戦後の後始末2 これからどうしようか
夜を徹して行われた救助作業は、朝を迎えた後壁内の人員が応援に来てくれて、一度作業人員の入替となった。一昨日からほぼ一睡もせずに動き続けた上にあの激戦を切り抜けた影響で、正直、今の私は結構眠い。
それでもその気になれば肉体からのシグナルを完全に無視して行動することは出来る。けど、ずっと私が働き詰めだったのを隣で見ていた赤い人や、ナデラの姐さん、そしてようやく目を覚ましたおっちゃんが流石に休めと怒り出して、今は休憩用に用意してくれたテントの中で久しぶりの食事と水分補給に勤しんでいる。
おっちゃんは自分が臨死体験をしていた事に気がついていなかったみたいで、なきながら抱きついてきたナデラの姐さんに困惑していたけど、姐さんも何か思う所があるのか、後で落ち着いたら説明するから、とおっちゃんに話していた。
おっちゃんもただ強いだけのニブチンじゃなかったのか、奥さんの様子と私の様子から何があったのかおぼろげに理解できたみたいで、少々こわばった顔になって了承してくれた。
正直、
リーメイト支部長は、完全に傷も癒え、体力も取り戻したはずだけど周囲の部下たちにせめて今日1日は安静にしていてくれと言われて、大人しくテントに引きこもっている。
流石に赤い人も働き詰めだったから、今は私の隣のテントで身体を休めている。彼が指揮を執っている最中、周囲の人からじょうだいどのって呼ばれていたけど、どういう意味なんだろうね。城代ではないよね、絶対。そんな身分の人が私の護衛に毎日詰めているって事はあり得ない。
復旧現場の指揮は南支部の副支部長さんが執っている。でも、まだ昨日の今日だからね。全然作業は進んでいない。作業に従事する人達の多くは、ギガントについての噂話や情報交換をしながらだったり、再びのギガント襲撃があるんじゃないかと怯えている者も多いけど、それもそれほど長くは続かない。
みな暫く不安を出し合うと、諦めたように黙って作業を再開する。ここまでの事は流石に頻繁には無い、けど、似たような事は度々起きているし、このエステーザでも何十年か前に何の気まぐれか、川の北側から亀さんが遊びに来たことがあるらしい。
結構被害が出たのかもね。
……時間が過ぎていくほどに、助けられる人命は少なくなっていく。現に今、場所ははっきりしないけど、瓦礫の中で力尽き魂の海に落ちていく者たちがちらほらといるし、
本当なら、直ぐにでも助けてあげたいけど、チートを使わずに一人でどうにかなる数じゃないし、救命担当の私が救助に回ってしまったら、それこそ本末転倒よね。
こういうことが続くと、心のバランスが崩れていくから、もう少し気楽に考えられるようになっておかなくてはいけない。解ってはいるんだけどね。
ちなみにおっちゃんはナデラさんに寝てろって言われていたけど、姐さん自身も不眠不休だったから、逆に奥さんを強引に寝かしつけて、救出作業の手伝いに出て行った。傍で見ていて胸がシュガーで気持ち悪くなるほど甘い説得だったと追記しておこう。ちゅっちゅちゅっちゅと人前で恥ずかしげもなく、まぁよくもやれるもんだ。
そう言えば、私の代わりに壁内から派遣されてきた治療魔法の行使者は、例のエステーザに私を含めて4人しかいない高位治療魔法行使者とやらではなく、中級レベルの治療魔法を使えるオジサンと奇跡の使い手の人達が6人来てくれた。
高位治療魔法行使者はこの一件の間、壁外へは出してもらえないのかもしれない。私以外は。
当然、その人員では私がやったような要救命者のすべてに魔法や奇跡を処置する事は出来ない。今は魔法治療の優先順位を守って助けられる者、急を要する者を優先的に治療を施しているような状況ね。
多少の猶予がある者は後回しにして、私が休憩から復帰してきた時に治療する事になっている。休憩用のテントに用意してくれた、瓦礫の中から引っ張ってきたまだギリギリ使えそうな壊れかけのベッドに横になって、少しの間考えてた。
この世界の情報の拡散は、それが飯の種にもなるし自分たちの生死にも関わってくる為に、現代のSNSやネットワークほどじゃないにしても、驚くほど早く広まっていく。
恐らく、今日のお昼くらいには壁内の住民にも私の噂が流れているだろう。
ま、最初の内は私の外見や体格から、情報のほうを疑ってちょっかいをかけてくるお馬鹿さんがそれなりに出てくるだろうけど、ある程度痛い目にあわせてあげれば、そんな奴も出てこなくなるだろう。
まだ完全にではないけど私の権威は、ほぼ確立されたと見ていい。
これで色々とやりたかった事が出来るし、ロリ婚撲滅作戦を少しずつだけど進めていくことが出来る。
やりたかった事?具体的には職人さんの道を本格始動する事、マジックアイテムの作成や研究。魔法の研究や技術書、魔道書の作成。これら研究活動は
それと、この騒ぎで塒がどうなったか確認していないけど、まぁ、戦争前にやった修繕作業は全部無意味になってしまった可能性はある。
この際、本拠地である旧孤児院の本格的な建て直し、ないしリフォームを検討する必要性があるよね。それに、下水メンバーの食生活の改善にも取り組んでいきたい。贅沢な食生活を求めるつもりは無くても最低でも、パンとスープくらいは満足に食べられるようにしてあげたい。
無論甘やかすのはダメだって言われているし、ただ施すだけじゃないけどね。その辺はおいおいケリーと相談しながら決めていけばいい。
人生を楽しむのには、いい塩梅で助けも必要な物なんだよ。
冒険分野では都市内ダンジョンの攻略や、魔の森周辺のダンジョンの場所の確認。インスタントダンジョンの攻略なんかも手っ取り早く稼げるから、有りだよね。
ダンジョン攻略にまで連れて行けないけど、ケリー達を中心とした戦闘団の結成なんかも必要な一手だよね。ある程度装備をそろえてあげて、戦闘訓練を重ねていけば、難度の低いインスタントダンジョンなら何とかなるかな?
私が団長になってフォローすればいけるっしょ。今回の貢献で多分私は最低でも単戦15位にはなれるはずだし。
この単戦15位って言うのは、単純戦闘力で冒険者クラス15位相当あるよって特殊な証明をもらえるクラスの事を言うんだけど、ま、その辺のギルドの順位とか超位クラスとかは詳しく説明してもあんまり面白いことじゃないから省くとして、重要なのは単戦15位のクラスか総合20位のクラスがあれば、冒険者チームじゃなくて個人でも戦団を組織する事が出来るって所なんだよね。
戦団が組織できれば、ケリー達を比較的安全に、捨て駒なんかにしないで仕事を熟しながら強くしていく事が出来る。いずれ自分たちで自立できるようになったなら、笑って見送ってやるさね。
そしてその単戦15位のクラスは、それ相当であるとギルド職員に戦闘能力を証明さえすればその者のギルドへの貢献度や人格、その他を考慮せずになる事が出来る。
逆に言えばギルドへの貢献度が低い者、もしくは貢献するよりも被害をもたらす事が多い人、人格に問題がある者、その他問題がある者はどれだけ強くても単戦15位のクラスより上には行けないって事だけど。
やりたい事、やらなくちゃいけない事、やるべき事。考え始めたらきりがない。
横になったままで、先程脱ぎ捨てた血染めのローブを眺める。血の匂いなぞ、戦闘前に治療行為の影響でとうに鼻がマヒするくらい嗅ぎ飽きている。それでも匂う血生臭。
今世初めての致命傷。
「リンって言ったよね。あいつの担いでいたバックパックに入っていた加工された魔石、もしくは魔晶石。行使された魔法陣。
この世界の魔法技術で実現可能なのかな。あのダークエルフは、同胞たちはリンクがどうとか言っていた。あの魔法陣で行った事は2つ。一つはダークエルフがリンクした同胞とやらを戦場から離脱させた事。
もう一つはあのギガント達を代わりにこの戦場に呼び出した事、か。
少なくともあいつがただの商人じゃないのは間違いないわね。」
呼び出したギガントのコントロールが出来ていない以上、召還機能は兎も角、使役するための術式は入っていなかったのか、それとも入れておいたけど、ギガント相手じゃレジストされてしまったのか。
召喚魔法と言う事は、強制転移と言う事で……。転移自体はギガントでもレジストできなかったという所から考えて、最初から使役に関する術式を完全にカットして強制転移に全振りしたという事かもしれない。
転移魔法自体、この世界の魔法技術じゃそう簡単に行使できる魔法じゃない。そのカラクリの正体があの魔石らしきバックパックの中身だとして、それは何処から手に入れた物なのか。幾つも手に入る様な物なのか。
あのギガントをエステーザ外街に呼び出した目的は、何だったのか。
……
わざとらしく
目が覚めたら、また色々とやる事がある。流石に今日は疲れた。
一人寝は……寂しいけど、何、私は万年生きた立派な大人だからな。11歳だけど。
寂しくないさ……。
……お休み。
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