と言うのは?」


『だってコボルトったら、普通は魔獣か野犬みたいなモンじゃない。キャンキャン煩いし、何言っても聞かないし。』


「ええ、まぁそんな印象ありますよね。」


『来てからずっと見てたけど、姿勢、歩き方、礼儀正しさ、言葉遣い。こんな事が出来るコボルトは居ないもの。何なのこの子?』


「それは俺に言われても困る案件です。」


「それに、私の眼力で動じないコボルトは初めてよ。』


「あぁ……それは俺が原因です。威圧を掛けまくったので、耐性がついたっぽいです。」


『そう、そんな事もあるのね……いや、間違いなくコボルトよね。獣人じゃないもんね。へぇ……爪は?出せる?』


「はい、このように仕舞います。」


 指先からシュパシュパと自在に爪を出し入れする。

 すげぇな、どういう原理なんだ?


『ちょっとね、それで背中を掻いてもらっていい?』


 は?


「ええ……こうですか……?」


『そうそう、もうちょっと羽根の……そう……付け根……はぁ……』


 姉さん?


 眼を閉じ、ググっと上体を反らしながら羽根を伸ばしている。

 喉からコロコロコロコロと音が聞こえる。


 孤高のグリフォン、パーシャ姉さんが堕ちた瞬間である。うそーん。




 さて、お店の前に立っていたのはスカンダ。

 手を振って合図する。


「お~い。来ましたよ~。」


 まぁ向こうもとっくに気付いているんだけどね。

 目に見えない速さでコッチに来た。何それ?瞬歩?手にはアミュさんの手紙。


「あぁ、アミュさんからの手紙ね。この子が新しくパーティーに加わったルカ。こちらはスカンダ。共闘しているパーティーのメンバー。」


 おおお、スカンダがめっちゃ鋭い眼でルカを見てる。


「ルカと申します。よろしくお願いいたします。」


「……」


 無言でスカンダが握手を求める。珍しいな。

 戸惑いながらも、それに応じるルカ。ほんの少し長めの握手。


「スカンダは極端に喋らない人なんだわ。それは気にしないでね。」


 スカンダがクイクイと指で合図して、ライナさんのお店へと移動を開始。

 お店の前で、待ての合図。先にスカンダが中に入って行く。


「喋って説明してるのかなぁ。俺、スカンダの声を聞いたこと無いんだよね。」


 エレナさんが話に乗って来る。


「いや、多分親指立てて終わりじゃない?私も声は聞いたこと無いわ。」


 お店の扉が開き、バルさんが出て来る。


「よっす、お疲れ~。」


 ネルシャツっぽい上着の下に白いTシャツ、チノパンっぽいスタイル。何処にでも居そうな兄ちゃんだけど、実態はメルマナ公国の大公。


「おぉ~スゲェ。ホントにコボルトだな。でも全然それっぽくないな。」


「そうかい?この子が俺らのパーティーに加わったルカ。こちらはバル。共闘しているパーティーのメンバー。」


「ルカと申します。よろしくお願いいたします。」


 ピシっと姿勢を正して、深々とお辞儀をする。


「おぉ、礼儀正しいな。バルです。よろしく。じゃあ、早速中に入ってもらおうかな。今日は午後から出掛ける用事があってさ、午前だけでいいか?」


 バルさんのお願いに対して、エレナさんが答える。


「ええ、大丈夫よ。先にライナと打ち合わせをさせてもらっていい?」


「ああ、もちろんだ。さぁ、どうぞ。」


 店の玄関から中に入る。ここにお邪魔するのは結構久しぶりだな。

 店の中にはライナさんと、入ってすぐ横の椅子に座っていたのは、長い黒髪の女性。

 ちょっとした勘違いから俺をロープに括りつけて市中引き廻しにした熱い人。

 ライナさんのお友達のマヤさんが居た。ちょっとビックリ。


「おはようございます。ご無沙汰して―――」


 するとマヤさんが食い気味に。


「ねぇ、コボルトって……本当なの?」


 かなり心配そうな雰囲気。

 店の中に入ってるのは俺だけなので、まだ姿は見えていない。


「ええ、本当ですよ。ルカ、先に入ってくれる?」


「失礼いたします。」


 そう言いながらルカが中に入って来る。

 ライナさんとマヤさんの表情に、若干の緊張が見えた。が。


「ルカと申します。よろしく―――」


「ちょっと!何!本当にコボルトなの?やだ!ちょっと!」


 マヤさんが何やら大興奮の様子でルカに近づく。


「あの……マヤさん?」


「……カワイイ……」


 へ?


「あの……手を握ってもいいですか……?」


「え?あの……どうぞ……」


 ルカが恐る恐る手を出すと、マヤさんが手を取ってすりすりし出す。


「すごい……フワサラ……あの、ここ触っても大丈夫ですか?」


 肉球。


「ええ、大丈夫ですよ。」


 恐る恐る指でむにむにと。

 マヤさんがアミュさんと同じようなコミュニケーションの取り方をしている。


「ちょっと!やだ……ぷにぷに……すごい……ライナ!おいで!」


 ライナさんまでモフり、プニり出した。コレ止まらないパターンだ。

 キャーキャー言って夢中になっているライナさんとマヤさんに対し、エレナさんがストップを掛ける。


「お取込み中なんだけどさ。ライナ、バルの事で打ち合わせしたいんだけど、いい?」


「あっ!エレナさん、ごめんなさい、つい……じゃあ、奥で話しましょうか。」


 エレナさんとナディア、ライナさんが奥へ。

 マヤさんがルカを椅子に座らせて、隣で尻尾モフモフの魅力に取りつかれている。

 バルさんに、これまでの経緯をちょっとだけ話す。


「朝、アミュさんから手紙が来た時は何を言ってるのか分からなかった。」


「まぁ、そうかもしれんね。」


「今日は、これ後どうするんだ?」


「ルカの服を作ってもらいに行こうと思ってね。あと、鎧とか……」


「鎧!?」


 マヤさんが激しく反応する。


「ええ、装備品も、身体に合った物を作ってもらおうかなと……」


「じゃあ!私が作ってあげるから!」


 え?


「何を作ってくれると?」


「装備品、私が作ってあげる。領都の店なんかに負けない性能よ?」


 何と。


「マヤさん、防具職人だったんですか?」


「そうよ?ジャムカとかバルとか、こいつらの装備は私が作ってるから。」


 そうなんだ。

 確かにフォレア村には鍛冶屋さんがあった。そこか?


「ロズリーヌ服飾店に間借りしてるのよ。この辺りは防具の需要が無いから、私はお店持ってないんだよね。金属加工が必要な時だけ、鍛冶屋で場所を借りてる。」


 すげぇ、こんな人が刀匠みたいにガツンガツンと金槌を打つのか。


「私は皮革専門だから、金属の鎧は作れないんだけどね。」


「いや、圧倒的に革の方がいいだろ。金属の全身鎧なんて動けないしな。必要な所だけ金属があればいいんだよ。」


 そう言うのはバルさん。冒険者として活動を続けている人の言葉は根拠があるから、信用できる。


「服も作ってもらいに行きますから、一緒に是非お願いしたいです。」


「ま~かせて!」


 ふんぬと腕まくりして、ヤル気を漲らせるマヤさん。


「えっと、何ちゃんだっけ?私マヤ。」


「ルカと申します。今後ともよろしくお願いいたします。」


「ルカちゃん!かわいいなぁ~!よし!領都でいい皮仕入れちゃおう。ウチにもイイのが残ってるけど、足りないのよね。アキラ、予算は?」


 予算か……防具を買った事が無いから、イマイチわかんない。


「俺、素材の価格とか分かってないんですよ。どれくらいかかるんですか?」


「そうねぇ……私が考えてる素材だと、金貨50枚あれば何とか……」


 おお!それなら問題ない!


「了解です。今ありますから、先に渡しちゃってもいいですか?」


「ええええええ!?何でそんなに持ってんの!?」


 俺のお大尽発言に驚くマヤさん。


「前に、褒章が出たんですよ。それ使ってなかったんで。あ、でもエレナさんとナディアの装備も……」


「私達のなら大丈夫よ。」


 エレナさんが奥の方から出て来る。

 ライナさんとナディアは何かの準備をしているっぽい。


「マヤ、ルカの装備は考えられる最高の素材でいいわよ。王都でも国外でも何でも取り寄せてもいいからね。何なら、持って来させてもいいわ。予算の事なら私に任せなさい!青天井よ!」


 ちょっと、エレナさん?


 マヤさんとエレナさんが、ガシリと握手。

 そしてニヤリと口元を綻ばせるマヤさん。


「任せて。この子にピッタリの、最高のヤツを作るから。請求は、前の所ね?」


 前の所?


「ええ。全て任せる。」


 何この男前トーク。

 完全に俺の出る幕は無い事を悟り、大人しく椅子に座ってルカの尻尾がパタパタしているのを見てた。

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