神の一族の力の一端 洒落になってないよ

 号泣しながら抱き着いてくる巨乳さん、もとい姐さん。個体わたしが気を失っていたのは理解できている。どうせ要求しても分霊わたしから記録ログが下りてくるとは思えない。無駄な事はしないに限るけど、一応要求を出すだけ出しておく。後日それをネタにいろいろできる可能性もあるしね。



 「なんだか解らないけど、とにかくヨシって事なのかな?」



 そう言い終える間も無く目が眩むような閃光が辺り一帯を包み、その後大気を吹き飛ばすような爆発音が響いた。今回は爆発地点が遠いからか、閃光に伴う灼熱感はあんまりない。



 うん、何があったかとりあえず思い出せたよ。



 この身体結構頑丈なはずなんだけど、あっけなく失神するほどの衝撃って、普通の人だとそれだけで死んじゃっている可能性もあるんじゃないかと、頭の端に浮かぶけど、今は現状確認が優先。



 爆音のした方を見ると、さっき東門付近でギガントが起こした爆発等比較にならない位の規模の爆発が北東方面で起きたみたい。ただこの位置からだと、爆発が起きた正確な位置がわからない。もう少し上の方から見ればわかりやすいけど、周辺の建物で無事なものはほとんどない。背の高い建物は全滅している。


 あぁ、私の職場も倒壊は免れたけど、ボロボロでいつ倒れてもおかしくない。何気に私の「精霊の槌」

の影響もあるかもしれないけど、そこはさっきの爆発のせいと言う事にしておいた方が私の精神衛生的によろしい。



 再びの爆発音に、警戒態勢に移行した姐さんは私から離れておっちゃんをぎゅっと抱きしめて震えている。やだ、あんなに勇ましい姐さんが涙目で旦那さんに抱き着いている姿が……。


 可愛い……。



 いや、姐さんさっき号泣していたからさ、私の中で姐さんのイメージがちょっと変わっちゃって、奇麗でカッコいいに可愛くて守ってあげたいがプラスされたっていうか。そのギャップにやられちゃったと言うか。さっき抱き着かれた時にね、なんかね、こう、ね。



 いやいや、そんな事は後で考えれば済む事。何やら遠くからギガントの魔法詠唱らしきオオオって高低強弱のある雄叫びと莫大な魔力の流れを感じる。これはもう一発行く気かも知れない。万が一その一撃がこっちに向かって放たれたら、今度こそシリル達まで危ない。



 「姐さん、ちょっとここで待っててね。出来れば物陰に隠れていた方が良いかも。直ぐに戻るからさ。浮遊フライ



 私がどこかに行こうとするのを察した姐さんは、また私を抱きしめようと手を伸ばしてきたけど、出来るだけ優しく諭して、「浮遊フライ」を起動して上昇していく。



 この魔法、トリガーワードがただ浮かぶだけの「浮遊フロート」と表記上の字面は似ているから混乱しやすいんだよね。魔力が乗ったワードを耳で理解できる人だと、誤解したりはしないんだけど。


 「浮遊フライ」は飛行系の魔法の中でもコストパフォーマンスが良くて制御がしやすい反面、速度は出せても4~50キロ程度で、イメージとしては飛行機よりも飛行船といった所かな。


 ただ、遠くを確認する為に高く昇るのには適しているから、今回はこれで問題は無い。



 「おぉ!空を飛ぶ魔法が存在するとは!」



 どこかで誰かが驚いている声が聞こえるけど、宙に浮かぶだけなら色々と方式もあるのでこういう魔法もあるのだ、と皆が知れば研究も進み、他の魔法使いも習得できるだろう。それほど難しい術じゃないしね。


 万が一吹き飛ばされて、コントロールを失った時の事を考えてそれほど高くは飛ばない。精々30メートルも上がれば状況は把握できた。




 ギガントが魔の森に爆発魔法を放ったのだ。


 混沌勢の勢力圏である、魔の森の一部がクレーターと化して、その周辺の木々がなぎ倒されている。衝撃が強すぎるせいか、別の理由があるのか今の所、森の彼方此方からくすぶった煙が上がってきているものの火災は起きていない。


 閃光に伴ってかなりの熱が放出されていたはずだから、今は火種が彼方此方に出来ていて、勢い良く燃え上がるのも時間の問題といった所なのかな?



 「オオオォォオォォォオオォァアォォアァァォォォオオー!」



 今度はオオオだけではなくアも入って複雑化した魔法詠唱を、ギガント2体で合唱している。まるで歌でも歌っているようで、恐ろしさの中にも美しさを感じる。震える大気に漂う精霊達が心なしか喜んでいるようにも見える。


 呪文に編み込まれている魔力の量は、先程感じたものと比べて桁が違った。魔力の流れや組まれていく術式を見ると、おそらく今度は砲撃系統の魔法で照準は再び魔の森方面。



 急にギガント達がこちらを向きでもしない限りは、だけど。



 ドンッと戦艦の主砲を撃った時よりも重厚な爆発音と目が眩むような光学系の砲撃が解き放たれ、魔の森の中心部に向かって一直線に光が突き進んだ。弾道は地表から40メートルの高さにある筈なのに、その光の筋のすぐ下が砲撃の余波で煮沸しているのが見える。


 弾道を中心にして左右に木々が吹き飛ばされて、宙にあるうちに炭化し、粉々に吹き散らかされてしまっている。


 少し遅れて、着弾地点にキノコ雲が誕生した。目測では着弾地点がいったいどのくらい離れているのか、直ぐには判別がつかない。けど着弾点は確実に地獄絵図になっている筈。適当に魔の森に向けて撃ったのか、明確な砲撃目標があったのかでまた被害の桁が変わってくるだろうけど、弾道に沿って地表が沸騰して道が出来てしまっているし、着弾地点に何もなかったとしても混沌勢にはかなりの被害が出た筈だ。



 現に、私を通じてかなりの量の魂が現在進行形でアストラルの海に落ちてきている。今の個体わたしでは惑星全体に影響を及ぼせるほど力は無い。精々が一地方をカバーするくらいが関の山。恐らく着弾地点は私の力の範囲外。


 範囲外にある縁のない魂は分霊わたしに落ちてはこない。


 それでこれだけの数の魂が分霊わたしに落ちてきているのだ。



 「我に与えられし三度みたびの恥辱はこれで全て返した。火球2発と火槍が一槍。


 この地に送られし件についてはいずれ下手人を特定し、その者に返そう。


 これに懲りたら夢我らに関わろうと思わぬ事だ。」




 そう爆発音に負けない位の大声で告げた後、彼らは再びオオオ、アアアと合唱を始め、光に包まれて消えていった。


 こいつら、自力で転移出来るんかい。



 流石は神の一族に連なる者って所かな。


 被害が半端ない所もそうだけど、無分別に破壊行為をしたのではなく、下手人をある程度特定して、原因と思われる混沌側により大きく報復をしていた辺りは素直に感心するしかない。


 腹立ちまぎれに八つ当たりであの一撃に直撃されたら、この個体わたしじゃ欠片も残らない自信があるわ。身体は作り直せても肉体に依存している比率の高い個体わたしの意識をどこまで修復できるかが不安ね。



 全く大したものだと、感心するしかないんだけど、エステーザもそれなりの打撃を受けた事は間違いない。東の大門と防壁が破壊され、守備隊の一部が壊滅。東の外街が更地になり、瓦礫の山に埋もれて再建にはかなり時間がかかるでしょうね。


 これがリン達混沌勢の狙っていた事なのかどうかはわからないけど、ギガントが目の前の都市だけに無分別に力を振るわなかったのは彼らの計算違いじゃないだろうか。



 明らかに混沌勢が受けた被害の方が大きいのだけど……。いや、彼らが混沌勢だと単純に考えるのは早計かもしれない。確かにオーガやオーク、コボルド、ゴブリンで構成された一団ではあったけど、秩序側にもオーガやオークの氏族が協力していたりするし、混沌勢にも人間種が協力している地域もある。



 でもとりあえずは、それは私の考える事じゃないか。



 「何が起きたんだい?さっきの轟音は何だった。ジャイアント共がまた何かをしたのかい。」



 地表に戻った私に姐さんが訪ねてきたが、それに応えようと振り向いた瞬間、急に目の前が真っ暗になった。いや、誰かに抱きしめられたんだと、直ぐ後に理解できた。



 「無事だったか、エリー。」



 声で、赤い人だとわかった。反射的に、思わずつき飛ばそうかと思ったけど、赤い人の声があんまりにも切羽詰まっていたから、そこから何かを察した私。


 そして結局つき飛ばせないで咄嗟に身じろぐ初心な個体わたし


 何とはなしに居心地の悪いまま、赤い人の成すがままでしばらく時を過ごしていた。状況が理解できないまま混乱したままで。



 「あのさ、そんな事をしていられる状況じゃないんだと、私は思うんだけどさ。」



 いつの間に、赤い人から私を奪い取って抱き着く姐さんに私はつい漏らす。なんで姐さん、赤い人に威嚇してるん?


 どうどうと、まるで馬にするかのように姐さんを落ち着かせる私。何だか分らないけど疲れたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る