第9話 寝ずに倉庫の片付け

「大変だったねぇ(いい笑顔だけど肩がプルプル震えてる)はい、これ報酬。」


 あの後、黒髪の女の子マヤさんにマウントを取られて顔面をタコ殴りに殴られてロープに縛られて鹿に繋がれて市中引き廻しされて流音亭に連れてきてもらった。

 なお俺は軽い擦り傷と打ち身などの軽傷で、命に別状はない模様です。


 そんなこんなで流音亭に、文字通り叩き突きつけられて、アミュさんが(笑いを堪えながら)事情を説明して誤解は解け、マヤさんは俺にお詫びを言ってライナさんの元へ戻り、サインを持って戻って来てくれた。

 そして冒頭に至る。アミュさん笑いすぎですよ?


「大切な友人を暴行魔から救おうとしただけの勇気ある行為ですよ。それには反論できる訳ないじゃないですか。

 ですが万が一、俺が本当に良からぬ輩で武器等を持っていたら、二人とも危なかったかもしれません。」


「わかっちゃいるし、注意してるんだけどね。マヤちゃんは武闘派だからねぇ…。」


「ライナさん、突然倒れたんですよ。とても忙しそうにしていましたので、日頃の疲れが溜まっているんでしょうかね…あ、いや、これ以上クライアントの事情には首を突っ込みません。気を付けます。」


「薬剤師はこの辺りでライナちゃんの所だけだから、忙しいのは知ってる。でも昨日は久しぶりにゆっくり寝れたと思うから、結果オーライだよ。さ、色々あったけどさ。まずはしっかりご飯をお食べ~!」


 タイミングを合わせてお昼ごはんが登場する。

 今回のメニューは、ビーフシチュー(超特盛)、パン、サラダ。


「はい!うまそう!!いただきます!!!」




 美味しかった~!満腹だと幸せオーラが出るよね。

 ビーフシチューの余韻に浸りながら飲むコーヒー最高。


「さ、仕事しようかな。」


 アミュさんが目をまん丸くして見てる。何です?その目は。


「…寝ないの?」


「え?まだ午後ですし、お昼ごはんも頂きましたので、仕事もありますよね?」


「…まぁ、そうだけど…昨日寝てないんだよね?」


「そうですけど、今寝たらヘンな時間に起きちゃいそうで。あと時間がもったいないじゃないですか。」


 うわぁ…って顔してる。何でしょうか。


「まぁ、仕事はあるけどね。あるけどさ。もうちょっと、こう…自分の時間をさ…」


「黙ってジーーっとボーっとしてるよりも、何かしてた方がいいんです。貧乏性なんですよね。」


 昨日からジッと火を見ていただけなので、ちょっと体を動かしたいなぁと思っていた。

 それに打ってつけのいい仕事があるじゃないか!


・犬探し

 あの野良を最近見かけないので気になります、探してみてください。【銅貨5枚】

 トーラス


・倉庫片付け

 物が多くなってきたので、運び出しを手伝ってください。【銀貨2枚】

 ※倉庫に住み着いたネズミ退治 1匹につき銅貨5枚出します。

 リクハルド商会


「倉庫の片付けに行ってきたいと思います。」


 オ・マ・エ・は・バ・カ・かと言わんばかりの視線。


「体力仕事?寝てないのに?」


「ええ、ちょっと気を張ってたので、体を動かしたいと思いまして。時間って大丈夫でしょうかね?」


「何となく、アキラくんの事わかり始めたよ…。時間の指定は無いから、依頼主の所に行って確認してみて。」


「はい!じゃあ行ってまいります!」


「は~い、気を付けて行っておいで~。」




 流音亭から徒歩で1時間程度。ライナさんのお店を超えて、少し家が増えて来たあたり。

 町というほど大きくはなく、村落って感じの奥あたりに位置する大きな商家。

 応対していただいたのは依頼主であり、店主のリクハルドさん。

 恰幅の良い旦那様、みたいな感じ。


「荷物の量は少しあるから、今日は様子見にしておくといい。それよりも、ネズミの被害の方がちょっとひどくてなぁ。冒険者さん、駆除は出来るかい?」


「ネズミの駆除ですか…どれくらいいるんですか?」


「見てもらった方がいいか。じゃあ来てくれるかな。」


 お店に隣接した母屋の庭から裏に抜ける道を通っていくと、倉庫というよりも『蔵』といった雰囲気の木造建物。

 ココに来る途中で見た、一般的な家屋ほどある大きさ。意外と荷物は多そうだな…。

 リクハルドさんがジャラジャラと持ち歩いていた鍵の束から蔵の鍵を探し、ジャコっと開ける。


【ギイイイイイイイイ…………】


 重い扉を開けると、漂ってくる微かなニオイ。

 リクハルドさんは入らずに一歩下がって、チョイチョイと指をさす。


「失礼いたしま…」


 入ろうとして出る。そんなフェイントを仕掛けるに値するネズミ達、いや群れ。

 パッと見ても数十匹、もしかしたら数百匹というレベルかもしれない。


「これは荷物運びじゃなくて、ネズミの駆除で依頼を出された方が良かったんじゃないですか?」


「いや、私も見たくないから久しぶりに開けたんだけどね。まさかここまで増えてるとはね…。」


「ネズミ算式に増えるって言いますもんね。」


「ネズミ算?」


 あ、そういうのは無い言葉なのか。


「次から次へと、どんどん産むってヤツですよね。」


「はぁ~~~~…何とかなりませんかね?ちょっと、報酬にイロつけますから!」


 うーん、そうは言ってもなぁ…。

 ネズミを捕まえるっても、この数は厳しいなぁ。


「ちょっと対策を考えさせてください。明日、また来ます。」


「何とか!よろしくお願いしますね!」




 とは言ったものの、どうしたもんかね。

 安請け合いしちゃったな…どうしたらいいのかわからない状態で仕事を受けるのは無責任だった。


『仕事は考えて取るんじゃない。取ってから考えるんだよ!』


 なーんて良く言われてたけど。

 まぁ確かに、どうしよう…じゃなくて何とかする!に思考がシフトしてる自分がいるけど。


 ネズミの群れを効率よく駆除する方法は…毒のエサかな。

 毒じゃなくても、一定時間動きを止められて、その間に袋に詰めて袋ごと燃やすか?袋だけ燃えて逃げられたらヤバいか。

 水責めは時間がかかって、精神的にやられるって聞いたことあるし…。


「こんにちわー。」


 仕掛けを作ってその中に毒のエサを置いて、倒れたらその仕掛けごと燃やす?

 でも数が多いから、取りこぼしはあるか?

 明日毒エサを仕掛けて、その翌日に効果を確認して…。


「冒険者さーん。」


 え?


「こんにちわー。」


「え?誰?…あ、こんにちわ~!」


 帰り道、ブツブツ歩きながらネズミ対策を考えていたら、いつの間にかライナさんの家のあたりまで来ていた。

 ちょうど外に出ていたのか、声をかけてくれた。


「先程は、色々とご迷惑をお掛けしまして…。」


「いやいや、お気になさらないでください。体調は大丈夫ですか?」


「ええ、久しぶりにしっかり寝る事ができました。ちゃんとお礼を言えなくて、本当にすみません。ありがとうございました。」


 深々とお辞儀をするライナさん。ええ娘さんだよホントに…。


「体調が良くなったのなら、それで大丈夫ですよ。また機会がありましたら、ご依頼くださいね。」


「はい!」


 そういえば、ここは薬屋さんなんだよな。て事は、ネズミの駆除に使える薬もあるのか?


「一つ、お聞きしてもよろしかったでしょうか?」


「ええ、何ですか?」


「今受けている仕事でネズミの駆除という話が出てきまして、ネズミの動きを止める効果があって、人間には効果が無い、そんな薬はあったりしますか?」


「ええ、ネズミとか小動物駆除の薬剤はありますよ。」


「ホントですか!?ちなみに、おいくらでしょう…?」


「駆除の個体数で値段が変わるんですけど、どれくらいの数ですか?」


「数百匹です。」


「…なかなかの数ですね…それでしたら、銀貨5・6枚かなぁ。ただ、それほどの数は手持ちが無くて…。」


 意外と高いな…それなら赤字になっちゃう。


「あ、大丈夫です。ちょっと聞いてみただけですので!」


「自分で作るという手もありますよ?簡単に出来ます。原材料費だけですからもっと安く抑えられますし、もし採ってくるなら、原材料費は無料です。」


 無料?…無料ならいいかもしれん…!


「私に作れますか?」


「はい。作れます。さっきご迷惑をお掛けしたお詫びと言っては何ですけど、作り方をお教えしますよ。」


「ちなみに、原材料の採集地などは…?」


「モチロンお教えします。ウチで使う分も採って来てくださったら、その分お買い上げしますよ。いかがですか?」


 マジか…ありがたいなぁ~!


「よろしくお願いいたします!」


「はい、承りました。そういえば、お名前を聞いてなかったですね。」


「アキラと申します。改めまして、よろしくお願いいたします。」




 採集地はマンドラゴラの群生地の近く。さっき3往復しただけあって、場所は楽勝で覚えてる。


 草の名前は『ドクナシ草』。あるのかないのか。

 弱い毒性があって、人間の場合は食中毒のような症状くらいで済むけど、小さな動物の場合は生命を脅かすレベルの毒。

 現物を、お店の植物園で見せてもらった。葉の形は、5つに分かれていてギザギザ…なんかちょっと既視感があるな。

 形が独特なので一目で覚えることは出来たけど、念のため乾燥したヤツを1枚借りてきてる。

 あくまでもコレは乾燥したドクナシ草である。


 さて、採集地辺りに着くと、まぁあるわあるわ。もっさり生えてる。

 たくさん生えているけど乱獲せず、半分くらいは残しておくとの事。

 茎の部分から刈って、根は残しておく。出来るだけ、茎から出る汁には触れない。

 プチプチと素手でドクナシ草を採って袋に入れる。半分残すとはいえ、結構な数が集まったなぁ。

 これでどれだけ出来るのか。早速持って帰ろう。




「結構ありましたね~!これだけあれば十分です。」


 思いの他多かったらしく、ビックリされる。

 まぁ、たくさん作っておけば間違いなく駆除できると思うから、大丈夫だろう。


「では、早速作っていきましょうか。」


 材料はドクナシ草30本、水少々、牛乳少々、動物の血液少々、パン1斤で、約300体の駆除を想定します。


 まずは、さっき採って来たドクナシ草をみじん切りにします。

 これに少量の水と牛乳を加えて、ドロドロになるまでひたすら切って叩きます。


 パンを少量ずつちぎって混ぜて練り合わせていきます。

 1斤分全て練り合わせたら、ひとくちサイズにちぎって丸めます。

 素手で作業をしますが、この段階では人体にほとんど影響はありません。

 最後に、小さく丸めたものに動物の血液を1滴づつたらし、一晩寝かせます。


「はい、それでは今日はここまでです。念のため、しっかり手を洗ってくださいね。」


「了解しました。今の状態ですと、毒性はほぼ無いんですか?」


「人間の場合は、ちょっとおなかを壊したり、具合が悪くなる程度です。」


 一晩寝かせると、どうなるんだろうか。

 ちょっと楽しみだなと思いながら、今日の仕事を終えて流音亭に帰宅。

 今日の晩ごはんは、ガッツリ肉野菜炒め、パン、ニンニク風味スープのカリカリベーコン乗せ。


「うまそう!いただきます!!」


 腹いっぱい食べて幸せ気分を満喫ですよ。リバルドさんのごはん、ホントに美味しい。


「今日は色々ありましたけど、すごく有意義な一日でした。ライナさんに、ネズミ駆除の薬剤作りを教えていただきましたし。」


「アキラくんはマジメだよねぇ~。結局駆除までやっちゃうの?」


「ええ、あの量はすごいですからね。駆除のプラス追加金、ちょっと楽しみです。」


「ふふふ、ちょっとしたオマケは仕事の醍醐味だったりするからね。あまり無茶はしないようにね!」


 準備も万端、あとは覚悟!

 駆除は初めてだけど、気合い入れてやらんとな!


「はい、肝に銘じておきます!」

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