治療院でのお仕事 仲間達の事
下水仕事と治療院の二足草鞋を始めてから、数日。それなりに充実した毎日だった。特に懐辺りが。
治療院の方は、2回目のお勤めの時に何人か要魔法治療者の冒険者が運び込まれてきた。一人は片足を複雑骨折していて、もう一人は複雑骨折の彼女を守った際に肩から背中にかけての擦り傷と左腕の骨折。一応は応急手当は自分たちでやったようで、救急性はないが。二人ともそれなりに稼いでいる冒険者だったから、直ぐに活動できるようになる奇跡、若しくは魔法の治療を望んできた。
さて私の出番かなとも思ったけど、治療魔法施行者の身バレを防ぐ為に、切迫した状況でもない限り暫くの間は、他の聖職者なりに治療は依頼する事になっているみたいで、少ししたら奇跡の御手と呼ばれる治療士集団所属のおねーさんが来院した。
この対応はいつもの事じゃないみたい。私の年齢や外見、能力を考えて万が一が無いように慎重にやってくれているようなんだよね。私が周囲の職員に自然に溶け込む事が出来て、ある程度業務の空気を読む事が出来るようになってからが私の出番だと院長先生にいわれた。
週2回じゃ、溶け込むにしても時間かかるよね。
ただ、通常の治療行為は手伝わせてもらった。
下水路でのお仕事で雑魚相手ではあるけど、みっちり戦闘と魔法行使、吸血・吸精、解体関連の魔法と解体の手技を熟したり、治療院でのお仕事はそれなりに
宵越しの経験値は持たねぇってわけじゃないけど早速、2回目のお仕事の前に溜まっていた経験値を使って、能力取得一覧でそれらしい名前の能力を一通り漁っておいた。「医療知識1」、「応急処置知識1」、「救急医療知識1」、「医療技術1」、
うあぁ、医療関係の知識、ちょっと高いよ?
この世界の医療では、切り傷などの外傷に対して縫合したりしないみたい。包帯とかで傷口が開かないように固定して、自然とくっつくのをまつ。待てない場合は奇跡か魔法で治す。縫合なんて発想が生まれる土壌が無いのかも。
一丁、医療革命でもしてやろうかと考えなくもなかったけど、今は目立たないようにと気を使ってもらっている最中だから自重する。第一、それを言い出しても、立派な見本を見せられる程技術があるわけじゃないしね。
私が怪我をしたらこの治療院には運ばれたくないなぁ。
クルクルクルクル、乾いた包帯を洗濯場から取り込んで、一生懸命に巻く。先輩方がすぐに使えるように、丁寧にずれないようにね。患者に巻くときに何回か手伝わせてもらえたけど、いや技術を取得した筈なのに以前の様に慣れた手つきで巻くことは出来なかった。技術レベルが1だからなのか、それともまだ技術が体になじんでいないのか。
やっぱり初めての戦闘の時は制限を緩くしてくれたみたいだね。あのロナがピンチの時の投石の同時両手投げ、今の私がやろうとしてもうまく当てられる自信ないもん。
下水仕事はソロ4回目にして既にルーティンワークと化している。朝早く監督官から使いもしない松明一本と荷車、荷車に獲物袋を大量に積んでみんなと一緒に掃除ポイントに向かう。荷車は私が一台、普段の掃除にもっていく分よりも3台多く、皆に協力してもらって引っ張っていってもらう。
掃除ポイントで一度皆と別れて、荷車を持って一人で奥まで行き、一度荷車をストレージにしまってから敵を釣り出す。釣り出す数は出来るだけ多く、目指せラット200を合言葉に。
吸血・吸精を駆使して贅沢に魔法を使って、釣り出した戦力を全滅させてから一部を荷車に入れて皆の所へ戻る。何度か荷車を往復させて午前中に処理する分を全部掃除ポイントに移動させてからは、魔法で皮剥ぎしながら、皆のフォローやおトイレ護衛、時間が余れば端数分を手作業で皮剥ぎ。
時間になったら一度皆で獲物と泥を満載になった荷車を引いて、監督官の元に戻る。駆除は一回一回で清算を受ける事が出来るから、午前中の清算を受け取ってから皆でお昼ご飯を済ませて、午後のお仕事に向かう。後はおんなじことの繰り返し。
既に
下水路のお仕事も、あの後は怪我人は出ていないし、そこそこ順調にお仕事も皮集めも進んだ。私が治療院でお勤めしている時も、特に問題はないみたい。新人のザジ君が本人の強い希望で護衛組に加わったのと、前からお休みの度に訓練していたロナも護衛組になった。
私は反対したんだけどね。心配だし。でも今年の内にケリー達が引退するし、新人のザジ君も身長的に来年下水路に入れるかはわからない。掃除組の中から比較的年長の子達は、その時の為に1年前から訓練を続けていた。
ロナ、10歳未満だと思っていたけど、私とおんなじ年齢だった。誕生日を聞いてみたら私より2月おねえさんやん。みんな栄養不足が悪いのよね。
今回の主力交代劇で護衛組の男女比が女性主体に変わる事になる。私が来る前はケリーの舎弟の誰かが生き残っていればその子がリーダーに成る予定だったんだけどね。
残念ながら。
私もあっという間に正式登録になってしまったから、掃除や護衛でお給料はもらえない。駆除で入るのなら、自分の稼ぎを確保する為に一時的にでも皆と離れなくちゃいけない。今のやり方でも、最初の数時間は側に居られない。
その間に指揮を執るものが必要になるし、どのみち私が下水仕事をできるのは週の内3日間だ。引退予定組に副リーダーを務めていた2人も入っちゃっているから。後継者問題は深刻なのだ。
まだ皆がいる間に出来るだけ掃除組から戦力を育てたかったのもある。幼少期は男よりも女の子の方が育つものだしね。と言う訳で、ロナ以外も訓練を受けていた何人かの年長女子が自ら護衛組への転向を言い出してきた訳だ。
皆を率いるタイプじゃないと、リーダー就任を断っている護衛組で2年経験を積んだ12歳の男の子がいるにはいるのだけど。その子の名前はペシル。熟練者だけあって戦闘力はそこそこで、ラット、ローチ相手に怯むような所はないし、皆を守れる力はある。
ただ、確かに自分で公言する様に、人を率いるというより、責任を負わずに済む立場を好んで部屋の隅にいるのが好きなタイプみたい。
この調子だと、次期新リーダーはロナになりそうな様子なんだよね。途中、有望な新人が入ってこない限り。一応、私が下水仕事をできる時はフォローする事になっているけど。そういう話になった時にペシルが、心配そうな顔でロナを見ていた。
ホムホム、なるほどなるほどぅ?もしかしたらロナが心配になったペシルが、頑張ってくれるかもしれないわね。
そりゃ男女で固まって命懸けで助け合って生きているんだもん。結婚が比較的早く精神年齢が高いこの世界。当然男女で意識しあうのも早いわけで?
ただ、ロナはケリーの事を意識している気がするのだけど、その辺はどうなんだろうね。それにこの世界、同年代で結婚ってハードルたかいよね。現実的に考えればロナは、ペシルともケリーとも結婚できずに、どこぞのおっさんに嫁入りしそうな気もするんだけど。
ロナ自身が冒険者になれば、晩婚ルートで念願叶う可能性もあるのかも?
他人事じゃないんだよね。どこのカップル、夫婦も年の差が離れているのは当たり前だし、年齢が近いカップルは冒険者カップルか、夫に先立たれた奥さんが再婚した結果同年代のカップルが誕生した、ってケースが殆ど。
少なくとも命が軽いこの世界でも、更に命が軽い農村や壁の外の男は、稼げるようになるまで生き残らなくちゃいけない。生き残るのに必死で、家庭を持つ余裕が出来るのはある程度年が行ってから、だから嫁とは年の差がどうしても出る、とは塒の男共から耳がタコになるほどに聞かされた話だ。
私は結婚やら恋人やらはノーサンキューだけどシリルの事もあるからなぁ。将来的には壁内で暮らせるようにしておく必要があるかも。シリルの意思次第だけどさ、出来ればオジサンに嫁入りは避けたい。
「早くシリルに会いたいなぁ。」
ふと言葉が漏れた。
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