パップスの戦争7 襲撃 オーガの女の子って奇麗じゃん

 目の前に飛び込んできた風景は、テントの中で感じていたものの答え合わせよりも少しだけ悲惨な地獄絵図。せっかく治療した患者さんが爆発魔法らしき攻撃でテント毎吹き飛ばされた一角と、新しい瀕死の患者さんが彼方此方で倒れ伏していて、そこにゴブリンが殺到して丁寧にとどめを刺して回っている。



 助けなきゃ、という焦りにも似た強い感情とそれにも勝る快感や爽快感、満たされていく感覚が魂を震わせる。



 体中に歓喜と自己嫌悪が……、といういつもの下りは置いておくけど、やっぱり多少なりとも縁を結んだ者たちの強い力の煌めきは、私の飢餓感を満たしてくれる。段々とこの現象に慣れてくる。いつもこんな感じで少しづつ慣れてきて、身内の死でまた打ちのめされてを繰り返すんだよね。



 何度経験しても自分の親兄弟の、そして時には妻や夫、子供達の魂が自分を通って海に落ちていく感覚には慣れない。自分がぐちゃぐちゃになるのが解る。それでも大切な者を作る事をやめたりはしない。



 社会に関わり友人を作り、親兄弟、親戚と社会に関わり続ける。端末じぶんが人との関わりが無ければ生きていけないと知っているから。



 精神的にも、生物的にも。



 精神のバランスを取る為か分霊わたしの中にはロンリーウルフを気取って、滅亡寸前の世界で化け物を殺して、世捨て人生活をしている者もいるけど。




 さて、現状はオーガやオークはこちらの防衛戦力である冒険者と切り結んでいる最中で、オーガクラッシャーのおっちゃんと姉さんは、敵の指揮官と思わしきダークエルフとオーガ種女性の4人チームと対峙している。魔法で吹き飛ばされたばかりなのに。体中に傷を負いながら。



 治療院勤務の習慣から思わず負傷者の救命にかかろうとしたけど、私の動きを察知した赤い人に遮られた。



 「この場での治療は何重の意味でも危険だ。敵側にもバレるし、ターゲットがお前ひとりになりかねん。


 当然隙も晒すし治療中は動けんだろう?」



 「でも、今じゃないと間に合わない人達が多い。」



 「そいつらは運が無かった。私達にも運があるかどうかは分からん。お前を守る為に命を張っている奴らの気持ちも考えてくれると嬉しい。


 戦えるのだろう?出来るだけ自分の身を守って端でおとなしくしていてくれ。」



 この時点で怪しい人物が戦線を離脱しようとしても、あちらさんはそういう奴を優先的に叩いてくるだろうし、下手に目立てないって事かもね。



 了解の旨を伝える暇もなく、テントから出て周囲を観察していた私達の所にも、オークが股間を放送禁止レベルの絵面で突っ込んできた。とっさに躱す赤い人と私。おそらく、目立つローブを付けている赤い人が狙われている。


 だけどこのまま大人しく守られていては、彼の動きからいずれ私が重要人物であることはバレるわね。状況を改善させるためにも、生き延びる為にも、赤い人やオーガクラッシャー夫婦を死なせない為にも。



 ……私が手柄を立てて、分かりやすい社会的地位を確立する為にも、ここは積極的に前に出て戦わなくてはならない。


 元々それを狙っていたんだし。


 再度レーダーに意識をやり、シリルや兄たちの様子を確認する。内壁側は一部慌ただしい動きが確認できたけど、概ね平和で混沌勢も壁内には入り込んでいない。


 三人も部屋の中で大人しくしているようだ。


 ならば後顧の憂いなし。



 先ずはどこから取り出したか、長槍を振り回して突っ込んできたオークとそれについてきたゴブリン共をあしらっている赤い人を援護だ。



 何度か耳にした「神の」とか言われているだけあって、赤い人の技量は流石の一言。数匹のオークと多数のゴブリンに囲まれていても、ペースを崩さず隙を見せない。


 未だ一匹も仕留めていないけど私達に狙いを定めた混沌勢、その殆どを自分に惹きつけて、一匹たりとも私の方には寄らせていないのは年齢に依らず名人芸の域に達している。いや、こういう場合は達人と言った方が良いかも。少なくとも個体わたしの目にはそう映る。



 この年齢で、この技量と自信。そして度々耳にする神がどうとかいう単語。十中八九、彼も神やら邪神に魅入られた者だろうなと推測が立つ。


 私は、まぁ、ほら。端末わたし自身が邪神みたいなものだから、似たような立場だし。やっぱり彼はナカーマだったって事だね。



 自衛に徹さず攻勢に出れば注目される、しかも魔法を使えば余計にヘイトは私に集中する。護衛任務に従事している人達には迷惑な話だろうけど、お姫様宜しく大人しく守られていても結局ヘイトは私に向くだろう。ちょっと目端の利くものなら、一目で狙うべき人物を嗅ぎ付けてくるだろうから。


 何をやっても同じなら、この場は一魔法兵としてふるまっていた方が機密保持にも都合が良いからね。


 それしか効率的な手段が無いなら仕方ないね。


 大事な事だから同じような事を2回言った。理論武装いいわけは完璧だ!



 基礎能力が向上した私の「魔法の矢マジックミサイル」は通常の術式で同時5発発射、威力は平のゴブリン程度なら一撃か瀕死迄追い込める程度。


 術式をアレンジすれば、コスト上昇無しで同時発射7発、威力は一発でゴブリン必死までパワーアップする。少々、発動のタイムロスがあるけど、慣れてしまえばノーマルの「魔法の矢」と変わらない時間での発動も期待できる。


 何より私は確信する。私の行動一つでこの戦況は大きく左右される。



 スティレットを片手に、一気に片方のオークへ突っ込む。端からノーマークだった私に、突然この場の誰よりも素早い動きで懐迄詰められたオークは、現状を理解する余裕もなく建物の壁を利用し三角飛びで高さを稼いだ私にあっけなく額を打ち抜かれた。



 一瞬の事で絶命したにも関わらず、未だ立位を保っているオークの額に刺したままのスティレットを支えにしてオークの頭と肩の上に乗り、周囲を見渡す。同時にオークに魔力を通して、立位を保持させる。



 周囲の視線が一気に私に集中するのが解る。赤い人が「ちぃっ!」って吐き捨てているのが聞こえる。うん、イメージ通りだわあんた。


 私が男だったらなぁ。今頃同じ赤い装備か黒か白、青で装備を彩っての有名人にあやかって色々なセリフで一緒に遊ぶんだけど。


 あ、赤い人の目がマジだ。


 ごめんって。



 オークの姿勢が不安定になる前に唱えておいたアレンジバージョンの「魔法の矢マジックミサイル」を発動させて赤い人の周りを囲んでいたゴブリン7匹を片付ける。全発必中!みごと雑魚共を一掃し、発動の反動で崩れ落ちるオークを私自身の発射台にして、赤い人と対峙していたもう一匹のオークに狙いを定める。



 どんっと空気を突き抜ける音と、発射台になったオークの頭部と胸部がミンチになって吹き飛ぶ音が混ざり合い、ちょっと汚くなった音を置き去りにして私自身がスティレットを鏃とした一本の矢になりオークの頭蓋を突き抜ける。


 発射台になった方のオークには魔力を流して、強度を高めておいたんだけど、一瞬しか持たなかったみたいだね。



 着地して直ぐに振り返ったら残りのゴブリンは赤い人によって一掃されていた。残っていたゴブリンもそれなりの数がいた筈だけど、この一瞬で、か。お見事、だね。



 「ええぃ、無茶をする。」



 「ここで魅せないと、何時までたっても肩身の狭いままだからね。私一人で奴らを片付けてもいいくらいよ。」



 「それが出来んのが大人の都合さ。だが、今更大人しくもしていられまい。」



 いや、確かにさ成人しているかもしれないけど、まだ成人したて位の年齢だよね?まぁ、この世界12~3歳で令和時代の20歳以上の精神年齢が当たり前みたいだし。性的にも。彼も立派な「大人」なのかもしれないから突っ込むのは止めておこう。



 「ちっ、あいつだ!あのちっこいローブ野郎を野放しにするな!魔法使いだ!!


 オーガ!魔法の矢ごとき耐え抜けるだろう。奴を先に始末しろ。一匹で動くなよ!複数で確実に仕留めろ!!」



 大声を上げるダークエルフの女。と言うかさ、オーガ種の女性って「人類種の知識1」を取ったから違和感がなかったんで気が付かなかったけど、筋肉もりもりなマッチョ鬼じゃなくって、スラリと力持ちな角の生えた奇麗な女の子なんやね。


 男女で差が激しいタイプの種族なんだよね。私としては見目麗しい方が目の保養になるから良いんだけど、そんな可愛いお嬢さんたちを始末しないといけない立場というのは少し困惑してしまう。


 幸いにも此方に突っ込んでくるのは男性タイプのごりゴリマッチョなオーガのみだ。



 「オーガの女の子って奇麗な子が多いのね。外見はエルフに負けてない感じだし、ワイルドな部分があるから、ある面ではエルフよりもイケてるかも。」



 「言っている場合か!オーガが突っ込んでくるぞ!」



 レーダーに意識をやると、私達の戦闘音にひかれたのか、敵も味方も徐々にこちらに集まりつつある。おや?この反応は?


 ま、まぁこれで私の武勇の目撃者と、標的が増えるという事で何にしてもめでたい事だよね。


 だよね?

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