第97話 諸々のご報告参り

 ナディア、ナージャと3人で流音亭に帰還して早々に、アミュさんとリバルドさんにナディアとの結婚をご報告。

 アミュさんは飛び跳ねて、リバルドさんは満面の笑みで祝福してくれた。

 感極まったナディアのガン泣きを見て、俺もつられて泣きそうになる。只々嬉しかった。

 その日のうちに、ナディアとエレナさんが使っていた部屋からベッドを1台運び出して、俺の部屋に設置していただいた。

 部屋のシングルベッドが2台に増える事で、若干手狭になると思いきや。


「ちょっと広げといたからね!」


 ちょっと所じゃなく広くなった俺の部屋。魔石の力、恐るべし。

 部屋には飾り棚や本棚も据え付けられていたので、実家から持って来たマンガ『ガラスの鉄仮面』やアルバム、爺ちゃんのカメラを飾ってみたりする。

 モノが何もなく寝るだけの部屋が、生活感のある居住空間に生まれ変わった。


 そして、これからの話。

 新居の事と今後の俺達の仕事について話をしたところ、定職が見つかるまでは今まで通りバトンの森の冒険者ギルド専属冒険者として依頼をこなしていく事になった。

 そして仕事が見つかった後でもこの部屋は拠点として残してくれて、クローゼットと新居を繋ぐことを快諾してくださった。


「そこまでして頂いていいんですか?何か、恐縮です。」


「何言ってんのさ!これからもバリバリ働いてもらうからね!」


「はい、全力で依頼に励みます!!!」


 という訳で流音亭に戻って来て1週間。

 ボチボチ溜まっていた冒険者のお仕事をナディアと二人でこなしている。

 引っ越しの手伝い、倉庫の片付け、農園の害虫駆除といった比較的ライトな案件ばかりなので、朝から始めたとしても、遅くても夕方前には帰還できる。まさにホワイトな労働環境。


 近隣の街や村から魔獣討伐や害獣駆除の依頼もあるけど、そう言った荒事はナイトストーカー隊のアレクシオス、ジャムカ、スカンダが率先してやってくれている。

 バルさんが抜けて、セイラロスもスウェイン行きの準備を始めるために隊を抜けたので、現在ナイトストーカー隊は3人。

 それぞれが1人でも仕事をこなせるほどの技量はあるから心配していないけれど、予想外の事態が発生した場合は俺とナディアも参戦するという事で連携している。


 ナージャは流音亭でまったりしていると思いきや、最近は給仕のお手伝いをするようになった。

 今ではすっかり喫茶店常連の爺ちゃんおっさん達のアイドル。看板娘的な存在になっていた。


 そしたらどこから聞きつけたのかは分からないけど、冒険者、一般人を問わず若者の群れが喫茶店に押し寄せる事態に発展。


『妖精が働いているって噂は本当だったんだ……!』


 ナージャの可愛らしい外見に反した塩対応がたまらないらしい。どいつもこいつも。

 日に日に増えるお客さんに、アミュさん大喜び。


「これもナージャちゃんがカワイイからだよね~!おばちゃん嬉しい!!!」


 娘自慢的な意味で。そう思っていただけるのなら何よりです。

 ただ、そのしわ寄せがリバルドさんを直撃する事になってしまった。


「アキラ、ナディア。スマンが手伝ってくれないか。手が足りねぇ。」


「「よろこんで!」」


 という訳で、夕方から夜の時間帯はアミュさんも厨房に入ってリバルドさんのヘルプ。

 ナディアとナージャが給仕のお仕事で、俺は後片付けと洗い物。

 結構忙しいけれど平穏無事。これぐらいがちょうどいいな。




 さて、ライナさんのお店から素材収集の依頼があったので、結婚報告を兼ねて伺う事にした。

 お店にはマヤさんとセイラロスが遊びに来ていたので、これはナイスタイミングと思い皆さんに結婚のご報告。

 ライナさんとマヤさんがキャーキャー言いながらナディアに抱き着く中で、セイラがゴニョゴニョと耳打ちして来た。


「アキラ、エレナちゃんは?」


「エレナさん?今は王都でお仕事中だよ。知ってるでしょ。」


「ふーん……私はあの子の不器用な所、好きよ。」


「素直で正直で、一本気で。心から信頼できる人だよね。」


 セイラがマジメな顔で俺を覗き込む。ホント、スウェインのお姫様に似てるなぁ。

 でもやっぱり、コッチの方が背が高くてガッシリしている細マッチョ。


「……私が言いたい事、わかってる?」


「ホラ、俺も不器用ですんで。」


 はぁ、とため息をつきながら俺の腕をバシバシと叩き、キツく抱き締められると共に耳元で囁かれる。


「似た者同士も程々にね。いつか後悔するよ?」


「肝に銘じておくよ。」


 そんなやり取りの1週間後、王都のエレナさんから手紙が届く。


 ~~~


 ナディア&ナージャ、あとアキラ。


 しばらくです。皆変わりありませんか。

 私とルカは変わりありません。


 家は殆ど出来ていますが、場所はウィルバートに口止めされているので言えません。

 そのうちアーレイスクが行くので、内装の希望を伝えてください。


 再来週の頭、9:00に流音亭着で馬車を手配するので、王都に来てください。到着する頃に家が完成します。

 同封の納税証明書は、ナディアとアキラの入城税・入市税の先払い証明です。

 必要な時にギルドカードと一緒に提示してください。再発行は出来ないので注意してください。

 ナージャは非課税です。


 レナートから伝言です。

 グリューネ、ストリーナ、ハートリーの宿を使って欲しいとの事で、手続き済みです。

 カンフォーレを名乗り、一切の遠慮はご無用との事です。


 それでは、身体に気を付けて。

 会える日を楽しみにしています。


 エレナ


 ~~~


 部屋に戻ってナディアと一緒に手紙を読む。

 前にメモをもらった時もこんな感じだったな。用件のみのシンプルな内容。

 ナージャは興味ないのか、前に俺が作った宝箱ベッドで就寝中。


「無駄のない文章だ。実にエレナさんらしいな。」


 このウィルバートに口止めされている、新居の場所って何処なんだろうな。すげぇ気になる。

 確か王城の周辺に空き地はなかったと思うから、ちょっと離れた場所になるのかな。

 だとしたらレナートさんの家の隣だったりして。

 王城からは多少離れているけど、それはそれで嬉しかったりする。


「私たちの家……楽しみですね!」


「ホントだね。あのミニチュアハウスが実際に建つと思うと、テンション上がるわ。ナディアは自分の部屋、どんな感じにするの?」


「実は、あまり考えていないんです。アキラさんさえよろしければ、同じお部屋で過ごすのもいいかな、とは考えていたんですけれど……いかがですか?」


「俺は構わないというか……むしろ嬉しかったりします。でもいいの?俺の部屋、和室だけど?」


「ええ!とても楽しみです!」


「でもなぁ……喧嘩すると、居心地悪くなったりするぞ?」


「いや、ケンカとかしないから大丈夫……ってオイ!何で居るの!ちょっと!」


 普通に会話に入って来たアーレイスク。

 一瞬気付かなくてコントのツッコミみたいになってしまった。


「一緒の部屋はいいけどな、プライベートスペースはある程度確保しておくといいよ。それはお互いのためでもある。」


「なるほど、そういう物ですか……」


「ナディア、頷かなくていいから。この人を甘やかさなくていいから。入るなら入るで、ノックぐらいして下さいよ。何親身になってアドバイスしてるんですか。」


「アキラ。家ってのはな、女性が主導して間取りを考えた方がいいんだ。男性が主導の場合必ず趣味に走る。これがうまく行かないんだ。ホラ!アレ!そこに飾ってるヤツ……とか……」


 本棚を指差して微動だにしないアーレイスク。


「何を知ったようなことを言ってんですか。それに、そのマンガはナディアもナージャも、エレナさんも気に入ってくれてるからいいんですー。」


 両手をかざし、フラフラと本棚に近寄るアーレイスク。

 爺ちゃんのカメラを手に取り、カクカクと首だけこちらを向ける。

 あんな姿映画で見たな。ゾンビか。


「ちょっとー。勝手に人の物触らないでくださる?」


「ここ……部品……」


「はぁ?」


「パーツ……ちょうだい……」


「パーツ?あぁ、カメラの?ちょっと、それ爺ちゃんのカメラ―――」


「アキラ!!!頼むよ!!!早く!早くパーツを!!!」


 カメラを小脇に抱え、俺の肩を掴んでぐわんぐわんと揺さぶる。


「何なの!もう!わかった!わかったからやめて!!!」


 マジックバッグからカメラのパーツを取り出し、アーレイスクに渡す。


「おお……おおお……」


 ボソボソと何やら呟きながら紫ラメジャケットの胸ポケットをゴソゴソとまさぐると、ちょっと小さめな無色透明な宝石と紫色の宝石、黄色の宝石を2個ずつ取り出した。

 カメラのパーツに石を填め込むと、カメラの背に装着する。


 何をしてるのか分からず、俺とナディアが顔を見合わせる。

 ナージャが俺の膝に飛び乗って来た。あら、起きてたの?

 アーレイスクが俺とナディア、ナージャを見てニヤリと笑う。


「これの今の持ち主は君だよアキラ。君の許可無しに、私が操作する事は出来ない。さぁ!許可を!」


「は?許可?」


「……いいぞ!やれ!」


 ナージャがノリノリで答える。

 それってもしかして、カメラ使えるようになった!?


「カメラを使えるようにしてくれたのか。じゃ、ちょっと撮ってもらっちゃおうか。ナディアはいいかい?」


「もちろんです!」


「という訳でオッケーですよ。」


「ふっふっふっ……私は、今日のために生きて来たのかもしれない……」


 何を大袈裟な。

 アーレイスクが何やらメモを読み、ウンウンと頷くと自撮りスタイルで構える。


「あっ!俺らだけでまず撮って欲しいのに!!!ちょっと!!!」


 そしてもう片方の腕で俺達を抱え込む。


「では行くよ!腹に力を入れて!!!」


「そんな大げさな……」


 アーレイスクがカメラのシャッターを押すと、レンズから紫色の光が照射され、俺達の身体を照らす。

 直後、部屋の空気がバチバチとざわめき、静電気が発生した際のイオンに満ちた臭気が充満する。

 レンズから放たれた光の渦が俺達を包み込む。眩しくて目を開けてられない!!!というかコレは!!!


「アキラさん!!!」


 ナディアが俺に抱き着くが、その感触に浸る余裕などない。

 ナージャが俺の身体にしがみつき、叫ぶ。


「……よっしゃ!いくぞ!!!」


「さぁ諸君!目を閉じてしっかり捕まって!快適な空の旅を!!!」


「何を―――」


 俺が言いかけた瞬間、浮遊感と共に強い重力が身体に圧し掛かる。


「うおおっ!!!」


「きゃあっ!!!」


「……ィヤッホ~!!!」


 更にグググっとさらに上から押し付けられるような感覚の直後、地面に足が着く感触。


 ムワっと熱く感じる大気。どこからかセミの鳴き声が聞こえる。


「よし!!!完璧だ!!!目を開けてみたまえ!!!」


 言われるがまま、恐る恐る目を開ける。目を瞑っていたのに、なんかまだチカチカする。


「……ん?ここは……公園?……東屋……」


 ・

 ・

 ・


「ああっ!!!」


 一瞬の混乱から回復した。


 ここは実家近くにある大きな公園『青葉公園』の東屋。

 小学生の頃は学校から帰ったらみんなで遊びに、中学生の頃は塾の帰りに友人達と遅くまで話し込んでいた場所。

 何年……いや、十何年ぶりか。すげぇ懐かしい。


「アキラさん……ここは……?」


「えっと、順を追って説明するわ。アーレイスクさん、どういう事ですか?何でこんな―――」


「……うるさい。」


 アーレイスクに詰め寄ろうとするが、俺の腹にしがみつく少女に阻止される。少女!?

 その子が俺から離れると、腕をぐるんぐるんと振り回してその場でジャンプ。


「……身体が重いな。」


「髪が黒いけど……ナージャなのか……?」


 ナディアをそのまま幼くした感じ。小学校低学年くらいの身長に大きく成長(?)していた。

 可愛らしいTシャツに短パンと、コッチの世界でよく見かける女の子の服装だった。


 そしてサラリーマン風の紫の男が、涙を流しながら拳を握り締めている。


「私は今……猛烈に感動しているッ!!!」


「あの、感動はいいんですけど―――」


「いざゆかん!!!我が聖地!!!トキ様のご自宅へ!!!」


「いや、それ実家じゃん。俺の。」


「ご実家……するとここは、アキラさんが居た世界なんですね!?」


 ナディアの大きな瞳がキラキラと輝いている。は、ご明察です。


「そうなんだけど、何でこう、急に来るかね……ちょっと、アーレイスクさんさぁ―――」


【ワン!ワン!ワン!】


 うおっ!ワンちゃん?

 慌てて振り返ると、見慣れたわんこが尻尾を全力で振り回し、リードをグイグイ引っ張って俺に飛び掛かろうとしていた。


「え?たーくん!?」


「あらら、似てるなーって思ったら亮だったんだ。たーくん!引っ張るのダメ!おすわりっ!おすわりだよっ!」


「母さん……」


「えっ!お母様!?」


 ナディアが口に手を当てて驚く。まぁ、そりゃぁね。

 実家の愛犬たーくんを散歩していた、母との遭遇。


「いや、仕事でちょっとね……ははは……」

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