第103話 思わぬ事態

 肩を掴んでいるのは、さっき掲示板の前で依頼の話をした冒険者の少年。

 その後ろには3人の少年がニヤニヤしている。

 ただ、一緒に居た気遣いある少女は居ないもよう。


「あぁ、私でしたか。何かご用ですか?」

「オッサン、指名の依頼受けただろ。話を聞くだけで金貨1枚だって?それ、俺らに譲ってくれや。」


 もしかして、指名の依頼書を盗み見した?それはアリなの?

 てか、このシチュエーションはもしかして……カツアゲ?依頼のカツアゲとか聞いた事無いわ。

 幼い雰囲気を残してその乱暴な口調、いただけませんなぁ。


「あー……でも、私宛ですから他の人は受けられないと思いますけど。」

「ンなモン、ギルドで委任すりゃいいだけの話じゃねぇか。ガタガタ言ってると痛い目に合うぞ?あぁ?」


 おお、そんな手段があるんだ。覚えておこう。

 少年が俺の肩を掴む力を強めてスゴむんだけど、イマイチ迫力に欠ける。だって、本当に子供みたいな顔してるんだもん。

 確か、冒険者登録は15歳からだったはず。この子らがそうだとしたら……中3か高1……うわ、俺の半分ぐらいの年齢じゃないか。


 後ろにいた3人が俺達を取り囲み始めた。

 周囲をチラっと見るけど、このシチュエーションに何の興味もないっぽい。日常茶飯事か。


「ホラ、ギルド行くぞ。俺達がオッサンの代わりに仕事受けてやるから。」

「オッサンビビって動けねぇのか?」

「さっさと歩けやコラ!」


 やだちょっと!何でお尻を蹴るの!んもう~、何なのこの子たち。

 走って逃げても追い付かれそうだし、ギルドに駆け込んでも逆恨みされそうでめんどくさいしなぁ。

 ここはひとつ強引な妥協案を提示して、諦めてもらおう。


「じゃあ、パーティーとして一緒に来る?一緒に仕事をしたメンバーとして報酬を渡すけど。」

「あぁ?何言ってんだオッサン。オメーはそんな事を言える立場にねぇんだよ。」

「最初は掃除、次が打ち合わせの2本。」

「人の話聞いてんのかゴラァ!?」

「じゃ!行こうか!」


 肩を掴んでいる少年を無視して歩き始める。

 突然動き出したせいか、バランスを崩した少年が転びそうになるけど、さらに強く俺の肩を掴んで離そうとしない。しつこいなぁ。

 すると仲間の一人が大声で叫ぶ。


「何すんだ!おい!クルトを離せ!!!」


 肩を掴んでいる少年はクルトという名前らしい。てか、この子が手を離せばいいだけなのに。人聞きが悪いよ。

 仲間の少年3人がギャーギャー騒ぐけど誰もついて来ない。怒りとも不安とも知れない微妙な表情で俺達を見送っていた。


「別について来なくてもいいんだよ?」

「何なんだよ!お前は!」

「俺はただ依頼先に向かってるだけだよ。今日は色々とやることが多いからね。」

「だから、依頼を寄越せばいいだけの話じゃねぇか!」


 食い下がるなぁ。このままだとラチが明かない。

 やっぱり後腐れなく金で解決するのがベストか。

 でもなぁ……それをやったら俺とレナートさんの関係がバレてしまう……いや、バレた所で別に問題ないか。

 俺はルージュ領の出身という設定だし、領主が領民の事を知っていても問題ないよ。

 よし、レナートさんには事後報告で謝ろう。


「だから、そんなに仕事ってか報酬が欲しいなら、俺と一緒に来て働いたら?」

「あぁ?……どういう事だよ……」


 お、ちょっと勢いが弱まった。

 ってか、言うのは2回目なんだけど。全然俺の話を聞いてなかったな。


「お友達は来ないみたいだから、報酬は折半でいいよ。掃除と打ち合わせの同行で銀貨6枚と銅貨5枚。なかなかいい話だと思うんだけどな。」


 クルトくんが黙った。仲間の所に戻らずについて来るという事は、何か思う所があるんだろうか。


 今更だけど、勝手に作業者を一人増やしても問題は無いんだろうか?まぁ、パーティーだから大丈夫とは思うんだけど。

 次の展開に頭を悩ませながら、掃除の待ち合わせ場所へと向かう。




「問題ない。むしろ多い方がいい。」

「ありがとうございます!ホラ、クルトくんも。お礼言って。」

「…………」


 結局無言でついて来たクルトくん、ここに来てもかなり不機嫌な顔をしてる。

 不貞腐れるのは若者の特権ですなぁ。だけど依頼主の前でその表情はアカン。


「早速仕事に取り掛かってもらおうか。お前たちは公園の中央道路脇のゴミを拾う仕事だ。」


 手袋、ゴミバサミ、ゴミを入れる大きな麻袋のようなものを支給される。

 あとは時間が来るまでひたすらゴミを探して拾うだけ。

 袋が満杯になったら集合地点にあるゴミ捨て場に置きに来て、新しい袋を持って行く。


「午後1時半になったら俺に声を掛けろ。じゃ、しっかりやってくれ。」

「はい!よろしくお願いします!……ホラ、クルトくんも。」

「…………」


 困ったモンだねぇ。


「じゃ、道の右側から行くか。クルトくんは俺の後ろで、俺が見落としたゴミを拾ってね。」


 という訳で始めたゴミ拾いだけど、これがまた多い。

 主に食べこぼし、食べ残し、串、薄い木の皿や壊れたコップが、そこらに打ち捨てられている。


「何?イベントでもあったの?ひどくない?」

「…………」


 一番キツいのは、ペットか騎乗魔獣の『落とし物』。ボリュームと言いニオイと言い……これはキツい。

 落とし物は袋に入れず、取っ手のついた手箕に箒で集めて、専用の箱に捨てる。


 終始無言で、黙々と拾い続けていく。

 初めは嫌々そうにやっていたクルトくんだったけど、後半の方はゴミを拾うようになった。

 根はマジメなヤツなのかなとちょっと思った。カツアゲはするけど。

 道路を往復して最初の地点に戻ってきた時にちょうど午後1時半となり、掃除のお仕事終了。


「7袋か。随分と頑張ってくれたなぁ。ま、何日か経てば元通りだろうけどな。」

「こんなに頑張ったのに?何であんなに汚れるんですか?」

「夜になるとここは冒険者の溜まり場になるからな。」

「あぁ……ナルホドですね……」


 宿代を切り詰めるために。もしくは宿代すら持たない冒険者が野宿する公園だそうだ。

 そしてゴミを散らかして去っていく。

 来た時よりもキレイに!ってのは、この世界では通用しない事らしい。うーん、考えられない。


「ゴミぐらい自分で片付けて欲しいですよね。」

「…………」


 クルトくんが黙って俯いてしまった。思い当たる所があるのかもしれない。


「全くだ。じゃ、依頼書を出してくれるか。」


 依頼書にサインをもらって、掃除のお仕事完了。


「お前らみたいなのが来てくれると助かる。また来てくれよ。」

「そうですね、その際はよろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします。」

「…………ます……」


 おおっ、クルトくんが何かつぶやいた!

 たった3時間の掃除で素晴らしい成長!


「じゃ、次の打ち合わせ場所に行こうか。歩くのはちょっと遠いから、乗り合い馬車で行こう。」

「えっ……俺……金……」

「仕事上の経費だから出すよ。ホラ、俺が楽したいから。そしたら……どこから乗ればいいのかな。」


 掃除のおっちゃんに馬車の事を聞いてみる。


「あの、ドゥーブルリオン方面の馬車は、どこから乗ればいいでしょうか。」

「それなら、そこの角の停留所で待ってればそのうち来る。」

「了解です。ありがとうございました!じゃ、行こうか。」

「……っス……」


 停留所に着いてすぐ、20~30人が乗れそうな大きな幌馬車が到着する。

 がま口財布を首からかけた車掌さんのような人が降りて来た……あれっ!?


「おっちゃん!」


 つい大きな声を出してしまった。

 車掌さんは、流音亭から王都まで乗せていただいた馬車のおっちゃんだった。


「こりゃぁ~旦那、昨日の今日で。」

「いやビックリした。おっちゃん、乗り合い馬車もやってるの?」

「する事ねぇんで、小遣い稼ぎでさぁ。今日はどちらまで?」

「ドゥーブルリオンの停車場まで行きたいんです。俺とこの人の二人分ね。いくらですか?」

「ひとり銅貨2枚でさ。」


 財布から銅貨4枚を出して、おっちゃんに手渡す。


「毎度どうも。お好きな所に座ってくだせぇ。」

「はい、お願いします。じゃ、行こうか。」

「……っス……」


 馬車に乗り込むと赤の剣士隊の制服を着た人と、大きな荷物を持った人が数人乗っていた。

 おっちゃんが御者さんの隣に座ると、馬車はゆっくりと走り出す。

 いやぁ~、ビックリした。こんな事もあるんだなぁ。


 それにしても、馬車はラクだわ。歩かなくていいってだけで、銅貨4枚の価値はあるよね。

 でも、俺が馬車に乗ろうと言った時、クルトくんはお金が無い素振りをしてた。

 乗り合い馬車の運賃は知っていたんだと思う。銅貨2枚……200円を出すのが厳しいの?

 あの場所に居た仲間全員で仕事をしても、毎日食べるだけで終わる生活を送っている感じなんだろうか。


 実入りの高い仕事は強い人達が独占して、若い子に回ってくるのは安くて割に合わない仕事。

 あの時、依頼書の前で不満を吐き出していたから、『宵越しの銭は持たねぇ!』って豪遊してる訳でも無さそうなんだよな。


 とは言え、カツアゲというか恐喝はダメ!ゼッタイ!そんな事をしてたら、必ず痛い目を見る。

 ギルドにバレたら冒険者登録を解除されるんじゃないか?

 それならまだしも、警備兵か何かに逮捕されるとか―――


「……あの。」

「あぁ、ゴメン。考え事してた。どうしたの?」


 俺を掴んでいた時の勢いはどこへやら。

 恐る恐るといった雰囲気で話し掛けて来た。


「どこに行くんすか……?」

「俺が色々とお世話になっている人の所だよ。」

「はぁ……」


 ・

 ・

 ・


 話が続かない……いや、これはしょうがないか。


「……さっきは……」


 おっ、ちょっと言葉がしっかりしてる。


「……イキってすんませんでした……」


 あらあらあら。掃除したぐらいでどんな心境の変化が。

 色々と思う所はあるけど、ここは額面通りに受け取ろう。


「うん。謝れるのはいい事だよ。でも、さすがにあんな事しちゃイカンよね。今までも、何回か?」

「いや……ここでは……」


 ここでは……って所が気になるけど、まぁそれはそれとして。


「そっか。俺、そんなに弱そうに見えた?」

「……そっすね……」


 正直な子だ。


「最前列のあの人達みたいにゴツく無いからね。そもそも普段着だし。でも、掃除やら買い出し、ペットの散歩をするのにフル装備だったらおかしいでしょ?」

「……戦わないんすか?」


 冒険者の依頼と言えば戦闘。そういう考えが彼の中にあるのかもしれない。


「目的が報酬を得る事だから、仕事の内容にこだわってないなぁ。俺にとっては戦闘も掃除も、報酬を得るための手段だから。」

「……俺は、戦いたい。がっつり倒して、がっつり稼ぎたい。でも、戦闘の依頼はあいつらが全部持ってく。すげぇムカつく。」

「そうだねぇ、妖魔やら魔獣を倒したら宝石やらドロップがあるかもしれないからね。報酬以外の付加価値は大きいかもしれないな。クルトくんは今までに、討伐とか駆除の依頼は受けた事はある?」

「地元で、ちょっと。」

「どんなの倒したの?」

「畑荒らすネズミとか、キツネとか。」

「そっか、害獣駆除だと宝石にはならないか。討伐の仕事は?」

「ないっす。」

「じゃぁ、妖魔とか魔獣と戦った事は……」

「ないっす。でも、地元じゃケンカ負けた事はねぇっす。妖魔ぐらい、やれば勝てる。」


 地元では負け知らず!おお……これが若さ……これが青春……。


「あんたは戦った事あるのか……ですか?」

「あるよ。」

「マジっすか。見えねぇ……です。」


 正直な子だ。


「その棒が武器っすか?」

「うん。」

「剣じゃないんすね。」

「斬り付けるのは、性に合わなくてね。」

「でも撲殺じゃないすか。そっちの方がタチ悪くないすか?」


 そう言うと、クルトくんの口角が上がる。

 自分の好きな話だからかな。


「前に冒険者仲間からも似たような事を言われたわ。そんな事ないんだけどなぁ~。」

「いやいや、ヤベーヤツっすよ。凶悪犯っすよ。」

「ひどいなぁ~。」


 初めて笑顔が出た。話をして、少しは心に余裕が出て来たんだろうかね。


「旦那方、もうそろそろ着きますよ。」

「え?もう?」


 おっちゃんに話し掛けられてすぐに馬車が停まる。


「忘れ物に気を付けてくだせぇ。」

「ええ、大丈夫ですよ。歩くとちょっと遠いけど、やっぱり馬車はいいですね。ありがとうございました。」

「へい。またどうぞ。」


 お久しぶりの停車場に降り立ち、背伸びを一つ。


「じゃ、ここからすぐの場所だから。」

「ウッス。あの、昼メシ食ってないんで、歩きながら食っていいすか?」

「あー、そっか。俺がお腹空いてないから忘れてた。ゴメンね。食べながら歩いても大丈夫だよ。但しゴミのポイ捨ては禁止。理由はわかるね?」

「ウッス。」


 腰に着けた道具袋から携帯食を取り出し、ガツガツ食い始める。

 こりゃよっぽどお腹が空いていたんだなぁ……こういう気付けない所が俺のダメな所なんだよな。ホント、気を付けないと。


「よし、じゃぁ行こうか。」


 コクコクと頭を振るクルトくん。

 見た目と内面のギャップが激しいなこの子。




「……あの、ここに行くんすか……?」


 意を決したように話し出すクルトくん。

 ドゥーブルリオン正門に続く長~い階段を登る少し前から、何かを言いたそうにしてたのは気付いていたよ。


「うん。ここで働いてる人なんだ。」

「マジっすか!!!」


 やだ、ちょっと何?どうした?目を輝かせてすげぇ勢いで食いついて来た。

 無口なヤンキーキャラはどうした。


「もしかして……赤の剣士隊の人とか……?」

「いや、剣士隊ではないんだな。」


 嘘は言ってない。


「そっすかぁ……」


 しぼんじゃった。わかりやすい子だなぁ。


「今日は仕事で中に入るんだから、そんな落ち込んだ雰囲気で中に入るのはダメだよ?初対面の印象は大事だからね。カラ元気でもいいからさ。元気出して行こう。」

「うっす。了解っす。」


 素直だ。


 さてさて、この時間帯は人の出入りが少ないようで、ほぼ並ばずに守衛さんの所へ。

 依頼書とギルドカードを鞄から出して声を掛ける。


「冒険者ギルドから参りました。これが依頼書と、私のギルドカードはこちらです。」

「おお、ルージュ領から来たのか。冒険者アキラ……どこかで聞いた名前だな……依頼者はレナート。ん?剣士隊に居たか?……確認するから、ここで少し待て。」

「あの、ジュリエッタさんか、アルフレードさんはこちらにいらっしゃいますか?アキラが来たとお伝えいただければ、お分かり頂けますので。」

「まぁ、とにかく待て。」


 もう一人の守衛さんにジロジロ見られながら、門の端の方で待つ。気まずい。

 クルトくんが疑惑の眼差しで俺を見る。


「何焦ってたんすか?本当に知り合いなんすか?」

「別に焦ってないし。今回の件は私用に近い話だから、守衛さんにはお伝えしてないんじゃないかなぁ。」

「へぇ~。」


 口調が気安くなってる。この方がよっぽどいい。

 でもそんな疑いの目で見られるのはイヤだなぁ。


「ま、待つしかないからさ。ゆっくりしてようか―――」


 と言い掛けた矢先に、さっきの守衛さんが猛ダッシュで戻って来た。


「確認が取れた。同行者の事は存じておられなかったが、二人を通すように命じられている。君も冒険者だな。ギルドカードを提示してくれ。」

「はい、コレっす。」

「冒険者クルト、パーシヴィルタ冒険者ギルド所属……確認した。ではこちらへ。」


 門を抜けて正面玄関から中へ。階段を上り、奥へ奥へと進んで行く。

 忙しそうにしてすれ違う人たちの中で、何人か見覚えのある人が居た。

 向こうは気付いてなかったから、特に話しかける事も無いけど。


「すげぇ……赤の剣士隊だ……かっけぇ……」


 クルトくんがボソリとつぶやき、ため息をつく。

 すると守衛さん。


「冒険者を辞めて剣士隊に志願する者も多い。ま、訓練がキツくて9割以上は辞めて冒険者に戻るがな。」

「確かに、訓練はキツいですよね。」

「何だ?お前さんも辞めたクチか?」

「いえ、新人冒険者の初心者講習に参加した時に味わいました。」

「ははは、そうか……っと、ここだ。」


 他の部屋の扉とは一線を画する重厚な扉の前で止まる。


「お前達、失礼の無いようにな。私が先に入るから、呼んだら中に入れ。」

「はい、承知しました。クルトくん、相手に対する礼儀を忘れないようにね。」

「ウッス。大丈夫っす。」


【コン、コン、コン】


『どうぞ。』

「失礼いたします!」


 守衛さんが扉を開き、まずは一人で中に入っていく。


「申告します!冒険者2名をお連れしました!」

「入ってもらいなさい。」

「はっ!2名、中に入れ。」

「はい。失礼いたします。」

「失礼しゃっす。」


 俺達が中に入ると、すぐにレナートさんが席から立ち上がった。

 真っ赤な軍装をバッチリ着こなした稀代のイケメン……て言うか語彙力が無いのよ!俺は!


「了解した。持ち場に戻ってくれ。」

「はっ!失礼いたします!」


 敬礼の後で、守衛さんが部屋を出ていく。

 扉が閉まった瞬間、レナートさんが文字通り駆け寄って来て俺の両手をしっかりと握る。


「アキラさん!大変ご無沙汰致しております。お呼び立てして申し訳ございませんでした。」

「いえいえ、こちらこそすっかりご無沙汰しておりまして……相変わらず、お忙しそうですね。」


 レナートさんのデスクに目をやると、書類が積まれているのが見える。

 但し乱雑に積み上げられた状態ではなく、きちんと整理されている。

 こういう所にレナートさんの几帳面さが伺えるな。


「あれ以来、事務作業と会議ばかりでして。たまには身体を動かしたくなりますね。」


 あれ以来。

 最後にお会いした戦勝祝賀会の後は、妖魔側に目立った動きは無いという事か。


「そうだったんですね~。でもまぁ、落ち着いているのは良い事ですよ。」

「アキラさんの仰る通りですね。つい愚痴めいた事を言ってしまいました。ところで、こちらの方は?」


 俺の後方に視線を投げ掛けるレナートさん。


「あぁ、失礼しました。まず先に紹介すべきでしたね。冒険者ギルドでレナートさんの依頼を受け取った時、たまたま居合わせた縁で今日だけパーティーを組むことになったんです。さぁ、自己紹介を……おーい、クルトくん?どうした?」


 振り返ると微動だにしない……いや、硬直しつつ微かに震えているクルトくんの姿があった。

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