ロリコンは滅びればいいのに 年頃になったとたん貞操の危機を迎えた件について ～カトラリーを自称する神の端末の冒険譚～

素材集めと仲間のありがたみ 後シリルの事

　正式登録後の初仕事はちょっと失敗した。ストレージバレを回避する為の方策が何もない状態で、獲物100や200はやっぱり簡単じゃなかったわね。駆除するだけなら兎も角得物の運搬、そして処理が一番大変だった。

　下水路の、ある程度奥まで入り込んで、獲物を誘引して一気に仕留める。この前の様に100を超える量を一度に釣れなかったけど、ポイントを少しづつ奥に変えて、30～40匹の群れを6回釣り出せた。レベルも7に到達して、殲滅も接敵即魔法の矢で、近接戦闘に移る前に終わった。

　獲物を吸血・吸精で吸いつくしてからストレージにしまい込んで、後は獲物袋に入るだけ入れて拠点に往復するだけという段階で、獲物袋一つにラット3匹入れるともう、私の体重よりも重くなって運び辛い事が判明。

　力の問題じゃないんだ。自重が足りないとね、ちょっとバランスが取れない。それでも獲物袋を２刀流にして両肩に背負い、バランスを取りつつ自分の体重の2倍以上をえっちらおっちら運び出して拠点までたどり着いた。

　んで、それを繰り返してとりあえず5往復、ラット30匹運んでから、皮むき始めたんだけど、一匹当たりで結構時間かかるんだよね。技術と知識を取得しただけで、まだ作業自体に慣れてないから、一体辺りにどうしても時間がかかってるのかもしれない。出来上がりは以前とは比べ物にならない程奇麗だし、肉の方も皮から奇麗にはがれている。半分剥いた辺りで大分慣れてきて、1匹当たりの時間はかなり短縮されるようになって来たけどそれでも30匹はそれなりに時間がかかる。

　作業中何度か襲撃があったけど、皆、前の影響など感じさせないように危なげなく対処していたから不安は感じなかった。流石に何度か護衛組が抜かれたけど、私が解体しながら放つ「理力の弾」の魔法で無音瞬殺していたから問題無し。その度に皆から音量を控えめにした歓声が沸いていた。これ、自動で当たらないから、動く標的に当てるのはちょっと難しいんだけどね。地味に「空間識能力向上1」が良い働きをしている模様。

　運び込んだ30匹を全部剥き終わって、さて続きを取ってこようかと腰をあげたら。

　「皮が欲しいんだろ？俺らが狩ったラットの革も剥いでおけよ。皮は金にならないからな。」

　とのありがたいお言葉。いやストレージの中には今日の分だけでも、ローチ100近くラットは残り70近く格納されているので、自分の稼ぎの為にもこの中身をやっつけたいんだけど、皆の純粋な好意に負けて、結局その後皆が狩ったラットの皮むきに時間を取られた。

　泥を外に捨てに出る為の部隊に付き添って、私も獲物満載の荷車を引いて、監督官に私の分のラットとローチを渡たす。それ以外はケリー達のグループの獲物であると告げて、帰りは荷車一台追加して皆の元に急ぐ。

　監督官はいつもの人とは変わって、見た事の無い女性の方だったけど、私の駆除の成果に顔を引きつらせていた。いつもの監督官はお休みなのかな。

　この往復、午前中に2回。午後は警戒しているのか獲物の食いつきが悪くて、2回の釣り出しでラットは１０匹位しか食いつかなくなったから、一度切り上げてローチも含めた解体と皆のフォローに集中する事にした。

　結局その日はラット２００は流石に達成できなかった。それでも成果は私個人でラット112匹、ローチは殻が242枚、ローチ退治数は121匹、2種合計で200は越えた。ラットの皮は皆の分も含めて154枚手に入れる事が出来たけど、これ普通にしんどい。

　解体にかなり時間を取られるんだよ。馬鹿正直に、そのまま手作業で一匹5分もかけていたら日が暮れても終わらなかったと思う。最初の30匹の段階で全部手作業でやるのを諦めた。ストレージの半分も処理できていない時点で、もう後半は皮剥ぎ魔法で10匹毎に一気に処理して、端数をシナリオ経験値稼ぎで手で処理してたよ。気力がなえてさ、正直皆のおトイレ護衛とか獲物や泥の輸送とかそっちの方にメインのお仕事がシフトしていった。

　午後になるとどうしても我慢できなくなってくるしね。防具としてもそうだけど早めにグリーブブーツ、作ってあげたいよね。内側に毛皮を持ってきて保温効果抜群の奴。自分が遠慮なく使う為にも！腐食の対処は、とりあえず表面処理だけでごまかして。手入れ用のグリース多めに購入だね。まずは数だよ、兄貴。

　どこの眉無し兄貴に言っているのかわからないけど、鼻で笑われた気がしたよ。あれはもしかしたら幻かな。

　色々な世界に転生しているからさ、そういう世界に行っている分霊（わたし）もいないではないけど、そういう話はまた別の機会に。多分誰かが話してくれるさ。ハハッ！

　「解体の知識1」「解体の技術1」「初めての革細工1」を取得したお陰で加工関係の魔法もある程度使えるようになっている。当面はこの技術、知識回りの関連と魔法関連の能力取得、それと実務経験を積む事を主眼に置こうと思う。

　午前中に私が持ち込んだ獲物の量を見て、監督官が気を利かせてくれたみたいで、その日の仕事を終えた後の換金では銀粒を用意してくれていた。銀粒１１個、銅貨２９枚と鉄貨２枚。これが今日一日の私の稼ぎとなる。

　下水での駆除仕事だと多分新記録じゃないかな？魔法で空間拡張されているような、貴重なバッグを下水路に持ち込んでまで記録を目指す奴はいないだろうし。私はその内その手のアイテムを自作して、やってみようかなとか考えているけど。

　円に換算して約１４７，０２０円。これを後２～３日繰り返せば、消費される皮と獲得する皮の正確な数なんか追えないだろうし、そこまでする暇な人もいないだろうから、ストレージの中の皮も有効利用できるね。中のお肉も仕事の度に適宜お金に換えていこう。

　しばらくは週に一日おきに３回下水仕事の駆除を受けて、合間２回は治療院に詰める。残り２日は塒に籠って作業に集中って感じにしようかな。

　作業に関しては魔法を全力活用なら、ブーツだけならすぐに形にはなるだろうけど、金具を使いたい部分もあるからなぁ。暫くは革ひもや材質変化で硬化させて誤魔化すとしても、いずれ金属加工に関しての知識も必要になるか。

　靴底は当然魔法加工一択だね。一番消耗するからねぇ。革を変質させて長持ちする靴底を作るつもりなんだけど、技術がそこまで達するのにどのくらいの時間がかかるのかちょっとわからないね。

　ん？銀１１個って、治療院でもらえる予定の日当より多く稼げているんだけど、気のせいじゃないよね。

　治療院は私が待機だけじゃなくて、通常の医療行為の経験を積むため、業務に参加させてもらうことを条件に協力を快諾したんだけど、その分お手当を少し多くしてくれることになった。

　午前中が銀粒３個、午後が２個。時間外の急な呼び出しに応じた場合、治療院に来るだけで銀粒１個で治療行為に関しての報酬は相場通り、って内容だけどさ魔法治療が無い日は１日銀粒５枚なんだよね。

　いや、一日に魔法治療が必要で支払いができる患者が、どのくらい来るのかは未知数だけど、一人でもいれば最低でも銀貨数枚は動くから、平均すれば治療院のお仕事の方が良いはずだよね。

　重症治療や四肢欠損に関しての治療だと、程度にも依るけどそれだけで銀貨数百枚は動くかもしれない。詳しい相場は全然知らないけど、大金が動くって話は聞いている。軽傷治療の奇跡や魔法を受けるだけでも術者に銀貨数枚、約数十万円が入るのだから、希少価値の高い高位の治療だとその位動いてもおかしくない。

　これ、多分お金だけなら一月か二月もこのペースで働けばシリルを迎えに行けるかも。最初に両親に包むお金をある程度用意して、ギルドで紹介してもらった信用のできる強面の冒険者数名に、依頼を出して護衛に連れて行けばあの両親も嫌とは言えないだろう。

　毎月銀貨2枚、約24万円も仕送りする約束すれば、あっさりとシリルを手放してくれると思う。田舎じゃ考えられない現金収入だし、暮らしも大分楽になるだろう。

　シリルは私にはすごくなついていた。父親は当然として、母親もあんまりあの子には構ってあげていなかったから、あの子にとって私は母親みたいなものだったし。今頃は寂しくて、泣いて過ごしているかもしれない。間違っても、私と一緒には行きたくないとか言い出したりしないだろう。フラグじゃないよ？

　後は一緒に塒で暮らして、シリルのやりたい事を一緒に探してサポートする。暮らす場所は皆と一緒が良いよね。シリルにもお友達が出来るし、もしかしたら好きな人も出来るかもしれない。自由恋愛はシリルが望むなら良いと思うし。

　ま、ちょっと口を出しちゃうかもしれないけど。

　だって相応しくない人間がシリルに迫ったら、それはやっぱり牽制するのが家族だもんね。まぁ、あの子は賢いから変な男には引っかからないと思うけど。

　あの子と住むのなら、塒には少し手を入れた方が良いかな。あの子を隙間風吹くお部屋で眠らせるのはちょっと。姉としての責任感もあるしね。

　貧しい暮らしをさせるつもりは無いんだよ。食事も服もね。でも、いくら妹とは言ってもあの子だけを贔屓すると他の子達がかわいそうだから、その辺のバランスも考えないと。

　男の子は、まぁ逞しいから大丈夫だとして。いや、ちゃんと護衛組には装備の面で貢献しようかなって考えているから贔屓じゃないよ。

　あー、おねーちゃんと一緒にお仕事したいって言われたらどうしようか。仮登録は絶対にダメだよね。

　私の関連で、その手の依頼はギルドの方でシャットアウトするだろうけど、何が起こるかはわからない。私と同じようにローブかぶせて……顔の部分に薄絹纏うかな。私も早いうちにそうしておいた方が良いかも。

　もしシリルがどうしてもって考えるなら、正式登録が出来るようになるまで、私がシリルを個人的に雇って装備も整えてあげて鍛えるしかないよね。

　……鍛える。そうだよ、シリルがどの道を選ぶにしても、朝夕に人気の無い場所を一人で歩くと誘拐されちゃうような街で暮らすんだもん。暫くは私が付きっ切りで守るにしても、あの子自身が強くならないといつまでたっても普通に暮らせないわよね。

　あぁ、普段から塒で籠って暮らすのも辛いだろうし、あの子真面目だから自分だけ働いていないとなると気にしちゃう。同じような年頃の子供達が男女問わず働いているのに。

　そうすると、仮登録は仕方ないとあきらめて、私の伝手で性奉仕の指名依頼を受けないようにギルドに要請するのが正解かな。普段から顔を隠して。

　どうするのが一番か、私だけで考えても出る結論じゃない事に気が付いたのは、おゆはんを食べ終えて、ニカに抱っこされてロナを抱っこして眠りにつく頃だった。