ハーレムパーティーの面々

 「新しい一年に!」



 「「「新しい一年に!」」」



 まぁ、どの世界であっても、新年のお祝いが存在する世界なら似たり寄ったりの挨拶になるのは道理と言うもので。乾杯の音頭なら猶更パターンは決まってくるよね。


 年が明けて一月に入り、仲間内での新年のお祝いを私たちなりに盛大に祝いつくして、新年二日目を死屍累々の態で過ごした塒組に苦笑しながら私は日本でいう所の松の内とまではいかなくても、数日はお休みする事に決めて塒でノンビリと職人仕事をしていた。



 事前に急患対応はするけど、それ以外は申し訳ないが患者さんを待たせてほしいと院長先生にはお願いしておいた。



 この時ばかりは塒の年長組も雪かきの仕事を休み、弟子達も修行を忘れ塒でだらだら過ごしている。頑張ってチョロチョロ働いているのは普段お仕事が無くてしょんぼりしている年少組の子達位で後家さん達のお手伝いを張り切って頑張っている。


 無論、お給料は私が出しているから、彼等はいつもやる気満タンで頑張ってくれている。自分の力で稼げるのが本当にうれしいらしい。正直、ちゃんと仕事になっているかどうかはまた別問題なんだけどね。単に後家さん達の仕事の邪魔になっているんじゃないかという指摘もケリー達年長組から出てはいるけど、ここはひとつ大きな心で受け入れて欲しいものだ。



 元赤の方も色々とお偉いさんと会食やら何やらあるみたいで、数日は塒の方に顔を出せない事を謝っていた。


 そろそろ槍の餌やりの為にダンジョンに向かう頃合いだろうし、忙しいのならそれまではこっちに来なくても良いとは伝えてある。


 その代わりにダンジョンには一人で行くんじゃないよ?ってちゃんと釘を刺しているから、彼なら約束を守るでしょう。無意味な不義理をする人じゃないからね。


 

 ま、良かったと言えば良かったよ。何やら顔を合わせづらいって感じていたし、少しの間、距離を置いた方が良い様な気がするから。


 シリルは残念がっていたけどね。そう言えばあの後、色々と突っ込まれるかと思ったけど、今の所何も言ってこないんだよね、シリル。


 それが何となく怖いんだけど。




 んでさ、久しぶりに職人仕事に集中できると、新年ボケでボーっとしそうな自分を一生懸命に引き締めて、下水用の装備を魔法を使って一気に大量生産していたら、冬季工事を終えて時間が出来たのか、パーティーでの話し合いを終えたらしいシュリーさんが、仲間達を引き連れて塒まで訪ねてきてくれた。



 予想外の来客にちょっと舞い上がってしまった私。シュリーさんも美人さんだからねぇ。人前で抱っこされるのはちょっと恥ずかしいけど、アレは悪くなかったから、また機会があれば宜しくお願いしたいものね。


 後ろから抱っこされると後頭部が幸せになれるのよ。何が原因で、なんて言わないけどね。因みに前から抱っこされると窒息しそうになるから注意が必要だけれども。




 塒でそのままもてなしても良いんだけどさ、お祝いの際に良い食材は全部使い切っちゃったし、お客様が来ることまではまだ考えていなかったから、お出しするお茶の葉一つ用意できていないのよ。


 まだあれから「世界樹」でマジックポットを買っていないし、カップもお客様用にマジックカップも用意していない。まぁ、お客様に出すのに魔法の品を使う必要は無いだろうからそれは良いとしても。


 白湯を出すわけにもいかないでしょ?



 いや、確かにそれでいいって言われたけどさ。



 後はほら、塒の他の者たちに聞かれたい話をするわけでもないでしょうからって理由で、急遽比較的近場の職人街にある食堂兼酒場な、冒険者が通う様なイメージ通りのお店に行く事にした。




 無論、色々とセンシティブなお話をするんだろうから、リロイさんは今日はついてきていないみたい。彼には、女達だけで飲みに行くって言っていたみたいで、まぁ、男不在だし嘘じゃないからね。魂で判断するなら男が一人混じっているけどね。


 安心しなさいなリロイさん、あなたのハーレムパーティーは浮気していないから。本人はハーレムだと考えてもいないでしょうけど。リロイさんがあの調子のままだと、いつまでもそんな感じで先に進みそうにないわね。



 全くこの世界の実情に合わない、ヘタレな男と奥手な女達だこと。どこかで覚悟を決めて女から押し倒すくらいしないと、何時までたってもパーティー仲間で終わっちゃうわよ?



 ここ数日、雪が降っていないお陰で雪が積もっていない通りを、それでも気温が低いせいで凍り付いているからと、足を滑らせないように注意しながら、酒場に逃げ込んだ私達は、とりあえずエールを人数分頼んで新年の祝いにかこつけて乾杯した。



 うん、今まで少しは自重してきたけど、年末年始のお祝いでお酒飲んじゃったからさ、今更だよね。普通に私も乾杯させていただきました。



 この世界、アルコールは何歳からって決まりはないからね。大体、食料の保存技術が天然の冷蔵庫か、お高い魔法技術、後は乾燥させたりといった方法しかない世界だからさ。



 果汁をコップに溜めてうっかり置いておくと、物や季節によっては直ぐに腐敗するか発酵する訳で。子供であっても意外と酒精に接する機会は多いのよ。



 「いい呑みっぷりじゃねぇか。酒を嗜むにはまだちょいと早い気もするけどな。」



 「そうでもないわよ。何せ生と死を司る女神様なんて呼ばれてたりするんだからね、エリーちゃんは。


 多分、稼ぎ何かで比べればとっくに私達なんかよりも一人前の冒険者よ。いや、違うわね。一流の冒険者よ。」



 「本当にびっくりよね。エリーちゃんの村に一緒に向かった時にも何度も驚かされたけどさ。宙に浮かぶ魔法と言い、あの発動速度に、恐らくは詠唱破棄?


 私の師匠のそのまた師匠であっても、あんな魔法の使い方、見せてもらった事なんか無いわよ。」



 ネルさんは意外と令和日本的な感覚が、少なくとも私を除くこの場の誰よりも持ち合わせているのか、私くらいの年頃の子供がお酒を呑むのをあんまり良い事とは思っていないみたい。



 ラウルさんは、完全にこの世界の一般的な感覚の持ち主ね。一人前に働いて稼げれば、お酒を呑もうがどうしようがその人の自由だって考え方かな。多分シュリーさんも同じような考え方のようね。



 「魔法使いは奥の手を見せないものだ、とは師匠によく言われたけれど、多分、師匠がまだ見せてくれていない奥の手にも詠唱破棄やら浮遊魔法やらは無いわね。」



 一気にエールを煽り、直ぐにお代わりを注文した私達と違い、最初の一杯を上品にゆっくりと飲み進めるシュリーさん。何せ薄いエールだから、酒量はまだまだ大した量じゃないし、ペースもゆっくりなのだから酔うような状況じゃないはずなのに、多分この中で一番何かに酔っている様に見える。



 シュリーさんが私を見る目が少し怖いのは気のせいじゃないはずだ。獲物を狙うような、目?



 このままだとそれほど世間話もしないうちに本題に入りそうだね。まぁ、アルコールで頭が鈍くなる前に本題を済ませてしまった方が、良いと言えばいいのだけれども。



 「それにしてもあんまりにも自然にしているから気が付かなかったけど、その右手の薬指、そりゃマジックアイテムだろ?


 どんな効果があるかは分かんねぇけど、もうそんなものを身に着けられる程稼いでいるって言うのはすげぇな。確か、エリーがエステーザに出てきたのって去年の雪解け以降だろう?


 まだ一年経っていねぇじゃねぇか。」



 「あらあら。東門の工事で会った時にもしていたのかしら?そんなに目立つリングなのに迂闊にも気が付けなかったわ。」



 あぁ、一応付けているのが当たり前の状態にして、リングの存在が意識の外に行ってしまう状態を狙っているから、購入した後一度も外さずにつけっぱなしの状態だ。これは初見の敵に対しての備えでもあるけど、顔見知りに対する切り札になる事も想定しているんだよね。



 なにせ、何が起こるか分からない物騒な世の中だからさ。



 「えぇ、何かあった時に着けていなかった、じゃ話にならないから。一応念のためにずっとつけっぱなしにしているわね。」



 「マジックリングって最低でも銀貨100枚以上はするわよね?」



 そうでもない。効果によって違うし、使い切りのタイプでチャージ数が1~2発と殆ど残っていないものなら、残弾分も割引されて意外と安く手に入るんだよね。この世界の魔道具職人でも再チャージするのはそう簡単じゃないし、一部の魔法使いでもチャージする為の魔法が使える人もいるみたいだけど、使い手はかなり少ないみたい。


 結果、もったいないけどこの手のマジックリングは使い捨ての様に使われるから、チャージ数が残り少ないものは値段が極端に下がるって訳ね。



 ま、それでもあの時のリロイさんの治療費以上はするけどね。っていうかさ、何で彼女達、お金があんまりないんだろう。見た所それなりの腕前だし、シュリーさんだけでもその気になれば銀貨数十枚の治療費なんかあっという間に稼げそうなものでしょうに。



 現に、東門で招集されたゴーレム魔法の使い手の報酬は1日であの時のリロイさんの治療費、銀貨35枚の半分以上は払われていたはず。




 当然、出来高、というかその魔法使いの工事への貢献度で報酬が前後したのだけれど、シュリーさんのゴーレムは集められた魔法使いの中でも上位に食い込む活躍を見せていたから、もしかしたら1日で1リロイさんを超える収入があってもおかしくない。


 ま、あれは特別な臨時収入だったからと言えばそれまでだけれども。



 あぁ、そう言えばあの時、負傷した腕回りの状況があんまりひどかったんで、奇跡で治療するとなるとかなりの高額になっちゃうからって、安く済む私が治療したんだっけ。


 だから本来の1リロイさんは銀貨35枚どころじゃない金額がかかる筈だったし、そのお金が無くて彼女たちは困っていたんだよね。



 いや、でもさ。あの後の会話で皆で銀貨35枚出し合うみたいな話をしていたし、結婚資金がどうのとか言っていたよね。


 私の田舎に向かう際には、色々と無駄遣いを止めなきゃとか話していたから、このレベルの戦闘力を持つ冒険者であるはずなのに銀貨35枚もそれなりに経済的な打撃だったという事になるけど。


 追加報酬の銀貨20枚であんなに喜んでくれたし。



 んー?


 いやさ、ゴーレム重機は今回が初めての仕事だったとしても、それなりに高位の魔法使いが一人パーティーに居て、ネルさんもラウルさんも奇跡の使い手だと言うのに、お金回りがそれほど良いようには思えない。


 ありていに言えば金欠パーティーらしき情報しか私の手元にない。


 うーむ、謎だ。


 

 「うちら、リロイだってそれなりに実力のあるファイターだし、奇跡持ち2人で止めにはシュリーの様な優秀な魔法使いが居るのに、本当に稼ぎが悪いよねぇ。


 なんでなんだろう?」



 そう、それを聞きたかったのよ。なんでよ?いやさ、面と向かって私から聞けるような内容じゃないからさ。ナイスぅーです、ラウルさん。



 「あぁ、年末にシュリーだけで稼いできた時は目ん玉飛び出る位に稼いできたからな。シュリー一人なら今の様な貧乏暮らしをする事も無いんだろうけど。



 なぁ、あたしらが足を引っ張っているって事は無いかい?」



 おおぅ?もしかしてやや変化球気味に本題に入っていくパターン?




 「やめてよね。あれはゴーレムの新たな活用法の検討の為に呼び出された上に冬季の工事だからって、報酬が高かっただけよ。



 東門の復旧は、エステーザに住む者全てにとって緊急課題だったしね。


 私一人じゃ、無理よ。何もかもね。


 リロイも貴女達も居なくなっちゃ一人で生きてはいけないわ。お金の問題じゃなしにね。分からない訳じゃないでしょう?」



 ほほぅ、それがシュリーさんの答えなんだね。いや、此方から切り込んでいくつもりは無いから、話を出されるまではステイしておりますよ?私。


 黙ってシュリーさん達の表情を観察する私。どうも漸く事態は核心部分に向かっていくようね。

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