戦後の後始末3 一段落ついたかな

 エステーザ南と東の救助、救命作業は5日続いた。この世界の人間は、個人ごとの生命力の強さが天と地ほどの差がある上に、種族によっては水も食事もとらずに1週間程度生き抜ける者もいる。


 大地の加護を受けやすい種族、大地に愛される種族なら、瓦礫に埋もれても暫く生きていける人達もいるからね。


 本当ならもっと救命活動を続けた方がいいのかもしれない。いまだに瓦礫の中で恐怖と戦っている人達がわずかだけどいる。だけど、5日目に入ってから瓦礫の中から運び出される人達で息のある人が誰一人いなくなった時点でリーメイトさんが救助活動を打ち切った。



 レーダーを使えば、おおよその埋まっている位置がわかる、けどレーダーを公開するつもりも無い。そして目の前に次から次へと連れてこられる、負傷者の対応に追われていた私では打てる手は限られていた。


 私に出来ることといったら、それとなく元赤い人に、生命の波動があの辺から感じるとか適当なことを言って捜索を誘導するくらいだったんだよね。



 でも、しかし。


 既に魔の森周辺での戦闘も完全に終結し、今はエステーザ北東の外延部に陣を張り、混沌勢の動きを警戒しているようだ。混沌勢も魔の森へ撤退したものの、まだこちらの様子を伺っているけど、こちらにちょっかいをかけるような雰囲気は無いようだとの事。



 一触即発の状態だけど、今の所表面上は落ち着いている。双方、少しづつだけと相手に呼吸を合わせて順次撤退を開始している状況ね。生き残っているパップスの部隊もギガントの一撃がいい薬になったのか、それとも別の理由なのか、今は大人しくなっているようで一安心といったところかな。


 お陰で、現在は新規の要救命者が戦場から運ばれてくる事は今のところ無い。


 結果、常に私が救命活動に詰めている必要は既に無く、私が必要になったときに呼んでもらう形をとって、漸く私も救助活動にまわっても問題なくなった。



 生き残ったパップスは、おそらく5千かその半分か。東から魔の森で釣りをしてきたパップス達は全て餌としての本懐を遂げてしまったみたいだし。それでも話を聞くと、今回はかなりの数のパップスが生き残れたという話なんだよね。


 大抵、彼らは戦後に数百前後が辛うじて生き残って、魔の森に隣接しているエルフの守護する森に住み着く。その後は現地のゴブリンと延々と戦い続けるみたい。直ぐ増えるけど増える端から死んでいって、ゴブリンと数を調整しあっているかのような生態に不思議さも感じるけど悍ましさも感じる。



 そんな奴らが今回数千と生き残った。今後はどうなっていくのか、ちょっと想像がつかない。




 組織としての捜索は打ち切って、今は南支部周辺の復旧作業に移行しているけど、赤い人達は私の助言を信じてくれているみたいで、私に付き合って細々と救助活動を続けてくれている。


 お陰で既に何人か助ける事が出来た。



 赤い人達、ずっと一緒に居た赤い人は兎も角、ケリー達塒組みは、混沌勢が撤退した2日後に私の護衛の名目を理由に西側から戻ってきて、今は率先して作業に参加している。


 西側に避難する途中、敵の襲撃にあったと聞いた時にはびっくりしたけど、無事撃退したって自慢げに話していた。敵性人型生物との初陣を全員無事に乗り切った様で安心したよ。皆私が作ったグローブとブーツをしていたおかげで怪我をせずに済んだってお礼を言われて、ちょっとジンってキタのは内緒。



 ……後で、壊れた部分を直してあげないとね。




 シリル達は、ケリー達よりも早くギルドの職員に連れられて南支部の臨時の指揮所で合流できた。流石にあの爆発音には三人とも肝を冷やしたようで、ギルド職員に私が無事である旨教えてもらっても落ち着かなかったみたい。


 救助活動が始まった初日、シリルが宿で一晩泣き止まなかったって話を聞いた。



 ちょうどその時は私も寂しく一人で寝ていたから、お互い気持ちが通じていたんだねってその日の夜、同じテントに兄達も含めて4人で寝ながら話していたよ。


 私は2時間もしないで、救助された心肺停止状態の急患を助ける為にたたき起こされたけどね。あんまり意識していなかったけどさ、兄ちゃん二人とも、ちゃんとお兄ちゃんしてくれてんだよね、私にも。


 テントに飛び込んできた治療院の職員に驚いた兄二人は、咄嗟に私とシリルを庇える位置に飛び出したんだ。私の方が強いんだけど、そう言う事は関係ないのかもしれない。


 シリルもその時起きてしまったけど、兄二人が宥めてくれて助かった。兄ちゃん、実家から連れ出して正解だったね。いずれ、ちゃんと何かでお礼しないと。




 うん、黙っていようかと思ったけど、三人に魔法使いの才能が有ること、その気があるのなら、私が師匠になって鍛えてあげてもいいって伝えよう。


 シリルたちの魔法使いとしての才能は中級程度で、どれほど鍛えても大成するのは難しいと考えていたけど、それは私の常識で考えての話だという事はこの戦争中に得た「知識」で判明している。


 難度の高い高位魔法を使えるように成れるかどうかは判らないけど、この世界の「常識」で考えれば、十分な戦力になれるはず。


 私の教える術式や魔力運用を叩き込めば、ね。



 その先、どう進むかは彼ら次第。魔法も使える剣士になるか、研究畑で私と一緒にこの世界の魔法技術の深淵を切り開き、そして築き上げていくか。医療に関する知識も積んで、治療魔法の行使者として生計を立てていくか。


 正直、危ない道に首を突っ込んでもらいたくない。兄達は壁内で仕事を見つけてほしいし、シリルには本人次第だけど、良い所に嫁ぐなり、自分で身を立てるなりして自分のやりたい事を成し遂げてほしいと思う。


 でも、この世界は中々に物騒で、生き残っていくには街に、他人に頼っているだけでは十分とは言えない。自分で生き残るための力が無ければ、いつかは倒れてしまう。



 兄妹全員で魔法で名を上げて、生きていく。長男は除く。あ、お嫁にいらした姉様達も仕方なしに除く、だね。思い返してみれば何処に嫁いだのか詳しく教えてもらえてないし、今どうなのか、幸せなのかも便りが一切ないからわからない。辛うじて、死んでいない事だけはわかる。私の事情的に。後で粗相さんに話を聞いてみよう。



 でも、兄妹揃って魔法使いか、そういうのも良いわよね、夢が広がっていくじゃない。将来、私達の一族は強力な魔法使いを輩出する一族として名を馳せる事になるかもね。当然私が持ち込んだ技術、技法は門外不出にする。漏れればその内混沌勢にも漏れるだろうし、その位の防衛策は取っておかないとさ。



 あ、そっか技術防衛という観点なら、教えるんじゃなくて術式をブラックボックス化して書き込むって考え方もありかな。一定の力量に達した者に魔法を授けるって言った感じかな。それだと自分の力で魔法を覚える事も作り出す事も出来なくなるけど、だからこそ門外不出は徹底されるよね。



 いつまでも初代が大きな顔をして生き残っている、異常な集団になりそうだけど。


 ま、そんな先の話はあとで考えましょう。




 ……そういえば、心肺停止の患者を救命した時、赤い人が微妙な顔で片手で頭を押さえて首を左右に振っていたけど、何か私やらかしたのかな。


 ちゃんとまだ十分間に合う患者さんだったから、問題ないと思うんだけど。








 南支部の方面はそれでも少しづつ、瓦礫の撤去や戻ってきた住民による家財道具の回収、財産の確保なんかがボチボチ進んでいる。食料などは臨時の倉庫街が襲われていなかった事や元々物資の備蓄関連は、川を渡った西側に集中していた為、問題なく流通が始まっている。



 おっちゃんの弟子たちもちゃんと生き残ったみたいで、爆発の影響で外壁こそボロボロにはなったけど、中身が健在だったパン屋の中で一生懸命パンを焼き続けている。今の所商売抜きで持ち合わせがない人たちには無料でパンを配っているみたいだけど、ちゃんとその辺りは周りが解っていてくれているみたいで、職人街を始めとして被害の少なかった所からおっちゃんの所に支援が入っているみたい。



 私も久しぶりにおっちゃんの所でカチカチパンを買ったよ。私はタダでいいって言われたけど、お金に困っている訳じゃないから、ちゃんと支払わせてもらったよ。



 ぼちぼち炊き出しの数もすこし減って、屋台が顔を出し始めて。南側が落ち着きを取り戻しつつあったのはあの日から2週間位経過してから。


 一度塒に様子を見に戻ったらしいケリーの話だと、塒の被害はそれ程でもないみたいで、幼年組が何人かの年長の男子たちと一緒に皆の留守を守ってくれているって教えてくれた。


 ロナとニカ達、女衆もいつの間にか塒に戻っていたみたい。正直、やる事が多すぎて皆と碌に話をすることも出来なかった。



 私が、戦時のお役目から解放されたのが、エステーザの短い夏がささやかに主張し始めた7月の中頃だった。



 そして、それほど時間がたった後でも、ギガントの爆発があった外街の東一帯は、まだ手が付けられていなかった。

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