第39話 白い箱ことグレンフェル城
ドドドという効果音が聞こえそうな城壁の中は、かなりまったりした雰囲気。
道路の右側ではお馬さんに乗った兵士がパカパカと、だだっ広いグラウンドに引かれた白線のコースを走っている。
この広場は訓練場兼出撃前の集合場所。その奥には騎乗動物や魔獣の厩舎があって、あの人たちは乗馬の自主訓練をしているようだ。
左側には何らかの施設と思われる建物がズラっと並んでいて、軍服を着た人たちが頻繁に出入りしている。
「もっと殺伐とした空間と思ってました。」
「今の所大規模な軍事行動がありませんので、落ち着いていますね。出動命令が発令されましたら雰囲気も変わりますが、そういう事は無い方がいいとは思いますね。」
上級妖魔やら大魔獣などの討伐やら、災害救助などが軍が出動する程の事態。
そりゃ何も無いに越した事は無いよねぇ。
しばらく進むとやたら広い道に出る。交差点を左に曲がり、街の中心部にあるお城に向かう。
そこが本日の宿泊地となるグレンフェル城。お城に泊まるとか、ロマンだと思う。
そして見えてきたお城。例えるなら…巨大な市役所。予想を遥かに上回るレベルで、城っぽさがゼロだった。
通称は「白い箱」。
「一切の無駄を省略し、機能性を徹底的に追及してこの形状となったようです。」
「わかるけどね。ココは殺風景にも程があるのよ。」
そんな訳で本日は白い箱にご一泊。
ナディアを起こして馬車を出る。もう本当にお役所にしか見えない。
入口では、尋常じゃない威厳を振りまく軍人さんたちがズラ~っと敬礼をして立っている。多分、めっちゃ偉い人たち。
その中の一人、そこそこお年を召していると思われる、白髪オールバックで隻眼のゴツい人がエレナさんに向かって片膝をつく。
「ウィールライト大将、息災で何よりです。」
「女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく。」
「大将は王都防衛の要、身体を労わるように。」
「有難く。」
そんなやり取りをして城内へ。こういったやり取りが様式美なのかしら。
エレナさんは王族室へ。そこは俺らみたいな庶民は入室禁止になっているので、レナートさんについていく事に。
「後でナディアにはコッチに来てもらうから。一人の夜は寂しい?」
そんな風に俺をからかって足早に去って行く。
女王陛下ともあろうお方が下世話な事を仰らないでいただきたい。
「それでは、私の執務室へご案内いたします。」
レナートさんに促されて、赤の騎士の執務室へ。
対面式のソファーがあって、立派なデスクがある。うん、やっぱり役所っぽいな。
ジュリエッタさんがお茶を淹れてくれた。
「「ありがとうございます。」」
無言で一礼するジュリエッタさん。
潤んだ瞳(ナディアに対して)を見れて何よりです。
さて、今日はご飯を食べて風呂に入って寝るだけ。
ここは外出もしないし、ゆっくりさせて頂きましょう。
【コンコンコン】
ドアが開いて、テオバルト隊長が入ってくる。
「失礼いたします。女王陛下より使いの者が参りました。」
「お通ししろ。」
入って来たのは、上から下まで真っ白…いや微かにパールっぽい艶を持ったフードを被った人。
最初はエレナさんが変装して遊びに来たのかと思ったけど違った。さすがにココでそんなふざけたマネは出来ないか。
「失礼いたします。ナディア様、女王陛下からの伝言をお預かり致しました。」
小さなメモをナディアに手渡す。
『ナディア、この子についてコッチにいらっしゃい。ゴメンねアキラ。一人の夜は寂しい?』
このやろう…(憤怒)
「アキラさん、あの…良かったでしょうか…?」
「そりゃぁ~行かなきゃダメでしょ。こればかりはね。しっかりと学んでおいでね。」
こうしてナディアはエレナさんに召喚されてしまいました。
これはまぁ断れない。しょうがない。
レナートさんによると、今日の予定は夕食の後に入浴、以上。
まぁ、たまには何もしないで、ダラダラ一人で過ごすのも悪くないさね。
さて、起こったイベント。
夕食は軍の食堂で皆でカレー。ナディアはエレナさんと一緒なのを知って絶望ともいえる表情になった6人。ごめんね。
入浴はレナートさんに誘われて軍の大浴場へ。偉い人が入れる時間との事で誰も居ないかと思ってたら、さっきエレナさんに挨拶していたウィールライト大将と、これまたいいお年でガチムチなフィンリー大将がいらっしゃって死ぬほど焦った。
「「君がコボルトを泣かせた冒険者か!」」
という訳で、何か知らないけどお二人にえらく気に入られて軍に勧誘された。
情報の一人歩きってホントに怖いと思った。
風呂から上がったら、レナートさんの執務室で軽~くお酒をいただく。
明日からの王都での生活について、色々と伺う。
戦闘訓練は基礎的な事、今回は参加人数がいつもより多めとの事。
行事としては、王城のエレナさんと面会がセッティングされている。先のギルド・観測所事件の褒章の直接下賜が主な目的。
その時に、メガネ以外の俺の荷物やら何やらを渡してくれるらしいけど…何を持っていたっけ?って感じ。
あと、エミールさんが治療院で待ってるから絶対来いと。
そんな状況確認やら世間話をしてお開き。客室に案内される。
大体10畳くらいのお部屋。
ソファーとテーブル、ハンガーにベッド。これにテレビがあったらビジネスホテルだなと思っちゃう。
とりあえず服を脱いで、久々にシャツとパンツでベッドに腰掛ける。
何か、ずっと一緒に居たナディアが突然居ないってのも違和感あるなーと思っちゃう。
【コンコンコン】
あら?もしかして、ナディア?
「はーい。」
ちょっとソワソワタイム。
やっべパジャマ着ないと…と思ってたら、ドアの下の隙間からスッとメモが入ってきた。
え、何?コレ?
メモを開く。
『一人の夜は寂しい?』
徹底的に煽ってくるスタイル!!!あの王妃……クソが!!!
「…さびしいのか?」
「徹底的に煽られるのがムカつく…あれ!?」
「…きたぞ。」
いつの間にかナディア(小)がベッドに居た。
「いつ?今?」
「…うん。いまきた。」
「じゃあ、エレナさんの所にいるナディアは今、妖精の…ニンフの状態なの?」
「…ちがう。あした、おはなし。」
俺がベッドに腰掛けると、ピョンと肩に乗ってきた。
「…じゅうでんまえに。」
そう言うと、ほっぺにプチュプチュっとしてくれた。えへへ。
「あぁ、ホントになぁ~。もう!かわいいヤツめ!」
「…じゃあ、じゅうでん。」
そう言うと俺は耳をぢゅ~~~~~っと吸われ、一瞬でブラックアウトした。
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