今、再びのタナトス
そんなこんながあれば当然、次に行くダンジョンはファモスだと思うじゃない?
残念、今回もまたタナトスに行く事になったんだよね。
理由は簡単、ファモスの活動が通常状態に戻ったとはいえ、モンスターの出現数は以前と比較してやや減少気味であるし、今後どのようにな変異を起こすかが予測不能の為、依然と同程度に活動が安定するまでは調査チーム以外のファモスへの出入りは禁止する、という通達がダンジョンを管轄する中央ギルドからでちゃったのよ。
あ、一応冬を越す為に中に貧民が入り込んでいる様なダンジョンは、このエステーザでは第4のタナトスと第1のエステアだけで、ファモスには元々スラムの住民が入り込んではいないから、他のダンジョンと比べて比較的ちゃんと入場規制が出来ているみたい。
完全に人の出入りを把握して規制出来ている訳ではないだろうって話だけどね。
ファモスではタナトスやエステアの様に、比較的安全でスラムを維持できるような広場が出入り口付近にある訳では無い。ただ、タナトスの様な明確な区切りの無いダンジョンではなく、階層が明確に分かれていて、その階層毎に出てくるモンスターの強さがある程度決まっている。
その為、浅い階層では引退して運動不足になりがちな高位の冒険者達のお小遣い稼ぎがてらの散歩コースになっているうえ、何があっても自己責任の世界の冒険者が「入る」と言えば無理に止める事は難しいのが実情みたい。
ただ、決まりを守らせる側の人間である元赤が面白そうだからって理由で勝手に入り込むわけにもいかないし、槍に餌やりに行くのに獲物が少なめのダンジョンに行ってどうすると言われては、反論の余地は無いわよね。
どうしてもファモスに入るのなら、元赤を連れずに個人でふらりと入る以外には無い訳だけど。それも近いうちにやる積もりだけどさ。今回は友達とワイワイしながら連携を楽しみつつ、私のアッチの方の空腹を満たしたかったから我儘は止めとこう。
んー……言い方は誤解を招くけど、只人にとってのランチデートするみたいな感じなのかもね。デートじゃねぇしって自分から突込み入れとくけど。
魔法の補助具、いや魔法の杖に関しては、下準備はある程度終わって1月中にはシュリーさんの分も含めて全員分仕上がる予定。特に何も起きなければ、ね。
後は宝石の魔宝石化を何度か試してみるのと、魔法の杖のサイズに合わせた魔宝石にしたいから、宝石を水晶の様なもので大きく包む作業が残っている。用意できた宝石は皆小粒で、装飾には良いんだけど、魔法の杖のコアに使うには性能は兎も角見栄えがちょっとばかり寂しいからね。
宝石の大きさと比較すれば大きく長い木の棒の先に、豆粒ほどの魔宝石が埋め込まれているって絵面になってしまうし、それではあんまりだから。
魔宝石を包むのに、普通のガラスや石英ガラスでも問題は無い。でも出来れば包む材質も見栄えだけじゃなくて色々と効果を持たせたいからね。ガラスでもやり様はあるし、面白い効果を持たせることも出来るけどアモルファスなんだよね、ガラス。
今の私の技術では魔法特性的に癖があり過ぎて、ちょっといじるのは難しいから、素材にはちゃんとした結晶を使いたい訳よ。
ま、材料は水晶も石英ガラスも同じだし、ガラスも似た様なもんだしね。その辺でいくらでも材料は手に入る。強度で言えば酸化アルミニュウムと酸化タンタルから作るガラスもあり、だけどそっちを魔法の杖の素材で使ったことは無いし、今回は実験する技術も暇も足りない。好奇心は十分にあるけどね。
強度の問題も、接近戦に持ち込まれた際に打撃武器として使用しても問題ない程度には出来る。推奨はしないけど。
そんなこんなをちょいちょいとネタバラシをしつつ、全く理解できていない元赤に説明しながら、困惑する彼の表情を肴に第4ダンジョン、タナトスへの道を元赤に引っ張られながら宙に浮かんで進む。
うん、酒に酔っての思い付きだけど、何となく気に入ったからさ。実行する事にしたのよ。魔法使い的ムーブの為の、宙に浮かぶクッションに座って移動するって奴を。
最初は紐で結んで、元赤に引っ張って行ってもらうって言う、犬の散歩チックな黒歴史間違いなしのパターンを選ぼうとしたんだけど、流石にそれでは元赤に悪いし、恥ずかしすぎるって
ちょっと考えてもらいたいんだけどさ、顔を隠しているとはいえ自称だけど物凄い美少女の私を紐で結んで引っ張っていく元赤。うん、甘き背徳の香りがプンプン匂って来るわよね。
ただ、この方法だと動いてくれる対象物が存在しないとただ間抜けに浮くだけになってしまうから、後でまた術式に手を加えないと目指す魔法使いムーブに辿り着けないわね。
引っ張って行っていることになっている元赤自身、自分が私を引っ張っている事には気が付いていない。固定した座標もある程度遊びを持たせている上に物理的な負担を懸けている訳じゃないから、気が付こうにも気が付けないだろうし。
時折座標を弄って彼の横に浮いていたり、後ろに戻ったり、上下に移動したりしているから、多分私が自分で動いていると思ってるだろう。
あ、積もった雪はいつもの様に、同時に起動しているスノーゴーレムで排除しながら進んでいるから、元赤の負担もそれほどではない筈。その移動はゆったりとしたもので、片道では大した距離ではないタナトス迄の道のりをそれなりに楽しく過ごす事が出来た。
「その、アモルファスと言うのが分からん。非結晶のガラスと結晶のガラス、と言うものもさっぱりだ。」
「いや、結晶のガラスっていうか……。」
こんな感じで、元々元赤には分かりっこない話を、それでも弟子として義務感なのか、男の子としての好奇心からなのか、以外と楽し気に、気になった部分を聞いて来る元赤。
あの小さな宝石を杖に使うと言った時にも、杖と宝石のサイズの違いを最初に突っ込んできた。というか今話している魔法の杖が自分たちがもらえる魔法の補助具だという事には、流石に気が付いていないみたいね。
説明していないから、だけどね。
そう言えば、最初に元赤にネタを仕込んだのも、こんな感じで私が理解を求めずに出したネタに食いついてきたのが初めだったよね。分からないなりに、色々と質問してくる元赤に、現状、制限されて足りない知識の中から私なりに出来るだけ噛み砕いてわかりやすく説明する。
もしかしたら、これも私にとっての勉強になっているのか、元赤にこの手の解説をした時は心なしかシナリオ経験値が良い時がある。
「人に教えるという事が自分の勉強にもなる。」とは、最初の人生の時に小学校の時の先生が何やらかみしめながら、語ってくれた言葉だけど、なるほどなと思わず納得してしまう。
タナトスに着いてからも特に前回と変わった事はなく、前回と同じように出入り口付近に陣取っているスラムな人達を通り過ぎた。前回と違うのは、今回は「何かあっても助けないし、諸々自己責任で良ければ。」という事でパップスの人達に付いてきても良いと許可を与えた為、彼らが後ろから20人ばかりゾロゾロとついてきているくらいかな。
「よくも許可したものだな。てっきり余計な目は好まないのかと思ったが。」
「そうでもないわよ。ま……、確かにさ。
自身の自由な行動を担保する為に、ある程度の武勇を立てる必要があったから魅せる戦いをしたい、とは言っていたし。
それ以外ではあんまり目立ちたくないとも言った記憶はあるけど、有象無象が私の美貌に群れるのが嫌って事なのかも。貞操的な問題で。
正直その辺、自分でもよく分からないわ。」
自分の中で時折、
自分の中に一本、ちゃんとした芯が入っていない。状況に応じて、その日替わりで右にフラフラ、左にフラフラして不安定極まりない。青春期の若人よりも無軌道で、多分、分霊と個体が溶け合うまでこんな感じで落ち着かないんだと思う。今までの記録でもそれが解るし。
「でもさ、道すがら魔法使いでござい、と宙に浮きながら移動するくらいには目立ちたがりなのかも?自分でも分からないよ。意外と私、お調子者なのかもしれない。
たださ、自分が見世物になったり噂になりたくないって気持ちもあるのはあるけど、困っている人達にそれが理由で手を差し伸べないって言うのも、違う気がするし。
責任は取らないからねって伝えたし、それで良いって受けたんだからさ。」
わかったのか分からないのか微妙な表情をする元赤。
ま、パップス達は良いのよ。彼等の身に何かあっても私のお腹を満たす事になるだけだし、上手くいけば彼らもハッピーなんだから、うん。出来るだけ助ける方向で動くつもりだけどさ。
不意に
つまりつまり、
つまりつまりつまり、これから本当の
今、確実に実感した。前よりも少し性格がはっちゃけているってさ。困ったもんだ。
無意識に友達、仲間達とは別のカテゴリに元赤を含めた事に対して、
何でホッとしたのかが分からない。
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