戦後の後始末1 生きていたリーメイトさん
日が落ちて、篝火に照らされながら、救助活動は続いている。だけど流石に日が落ちてからは救助のペースも落ちてきていた。高レベルの斥候の人達でも暗がりの中での救助活動は簡単な事じゃないみたいね。
この外街に力自慢なら本当に掃いて捨てる程いるみたいで、瓦礫をどかす事だけならそれほど苦労はしていないみたいなんだけど、複雑に瓦礫同士が絡み合ったり、柱一つ動かそうとすると全体が崩れそうになったりする為に、一気に退かすといった力任せの方法が取れないから、結局安全が確保されるまでは人海戦術で動かしても問題の無い瓦礫を退かして、大丈夫となったら人間重機が活躍するといった手筈になっている。
だから現場の灯りの確保はかなり重要な案件なのだ。
私の方は、相変わらず運び込まれてくる要救命者の治療に手を取られているけど、何とか合間を見て篝火が届かない暗がりに「
宙に浮かぶ光球に驚いている魔法使いさんや奇跡の使い手さんがいたけど、今更だよね。もう慣れたよ。
誰に言われるまでもなく、奇跡を使える人たちが保有している灯りの奇跡を彼方此方にかけてくれているおかげで、段々と作業効率が戻り始めているけど、やはり魔法使いも奇跡の使い手も少ないんだね。
灯りの奇跡を身に宿している使い手もそんなに多くない。才能によってその身に納める事の出来る奇跡の種類や量は左右されるものの、才能がある使い手だとしても、一度にその身に宿す事の出来る奇跡の数は決して十分な余裕があるとは言えない。他の手段で代用できる灯りを確保する為に、態々奇跡の容量を圧迫する人は少ないのだ。
ただ、魔法使いよりも奇跡の使い手は数が多い。そしてギリギリ1つか2つ、弱い奇跡なら身に宿せるといった人たちもそれなりにいる為、そういう人が日々の灯りの確保の為にその身に宿しているケースもままある。
一夜の灯りの為に平均して毎朝10分程度お祈りをしなくてはいけないけど、その程度なら許容範囲だろうし、奇跡を授かる為じゃなくても毎日その位祈っている敬虔な信者は結構いるよね。油代も馬鹿には出来ないから、そう言う事の出来る人は結構重宝しているのではないだろうか。
因みに奇跡を使えず油も中々買えない、うちの実家のような貧乏人は、暗くなる前におゆはん食べてさっさと寝る事になる。
田舎の家族が大家族になる所以だと私は思う。
と、言う事はだよ?逆に考えれば、現代社会においても電気やガスが使えず、灯りが取れない状況になれば少子化も解決できるのだろうか、とアフォな事を考えてしまった。
因みに実際に他の
どういう意味で碌な結果が出なかったのか、興味はあるけどアクセスできる範囲に記憶もレポートも無いから、これ以上は
ま、そんな事は今はどうでもいい。
私がいるこの南門付近は、それなりに光を確保出来てきたけど、壊滅状態になっている東門の方にはチラホラと灯りがともっているだけで、救助作業も進んでいない。ただ単に、そこまで手が回っていないだけかもしれないけど。
どうやら壁内からもかなり人手が出ていて、東門の当たりでの救助活動は始まっているようなのだけど、崩壊した大門と防壁に阻まれて、爆心地である外街の方まで人を回せないでいるようだ。
暗闇の中、瓦礫の山を乗り越えて進んでいくのは危険すぎる。
壁外街の彼方此方からも人が集まってきて、炊き出しや作業の手伝いに従事してくれているんだけど、東門辺りでは指揮系統が混乱しているらしく、せっかく集まってきている人手を上手く活用できていないらしい。
とは言え、南支部の方でも自分たちの事で精一杯で東の方まで気を回す余裕がない。そんな中、ギルド東支部の支部長さんがあの爆発に巻き込まれて戦死したらしいという噂が、こちらの方にも流れてきた。
彼は住民の避難を指揮した後、冒険者で防衛隊を組織して東門の上から指揮を執っていたらしい。あの大爆発の直前まで。
まだ遺体は見つかっていないそうだけど、その噂を耳にした時点で、彼の魂が既に海に落ちているのを確認している。名前も知らなければ顔も見た事もない人だから、たいして思う事もないはずなんだけどね。その噂を教えてくれた重傷者の雰囲気に流されて、私も少し悲しい気持ちになってしまったよ。
明日になる頃には、おそらく中央から指揮を執れるギルド職員なり辺境伯の部下なりが東の指揮を執るだろう。
まぁ、そんなおセンチな気分に長々と浸っていられるほど暇があるわけじゃ無いから、あっという間に元のやる事に忙殺された殺伐とした雰囲気に戻ったけどね。
この南支部も状況としては東支部とあんまり変わっていない。今は元赤い人が指揮を執っているが、本来作業の指揮を執るべきであろう南支部長のリーメイトさんがまだ見つかっていない。
おそらくどこかで瓦礫に埋まっているんだと思うけど、まだ彼が落ちてきた感覚は無いから必ずどこかで生きている筈。
リーメイトさんにはお世話になっているし、出来れば無事でいてほしいんだけど私が捜索活動をするわけにはいかない。
人手が揃えば、私が患者の所まで駆けるよりも私の所に連れてきてもらった方が効率が良い。
敵方のナギハやシーラに言われたように、ありえない回数の治療魔法の連続行使で今現在の南支部臨時治療院のテントに集まってくる患者さんの命を救い続けているのは私であり、私が数十分でも席を外せば冗談抜きで幾つかの命が失われてしまう。
これ、私が居なかったら今回の戦争で救命処置が間に合わずに失われた命はいったいどのくらいになるんだろうか。
と、自惚れても誰からも注意されない位は活躍している。無論、囮無しで。
不意にテントの外が騒がしくなってきて、一人の救助されたばかりの患者さんが運び込まれてきた。
土にまみれたぼさぼさの金髪頭に、細く整えられた口髭。元は上質なジャケットがボロボロになっており、シャツに包まれた腹部の辺りは赤くシミが出来て、その瞳は力なく閉じられていた。
リー……メイト支部長?まだ呼吸はあるし、出血量もそれほどではない。大丈夫、十分助かるし余裕もありそうだ。
「支部長が見つかったが、意識不明の重体だ。エリー、救命の為の優先順位があるのは知っているが、東の支部長が戦死した上に彼に万が一のことがあったら、エステーザの都市機能が一時的に麻痺する可能性もある。
現状でそれはエステーザ滅亡の危機を意味する。
悪いが最優先で頼む。」
赤いローブを付けていない赤い人の緊急要請に、短く了承の意を伝えてリーメイトさんの元に駆け寄る。命に貴賤は無い、なんて建前はこの際置いておこう。最前線都市エステーザの行政に携わる者としてギルドの支部長がどれだけ重要なポストであるのか、知識が足りないなりに想像できないわけじゃない。戦争中に二等兵の救命を優先して指揮官を見殺しにすれば、その軍の敗北は早まるし結果的にもっと多くの犠牲が出る事になる。
奇麗事ではすまない訳ね。
手早く診断の為の術式を展開しようとしたら、急に体の制御権が
トリガーボイス一つない、完全なサイレントでの治療魔法の起動の上、短時間で見る見るうちに傷口がふさがって血色がよくなっていくリーメイトさん。気のせいか泥で汚れていた髪の毛も奇麗になっている。あ、いや、気のせいじゃないや。
どうした?なんでここまでやってるの?何があったの
え?行きがかり上、何処に埋まっているのか判っていたのに、助けられなかった罪滅ぼしでやっただけ?推しのイケおじを助けようとしたわけじゃない?
いやさ、
まぁ、さ。リーメイトさんのお陰で色々と上手くいったし、シリルを迎えにも行けた。今回も安全な場所に妹達を避難させることが出来たわけだから、助ける事については一切問題ないんだけどさ。
「すまないな、感謝する。」
治療が終わったのを察した赤が、リーメイト支部長さんを静養室がわりのテントに運んでいく。
ホッとするような雰囲気を
……まさかとは思うけど、
唐突に返却された体の制御権が、私の内心とシンクロして首を上下にうんうんと振っていた。
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