第111話 転移と転身
図書館での勉強を終えて、晩ご飯の食材を買って帰宅。
今夜は野菜&ソーセージたっぷりポトフとフランスパンっぽい堅めのパンとチーズ。
玉ねぎはコボルトのルカにとって禁忌食品だから、芽キャベツにしちゃう。
食材を魔石冷蔵庫に突っ込んだら地下にある転移の扉をくぐり、ナージャを迎えにルージュ侯爵領バトンの森冒険者ギルド『流音亭』へ。
【チンチーン!】とベルを鳴らしてギルドマスターのアミュさんを呼ぶと、心の底から悲しそうな顔をしたアミュさんがナージャと手を繋いで部屋に入って来た。そんなに帰したくないですか。
そして渋々今日の出来事を教えてくれた。
「へぇ、『ナディアの泉』に行って来たんだ。何しに行ったの?」
「……パワーアップ」
「パワーアップ?あぁ、魔力の修行か」
「……そ」
ナージャは、種族がニンフであるナディアの分身で、俺ら人間には使う事が出来ない魔法を使う事が出来る。
俺がナディアと初めて出会った、バトンの森にある『ナディアの泉(仮称)』にピクニックがてら出掛け、ナージャは泉から湧き出るらしい魔力を吸収する修業のため、アミュさんはその姿を目に焼き付け、ただひたすら愛でるために丸一日そこに居たらしい。
「朝から行ってたんですか?アミュさん、仕事は?ギルドマスターとしての仕事はどうしたんですか?」
「仕事依頼の申請はリバルドだって受けられるし、受注だってどうせジャムカとアレクとスカンダしか来ないじゃない?だから、実質私は仕事無し!」
相変わらずのアミュさん思考である。
アミュさんの旦那さんのリバルドさんは、冒険者ギルド併設の喫茶店『流音亭』のマスターで筋骨隆々の厳ついおっさん。初めて会った時は無口だし怖そうだしカタギじゃねぇと思ったけど、今ではそんな事も無く和やかに話をしている。優しく、頼れる存在。とはいえギルマス業を任せるのはいかがなものかと。
「ナージャちゃん。今日は楽しかったねぇ~!」
「……おいしかった。また行く」
「うふうふ~~~!!!明日も行こうねぇ~!!!」
「オマエは仕事をしろ。おうアキラ、今日は早かったな」
二人の背後から現れたのは、件のリバルドさん。
数枚の書類を丸めて、アミュさんの頭をぺしぺし叩いている。
「あー、リバルドさん。何かすいません。ご迷惑をお掛けしてませんか?」
「おまえが気に病む事は何一つないからな。ホラ、茶請け菓子焼いたから向こうで食え」
「……ほわあああぁぁぁ」
ナージャが大きな袋を受け取るとすぐに袋を開け、目をキラキラさせて中を見つめている。
ほのかに香るシナモンの香り。紅茶にもコーヒーにも、何にでも合うリバルドさんお手製のクッキー。コレが本当に美味しいんだ。やめられない止まらない。
「ホラ、ナージャ。リバルドさんにお礼は?」
「……ありがと」
「おう。ナージャが給仕の日は店が繁盛するからな。助かっている。今度はリンゴのタルトを焼いてやろう」
「……ん。仕事がんばる」
「期待しているぞ。まあ、ナージャの仕事に対する心掛けを見習って欲しいものだなぁ、アミュ」
丸めた書類でアミュさんの頬をぐりぐりと突くリバルドさん。
明らかな挑発に対し、ぐぬぬといった表情で丸めた書類を奪い取るアミュさん。
「なによう!やってるじゃないのよう!」
「寝る前にサインするだけがお前の仕事か?」
「私は!ナージャちゃんに悪い虫がつかないようにするのが仕事だから!」
すげぇ。言い切ったよこの人。
そしてクッキーをポリポリつまみ食いしているナージャをムギュっと抱き締める。
「……まぁ、別にいいけどよ。実際、最近は妖魔やら魔獣の出現はほぼ無く、落ち着いてるからな。アキラ、王都の方はどうだ?」
「駆除とか討伐とか、武闘派案件は大手のパーティーが占めてますからね。それ系の依頼書はほとんど見てないんですよ。でも、そこそこはあるようです」
リバルドさんと依頼状況についての軽い情報交換。
本来ならこれ、ギルドマスターとの会話じゃない?チラっと見るとギルドマスターは「あ~ん」と言いながらクッキーをナージャに与えている。餌付けか。
「じゃ、そろそろ晩ご飯の支度があるので帰りますね。クッキーありがとうございます。アミュさん、また明日来ますから。そんな目で見てもダメです。ホラ離れてください。ちょっと、アミュさん。晩ご飯作らないといけないんで。ナージャから手を離してください。ね。ね!!!」
晩ご飯の後、お風呂に入ってリビングでまったりタイム。
飲み物はいつも通り、エレナさんとナディアは紅茶、ナージャはリンゴジュース、ルカは麦茶。
お茶菓子にリバルドさんからいただいたクッキーを出し、まったり気分でコーヒーを淹れているとエレナさんがポリポリとクッキーを食べ始め、何かに気付いて俺に呼びかける。
「これ、リバルドのクッキー?」
「お、サスガ。さっきナージャを迎えに行った時にもらったんですよ。しっかり働くナージャへの臨時ボーナスみたいな」
「あぁ、給仕の……ちょっと、大丈夫?向こうに行った時に見えたんだけどさぁ、明らかにナージャ目当ての野郎共ばっかりだったじゃない」
「それは大丈夫ですね。野郎共以上にナージャをずっと見てる優秀な護衛が居ますから」
「護衛?リバルド?」
「いや、アミュさんって言う人ですけどね?」
「あぁ……それは優秀だわ……」
淹れたてのコーヒーを持ってソファーに腰掛けてクッキーを1枚拝借。うん、うまし。
俺の隣に座るナディアも、クッキーを美味しそうに食べている。良き良き。
対面の二人掛けソファーでは、ナージャがルカに膝枕をしてもらいながら、ルカのお腹をわっしゃわっしゃと撫で繰り回している。ルカは姿勢を正しながらも尻尾をふりふりさせているので、コボルト的にお腹なでりは気持ちいいポイントなんだろう。
さて、お誕生日席の一人掛けソファーに座るエレナさんがお紅茶をひとすすりして口を開く。
「でさ、いつ向こうに行く予定?」
「そうですねぇ……アムデリア沿革をざっくり把握した後ぐらいに、と思ってる所ですね。具体的な日程は決めてませんけど、例えば金曜の夜にコッチを出て、日曜の昼か夕方に帰って来る感じで。2泊3日あると、多少はゆっくりできるかなと思ってます」
「あらいいじゃない。そうなると土日の連休か……」
「でも、みんなの仕事の都合に合わせますよ。1泊2日でも日帰りでも。いかがです?」
「そうねぇ……土日……私は、最短なら来週末。その次となると、1ヵ月後になるかなぁ。ナディアとルカは?」
ナディアを見ると、にっこりと微笑み返し。うーんかわいい。
「私も、来週の土曜・日曜は連休をいただいていますね。ルカちゃんは?」
ルカを見ると、寝かかっているナージャの膝枕を崩さずにピッと姿勢を正した。
「私は、リンツ隊長に休息日の確認を行う必要がございますので、現時点では分かりかねます。誠に、申し訳ございません……」
そう言って深々と頭と尻尾を下げるルカ。なんで謝罪モード!?
「いやいや、それはルカが謝ることじゃないからね?じゃぁ……俺からリンツに言えば何とかなるんじゃない?ルカに休みくれって。ね?エレナさん?」
「そうね。今のルカは王妃守護隊の王都留守組だから、その辺りは自由に予定は合わせられるはずよ。そしたら来週金曜の夜にココを出て、日曜の夕方に戻って来る感じでいいじゃない?どう?」
「オッケーです。何か一気にスケジュールが決まりましたね。ナディア、ルカ。そんな感じでいいかい?」
「はい!楽しみです!」
「承知いたしました」
「じゃぁルカ、手紙を書くからリンツに送ってもらおうかな。あいつがヘソを曲げないように書かないとなぁ」
「あら、そしたらエレオノーラかウィルバートに一筆書かせる?拒否権ナシよ?」
エレナさんがニヤリと悪い顔をして、俺にとんでもない提案をして来る。
「いやいやエレナさん、王妃様や国王陛下にそんな事をお願いできる訳無いじゃないですか」
「そう?面白がって書くと思うけど」
「いやいや、王の一筆って勅命みたいなモンじゃないですか。あのクソガキなら喜んで反抗しますよ?「絶対ダメー!」って。なので、俺がしっかり書きます。ルカ、リビングのテーブルに手紙を置いておくから、もし明日起きてなかったら持って行ってくれるかい?」
「はい、承知いたしました」
「じゃ、今夜は部屋に戻ってお手紙書きますわ。みんなはごゆっくりどうぞ」
「いや~私はそろそろ寝ようかな。今夜はお開きにしましょ。ナディア、今夜は私の部屋で寝ない?アキラも寝てる人が隣にいたら気を遣うだろうし」
「そうですね、それではエレナ様のお部屋にお邪魔しますね。ルカちゃん、ナージャをお願いしてもいい?」
「承知いたしました。それではナージャ様をお部屋にお連れしまして、自室に下がらせていただきます」
「よし、そしたらお開きって事で。後片付けはやっておくから、みんなおやすみ~」
「はーい、おやすみ~」
「アキラさん、ルカちゃん。おやすみなさい」
「皆様、お休みなさいませ」
ソファーから一斉に立ち上がると、みんなを部屋に送り出す。
カップを流し台の食器洗いゾーンに並べてカバーをかけ、魔石に触れると食器洗い機能が発動。洗剤いらずの魔石食洗乾燥器、すっげぇラク。
リビングを消灯し、戸締りを確認して久々に一人で自分の部屋に戻った。さ、リンツ宛の手紙を書こうかね。
翌、金曜日。午後7時すぎ。
ナディア、ナージャ、ルカは既に帰宅して準備完了。先に帰って来たナディアとルカによると、エレナさんはちょっとだけ残務処理で遅れているらしい。
「そんなにかからないと仰っていましたから、もうそろそろ戻られる頃かと―――」
【ガラッ!】「ただいま~!ゴメン!ちょっと遅くなっちゃった!すぐ支度するから!」
エレナさんがダッシュでリビングに入って来て一声かけると、すぐにリビングを出て数段飛ばしで階段を駆け上っていく音が廊下から聞こえてくる。
「あせらずでオッケーですよ~!!!」
「ちょっと待ってて~!!!」【バターン!】
ナディアと顔を見合わせ、つい笑ってしまう。
「エレナさんのあんな感じ、ほとんど見た事無いよね。よっぽど急いで帰って来たんだなぁ」
「エレナ様、今日をとても楽しみにしていましたから。今朝は『残業なんてぶっちぎってやる!』と息巻いていましたけど、帰る間際に駆け込みの案件が入ったらしくて、いつも帰りに待ち合わせている場所に猛然と走って来られて『残業!先に帰って伝えといて!そんなにかからない!』と仰ってまた駆け足で戻られて……周りに居た職員の皆さんが唖然としていましたね」
ナディアが身振り手振りを交えて当時の状況を再現。
一目見ただけですべてを記憶する特殊な能力を持ち、エレナさんの声真似も完璧に演じてくれる。やっぱりすごい。ウチの奥さんすごい。そしてかわいい。
「いや、仕事はぶっちぎれないよ。わかる。定時5分前にお客さんから電話入って残業なんて、俺も良くあったからね。急いで行かなきゃいけない訳でも無いし、焦らずゆっくり「お待たせ!さぁ!行くわよ!!!」うおお早いっすね!?」
汗だくで御髪がやや乱れ、顔を上気させて呼吸が荒い。うーん、何とも艶っぽい。
「そんなに焦らないでも大丈夫ですよ?身支度整えるまで待ちますよ?」
「大丈夫!後であんたの家でお風呂入るから!さぁ行くわよ!カメラ準備!」
「イエスマム」
鞄からマジックバッグを取り出して開口部を開くと、昨晩考えておいた呪文を詠唱。
「転移カメラと転移魔石3本セット、ゆっくり出ろ」
マジックバッグの開口部からぬるりと出てくる、爺ちゃんの転移カメラと魔石達をナディアに受け取ってもらう。
コレが単に「出ろ」ならバシュッと誤射する事があるので、出し方をイメージしないといけない。原理は不明。そういうモンだと思っておく。
カメラの裏蓋を開けてパーツを取り出し、3つの魔石をはめ込んで本体にセット。
「じゃあルカに抱きつく感じで集まってー」
今回の転移、実は一つだけ不確定要素がある。
コボルトのルカは向こうの世界、地球に行くとどんな姿になるのかは不明という事。
ウィルバート国王陛下曰く。
『さすがにコボルトは送った事ねぇからなぁ。その結果も報告しろ。ま、転移で死ぬ事はねぇからよ』
だってさ。うーん、どうなるんだろう。犬化?人化?それともコボルトのまま……?
「ちょっと、まだ?」
エレナさんに突っ込まれる。
やべ、ちょっとトリップしてた。
「あぁ、すみません。しっかりルカを支えてあげてくださいね」
「当然よ。子犬に転身して腕からすり抜けたら目も当てられないからね。ナディア、準備はいい?」
「勿論です。万が一もありません。ルカちゃん、大丈夫?痛くない?」
「はい、私は大丈夫です」
「よし、ナージャは俺にしがみついとくんだぞ。いいか?」
「……へーい」
最後に俺が自撮りポーズでカメラを構え、隣にいるナディア、その隣のエレナさんの肩を抱えるように腕を回して準備完了。
「じゃあみんな!目を閉じてしっかり捕まって!快適な空の旅を!!!」
「あんたそれ―――」
エレナさんがツッコミかけた瞬間、カメラのシャッターを押し込む。
浮遊感と共に強い重力が身体に圧し掛かる。
「うおおっ!!!」
「きゃあっ!!!」
「やっぱり慣れない……ねっ!!!」
「キュウウウウン……」
「……ヒャッハ〜~!!!」
更にグググっと重力に押し潰されるような感覚が暫く続き、やがて地面に足が着く感触。同時に身体にかかっていた負荷がフッと消えた。
一瞬の静寂。どこか遠くからブォー……ンと排気音が聞こえて来る。
恐る恐る目を開けると、丸い月の明かりに照らされた和風庭園のド真ん中。間違いない。コッチのウィルバート、
着いた……すげぇな……っと感動するのは後回し。真っ先に確認する事があるんだ。パッと見、白く大きなモフモフが居ない。
「みんな、無事到着。ルカは?」
「アキラさん、ご安心ください。ルカちゃんは無事です。私の所におります」
そう言ってナディアが振り向く。胸に抱きかかえているのは、耳に茶色の模様が入った、小さな白い―――
【ワン!】
パピヨンが全力で尻尾を振り、やや高めの声でひと吠えする。
「ルカは犬になったの!?」
【ワン!】
エレナさんがナディアからルカを受け取ると、ジッと見て抱き締める。
「かわいいいいいいいいいいい~~~~~~~!!!ああああああああああああああああああ!!!かわいいいいいいいいいい~~~~~~~!!!」
「ちょっと!?エレナさん!?」
すげぇ勢いでルカを抱き締めて顔をすりすりモフモフすりすりモフモフしている。
「はぁぁ……かわいい……やわらかい……ちっちゃい……かわいい……」
されるがままのルカ。何も言わずジタバタせず、ただひたすらモフモフの嵐が過ぎるのを待っているように見える。
でも尻尾を全力でブルンブルン振っているという事は、少なくとも嫌では無いという事かな?
するとモフり尽くして満足したのか、ハッと我に返ってルカをナージャに渡す。
「ブッ壊れてましたね。どうしたんすか?」
「いやちょっと……だって、しょうがないじゃない。あの姿は反則よ」
まぁ、気持ちはわかりますけど。
「……よーしよしよし、よーしよしよし」
庭の芝生に寝っ転がってルカと戯れ始めるナージャ。
「……すごいですねぇ~かわいいですねぇ~」
【ワン!ワン!】
何ゴロウさん?
ナージャがコロコロ転がると、ルカがピョンピョン飛び越えている。器用だな。
ひとしきり遊ぶと膝を立ててしゃがみ、膝・肩の順にペシペシ叩く。
「……ヘイ、パピー」
今度は忍犬か。ルカは即座に指示を把握したらしく、膝から肩に飛び乗った。
あ、コレわかってるな。という事は……ルカに目線を合わせて話し掛けてみる。
「ルカ、俺達の言葉はわかる?わかるなら、ワン5回」
【ワン!ワン!ワン!ワン!ワン!】
「もいっちょ。ワン3回」
【ワン!ワン!ワン!】
「おお……すげ……」
1回や2回吠えるなら偶然かもしれなかったけど、吠える数を正しく認識している。
これを見てエレナさんが『ふむ』と頷く。
「コボルトはコッチに転移すると犬の姿になるのね。で、記憶とか知性はそのまま引き継がれていると」
「ですねぇ。前にナディアがコッチに来た時はそのままの姿で、ナージャは転移する直前は妖精サイズだったから、コッチに来た時は小学生サイズに変化したと。この世界に違和感が無いように体が変化するとか、どういう原理でそうなってるのか全然わからん」
個体差はあるけどパピヨンの体格的に1歳か2歳ぐらいかな。人間に換算したら、大体17~24歳。て事は、ルカの実年齢もそれぐらいなのかね。
こうして見ると、妖精サイズだったナージャがルカの肩やら頭の上に乗っていたのと立場が逆転している。何か感慨深いものがあるな。
「原理はともかく、ウィルバートに話す情報としては申し分ないんじゃない?」
「確かに。でも報告したら、何か無茶な事を言われそうだなぁ」
「無茶?」
「いやね、他の妖魔を送って検証しろとか言いそう。コボルトが犬ならオークは豚?じゃぁコッチの世界に近縁種が居なさそうなゴブリンは?オーガは?魔獣は?って。あんたが転移魔法使ってポンポン飛ばせよって話ですよ」
「いやいや、確かに言いそうだけど……そういった研究は紫の騎士団の領域じゃない。別にあんたがやる事じゃないでしょ」
紫の騎士団……あー、アーレイスクが俺をやたら勧誘して来たのって、もしかしてコレがあったからか?爺ちゃんの転移カメラ使えばコッチと向こうの行き帰りは自由に出来るし、面倒な妖魔とか魔獣の捕獲だって、俺が持ってる特性≪人獣≫の威圧を使えば、普通に体力を削って捕獲するよりも楽にやれると思う。
それに、コッチの事を何も知らない向こうの人が検証したとても、コッチの知識がある程度無ければ、何に変化したか報告しようが無い。報告するにしても、絵を描いて見せるよりデジカメを使って写真とか動画を撮ったりできるから、絵心の無い人でも正しく報告できる。
勧誘の真意はわからないけど、今の俺はそういう事も可能なのか。
「アキラさん?」
ナディアに声を掛けられる。おっと、またトリップしてた。
「まぁ、色々な事は後で考えようかな。まずは俺の家に行こう。エレナさん、ちょっと冷えて来たでしょ?帰ったらすぐにお風呂入れますからね」
「はいはい、じゃぁ~帰る前にコンビニ寄ってもらえる?ナディア、すっごく美味しいお菓子があるのよ。コッチのお菓子、まだ食べた事ないでしょ?」
「そうですね、私はまだ食べた事が無いですね」
「……ルモンド」
ナージャがずずいと割り込んで来た。
「……ホワイトラリータ。ラーベラ。エリージェ。バウムロウル。ミルヴェーヌ。アルヴォート。ボルボン最強伝説」
すっげぇ早口で次から次と。
「ナージャ、もしかして前に実家行った時、おやつ食ってたの?」
「……あやちゃん、いっぱい出してくれた。食いつくした」
俺の母を『あやちゃん』呼ばわりできるのは年配の親族とナージャだけ。
「あ~、ルモンド美味しいよね。よし、全部買おう。店のお菓子とスイーツ、買いつくすわよ!ここは私のおごりよ!!!」
おー!と歓声が上がり、ワン!とひと吠え。おっと、ルカは犬だから人間のお菓子はNGだ。
「あぁ、ルカの身体だとお菓子は厳しいと思うから、ルカ専用の美味しいおやつとご飯を用意するからね」
【ワン!ワン!】
そう吠えて頭を下げる。ウチの実家に居るたーくんの小さい頃を思い出すわ。
つい、頭をナデリコナデリコしちゃう。目を細めちゃって、もーホント可愛いなルカ。
「じゃ、早速行きますか。確か、鍵類は居間のテーブルに……」
靴を脱いで縁側から御手洗さん家に入ると、大きな和テーブルの真ん中に家の鍵と車の鍵、そして電源が入っていない俺のスマートフォン。
あれ?スマホも置いてったっけ……まぁ、あるなら置いてったんだろうな。叔父さんに電話するのは家に着いてからだな。家の鍵とスマホを鞄に入れて外に出る。
玄関隣のガレージを開けると、ピカピカに磨き抜かれた黒塗りの巨大な外車、お高~い国産車に挟まれた、薄汚れたワインレッドの軽。
「停め方に悪意しか感じない」
「いいじゃない。私はこの形好きよ?でも洗車はした方がいいわね、さすがにコレは」
「ですね。あまりにも汚すぎる……ま、まぁそれはさておき。ナディアは車は初めてだね」
「そうですね、知識としては知っていましたが、乗るのは初めてです。私もエレナ様と同じく、コンパクトな自動車の方が可愛らしくて好きですよ」
「あら、そうかい?そう言ってもらえると助かるわ~」
「……ハ〇ーがいい」
ん?ナージャさん?今何て?
「……そこの〇マー以外、身体が受け付けない」
「あのな、このハ〇ーはな?選ばれし者のみが騎乗出来る伝説の魔獣なんだよ」
「……魔石売れば余裕ヨユー」
「話の先を読むんじゃありません」
聞かないよ~とばかりにドアを開けてマイカーに乗り込んでエンジンスタート。
助手席は車に慣れてるエレナさん、ナディアとナージャは後部座席に座ってもらって、ルカはナージャに抱っこしてもらう。
さて、この辺りからは場所が良くわかってないんだよな。家までスマホのナビを使おうかね。鞄からスマホを取り出して電源を入れて……っと。ん?
【ピコーン♪】
ん?着信のお知らせ?……おぉ、圭叔父さんから……って何だこの件数。スクロールしてもしても終わらない。マジか。
「ねぇ、どうしたのさ。行かないの?」
「いや……俺の叔父さんから鬼のように電話が来てましてね」
「ん?叔父さんって、あのメモの人?」
「そうそう。いや~そっか。あのメモ間違いなく叔父さんからだなコレは……ゴメンみんな、先に電話させてもらうわ。ちょっと待ってて」
はいは~いの返事と共にエレナさんがテレビを操作し始めると、ナディアとナージャも食い入るように見てる。
それにしてもこの鬼電、何かあったのか?
【プルガチャッ】『………………はい』
出るの早っ!
「もしもし、圭おじさん?ご無沙汰してます。
『……』
「もしもし?もしもーし」
『……』
「ん?ココ電波悪い?もしもし?もしもーし」
『……マルちゃん』
「は?」
『……マルちゃん』
「は?マルちゃん?あの、亮ですけど」
『……』【プッ。ツー、ツー、ツー】
切れた。なんで?ってか……マルちゃん?
「ん?どうしたの?話してないけど」
「何か、切れた。電波悪いのかも。もう一回かけるわ」
「あぁ、テレビ見てるから気にしないでいいよ」
「すいませんね」
【プルガチャッ】『………………はい』
やっぱり出るの早い。待ってたんだ。
「もしもし、俺です。亮です。なんか切れた―――」
『……マルちゃん』
またしてもマルちゃん。マルちゃんて何。マルちゃん……マルちゃん!?
昔々の記憶が一瞬でよみがえって来た。
「爆めん」
『「ワンタンメン」……亮……言っといて何だけど、よく合言葉を覚えてたな』
「圭おじさんさぁ、さすがに無理すぎるわ。いつだっけ?この話したの」
『亮が川で溺れる直前だよ。キャンプで兄貴が……いや、この話は今度ゆっくりとな……亮、おまえに伝えたい事がある』
「伝えたい事。何?」
『龍がアムデリアに転身させられた』
・
・
・
「は?」
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