第95話 覚悟と決心

「じゃぁね、また来るね、バイバーイ☆」


 友達か。

 アーレイスクを見送り、扉を閉めた瞬間にドッと疲労感が押し寄せて来た。


 あぁ……本っっっっっっっ当に、疲れた。


 首から頭が転がり落ちそうになる程ガックリと項垂れ、そしてしゃがみ込んでしまう。

 昨日のこの時間は、メルマナの鏡の部屋から戻って来たぐらいの時間だよな。

 たった1日で、向こうの世界では一生掛けても経験出来ないイベントが発生し、さらに膨大な情報の波に飲まれ翻弄された。

 一気にブチ込むんじゃなくてさぁ、もっとこう、徐々に伝わるという事は無いのか。


 さてと、アーレイスクを送る時に居間に戻ったら誰も居なくなってたな。寝室に行ったんだろうか。

 俺も今日はさっさと寝るか。疲れ果てたよ。


 廊下をフラフラと歩いて、寝室を探す。

 そっと扉を開けて中の様子を探ると、すうすうと寝息を立てているのが聞こえる。

 ココは女子部屋か。いくら眠いとはいえ、ここで眠るのはアカン。


 扉を閉めて隣の部屋を開けると、やや狭めのお部屋に布団が一組敷かれていた。

 お貴族様コスチュームをポイポイ脱ぎ捨て、布団に倒れ込む。


 あぁ……きもちい……


 ふっと気を抜いた瞬間、深く意識が吸い込まれて行った。




 倒れ込んだ、仰向けのままの姿勢で目が覚めた。

 起き上がろうとするも、微動だにしなかったのか身体の節々が痛い。

 強引に身体を起こし、上半身をグググっと伸ばしてパキパキと音を鳴らし……ボフッと仰向けに寝っ転がる。

 あ~~~、二度寝には丁度いいまどろみ具合。このまま、もうちょっとだけ……


【ガラッ】


「ちょっと、いつまで寝てんの?さっさと起きなさい。朝食よ。」


 エレナさんか……もうちょっと、あと5分……


「往生際が悪い。」


【スターン!!!】


 勢い良く閉められてしまった。

 こうなればウダウダしててもしょうがないので、気合いを入れて起きる。

 部屋の隅に畳んで置いてあった、甚平の様な寝間着?を着て居間に行く。

 恐らくボッサボサであろう髪を手櫛で直し、いざ入室。


「おはようございます~。」


 居間に入ると4人が朝食を摂っていた。


「はい、おはよう。眠っそうな顔して……」


 エレナさんが呆れ顔で見てる。眠い時は眠いんです。


「アキラさん、おはようございます。昨晩はつい、お酒を飲んで先に休んでしまいました。」


「いやいや、眠い時は寝るのが一番。そこは気にする事じゃないよ~。」


 お誕生日席に着いてモーニングセットを頂きながら、昨晩の話をかいつまんで。

 父の話、祖父の話。


「……と言う訳で、カンフォーレは基本的に名乗りません。服も普段着で過ごします。」


 朝ごはんを食べ終えたエレナさん、ナディアが淹れてくれたお茶をひと啜り。


「何で?」


「普通に仕事しますからね。家名とか意味は無いです。仕事だってペット探しから荷物運び、素材集め。あんな格好してたら、大貴族の道楽息子か馬鹿息子みたいじゃないですか。普段着と仕事着、カジュアルとフォーマルはちゃんと分けますよ。」


 エレナさんがジロリと俺を見る。


「やっぱり冒険者は続けるつもりなの?」


「せっかく登録していますし、定職が見つかるまでは冒険者ですね。家の扉を流音亭に繋げてもらって出勤するか、王都のギルドでお仕事を受注するか、どちらかですね。俺が向こうの世界でやってた仕事は間違いなくコッチには存在しないので、またイチから出直しですよ。」


「あれ?あんたが向こうでやってた仕事って何だっけ?」


 あらま、ちょいとエレナさん、それは聞き捨てなりませんね。


「学校の職業訓練の時の話を覚えてませんね?ウェブデザイナーですよ。とはいえ、デザインだけじゃなくてコーディングも何でもやるタイプでしたけどね。ですけど、こちらにはネットどころかパソコンなんて存在しませんから、前職は有って無きが如しですね。」


 するとナディアが何かをひらめいた。


「デザインと言いますと、服飾や工芸品、装飾品などの職人はいかがでしょうか?」


「うん、実は俺もちょっと考えたんだ。でもさすがにやる事が違いすぎるんだよね。それに、俺はそんなにセンスがある訳じゃなくてさ。良く言えば落ち着いていて、流行に左右されず、飽きの来ないものづくりって感じ。悪く言えば地味。洗練されていない。泥臭い。」


「何と言うか、あんたそのものって感じがするわ。」


 ニヤニヤしながら揶揄うエレナさん。


「ハイハイ、そうなんですよ。だから、流行に敏感なヤングらにどんどん置いて行かれるんですよ。そりゃ焦りますよ……って、辞めちゃいますけどね!さらば苦悩の日々!」


「その冒険者だって、決して楽な事はないわよ?仕事が無い場合だってあるし。ホラ、流音亭の辺りは他と比較すると安定してるから。」


「楽な仕事なんてありませんよ。実力が無ければ受注出来ませんし、過分な業務を請け負えば達成できずにペナルティを喰らって、信頼も無くします。己の力量をしっかり見据えて、立場を弁えてやっていきます。あと、確かに流音亭の辺りは仕事が少ないんですよね。ジャムカとかアレク達が遠征してた理由がわかる気がします。基本的には王都の家が拠点になるから、序盤は様子を見ながら行ったり来たりですかね。」


「さっきの仕事の話で、討伐の依頼を入れてない辺りが、あんたらしいと言うか何と言うかね。」


「討伐系の案件はちょっとね。お金にはなるんでしょうけど、そういうのが得意な人達はこの世界にたくさん居るでしょ?あまり人気の無い、誰もやりたがらない仕事を粛々とこなしている方が、何と言うか性に合います。」


 頬杖ついて、はぁとため息をつくエレナさん。


「そういう所が地味だって言ってるのよ。本当、あんたらしいわ。」




 そして家の話。


「隣の部屋に、アーレイスクさんが作ったミニチュアがあるんですけど、見ました?」


「見た見た。ちょっと豪邸じゃない?向こうのウィルバートの家みたいな感じよね。」


 エレナさん、やや前のめりになって興奮気味に語る。

 そうか、畳の部屋が好きと言ってたな。


「そうか。そうですね。和風の邸宅で。ナディアも見た?どうだい?」


「はい!このお部屋と同じく畳が敷き詰められていて、とても嬉しいです!落ち着いていて、素晴らしい雰囲気のお宅ですね。早くここで、みんなで暮らしたいです!」


「そっか、喜んでくれて良かった~。ルカはどうだった?」


 やや伏し目がちにルカが答える。


「私に部屋が充てられるなど畏れ多い事です。よろしいのでしょうか……?」


 あらら、ちょっとシッポ垂れ気味じゃないの。


「もちろん。床も壁も寝る場所も、自分の好みに変えちゃっていいんだからね。ルカがどんな部屋にするのか楽しみだよ。」


「はいっ!」


 あ、シッポ振ってる。それを見るとコッチも嬉しくなっちゃう。


「妖精のナディアは、この広い部屋をどう使う?アーレイスクはみんなと同じ広さで確保しているみたいだけど。」


「……やらかす。」


 小さな拳を握り締めて決意を表明。

 おお、何か燃えてる。何をやらかすのかは、今後に期待するとしよう。

 すると、妖精ナディアが俺のモーニングセットの皿を除け、ちょこんと正座する。


「え?何?どうした?」


「……いい加減に名前をつけろ。」


「え。それは……どういう事!?」


 キョドる。

 よくわからない申し出に軽くオドオドしていると、ナディアが遠慮がちに助け舟を出してくれた。


「実は最近、この子に強い自我が芽生えて来ていまして……」


「自我?それは、成長期的な?」


「……ナディアはそっち。わたしはわたし。」


 あぁ、そうか。自我ってそう言う事か。

 アイデンティティが確立して、妖精ナディアって言われるのに不満を感じていたのか。

 自分の膝をぺしぺしと叩き、


「……はよ。」


 めっちゃ催促される。そんなにか。


「そうか、わかった。じゃぁ……妖精ナディア改め、ナージャ。」


 俺がその名前を告げた瞬間、妖精ナディアの頭の草がふよふよと揺れ、ニンマリとしている。


「……ナージャ……ふふふ……」


「ちょっとアキラ、そんなにあっさりと決めちゃっていいの!?それに、それは……」


 エレナさんからの突っ込みが入る。

 まぁ、即答に近いからな。そう思われてもしょうがない。


「実は、最初にナディアの名前を付けた時にもう一つ候補があったんだ。それがナージャ。イヤじゃなければ妖精ナディアの事をそう呼んでもいいかなと思ったんだけど、ナディアはナディアだからイヤかもしれないと思って、ずっと封印してたんだ。」


 ナディアが、そっと俺の手を握ってくれる。


「私は、とても良い名前を頂いたと思います。嬉しいです。ありがとうございます。」


 有り難いお言葉。そう言ってもらえると、コッチも嬉しいね。


「……残り物には福がある。」


 妖精ナディア改めナージャの辛辣なお言葉。


「いやちょっと!残り物じゃないからね?俺が全力で考えた候補だからね!?」


「……物は言いよう。」


 ぴょんと俺の肩に乗ると、こしょこしょと耳打ち。


「……ありがと。」


 そしてほっぺにチュウ。

 うんうん、そう言ってくれると嬉しいよ。




 さて、話題はこれからについて。


「え?昨日の夜にリンツ来てたの?この部屋に?」


「そうよ。パティも一緒。ルカを守護隊に勧誘しに来たわ。守護隊の活動内容については、私から一通り教えてる。」


 王妃守護隊の現隊長、リンツと副隊長のパトリシアさんが来ていたらしい。


「アイツ、俺が居ないのを知ってて来たな?ルカは、守護隊の事についてどう思った?」


「私は、アキラ様のご命令に従います。」


 ピッと背筋を伸ばしてルカが答えると、エレナさんがその時の事を少し教えてくれる。


「この返答を最後まで崩さなかったから、リンツもパティも少し驚いていたのよ。リンツなんて『何であのヘタレにそんなに尽くすの?』って。」


 リンツは焼き土下座の刑です。


「まぁ、それはそれとしてルカ。守護隊についてはエレナさんから聞いた通りだけど、自分自身でどう感じた?」


「……私に務まるのか不安はあります。それと……」


「それと?」


「アキラ様は、私の存在を疎ましいと感じておられるのでは、と……」


 おお、すげぇシッポ下がってる。これはルカの本音の部分だ。

 これは俺が考えている事を、ちゃんと伝えないと。


「むしろ逆。守護隊の技術を徹底的に叩き込んでもらって、いつか俺らの事をしっかり守ってもらっちゃおう……何て考えたりしてるんだな。それに、追い出そうと考えているなら、そもそも新しい家にルカの部屋を作ろうなんて考えないよ。」


「では……私の事は……」


 シッポがふさりと揺れる。


「しっかり務めてきて、仕事が終わったら家に帰って来る。たまに同僚や、一人で寄り道したりしてさ。守護隊に入隊して、社会人として心を養う事。それが俺の望みだよ。」


「はい!承知いたしました!それでは……リンツ様!」


 なヌっ!?

 掘りごたつの中から……というか俺の股の間からニュっと顔を出すリンツと、部屋の隅にはパトリシアさんと思われる黒装束の人。いつの間に……。


「話が長いよアキラ!ってかお風呂入ってね!なんかちょっとニオイが……」


「臭くないから!失礼な!加齢スメルにはまだ早いし!」


 ルカが正座になり、姿勢を正して両手をつく。


「リンツ様。王妃守護隊への入隊をご許可いただきたく存じます。」


「うん。色々やる事あるからね。じゃ、もう出よっか。準備は出来てる?」


 リンツが掘りごたつからするりと抜け出す。


「はい、すぐにでも。」


「そう来なくっちゃ。じゃ!次に会うのは王都かな?家、楽しみにしてるよ~。」


「ちょっと君たち!いくら何でも早くね―――」


 俺が立とうとした時、ルカが座り直して俺に向き直し、両手をつく。


「皆様、今しばらくのお暇を頂戴いたします。必ずや成長を遂げる覚悟を以て、ご期待に沿えますよう全身全霊で職務に精励いたします。」


 そう言って、深々と頭を下げる。

 みんなが座り直して、ルカに声を掛ける。


 エレナさんは落ち着いた様子で。


「私はルカに近い所に居るから。何かあっても無くても呼び出すからね。一緒に街に出るわよ~。」


 ナディアは心配した様子で。


「ルカちゃん、くれぐれも無理はしないようにね。周りの皆さんと助け合いながらね。」


 ナージャは頭の上に乗って。


「……惜しい……モフれない……。」


 そして俺。


「そうだねぇ、俺は全力で応援しているよ。次に会う日を楽しみにしてる。」


 ルカがゆっくりと顔を上げる。


「皆様のお言葉、しかと胸に刻みます。有難うございます。行って参ります。」


「うん。パトリシアさん、よろしくお願いいたします。リンツ、頼んだぞ。」


「承知いたしました。」


 パトリシアさんが深々と頭を下げ、リンツは細い腕をまくり上げてアピールしていた。


「大丈夫。ま~かせて!!!」




 ルカ達の出発を玄関で見送ると、今度はエレナさん。


「さてと、じゃあ私もそろそろ出るわね。」


「えー!!!エレナさんも!?」


「銀の騎士から、もう引継ぎの話をされてるのよ。案件が滞る前に行かなきゃいけないのよね。」


「マジですか……」


「ちょっと着替えて来るわ。2~30分はかかるかも。じゃっ!」


 そう言っていそいそと部屋を出て行くエレナさん。

 残された俺とナディアとナージャ。3人だけど、ほぼ2人。思いの外、部屋が広く感じる。


「何と言うか色々と……急だね。」


「そうですね……新たな門出は喜ばしい事ではありますが、寂しくもありますね。」


 そうなんだよね。まさにその通り。


「そして、そのうち王妃様がナディアを説得に来るのか……流音亭まで来るのかなぁ。お忍びかなんかで。」


「実は昨晩、王妃様からお話を頂きました。」


「ホントに!?いやぁ……動きが早いな。」


 そうか、それで俺はウィルバートに呼び出されていたのか。

 という事はレナートさん、王妃様かウィルバートに俺を足止めするように指示をされたのかもしれない。


 だとしたら、かなり申し訳ない事をしてしまった。つい長話をしてしまったからなぁ。

 それに対して、嫌な顔一つせずに話をして下さったレナートさんの懐の深さたるや。


「王妃様からは、勧誘を受けたのかい?」


「はい。その上で、何でも希望を叶えると仰って頂きましたので、お言葉に甘えて一点、申し上げました。」


「それは……どんなことを頼んだの?」


「私たちの住居が完成し、全員で暮らし始めたら出仕致します事を申し上げましたら、ご快諾頂きました。」


 おー!なるほど。


「それは良い条件を受けてもらったね。家が出来なければ行かないとなると、アーレイスクさんは王妃様から、鬼の様に家の完成を急かされるという事か……」


 いや、もしかしたら『こんな事もあろうかと!』なんて、勝手に建てていたりして。

 ミニチュアハウスとは訳が違うけれど、あながち無いとは言い切れない。

 家の竣工まではどれくらいの期間だろうか。アーレイスクに聞いておけばよかった。

 ナディアはその辺りの事を、何か聞いているのかな。


「王妃様は、家が完成するまでの期間について何か言ってた?」


「ええ、王妃様が仰られていた期間は、およそ1ヵ月程との事でした。もしかしたら、もう少し早まるかもしれないとも。」


「そうか、1ヵ月か。あっという間にすぎてしまうんだろうな。それまでに準備をしっかりしておかないとね。」


「はい。準備を万全に進めて参りましょうね。」


 ナディアを安心して王宮勤務に送り出すためには、絶対に成さねばならぬ事がある。

 ただ、それをナディアに受けてもらえるかどうか。それだけが心配。


 かなり緊張してきた。細心の注意を払わないと。今言うか?言ってもいいタイミングか?

 いや、むしろ今だろう。出仕するには、事前に大きな準備が必要だ。

 側室にならないためにも。お手付きにならないためにも。


 いや、そうじゃない。そんな事じゃない。そんな理由で思いを伝える訳じゃない。

 ここで生きて行こうと決めるほど、俺の人生の価値観を大きく変えてくれた人。


 俺の一世一代の覚悟と決心を、なけなしの勇気を振り絞って伝えるんだ。

 今だ。今しかない。気合いだ!気合いを入れろ!俺!


「ナディア、あの、話があるんだけど、いいかな。」


「ええ、どうしました?」


 軽く深呼吸。軽いのか深いのか。


「ナディア、俺は……俺はね、感情がこもってないとか、人の心が無いとか、他人に興味がないとか、そんな事を言われたりするんだ。」


「え?いえ、あの……私は目覚めてすぐ、アキラさんの生命の素をいただきました。優しく、温かい気持ちで満たされました。ですから、私はアキラさんがご自身で感じている所、そのようには思いませんよ。」


 うっ!嬉しい!ちょっとニマニマと……いや、違う!マジメにだ。


「あ、そうかな?そう言ってもらえると、ありがたいです。でも、色々な事を思い返して、ダメな所ばかり気付いてしまって。定職のメドも立って無くて、下手したら冒険者で細々と暮らす生活かもしれなくて。」


 今はまだ職がない。安定した収入源が無い。今までみたいに、見守って収入を得るって事も無くなる。

 収入ゼロでこんな事を言うのは、そもそも間違ってるんじゃないか?今さらだけど。


「昨日……褒章を頂きました。ですので、慎ましく暮らしていける分はあります。冒険者を本業として活躍の幅を広げられた場合でも、この先、安心して暮らしていく事はできると思いますよ。」


 小狡い言い方でナディアに肯定してもらおうと思ってないか。

 言う事全て、言い訳めいた保身になってるんじゃないか。


「俺がダメ人間であるアピールをしたい訳じゃないんだけど、どうもそんな言い方になってしまう。そんな俺がこういう事を申し込んでいいのか、少し悩むところもあって……」


 いや、違う。そうじゃない。


「つまり、その…………結婚して欲しいんだ。」


 深々と深呼吸。


 からの、ほんの少しの沈黙の時間。だけど、これが本当に、長く長く感じる。


「喜んで……お受けいたします。」


 え?


「あの、いいのかい?本当に?」


「もちろんです。どうぞ、よろしくお願いいたします。」


 その言葉を聞いた瞬間、ガチガチに固まった身体の力が一気に抜けて行くような気がした。

 ずっと目を見て話していたつもりだったけど、ここでようやく、ちゃんと目を合わせられたような気がする。

 ナディアの表情が、いつもの笑顔が、こんなにも眩しく見える。


「そうか……いや、何と言うか、何というべきか。その…………こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」


【ガラッ】


「はーい、お待たせしましたわっと……ん?なに二人して突っ立ってんの?」


 エレナさんがピシっと着替えて戻って来た。何という完璧なタイミング。


 ひょっとしたら見てたんじゃないかとすら思った。

 だとしたらちょっと、いや、かなり恥ずかしいです。

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