戦い 疲れ 後始末 何でもそうだけど元に戻すのが一番大変よね
後少しすれば日が傾き始める夕暮れ前。赤い人と姐さんが落ち着くまで待った後、短く簡単に私が見たものを二人に説明して、はっきりとエステーザでの戦闘はもう終わったと告げ、質問があるなら後にしてほしいと付け足した。
まだ理解が頭に回っていない二人を急かして、他の生存者達と協力して、負傷者や気を失っている人達、瓦礫に埋まっている人達の救出を始める。
夜を徹しての作業になる事を見越して、そこかしこで篝火の準備が始まっている。後で余裕が出来たら「
あの激戦を生き残った私の同僚で、動ける人達が集まってきて倒れたテントを立て直し、患者を収容するためのスペースの確保を始めた。また、近所の生き残った人たちが瓦礫の中から食べられるものを拾い集めて、炊き出しの準備をしている。
避難出来なかった子供達は水汲みと、皆自分の出来ることを誰にも指示されずに始めている。皆心が強いよ。
こんな時に怒られちゃうかもしれないけど、シリル達を壁内にうつしておいて良かった。こんなこと絶対にケリー達には言えないけどさ。
まだ、街の中では消火出来ていない場所があったりするけど、この辺り一帯も彼方此方が瓦礫の山や更地になってしまっている為、消火は諦めて延焼しないように周りをかたずけているみたいだ。
それよりも埋まった人を早く助けなくちゃ、助かる人も助からなくなってしまう。出来るだけ明るいうちに、急ぐ必要がある。
何処に人が埋まっているとか私ならわかるし、魔法で救助作業をすれば手早く助けることも出来るけど……。
似たような事を魔法無しで出来る感知力高い元斥候の方や、人間重機のパワフルファイターや伝説級の魔法使いが職人街から手助けに来てくれたから、ここは希少な高位治療魔法行使者として活躍させてもらった方が良いと判断。みんな一財産を築いて冒険者は引退した人達だけどね。
そういう訳で、私は負傷者の治療に回る事になった。囮なしで。
この状況で今更、赤い人を囮にする必要性が見当たらないからね。今は少しでも救助要員の手が必要だし、私は私で一人でも多くの命を救わなくてはいけない。
赤い人も今はローブを脱いでしまっていて、既に赤く無い人になっている。
治療に伴い助手を付ける余裕もないし、私の所に負傷者を運ぶより、負傷者の元に私が移動した方が効率が良い。もう隠す必要も無いから。
ま、最後の最後でギガント達に全部持っていかれちゃったけど、私の異常性、つまり莫大な魔力量と強力な攻撃魔法。そして一流の戦士とタメを張れる近接戦闘能力。最後に晒すつもりは無かったけど私の不死性を南支部防衛戦に参加した兵や冒険者たちにはアピールできたはずだ。
私の名前と共に。
あれだけエリーエリー呼ばれれば、私が何者かは皆も理解できたでしょ。
……まだ、このローブを脱いで顔を晒すつもりは無いんだけどね。
せっかく気に入ったローブだったけど、街が落ち着いたら早い所買い替えないと駄目だね。右肩辺りから吹っ飛んだ影響で右側だけトップス状態になっているし、ある程度は吸収したけど、全体的に血で染まってしまっている。
これ洗うだけじゃ絶対落ちないよねぇ。あぁ、こういう時、日本だったら大根おろしに付ければ酵素の働きで血痕が奇麗に落ちる筈なんだけど。
この世界にも大根はあるけど、同じように使えるかいな?それ以前に血染めになってパリパリになってしまったローブを大根おろしにつけたくらいで綺麗にできるかな?
……いや、魔法使った方が早いか。
あぁ、そうだ。顔を隠していた薄布は、いつの間にかどこかにいってしまったし、私用に作ったばっかりのラットの皮で出来たレザーアーマーもブーツもグローブもボロボロだ。当然、グローブの右の方は右腕と一緒に紛失している。
お気に入りのスティレットも一緒に。
ここまでの激戦に巻き込まれるとは思いもしなかったし、武器を無くすとか、そういう事態に陥る事も想定外だった。
ストレージを世間に公表するつもりがない以上、中に入れてある前の相棒を出すことは出来なかったし、早いうちに予備武器を用意して継戦能力の向上を視野に入れておいた方が良いかもね。
あの局面で先の折れた棒切れを出して何か意味があるのか、という当然の突込みはこの際置いておくとして。
予備武器か……ふむぅ……あれをやってみようかな。今度時間が有るときに、ね。
既に周囲に混沌勢はいない。
先程のギガントの一撃で、東門周辺に攻め込んでいた混沌勢は、守備隊と一緒に吹き飛んでしまっている。残った敵軍もこれ以上の戦闘は不可能だと判断したのか、エステーザから順次撤退していた。
ギガントの三回の反撃は、確実に秩序側、混沌側の戦意を根こそぎ吹き飛ばしたようで、まだ続くかと思われたパップスの軍事行動は沈黙している。魔の森周辺で行われていた両軍の激突も現在鳴りを潜めて両陣営とも軍を一旦引いて戦闘は終結している。
いかに無秩序を旨とする混沌勢とは言え、自分たちの根拠地をギガントに滅茶苦茶にされて、そのまま戦い続けられるものではないでしょうね。
そしてそれは外街と防壁を破壊されたエステーザ側も同じである。恐らくこのままお互い牽制しつつ本拠地迄撤退する事になると思う。
「エリー、まだファルグが目を覚まさないんだよ……。表情はさ、苦しそうにも見えないから、大丈夫だと思うんだけどさ。あたいの旦那、大丈夫だよね?ちゃんと目を覚ますよね?」
ファルグ、ってあぁ……、おっちゃんの名前か。確か最初に紹介された時にオーガクラッシャーファルグって言っていたっけ。いつもおっちゃんおっちゃん言っていたから、名前忘れてたよ。
そんな思いつめた目で見ないでおくれよ姐さん、思わず抱きしめたくなるからさ。
おっちゃんに何があったのかは正直よくわからないけど、
ただ私自身が確信の無い状態だから、姐さんを心から安心させてあげる事が出来ていない。だからと言って不安にさせたままの訳にもいかない。
……人手足りないし。
「大丈夫だよ。今診てみたけど、異常は何処にも無いし。今は疲労のせいで寝ているだけだから。見てごらんよ、こんなに気持ちよさそうに眠っているんだから、問題ないって。
……目を覚ましたら真っ先に姐さんを呼びますから。」
「エリーちゃんがそう言うなら……わかったよ。」
ようやく納得した姐さんは、のそのそと治療院周辺の救助作業の手伝いに向かってくれた。一応負傷者だと思われるおっちゃんはちゃんと患者さんを寝かせる為のテントに移動させている。
多分、そのうち起きてくると思うから、そしたら軽くご飯を食べてもらってから皆の手伝いしてもらえればいいかな。
ん?何?鬼畜って、なんで私がそんな事を言われないといけないのよ。……わかったわよ、
何があったのかは知らないけど、珍しく過保護じゃない。え?さっきまで臨死体験をしていたって?おっちゃんが?
……いや、それを早く教えてよね。流石の私も、死に掛けた人を病み上がりで扱き使うつもりは無いわよ。
自分の中で
一応、呼吸が止まっている人も、通常の蘇生措置で息を吹き返す場合もあるから、容態に関わらず手当たり次第に治療していく。
もちろん、手遅れな人も沢山いたけど、魔法を使わない通常の蘇生措置で助けられた人もいるし、それじゃ間に合わない人の中でも何人かは治療魔法で救うことの出来た人もいた。
その際、何故か頭を抱える
早く教えといてよ、
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