里帰り 3 戦争に参加する?

 パップスの大進軍。何年かに一回ある、その風物詩の様な現象に私は落ち着けないでいる。辺境の農村で生きていた頃には、確かに大戦争の話は聞いたことはある。終ぞ負けたという話は聞かないけど、勝った勝ったという割には前線都市は一向に前進しなかったし、エステーザが攻められた事も度々あったと聞く。毎回かなりの死者が出ていたはずだ。


 それが原因で話題にし辛いのか、田舎でもあんまり話題に上らなかった。おかげで、詳しい話はとんと耳にしなかったし、どういう種族が参戦しているのかも良く知らなかったけど。



 たしか家の裏側の家のお父ちゃん、4年前の大戦争に参加するんだって出て行ったきり帰ってきていないってお話だったよね。暮らしていくのも大変だし、前のときも手柄を立てて金を作ったからってもう一山あててくるといって出て行ったって。


 とうに戦死しちゃったか、生きているとしたら一角千金を当てて家族を捨てたか。若しくは帰りたくても帰れない状態とか。なんにしても碌な話じゃないわよね。


 態々安全な中側から外側に戦いに赴く。家族を捨てて。もしかしたら昔は名の有る冒険者だったのかもしれないけど、戦いから離れてもう何年もたっていただろうに。



 そこまでして戦う理由があったんだろうか。いい暮らしをする為に?食べていくくらいなら何とかできていたはずなのにね。私の様に実力も理由も利益もありまくるのなら、話は別だと思うけど。



 「戦争に参加するって、怖くないんですか。」



 失礼かもしれないけど、つい彼らに聞いてみたくなった。



 「ま、ね。下手に立ち回ったら、危ないけどね。私達のパーティーは魔法使いや奇跡の使い手が多いから、危ない場所にやられたりはしない。


 余程都合が悪くない限りはリロイとも離されないだろうし、他のパーティーが援護してくれることを考えれば、普段のお仕事よりも安全なのよ。


 それに参加しなかったとしても、何か間違えばエステーザ迄押し返されて、結局戦う事になったり、前線都市を抜かれることになるかもしれない。


 どうせ戦う事になるかもしれないのなら前向きに、ね。」



 それって貴方達をフォローする為に命懸けになる人達がいたり、貴方達の代わりに危ない所に配置される人たちがいるって事で、そういう立場に成ったら普段の仕事以上に危険という事で。


 トータルすると戦争はいつものお仕事よりも危険って事だよね。芸は身を助けるでいいのかしらね。こういう場合。


 でも……。


 最前線都市が落ちる、か。ないとはいえないわよね。エステーザって攻勢が失敗して、反抗を受けて外街が被害を受けた歴史は何度かあったような話を聞いた事があるけど。外街なら兎も角、壁を破られたらヤバいかもね。


 そんな事態になったら分霊わたしのルール何か知った事じゃない。シリルと皆をストレージに確保して、全力であらがってやる。後で皆に怒られたとしてもね。


 私はどんな状況でも生き残って見せるけどね。ドヤ。



 「エリーちゃんも多分、誘われると思うわよ。魔法使いは貴重な戦力だし、ここで名を上げるのもいいかもね。私達魔法使いは優遇されるから、そうそう危ない目には合わないと思うし。特に将来有望な魔法使いはね。」



 意味ありげなシュリーさんの言葉に、やはりギルドの私に対する扱いが、魔法使いである事を考慮にいれても特別待遇なんだなと理解できた。下手するとその辺りから私の諸々がバレる気がする。


 早く隠さなくてもいいくらいの立場に成らないと、やばいよね。以前、消えた筈の焦燥感がまた戻ってきた。


 かといって特別扱いをしないようにしてもらっても、どの道何処かでばれるわよね。赤い人も言っていたけど、早いか遅いかだけなんだよね。目の効く人、耳の効く人にとって見れば私が治療魔法の使い手だって、見当つけるのは難しくないはずなんだよ。


 この世界の常識、11の小娘が高位治療魔法を使えるはずがないって部分を頭からはずせば。



 ええ、もちろん参加するつもりだけどね。最近、分霊わたしの趣味でレベルアップに調整が入っちゃって、ラットやローチではレベルがあんまり上がらなくなってしまった。


 だけど既にレベル9。この場合のレベル9ってどのくらいのモノなのか、正確なところはわからないけど。体感的には、この世界の上位冒険者に迫る身体的能力があるんじゃないかって判断している。私の立場の早急な確立は、今の所最優先課題だし。名声を上げる為には戦果をわかりやすく周囲に示す必要がある。


 ただ、私がエステーザを離れている間、シリルをどうするかなんだよね。エステーザの外街にある塒に置いておくのは心配だよね。壁内にシリルだけを非難させるわけにもいかない。ケリーたちにシリルを守ってくれるように依頼を出すって方法もある。あの子が眠っているうちにストレージに押し込めちゃって、危険が過ぎるまで確保する方法もあるけど。


 それって普通に人でなしだから、まるで気が進まない。連れて行く訳にもいかないし。




 ……ん?、それってありかもしれない。


 何の力も持たない幼子を戦場に連れていく事は、本来あり得ないけど私なら守れる。常に側に置いて攻撃は遠距離から魔法の矢か何かでチクチクと。


 もしくは後方で二人で顔を隠してメディックやればいい。万が一最悪の時はストレージに緊急避難すれば安全だし、大怪我してもストレージ内では時間が流れていないからその状態で停止する。革の加工やらと同じように、ストレージ内に入れたままでも治療する事が可能だから。


 これなら完璧じゃね?



 いやいや、まてまて。まだ慌てる時間じゃないわよね。シリルの気持ちも聞いてみてからじゃないと、勝手に決めたらあの毒親と同じになってしまう。一度思考を切って頭を空っぽにする。



 「もしお誘いがあったら、前向きに考えます。皆さんとご一緒出来れば安心ですしね。」


 

 そう言ってニヘラと笑ったら、リロイさん達もニヤリと笑い返してくれた。ついでにアリヤさんやカランバラさんも参戦するつもりみたい。良い男を捕まえるんだって笑いながら言っていた。


 いや、戦場はお見合いパーティーじゃないでしょう。そんな突込みをリロイさんがしてみんなが笑っていた。お見合いパーティーってこの世界にもあるんだ。


 私は意外な事に吃驚していたけど。聞いてみたら、寡婦になった者たちや嫁が欲しい男共を集めての顔合わせは、定期的に行われているみたい。


 旦那が亡くなったらすぐに次を探さないと、食っていけないし、まわりも放っておくわけにもいかないから、気の合う者同士をくっつける。なるほどどんな世界であっても似たような話は出てくるんだね。



 話には出てこないけど、多分、子供が産める女性の適齢期を逃す事を、社会の要請が嫌ったという事情もあるかもね。産んで増やしても減っていく世界だからね。自然と娶せる機会が増えるんでしょう。


 戦場でいい男を見つけるか。戦場のロマンス。いいかもしれないけど、この世界の男女の比率ってそもそも男の数が少ないんだよね。本来は男のほうが多く生まれてくるんだけど。男も女も等しく戦いの中散って行くけど、男が死ぬ数が女よりも結構多い。


 だから世の中、生き残った男で甲斐性がある男が、複数の嫁をもらうのが当たり前になっている。


 稼ぎがあるのに結婚しない、若しくは嫁は一人だけの男は世間から義務を果たしていないと冷たい目で見られるんだってさ。そういうのも嫌だなぁ。



 寡婦問題か。誰もがお見合いでくっつけるわけじゃないはず。子育てしながら苦労している人もいるよね。少しは社会に貢献しないとなぁ。



 塒の中で煮炊きしてもらうのに、寡婦の元冒険者に依頼を出すのはどうだろう。いいかもしれないけど、仲間以外を気軽に塒に入れるのは皆抵抗があるだろうなぁ。


 普通に自分たちの財産が部屋においてあるんだから、よそもんを簡単に建物の中に入れる気にはなれないだろうし。



 庭で調理用の大きなテントを張って、そこにかまどやら作ってもらってって言うのはどうだろう。建物の火の用心的にもあのぼろい屋内で火を使いたくないし。毎日がキャンプ飯になるね。能力を取り戻すんじゃなくてさ、そうやって毎日寡婦さんのお手伝いとかやってれば、その辺りの知識も自力獲得できそうだよね。


 そんなこんなでパップスたちの軍勢を通り過ぎ、その後も色々考えたりお話ししてたり。抱っこされて甘えてみたり。寡婦さんを雇う話を相談してみたり、子供の分の含めて飯付きなら多少給料が安くても希望者が集まるって言われたり。


 寡婦さん、やっぱり身を売るお仕事になる事が多いみたいでさ。それが切欠で身請けしてもらえる人もいるけど、娼婦だけはどうしてもいやだって女性も当然いるわけで。



 「エリーちゃんにそれが出来るなら、何人かの父親無しがお母さんと一緒に救われるわね。」



 そんな風にラウルさんが肯定してくれた。その日も、次の日も野営をしてみんなに回し抱っこされて、おとなしくお人形に甘んじて。村が近くなってきてから到着前日の焚火を囲んで最終の作戦会議。面倒ごとは一気に頭から潰しちゃおうというお話になって、最初は両親の家に行くのではなくて領主さまの館を訪問する事に決定。



 目が覚めてから、皆で市場で用意しておいたかなり張り込んだ一張羅を着込んでから馬車に乗り込む。


 アリヤさんとカランバラさんは着の身着のままで、居心地が悪そうだ。



 「ま、今回はあんた達はエリーちゃんのお世話係だからな。その格好の方が不自然じゃねぇだろ。つーか流石にエリーだな。そんな服今まで着た事無いだろうに、違和感がねぇ、自然に着こなしてやがる。」



 そんなに当たり前の事で褒めないでくれたまえよ、きみぃ。照れるじゃないかね。ふっふっふ。



 「土台が美人さんですからね。そうやってお澄まし顔をしていると、本当にお人形さんのようでお仕事が終わってからも連れ帰りたいくらい。


 魔法使いとして弟子にしたとか言って、攫って行ってしまいましょうか。」



 真面目な顔で冗談とも本気ともつかないことを言うシュリーさん。他に何の柵も無ければ、そのままお持ち帰りされても良いんだけどね。弟子ポジキープして、名声を高めていくって言うのもありだし。



 そうやって一行は私の実家がある、名も不確かな農村に寄らずに回り道をして、領主が館を構えている村の方に辿り着いた。

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