第70話 お久しぶりのご挨拶
「くぅおのバカチンがぁ~~~~~~!!!!!!」
聞いたことのあるフレーズを金八ボイスで怒るのは、正味4ヵ月ぶりにお会いする、バトンの森にある流音亭ギルドマスターのアミュさん。
「何でそれを知ってるんですか?」
「ジャムカに教えてもらった。」
お笑い好きか。
最近は向こうで随分とテレビに露出してる芸人さんだからな……でもあの人はそのフレーズを言ってたっけ?
「あとね、こんなヤツ。」
ガシーンガシーンって。まさかの五木ロボ。あぁ、そっちの方ですか……。
エレナさんが腹をよじらせて爆笑してる。あんたもか。
「いやあの、見たことも無いのに死ぬほどうまいのはわかりますけど。」
コッチに戻って来て、向こうのモノマネをコッチの人に見せつけられる。もう空間のねじれっぷりがひどい。
それよりもジャムカがそれをアミュさんに披露してる時点でイメージが駄々崩れです。
「でもね、コレでね、一緒に住んでる子がね、笑ってくれたって……もうそれ聞いて私、泣いちゃったんだよ~~~。」
ん?
一緒に住んでる子?まさか……同棲?
「あの、ジャムカさん、女の人と一緒に暮らしてるんですか?」
「うん。何か問題でも?」
「いえ全く。ちょっと意外だったんで。」
「ジャムカが小さい頃から一緒に暮らしてる子なんだよね。育ててくれた人の娘さん。昔っから、マヤちゃんとライナちゃん、アレク、セイラとは、よく遊んでたんだよ。」
「へぇ~、皆さんは幼馴染な関係だったんですね。」
それは知らなかった。
「お父さんが亡くなったショックで言葉を話せなくなって、家に籠るようになったのよ。感情表現が出来なくなっちゃったんだ。マヤちゃんとライナちゃんが、家においでって言ってたんだけどね。結局、ジャムカがここを出て一緒に暮らしてる。」
そうか、そういう事があったのか。
彼にとって大切な人のために、面白かった物事を一生懸命覚えて、ただ笑って欲しかったんだな。
「ジャムカの彼女さんって、どんな人なんだろうな……」
何気無く呟いた言葉にエレナさんが反応する。
「あのクラスの中に居たわよ。まぁ本人という訳ではないけど、亜耶ちゃん。勿論コッチでは違う名前だけどね。」
「亜耶ちゃん?……おお、
そう言えば向こうでのジャムカ、
まぁ、直接話をした訳ではないし、2回しか講義してないからなぁ。漠然としたイメージしかないなぁ。
そんな話をしていたら、リバルドさんが空気を読む。
「そろそろレナートの所にも行ってやったらどうだ?」
おっと、ついつい長話を。
「そうですね、そろそろ行かないと。」
「今日はそこそこ人数が来てるよ~。良かったら、向こうに泊まっておいで~!」
アミュさんがニヤニヤしながら俺をツンツンする。何ですかそれ。
「マジですか……緊張するじゃないですか。ナディアは誰が来てるのかは知ってるの?」
「はい。皆さんお待ちかねですよ。」
ニッコリ微笑む。マジ大天使。
「ホラ、アキラ!グズグズしてないで行くわよ!!!」
グイグイと俺とナディアの背中を押して外に行こうとするエレナさん。
「はいはい……あ、ちょっと待っててください。」
お店を出て、ダッシュで厩舎へ。
絶対に忘れちゃならねぇご挨拶の相手が居るじゃないか。
『あら、しばらく。』
「パーシャ姉さん、ご無沙汰してます。お変わりありませんでしたか?」
流音亭でアミュさんに使役されているグリフォンのパーシャ姉さん。
俺が魔獣と話せる事を知るきっかけをくれた人。いや人じゃない。魔獣。
『たまに変な魔獣が沸いたぐらいね……アキラ、あなたちょっと雰囲気が変わったわね。』
「そうですか?俺自身は特に何も……」
ずずいと顔を寄せて来るグリフォン。う、ちょっと食われそうな感じが……。
『何かしら、このイヤな感じ。』
「姉さん……人を悪く言うのはやめた方がいいと思いますよ?」
『この威圧感というか、圧迫感。あなたが前に泣かせたコボルトの時と同じような。』
「そうですか?俺は何もしてないんですけど……」
『何もしてないなら、垂れ流してるんじゃない?私みたいな魔獣や妖魔に対するイヤな感じ。それ、ちょっとコントロールしなさいよ。それだと私の背中に乗せられないわ。レナートの所の双獅子にも嫌われるわよ。』
「垂れ流しの威圧感ですか……最悪じゃないですか。ちょっとレナートさんに聞いてみますか。了解です、ありがとうございます。」
『ハイ、じゃあとっととお行き。』
「はい、ありがとうございました。」
『アキラ。』
「はい?」
『おかえり。』
「はい、ただいまです。」
すっかり陽が落ちてしまったので、一人一つランタンを持って、レナートさんの家へ向かう事にした。
妖精ナディアは俺のカバンの中でお休み中。
「本当にグリフォンと喋れるのね……」
「うん。二人はどうなの?話せるの?」
「私とエレナ様は話せますね。とても良くしてくださっているんですよ。」
「うぅ……でも私はちょっとニガテ……ズバズバ言われるのよね……」
エレナさん、それは同族嫌悪って言うんじゃないでしょうか?
「パーシャ姉さんから、殺気が駄々洩れだって言われたんですよね。どうです?垂れ流してます?」
「ちょっと……ヘンな聞き方しないでよ……私は別に感じない。ナディアは?」
「私も特には感じませんね。でも、殺気と言うのはもしかして、訓練場の時の……」
エレナさんが突然俺の前に立ちはだかり、手を合わせる。
「アキラ!本当にゴメン!それ、本人に気付いてもらいたかったヤツなの!」
俺を拝むんじゃなくて、ごめんなさいのポーズね。ビックリした。
「というのは?」
「人獣の特性。」
エレナさんは最初からこの事を知っていて、言うのをウィルバートから止められていた事。
レナートさんと一緒に、初めての戦闘に行った時にレナートさんは気付いた事。
王都に行く途中で特性の話になった時は、思いっきりしらばっくれていた事。
訓練場の事は、それを気付かせるための究極の荒療治だった事。
「アキラは、ただ魔獣や妖魔と話せるようになったと思ってるみたいだけど、そうじゃないの。人獣って、妖魔や魔獣を率いる力を持ってるのよ。」
「ん?それって、ペット化するとか、使役するとかじゃなくて?」
「前に、転移の話をしたの覚えてる?魔物と妖魔の王だけが使えるって話。」
「ええ、それは覚えてますよ。」
「アレよ。」
随分とざっくりしてるなぁ……。
「それって結構大変な事じゃないです?」
「でも、使えるだけ。そこから先はアキラ次第な訳よ。ロクに努力もせずに簡単に何か出来るかったら、何も出来ないの。それこそ、触れた相手と会話が出来るぐらい。」
ふむ、全然実感が沸かない。
「覚えてる?アンタが本気で怒って怒鳴り散らした時、例のコボルトはどうなった?」
「泣きましたねぇ。」
「アキラをボコボコにした彼、どうなった?」
「漏らしてましたねぇ。」
「怒気を相手に向けるだけで圧倒的な恐怖心を植え付けることも出来ちゃうの。ウィルバートはそれを制御出来る。魔王も出来るらしいわ。それありきの作戦が、この前治療院で話してたヤツよ。アキラを先頭にして殺気を巻き散らして、一切余計な戦闘をしない。それでも向かって来るヤツは、スカンダがチョロっと相手をするのよ。」
「もうホントに言ってくれればいいのに。何で言わないで隠してるかなぁ。」
「今こうして私に言われても、どうやって制御するか、わからないでしょ?それを教える事が出来るのはウィルバートと魔王しかいないんだから、誰も教えられないのよ。妖魔とか魔獣の討伐に出て、実戦でコントロール出来るようにならないと、自分のモノにならないの。」
「でも、どうして私とエレナ様だけが、そのような殺気を感じる事が無いんでしょうか。あの直後にすぐ動けたのも、私とエレナ様しか居ませんでしたし……」
「え、そうなの?俺、全然周りが見えてなかったからなぁ。」
「……そういう事もあるんじゃない?ホラ、みんな待ってるし、行くわよ!」
イマイチ釈然としないけど、やらなきゃいけない事リストの最優先事項がブチギレ芸の習得となった。訴えてやる!
「アキラさん、お待ちしておりました。」
別荘の門の前で待っていたのは、先に帰っていたレナートさん、執事服のアルフレードさん、メイド服のジュリエッタさん。
そして双獅子ちゃんが出てこない。本当に嫌われたのか?いつもはベロンベロン舐め回してくれるのに……ちょっと切ない。
「わざわざ外で待っていて下さったんですか?申し訳ございません、すっかり遅くなってしまいまして……」
「いえいえ、リバルドさんから連絡をいただきましたから。皆、集まっていますよ。さぁ、中へどうぞ。」
「あ、その前にちょっといいですか?」
ジュリエッタさんの前に立って一礼すると、彼女の方から話しかけて来る。
「アキラ様、大変ご無沙汰致しております。その節は―――」
「いえ、私の方こそお詫びをしなければなりません。あの時は大変失礼しました。場を乱す行動を取ってしまい、ジュリエッタさんや剣士隊の皆さんには大変ご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんでした。」
「私の方こそ、配慮すべき点が―――」
ジュリエッタさんがお詫びを重ねようとしたところに、レナートさんが入って来る。
「ジュリエッタ、全ての責任は私にある。アキラさん、改めまして、お詫びいたします。申し訳ございませんでした。」
「レナートさん、責任があるのはウィルバート陛下と私です。これからも色々とご迷惑をお掛けする事があるかもしれません。もしよろしければ、温かく見守っていただきたいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。」
「はいっ!それまで!もういいじゃない。終わった事は。さ、中に入るわよ!」
エレナさんがお詫び合戦に終止符を打つ。
「夕食、すっごい楽しみにしてるんだから!アルフレード、アレ、ある?」
「はい、エレナ様。本日は限定銘柄をご用意させていただいております。」
「うふふ~~!!!久しぶり~~~!!!」
もしかして、酒か?あの酒か?
アルフレードさんが、深々とお辞儀をして俺に話しかけて来る。
「アキラ様、大変ご無沙汰を致しております。陛下との件につきましては、心中お察し致します。」
「アルフレードさん、ご無沙汰しております。ご配慮くださって恐縮です。また何かとご面倒をお掛けする事と思いますが、よろしくお願いいたします。」
「いいからっ!行くわよ!!!」
エレナさんに腕を掴まれてグイグイ引っ張られる。勿論ナディアも一緒に。
【バーン!!!】とドアを勢いよく開け放ち、エレナさんが一言。
「ただいま!!!」
それに続いて俺とナディアが入っていく。
中に居たのは、ジャムカ、バル、スカンダ、アレクシオス、セイラロスの冒険者パーティーの輪の中へ。
さらに、マヤさん、ライナさん、あともう一人……あぁ、確かに火那嶋さんにそっくりな人が居る。
あとは……えっ!!!
「
エレナさんもハッとなって俺と顔を見合わせる。
先日、俺の実家に帰った時に居合わせた梢ちゃんが、アレクと、青い髪の小さな女の子が仲良く話しながらご飯を食べている。
「コズエちゃん?」
ナディアは不思議そうな顔で俺に聞く。
「あ、いや、アレクと一緒の席の女の人が、俺の親戚に瓜二つでさ、すげぇビックリしたんだよね。」
「シェラさんですね。アレクさんと婚約されている方ですよ。その間に居る女の子が、一緒に暮らしているセナスちゃんです。」
そうか、コッチでもそんな間柄なんだな……あぁ、ビックリした。
って事は、イトコの
で、セナスちゃんは何とかの妖精さんであると。うん、カワイイ子供にしか見えないけどね。
あとジャムカに紹介されたのが、一緒に暮らしているハイフォンさん。
みんなでぺこりぺこりと頭を下げる。
ライナさんとバル、セイラとマヤさんに挨拶した時、セイラに「アキラって見かけによらず強欲よね」って耳打ちされる。
スカンダは……一人、部屋の隅で飲んでいた。酒を注ぎに行く。
そしてこちらの梢ちゃんこと、シェラさんともご挨拶。
「シェラさんとは初めてお会いしますね。アキラです。」
「シェラです。あの、間違っていたらごめんなさいね、どこかで、お会いしたことがあるかも……」
俺もエレナさんも、これには驚いた。
「実はシェラさんは、私の親戚によく似ているなぁと思っていたんですよ。」
「私も初めてですね。エレナです。いや、ホントに良く似ているんですよね!ビックリしました!」
そんな会話を楽しんでいる所で、セナスちゃんが俺に小さなケーキを持って来てくれた。
「え?くれるの?」
ブンブンと頷く。
「あら~、ありがとうね。」
頭をナデリコナデリコすると、照れたようにシェラさんの陰に隠れる。かわええのう……。
「珍しいな。セナスは人見知りが激しいんだけどな……ナディアと一緒というのはあるか。セナスはナディアが大好きだからな。」
そう言うのはアレク。
「あら、ナディアは会った事があるの?」
「ええ、何度かアレクさんのお宅にお邪魔する機会がありましたので、その時に。」
うまくコミュニケーションが取れているようで、ちょっと安心。
俺が居なくなった時に、色々頑張ってくれたんだなぁ……本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。
さて、ここまでは、言わば身内と言うかパーティーメンバーと言うか。気の置けない人達。
その奥から実は聞こえていた、体育会系と言うか、武の匂いがプンプンする人たちの所に行く事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます